軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

世界連合閣僚会議

ダーム王国。

先日、シン達も立ち寄ったこの国は、創神教がイース神聖国という国を立ち上げる前に、総本山が置かれていた国である。

旧帝国……先日の三国会談以降『魔人領』と呼ばれるようになった地域に隣接し、世界連合各国からの距離も考え、この国で魔人領攻略に向けた閣僚会議が行われる事となった。

そして、その魔人領攻略作戦に同意がなされると同時に、世界連合の正式な調印となる。

連合の調印内容は、ほぼ決定している。

『人類存亡の危機に際し、各国が協力し、事態の収拾にあたる。なお、連合締結中は一つの集団として機能し、その行動に対し、なんらの見返りも求めないものとする』。

例えば、A国の部隊の危機をB国の部隊が救ったとして、それに対する報酬を、B国はA国に求めない。といった内容である。

人類が一致団結して立ち向かうべき事態であるし、そういう取り決めをしておかなければ、戦後に禍根を残す可能性があるからだ。

決まっていないのは、攻略作戦そのものである。

大勢は決まっている。

各国軍が、魔人領に蔓延る魔物を討伐していき、旧帝都を目指す。そして、そこにいるであろう魔人を討伐する。

それを目標として、今回の連合を組んだわけだが、どこに、どの国を配置するのか。

物資の供給。特に、魔人領に国境を接していない、エルスとイースの補給をどうするのか。

連合軍を組むとして、その指揮系統はどうするのか。

協議しなければいけない事が山積みであった。

現状、魔人は行動を起こしていない。

しかし、過去に二度、襲撃があったことから、魔人達が侵攻を諦めているとは考えられず、次の侵攻に向けての準備期間だと考える者が殆どであった。

その為、協議すべき議題は多いのだが、そんなに時間を掛ける訳にもいかない。

各国担当者は、その事実に頭を悩ませていた。

そして、ダーム王国にある神殿の一つに、アールスハイド、スイード、ダーム、カーナン、クルト、エルス、イースの七か国の代表が集まり、いよいよ会議が開始された。

「アールスハイド王国、軍務局長のドミニク=ガストールであります。この度は、我がアールスハイドの呼び掛けに賛同して頂き、感謝致します。現在、我々人類は、魔人の大量出現とその襲撃という、人類の存亡すら危うい状況に置かれております。しかし、我々人類にも希望がない訳ではありません。その事も踏まえて、協議を進めていきたいと思います」

まず、今回の世界連合の提案国である、アールスハイド王国の代表、ドミニクによる挨拶から会議が始まった。

「魔人達がいつ襲撃をしてくるか、全く読めない為、大まかな内容は既に作成しております。それに賛同して頂けるなら、そのまま決議していきたいと思っているのだが、よろしいだろうか?」

「という事は、既に草案は出来ているのですか?」

ドミニクの発言に、他の国の代表者が質問する。

「ええ。そうしなければ、協議が長引くことは目に見えていますからな。大まかな作戦内容はこの書類に目を通して頂きたい」

ドミニクがそう言うと、書類を持った補佐官達が、各国代表者に作戦立案書を配る。

そして、それに目を通した代表者の反応は二つに別れた。

納得したという表情と、驚きの表情の二つである。

「ド、ドミニク局長! これは本気なのですか!?」

そう発言したのは、イースの代表者で、先日の三国会談で臨時代表を務めた、マキナ『大』司教である。

マキナは、三国会談当時は司教であったが、先代の大司教であるフラーの失脚と、その原因の収拾を図ったとして大司教へ昇格していた。

その、マキナ大司教が、作戦立案書に記載されている内容に疑問を呈した。

「無論、本気であり、これが最善であると確信しております」

「しかし、これは……彼らは、まだ十五歳から十六歳の若者ばかりなのですよ? それを、こんな……」

そうして、もう一度作戦立案書に目を落とす。

「『各国軍は、大型迄の魔物の討伐を担当し、災害級の魔物と魔人に対しては、アルティメット・マジシャンズが担当するものとする』とは!」

しかし、そのマキナ大司教の発言に賛同しているのは、ダーム王国の代表者だけで、その他の国の代表者は、全く疑問に感じていない。

「ああ、アンタ……ええッと、マキナ大司教さんだったか。シン達の戦闘を見たことがないだろう?」

「確かにありませんが……皆さんはご覧になられた事があるのですか?」

「ああ。あるぜ」

「私もあります」

「私も」

「私もありまんな」

そう発言したのは、カーナン王国代表のガラン。スイードとクルトの代表者、そして、エルス代表のナバルである。

「ナバルさんは、先日、初めて彼らとお会いしたのではなかったですか?」

「あの後、アールスハイドに寄りましたやろ? その道中で魔物の群れに出くわしたんですわ」

「そうだったんですか」

「しかも……災害級まで混じっとってな」

「さ、災害級!? よくご無事で!」

「それがなあ……あのアルティメット・マジシャンズの子らが、あっという間に討伐してまいよったんですわ」

「あ、あっという間!?」

「まるで、ゲームでもしとるような雰囲気でしたなあ……」

その時の事を思い出したのだろう。ナバルが、未だに信じられないという思いで、遠い目をしてしまっていた。

「俺は、カーナンの羊飼いなんだけどよ。この夏に、羊が大量に魔物化する事態が起きちまってな。ある程度の犠牲は覚悟していたんだが……アイツらが加勢してくれたお陰で、あっという間に討伐できちまったよ」

「そちらも、あっという間ですか……」

ガランは羊飼いである。だが、カーナン王国において、国家養羊家は大変高い地位にあり、その中でも、他の国家養羊家をまとめる役を負い、さらにシン達と面識のあるガランがカーナン王国代表に選ばれていた。

「あの時は、冗談で普段災害級を狩ってるんじゃないかって言ってたんだが……」

「間違うてませんな。あれは、普段から災害級の魔物を狩り慣れとりますわ。誰が討伐するか、クジ引きで決めとりましたからな」

「ク、クジ?」

「普通、災害級の討伐なんぞ大ハズレもエエとこですやろ? それやのに当たった子、大層喜んではりましたわ」

彼らを知る者達は、その光景が容易に想像できるのか、苦笑いをしていたが、この中で唯一、彼らを全く知らない者がいた。

「災害級という、軍の総力をあげて討伐しなければならない相手にクジ? 何と不謹慎な!」

今回の会議のホスト国、ダーム王国の代表者のラルフ=ポートマンである。

「そんな不謹慎な輩を、この重大な作戦の中心に据える? 私は反対だ!」

戦場でクジを引くという行為が不謹慎に映った、ダーム王国代表のラルフは、そんな彼らを中心に作戦を決める事を反対した。

「ラルフさん言いましたかいな? ホンなら、なんぞ代替案でもあるんですか?」

「我々が一致団結して立ち向かえば、どんな困難も打開できます!」

「いや、精神論やのうて、具体的な作戦案を聞いとるんです」

「そ、それは……」

「無いんですか?」

「し、しかし! このような不謹慎な輩を作戦の中心にして、他の者が納得しますか!?」

「私は納得するな」

「エミリオさん!」

次に発言したのは、スイード王国のエミリオという代表者。

彼とラルフは、隣国という事で上層部の交流もあり、お互いを知っていた。

「君は、彼らに会った事があるのかい?」

「いえ……ありませんが……」

「私は直接会ったよ。彼らは、我々の危機に真っ先に駆け付け、魔人を撃退してくれた。しかし彼らは、犠牲者を出してしまった事を大変後悔し、謝罪してきた。他国の事なのにだよ? 私は、そんな不謹慎な人間には見えなかったがね」

「……」

エミリオは、シン達がスイード国王に謁見した際に同席していた、軍部の責任者である。

直接会ったというエミリオの発言に、何も言えなくなるラルフ。

「私も直接お会いしましたが、そんな印象は受けませんでしたな」

続いて、クルトの代表者も追随する。

「彼らの戦闘も直接見ましたが……正直、エルスのナバル代表がおっしゃる事も理解できます」

「理解できる!? どういう事ですか!?」

クジを引くという行動が理解できると言う、クルトの代表者の言葉に噛みつくラルフ。

「彼らにとって災害級の魔物など、相手として物足りないのでしょう。実際どうだったのですか?」

「瞬殺でしたな。危ないと思う場面もあらしませんでしたわ」

「でしょうね」

「だと思ったぜ」

災害級の魔物を瞬殺したというのに、クルトの代表者もカーナンの代表者であるガランも納得している。見れば、スイードのエミリオも頷いている。

「彼らにとって、災害級は絶望する相手ではない。それこそ、片手間で討伐できる程度の相手なのでしょう。実際に彼らの戦闘を見ると、それが納得できます」

「災害級を片手間で……」

クルトの代表者の言葉に、何かを考え出す、ラルフ。

そして彼は、突破口を見つけたとばかりにニヤリと笑った。

「……そんな危ない力を持っている者など……信用できるのですか? 彼らこそ、倒すべき相手なのではないですか?」

その過激な発言に、会場がざわついた。

確かに、災害級という人類が戦うに当たって、悪夢とも言うべき相手を、歯牙にもかけず瞬殺してしまう力というのは、途轍もなく巨大に思える。

ラルフは、そんな力を持っているアルティメット・マジシャンズを危険視した。

ドミニクは、彼らの力の巨大さも理解しているし、それを危険視させないようにディセウムやアウグストが苦心している事も知っている。

その苦労も知らないで、軽々しく口にしたラルフに対して、怒気を発しそうになるが……。

「何にも知らん、アンタが言うてエエ台詞とちゃいますな」

フォローする発言をしたのは、エルスの代表者であるナバルであった。

「正直、その感想は私も持ちましたわ」

「でしょう! なら……」

「なもんで、本人らに問いただしたんですわ。世界を征服する気はあるのか? いうてね」

そのナバルの台詞に『何聞いてんだ! アンタは!?』という空気になって再びざわつく会場。

「そしたら、事も無げにこう言いましたわ『そんな面倒な事、したくもない』ってね」

その言葉に、少しホッとした空気が流れる。

ほとんどの人間が、シン達の力を垣間見ている為、彼らの思考が世界征服に向いた場合、食い止める手段などない事を理解していたからだ。

「それに『今後生まれてくる子供らの為に、平和な世界を作っておくのは、今を生きてる自分達の使命だ』とも言うてましたな」

「そうですか……そんな事を言っていましたか」

ドミニクは、シン達の心の内を初めて聞いた。

騎士団総長である彼は、魔法使いであるシン達との接点が殆どない。

彼らが、私欲のためにその力を振るうとは微塵も心配していないが、その力を次世代の人間のために使おうとしていることを初めて聞いた。

ナバルに教えてもらった彼らの決意に、ラルフの言葉で怒りに支配されそうになっていた思考が落ち着いた。

「き、詭弁だ! そんなの、出まかせに決まっている!」

「ラルフ君! 貴方は一体どうしたのですか!?」

「マ、マキナ様……」

「実際の戦闘は見た事が無い私でも、彼らに会った事はあります。人格的に大変優れた人達であったと認識していますよ。あの大罪人フラーのしでかした事を、彼の責任のみに留めイースの罪まで言及しなかった。イースと敵対関係になってもおかしくなかった程の事件なのにです」

「そ、それもきっと計算で……」

「そもそも、ドミニク局長。人類の希望とは、彼らなのでしょう?」

「その通りです。魔人は、一体が災害級より強い存在です。それが……後五十体程、残っているそうです」

「災害級より強い存在が五十体って……マジで人類の危機じゃねえか……」

ガランが、具体的な魔人の強さと数にめまいを覚えそうになっていたが、エミリオが追加で発言した。

「しかし……私が初めて見たときは、百体はいました。それを考えると……」

「よう五十体も減らしましたな……」

元々、百体いた魔人が、今は半分にまで減っている。

それは、シン達が討伐したからだ。

「我々では、絶望しか感じられない相手と数です。しかし、アルティメット・マジシャンズの手に掛かれば、それを討伐する事は夢物語ではない。まさに、彼らは人類の希望そのものなのです」

「人類の希望……まさにその通りなのでしょうね……」

ドミニクの発言に、マキナは納得した。

「しかし! マキナ様も、初めはこの作戦に反対していたではありませんか!」

「私が反対したのは、十五~十六歳の若者達に、重い責任を押し付け、大人である我々が楽をしていいのか? という事です」

「まあ……正直、情けない話ではあるな」

「その実力に大きな隔たりがあるとしても……ね」

シン達の倍以上生きているガランとエミリオが、口惜しそうに言葉を漏らすが、ここでもナバルが発言した。

「せやけど、実際この問題を根本的に解決できるのはあの子らしかおらへんのですから、そこは割り切ってエエんとちゃいます?」

「エルス商人らしい発言ですな。使える者はなんでも使え……ですか」

「当たり前でんな。そこを遠慮して人類滅亡とか、笑い話にもなりまへんで?」

シン達に問題を解決できる能力があるのなら、その力に頼ることを当然だと言うナバル。

三国会談のときは、アールスハイドから有利な条件を引き出そうとしていた彼だが、アールスハイドへの道中で見たシン達の実力とその決意、そしてアールスハイドで結んだウォルフォード商会との商談で、かなりアルティメット・マジシャンズに肩入れしているようだった。

そしてマキナは、成人したばかりの若者だけに作戦の中核を任せるという事に抵抗があったと言い、シン達を危険視している訳ではないという。

マキナなら反対してくれると信じていたラルフは、裏切られたような顔をしていた。

「そもそも、ラルフ君はどうしてそこまでこの作戦に反対をするのです? アルティメット・マジシャンズといえば、民衆の間で『聖女』と呼ばれるクロードさんや、今や『神の御使い』とまで言われている、魔王ウォルフォード君がいるのですよ?」

「そ……!」

それが気に食わない! と、そう言いかけた言葉を飲み込んだラルフ。

明らかに私事で、感情論であるからであるし、何より、創神教の大司教であるマキナが、容認の方向に思考を移し始めたからだ。

ダームとイースは別の国であるが、過去に創神教の総本山があったこの国は、創神教の影響力が強く、総本山であるイースが上、ダームが下の無意識な属国関係にある。

ダームの代表者であるラルフが、他国の代表者のマキナに『様』という敬称を付け、その逆が『君』である事でも、その関係が分かる。

その精神的な上位国であり、大司教であるマキナの意向も考えて、言葉を飲み込んだのである。

しかしラルフは、アルティメット・マジシャンズの中の二人の二つ名が気に入らない。

シシリーに付けられた『聖女』とは、現教皇が今の地位になる前に呼ばれていた呼称であり、敬愛する教皇の、かつての呼び名で呼ばれている事が腹立たしく、シンの『神の御使い』に至っては、神は絶対の存在である創神教にとって、それこそ軽々しく口にしていい称号ではないはずである。

もっとも、どちらも民衆が勝手に言い始めた事であり『神の御使い』については、かつてジークフリードが感じた感想を、他の人間も同じように持ったことで、ここ最近急激に広まった二つ名であるのだが。

ラルフは、創神教の聖職者でもない者がそう呼ばれる事が許せなかった。

彼がシン達を作戦の中心に据えることに反対なのは、戦闘中にクジを引くような不謹慎な態度が気に入らないというのもあるが、一番大きいのは、その二つ名。

特に、シンの『神の御使い』が受け入れられないからであった。

だが、当の創神教内においては、その二人の二つ名については、ほぼ容認の流れが一般的である。

聖女に関しては、元聖女である教皇が自分の娘のように気に掛けており、この騒動が終息すれば、彼女の結婚式を教皇が執り行うという、前代未聞の提案も創神教側からされた。

神の御使いについては、魔人が大量に出現し、人類存亡の危機を迎えたこの時代に、それに対抗しうる力を持ったシンが現れた事で、実際にそうなのではないか? という考えを持っている者が創神教の中にも多いのである。

『この人類存亡の危機に、我らの神が、御使いを送ってくださった』と。

しかし『多い』というだけで『全て』という訳ではない。

ラルフは聖職者ではないが、敬虔な創神教の信徒であり、聖女と御使いの二つ名を容認することができない、少数派の一人でもあった。

「若者達だけに負わせるには大きすぎる責任ですが……確かに我々人類には、他に切れるカードはない……この作戦を承認するしかないようですね……」

「それでは、作戦の大まかな流れはこれでよろしいですね? 後は、その配置と補給等についてですが……」

大司教であるマキナが、結局この作戦を承認したことで、ラルフはもう何も言えなくなった。

その後の会議は、ドミニクの用意した草案があった為、時折、折衝があったくらいでスムーズに流れていく。

人員の配置、宿泊や補給等、合意を得られた為、魔人領攻略作戦が決議。

ついに、世界連合締結の運びとなった。

ようやくスタート地点に立った安堵感で、会議場は弛緩した空気が流れるが、ラルフだけは不機嫌な表情のままである。

その態度が会議中ずっと気になっていたマキナは、ラルフのところへと歩み寄った。

「ラルフ君。貴方、一体どうしたのですか? 終始不機嫌なままで。国家を代表してこの場に参じているなら、あの態度はいかがなものかと思いますよ?」

「……申し訳ありません。以後気を付けます」

そう言うと、ラルフはさっさと会議場を出て行ってしまった。

補佐官や護衛が、慌ててその後を追って行くが、その顔には戸惑いが見られる。

彼らは、聖女と御使いの容認派なのだろう。アルティメット・マジシャンズの参戦に反対した自分達の代表が信じられないといった様子である。

「やれやれ……これは彼の暴走ですかねえ……」

聖女と御使いの言葉に反応しかけた事で、マキナには、ラルフが二つ名の反対派である事が分かった。

しかし、創神教の大勢は容認派であり、ダーム国王も容認派であったはずだ。

であるなら、この会議におけるラルフの行動は、彼の暴走だと判断した。

「余計な事が起こらなければいいんですがねえ……」

ラルフ達が出て行った扉を見ながら、マキナはため息を吐いた。