軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

緊急連絡が入りました

春になり、俺達は進級して二年生になった。

毎年行われているクラスの再編成だけど、今年は俺達Sクラスだけ免除された。

このSクラスは全員が究極魔法研究会で、アルティメット・マジシャンズだ。

Sクラスと他のクラスとの実力差が離れすぎてしまったため、Sクラスはクラス編成から外されてしまったのだ。

AからCクラスでは結構な変動があったらしい。

Sクラスへの昇格の可能性を潰してしまったのは、申し訳なかったなあ。

トニーは喜んでたけどね。

Sクラスから落ちたら騎士学院に転校って言われてたから。

……いや、さすがにもうそんなことは言わないだろ。

俺はそう思ったが、トニーにとって家族との約束は意外と大きいらしい。

状況がどうあれ、破るつもりはないみたいだ。

見た目チャラ男なのに……中身は男前っていうか、意外と真面目なんだよな。

リリアさんと付き合いだしてから、女の子も侍らせなくなったし。

それはさておき、今日は新入生の入学式だ。

俺達も在校生として参加している。

式自体は何事もなく進んでいくが、どうにも新入生達の様子がおかしい。

キョロキョロしてるというか、壇上の来賓の人達の挨拶を聞いていないというか。

……まあ、原因は分かってる。

アルティメット・マジシャンズは、高等魔法学院生だけで結成されているというのは有名な話だ。

おそらく、俺達の姿を見ようとしてるんだろう。

在校生達はさすがにそんなことはないが、新入生達にとっては初めてだものな。

まあ、そのうち慣れてしまうだろうけど。

教師陣に度々注意されながらも、式は進み終了した。

「んーあぁ……こういう式は眠たいなあ……」

「凄いですね、シン君。私は新入生達の視線が気になって式に集中できませんでした」

式の最中に襲いくる眠気と格闘し、何度か負けてしまったため、体を伸ばしながら教室に向かって歩いていると、シシリーから呆れるような、感心したような声をかけられた。

「コイツは、どこに行っても注目されるからな。そういった視線に慣れてしまったのだろう」

「さすがシン君! 神経図太いね!」

オーグが冷静に状況を分析すると、アリスは失礼なことを言ってきた。

「まあ、図太いシンはともかくとして、お前達、これから気を付けろよ?」

アリスに対して一言文句を言ってやろうと思ったら、オーグが先に話し出してしまった。

「気を付けろ、ですか?」

「前学期までは、今まで同じ魔法学院生だった者が急に有名になったから、どう接していいか分からなかったんだろう。だから私達に対して過剰な接触はなかった」

「そうですね」

「ところが新入生達は違う。高等魔法学院の受験者数は過去最高だった。特にこの年代だけ人口が多い訳でもないのにだ」

マリアが何に気を付けろと言っているのか分かってない様子で訊ね、オーグは先程の発言について説明し始めた。

「明らかに私達目当てだ。どういうアプローチをかけてくるか分からん。究極魔法研究会やアルティメット・マジシャンズに入れろと言ってくるかもしれんし、実力差も分からず勝負を持ちかけてくるかもしれん」

「あー、そういうことかあ」

「コーナー。特にお前は気を付けろ」

「な、なんでえ!?」

「勝負を持ちかけられたら、喜んで受けそうだ」

「そんなことしませんよう!」

確かに、アリスは心配だな。

魔法少女事件の例もあるし。

そう思って皆と一緒に笑っていると。

「なにを笑っている、シン。私はお前が一番心配だ」

「え!? 俺!?」

「お前の場合は、勝負より女に囲まれることを心配しろ」

「え、でも、俺がシシリーと婚約してるって皆知ってるよな?」

盛大に婚約披露パーティーしたし。

「それがどうした。妻のいる身で、女によって身を崩した権力者の話など、昔からいくらでもある」

「権力者って……」

アルティメット・マジシャンズの代表でウォルフォード商会のオーナー……十分権力者か……。

「アルティメット・マジシャンズは、世間からは隔離されているからな。魔法学院は交流が持てる唯一の場だと気合いを入れているかもしれんぞ?」

「なんて迷惑な気合いを……」

「だからクロード、必ず一緒にいろ。これは命令だ」

「はい! 絶対離れません!」

そう言って、俺の腕にしがみついてきた。

いや、あの……まだ周りに皆いますが……。

「まだ早いが……いいだろう。四六時中そうしていろよ」

「かしこまりました!」

オーグの奴め、絶対面白がってる。

とはいえ、俺もその柔らかい感触に腕を振り払うなど微塵も考えなかった。

「このラブラブ振りを見れば、どっち狙いでも諦めるでしょ。死ねばいいのに……」

マリアから怨念めいた言葉が吐きかけられる。

……なんでマリアには彼氏が出来ないんだろうな……最近はハンター協会でも、その存在が認知されてるらしい。

女の子のハンターは珍しいから、チヤホヤされててもいいのに。

「はは……なんかねえ、協会で絡んできた男をミランダさんとボコボコにしちゃったみたいで……あの二人にはちょっかいかけちゃいけないって不文律ができちゃってるんだよねえ」

こちらも最近よくハンター協会に行くトニーから、マリアの実状を聞いた。

それは……自業自得なんじゃないだろうか?

彼氏が欲しいって言う割には、ナンパされても返り討ちにしちゃうよな。

「なあ……マリアって、ナンパとか嫌いなのか?」

「ナンパのしかたにもよるわよ。でも、なんでか私に声をかけてくるのはゲスいのが多いのよね」

困ったもんだと溜め息を吐くマリア。

初めて会った時も、強引なナンパをされてたみたいだし、そういう輩を引き寄せるなにかを出してんのか?

「ゲスホイホイだね!」

「失礼なこと言うなアリス!」

笑っちゃいけない。

アリスに賛同したいところだけど笑っちゃいけない。

そうしないと、怒りの矛先がこっちに向いてしまう。

アリスとマリアの追いかけっこを先頭にして、教室へと移動する。

今学期から二年用のSクラスだ。

といっても、設備は変わらないんだけどね。

「ひとまず、今日のところは騒動は起こらなくて良かったですね」

「まったくな。去年の今頃は早速騒動に巻き込まれていたからな」

「あぅ……すみません……」

教室についてホッとしたのか、トールが言葉を漏らすと、オーグが去年のことを思い出した。

その原因であったシシリーが、申し訳なさそうにしてる。

「シシリーのせいじゃないよ」

「いえ、私が原因であることは間違いないです」

「そんなに気にしなくていいのに。むしろあの騒動でシシリーと親密になれたんだから」

「シン君……」

「でも、あの騒動が、ここまで大きくなるとは思わなかったなあ」

去年の今頃に起こった、カート暴走事件。

その後、カートはシュトロームの実験台にされて魔人化するし、シュトロームが魔人を大量に生み出すし、その魔人が暴発するしで世界中を巻き込んでの騒動になってしまった。

その騒動もようやく終わりが見えてきたし、一年経ってようやく元に……。

「……ん?」

「どうした、シン?」

「いや……なんか、重要なこと忘れてるような……」

なんだろう?

今、なにか引っ掛かった。

「忘れている? なにをだ?」

「うーん……なんだろう? 喉元まで出掛かってるんだけど……」

なんだろう? モヤモヤするなあ。

「……かなり気になるが、思い出せんものは仕方がない。思い出したらすぐに言えよ? できれば万全の体制で終結を迎えたい」

「ってことは……」

「ああ。そろそろ作戦の終結宣言が出されるぞ」

「へえ、いよいよですか!」

おお。本格的に作戦が終結するらしい。

マリアがそれに食いついた。

「もうすぐ監視網が完成するからな。最終的にエカテリーナ教皇倪下が終結宣言をしてこの作戦は終了だ」

「長かったですねえ。半年以上もかかるとは」

「これでも世界中が協力してくれたから大分短縮されたのだぞ? 我が国だけでこの作戦を実行していたら、数年かかっていたところだ」

「うえ! 数年とか、勘弁して欲しいですよ!」

トニーはやっと終わるのかと呟き、アリスはアールスハイドだけで作戦を実行したら数年かかっていたと言われ、心底嫌そうな顔をした。

そりゃあ、こんな緊張状態が数年続くとか勘弁してもらいたいもんだ。

「そうか、いよいよか」

「まあ、シュトロームや魔人達がいなくなった訳ではないから油断はできんがな。そのための監視網だし、なにかあれば我々の出番になる」

それでも、魔人達がどこの国を襲うのかと緊張し続けるよりはマシだと思う。

これで、ようやく静かな日常が戻ってくるのか。

「まあ、平和になったらなったで、今度は別の問題が出てくるがな」

「別の問題?」

「もう忘れたのか? 身の回りに気を付けろという話だ」

「ああ、それね……」

まあ……平和な悩みかな?

入学式が終わった翌日以降から……。

「「「キャアー! シン様ー!」」」

「ああ、殿下……こんな間近でそのご尊顔を拝謁できるとは……」

「アリス先輩、可愛いー!」

「シシリーお姉様がこちらを見られたわ!」

まるで、アイドルにでもなった気分だ。

俺達に直接絡んでくることはなかったけど、すれ違ったり遠目で見つけたりするとこうやって声をかけられる。

嬉しいんだか、恥ずかしいんだか……。

それよりも、意外とシシリーに対して女子生徒から熱い視線が向けられている。

男子生徒にちょっかいかけられるかと思ったのに。

……女子に狙われたりしないよな? よな?

なんだよ、お姉様って……。

前世では、芸能人とかいいなって思っていたけど、実際自分がこんな立場になると疲れてしょうがない。

だって、一挙手一投足が全て見られてる感じがするもの。

「はあ……学院でも光学迷彩使って隠れて生活したい……」

「なんだよマリア。すっかり付与に慣れちゃったな」

「これだけ注目されたらそう思ってもしょうがないでしょ? あ、でも制服には光学迷彩付与されてないか……」

前は制服にかけられた付与を怖がっていたのに、今ではもうすっかり慣れちゃった。

今まではこんなに騒がれていなかったのに、新入生が入ってきた途端にこれだ。

なんか、漫画で見たことあるような光景がずっと続いてる。

昔はなんとなしに見てたけど、声を掛けられる方はこんなに疲れるのか……。

そんな新しい、疲れる学校生活を送っていたある休日のこと。

その日は、俺の家にアルティメット・マジシャンズが勢揃いしていた。

オーグに無線通信機で呼び出されたのだ。

一体なんの用事かと思っていると、オーグが待ちわびた言葉を発した

「シン。終結宣言の日取りが決まったぞ」

「おお! じゃあ監視網が完成したのか!?」

「ああ。昨日のことだ。通信機で連絡が入った。監視網が完成したので、後は教皇猊下の宣言をもって事態の終結とするとな」

その報告を聞いた瞬間、全員が歓声を上げた。

「いえーい! やったね!」

「うん」

アリスとリンがハイタッチしている。

他の皆も、嬉しそうだ。

「私達が参加したのは序盤だけですけど、自分が参加した作戦が無事に終わるとホッとしますね」

「そういえば、僕達が参加したのって、最初の数週間だけだったねえ」

「だが、その実績は魔人の大量討伐だ。もっと誇っていいぞ」

マリアとトニーが、参加した時間の短さを気にしているみたいだけど、俺達は俺達のできることをしたんだし、胸を張っていいと思う。

そんな、久し振りの朗報に皆で喜びあっていると、誰かの無線通信機の着信ベルが鳴った。

「ん? 私か」

オーグが、自分の無線通信機が鳴っていることに気付き、取り出した。

この場には俺達全員がいるし、爺さんとばあちゃんもいる。

となると、これを鳴らしているのはディスおじさんしかいない。

なんだろう?

「はい。アウグストです」

オーグも、相手がディスおじさんだと分かっているからか、丁寧な口調で応答した。

「はい。今シンの家ですが……はい。は? はあっ!? 本当ですか!?」

最初は普通に対応していたオーグが、急に大声をあげた。

なんだ? 緊急事態か?

あまりのオーグの狼狽振りに、全員に緊張が走る。

「はい。わかりました。おい! シン!」

「なんだ?」

「父上が代わってくれと」

ディスおじさんが俺に?

「シンです。ディスおじさん、なにかあったの?」

『おおシン君か! そこにマーリン殿はいるか!?』

「うん。いるよ」

『なら丁度いい、マーリン殿とイースのカーチェのところに行ってくれ!』

「エカテリーナさんのところ? なんで?」

『緊急事態なのだ! さっきイースから緊急連絡が入った』

「緊急連絡?」

なんだ、嫌な予感がする。

『カーチェが……カーチェが刺されたのだ!』

もうすぐ終わると思っていた事態が、思わぬ方向に転がり始めた。