軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 永遠の夏休み空間、そして再会

ドアノブを回すと、ギィィィ!と音を立てながら、ゆっくりと鉄のドアが開いていく。

俺は好奇心を抑えられず、ドアの中で紫色にゆらめくゲートに足を踏み入れた。

すると。

「え……!?」

ゲートの中は、田園風景が広がっていた。

田んぼの中に伸びていく、 舗装(ほそう) されていない道。

青い空に、大きな入道雲。

奥に広がる緑の森。

そして、あたりから響くアブラゼミとミンミンゼミの鳴き声。

外は2月末だが、ダンジョン内の様相はすっかり夏である。

ゲート内は不思議空間とは聞いていたが、ここまでとは……。

「てか、あっちぃ!!」

コートを脱ぐ。

それでも暑い。

体感的には25〜30℃程度の気温がありそうだ。

……さて、もうダンジョン確定でいいんだろうけど。

目に見える範囲には、ゴブリンやコボルトといった魔物の姿はいっさいない。

石壁の迷宮、暗闇の洞窟といった、ダンジョンの一般的なイメージからはかけ離れている。

――念のために確認しておくか。

「ステータス、オープン!」

そう言うと、半透明のメッセージウィンドウが空中に現れた。

名前:夏目光一

レベル:1

経験値:0/10

HP:10

MP:0

攻撃:1

防御:1

速さ:1

賢さ:1

スキル:【童心】

特技:なし

……これで確定だ。

ステータスが表示されるのはダンジョンの中だけだ。

「特技:なし」の項目を見たら少しだけ泣いちゃったけど、仕方ない。

わざわざ言われなくても知ってるっての。うう……。

「おお、なぐさめてくれるのかい……?」

涙でにじんだ視界には、無数のトンボが近づいてきた。

シオカラトンボに似ているが、青色が強い気がする。

「よーしよーし」

人差し指を宙に伸ばすと、一匹のトンボが羽を休めた。

「かわいいやつめ」

もう一方の手で、羽をつかむ。

簡単に捕まえることができた。トンボは俺の目の前でジジジジジ!と羽音を鳴らす。

「普通のトンボだなぁ……」

別にキバが生えているわけでもなし、危険はなさそうだ。

そんなことを考えていると。

「うおっ!」

ボワン!という音とともにトンボは消えさり、代わりに俺の手には小さな石が残された。

これは……。

「魔石だ……」

ゴブリンなどを討伐したときに体内から取り出せるという、アメジストのような石。

タブレット薬くらいの大きさだが、間違いなさそうだ。

「トンボは魔物だったのか……さわっちゃまずかったかも」

さらに。

『実績――《ダンジョン内でスキル【童心】所持者が魔生物を捕獲》を達成。特技・魔生物図鑑が使用可能です』

頭の中に声が響いたかと思うと、ボワン!というコミカルな爆発音とともに、俺の胸の高さに1冊の本が浮かび上がった。

ペラペラと勝手にページが開き、途中で止まる。

図鑑No.10/251

名前:シオカラ魔トンボ

レア度:0

捕獲スキル:なし

捕獲経験値:1(レベル3以上の者の場合は0.1)

ドロップアイテム:魔石(微小)、???

解説:ダンジョン内の屋外を模した階層に生息するトンボ。【童心】スキルを持たない者に対しては自己を風景の一部と認識させることができる(攻撃・捕獲不可)。攻撃手段は持たない。

「なるほど……」

捕まえた生物の図鑑か。てか、あのトンボを捕まえるだけで経験値がもらえたみたいだ。

ゴブリンとかを倒さなくてもレベルアップができるなら、俺でも強くなれるのではないか。

もっといろいろ試して整理したいところではあるが……。

「さすがにまずいよな……」

これ以上、ノーライセンスでダンジョンにもぐり続けるのもよくないと思ったので、とりあえず俺はゲートの外に出ることにした。

「…………寒い」

ゲートの外は2月の寒空だった。

意味もなくテンションが下がる。

俺はコートを着込み、気づいたことを頭の中でまとめてみた。

・ドアの中は間違いなくダンジョンだった。

・ダンジョン内に季節があるのかはわからないが、夏の風景・気候だった。

・ゴブリンやコボルトといった凶悪な魔物は入り口から見える範囲にはいなかった。

・一方、捕まえたトンボから魔石が出たので魔物の一種なのかもしれない。

――そして、いちばん大切なこと。

・スキル【童心】があると、トンボを捕まえられるらしい。セミやほかの虫もそうなら、虫を捕まえるだけで魔石、すなわち 小金(こがね) が稼げるし、レベルアップもできるのではないか。

うむ、ちょっと楽しくなってきた。

トンボの魔石程度では数十円程度だと思うが、ほかの虫ならもう少し大きい魔石が落ちるかもしれない。

とはいえ、俺は探索者講習も受けていないし、このダンジョン自体も国だかどこかに発生を報告しなくちゃいけないのだろう。

まずは……そうだ。

たしか市役所にダンジョンを担当している部署があった。ダンジョンの関係の困りごと相談なんかも受けていたはずだ。

俺はスマホを取り出し、まずは土地の所有者である親の承認を受けた上で、市役所に電話をかけた。

「あの、夏目と申しますが、実は私有地内にダンジョンが発生したようで……」

☆★☆

1時間半後。

3台の車が山の 麓(ふもと) に停められた。

「こんにちは、夏目さんですね。市役所探索支援課の田中と申します」

30代の女性が名札を俺に見せながら自己紹介した。

「あ、はい。夏目です」

普段は役所に用事なんかないため、少し緊張してしまう。

「本日はご連絡ありがとうございます。これから市と県庁、探索者協会さん、3者で現地調査をさせていただきます。検査の結果、ダンジョンの危険度や採取できるアイテムのランクによっては、夏目さんの土地ごと国が買い取らせていただくことになりますので、ご承知おきください」

「は、はい」

意外と大ごとだった。

「とはいえ、そのような大型ダンジョンは都市部でしか発見されていませんので確率は低いかと思いますが……」

続いて、40歳くらいの男性が名刺を渡してきた。

「県庁ダンジョン管理課の佐藤です。国指定のダンジョン相当と認められた場合は、県庁を通して手続きをすることになりますのでよろしくお願いします」

「な、夏目です。よろしくお願いします」

退職したときに自分の名刺は全部捨ててしまったので、相手の名刺だけ受け取った。

そして、市役所の田中さんが言う。

「それから本日の調査に協力いただく探索者協会のおふたりです。女性ですが、太田ダンジョンの10階層まで到達されていらっしゃる方々です。場合によっては、中の魔物を討伐させていただくこともありますので、ご了承くださいね」

「後衛を担当しています探索者協会の山田です。今日はよろしくお願いします」

そして。

もうひとりは恥ずかしそうに山田さんの影に隠れてしまい、俺に顔を見せなかった。

「こら、ちゃんとご挨拶なさい!」

「だ、だって……」

「失礼でしょ! どうしたの、いつもはこんなこと……!」

「……?」

なにやらふたりでポジションの攻防をしているようだ。

やがて、もうひとりの女性が前に引きずり出された。

恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、上目遣いでちらりと俺を見る。

「探索者協会所属の 思川(おもいがわ) 環(たまき) です。お、覚えてるかな、こーちゃん」

「おタマちゃん……?」

それは、小さいころ一緒に虫取りをしたおタマちゃんだった。