軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王太子無双

ところ変わって、アウグストが向かったのは、ウルストの街。

例の、市民証が発行された街である。

その領主館の前には、先にゲートから出た各国の精鋭たち……兵士であったり各国の警察組織の人間であったりが門番と睨み合いをしていた。

「急に来て、なんだテメエら!? さっさと帰りやがれ!!」

門番は、急に現れた彼らが、来ている服や雰囲気から、敵対している組織などではなく、公的な組織の人間だとすぐに察した。

この館には、非合法なもので溢れている。

なので、公的機関を館に入れるわけにはいかなったのだ。

必死に追い返そうとする門番だったが、一人、スタスタと歩いてくる人間がいることに気が付いた。

「おい! 聞こえなかったのか!? さっさと帰れって言ってんだよ!!」

そう言って歩いてくる人物に向かって手を伸ばすが……。

その手は届くことなく、その人物に掴み取られた。

「なんだ、この手は?」

「ひっ!」

その人物……アウグストは、手を伸ばしてきた門番を、あまりにも冷たい目で見返した。

その瞳の冷酷さに、門番は思わず悲鳴を上げた。

そうして怯んだ門番を投げ捨て、アウグストは領主館の門を……。

「なあっ!?」

魔法で吹き飛ばした。

大音量をまき散らして吹き飛ぶ鉄製の門。

その光景に、門番だけでなく随行していた精鋭たちも唖然としてしまった。

だた一人、その光景を作り出したアウグストだけが、平然と敷地内に入って行く。

「行くぞ」

短くそれだけ言うと、さっさと領主館に向けて歩き出した。

苦言や提言などしたらアウグストの逆鱗に触れる、それほど怒っていると察した精鋭たちは、これ以降アウグストの行動を諫めるのを止めようと思った。

そして、それは正解だった。

領主館についたアウグストは、正面玄関の扉を、開けるのではなくまた吹き飛ばした。

扉の向こうに人がいなかったのだが、こんなに怒っているのに、ちゃんと人がいないことを確認して行動している辺り、怒っているが冷静だ。そして、そのうえでこんな無茶苦茶な行動を取っているのだと、先ほどの自分たちの判断が間違っていないことを実感した。

こんな状態のアウグストに苦言とか提言とか、怖すぎてできない。

扉を吹き飛ばしたアウグストは、ズンズンと領主館内に侵入していく。

当然のように現れたゴロツキたちは、アウグストの展開している物理障壁に阻まれて近寄ることさえできない。

精鋭たちは、ただアウグストの後を追いかけ、襲い掛かってきたゴロツキたちを公務執行妨害で捕縛していくだけの作業を無心で繰り返した。

ここまで、アウグストは一言も名乗りをあげていない。

ここの人間にとってアウグストはただの侵略者だ。

しかし、歩を進めるアウグストを止められる者は誰もいない。

アウグストを正面からみた、非戦闘員であるメイドが「ひいっ!!」という悲鳴をあげ、白目を剥いて気絶してしまったこともあった。

後ろから追いかけている精鋭たちは、そんなに恐ろしい表情をしているのかと、このあと訪れる議員との対面に緊張を隠せなくなった。

あらかじめ領主館の見取り図で確認していた執務室に迷うことなく到着したアウグストは、またしても扉をノックせず、今度は蹴破った。

「なあっ!? なんだあっ!?」

今までの騒ぎを聞いていたのか、部屋の中にいた議員は、剣を手にして警戒していた。

だが、まさか扉を蹴破って侵入してくるとは思ってもみなかったのだろう。

驚きを隠せていない。

「……私はアウグスト。アウグスト=フォン=アールスハイドだ」

アウグストがそう名乗った瞬間、議員の顔色が変わった。

驚きと怒りで赤かった顔が、一瞬で青くなったのだ。

ヤバイ、なんとか言い逃れないと命がない。

そう判断した議員は、全力でとぼけることにした。

「ア、アールスハイドの王太子様が、こんなところになんの御用でしょう? そ、それに、いくら大国の王太子様といえど、他国の議員の館に無断で侵入されるのは……」

そんなことを言う議員に、アウグストは無言で書類を突き出した。

「今回、私はアールスハイドの人間として来ているのではない。アルティメット・マジシャンズの人間として依頼を受けてここにいる」

「は? 依頼?」

議員は一瞬なにを言っているのか分からなかったが、すぐに思い出した。

アルティメット・マジシャンズは、超国家的組織であること。

依頼があれば、各国どこにでも行ける権限を持っていること。

それを踏まえたうえで、突き出された書類に目を通した。

そして、そこで驚愕の内容を目にした。

ダームの全権委譲、議員制度の撤廃、王制の復活、イース神聖国による当面の統治等々。

その書類は、今まで自分が得てきた利権の全てを没収するという内容の書類に他ならなかった。

議員は、あまりのことに怒りで書類を持つ手が震えている。

「こ、こんな……こんなことがまかり通るものか!! 偽物だ!! この書類は偽物だ!!」

そう叫ぶ議員の前に、もう一つの書類が付き出された。

「なんだ!? また書類か!? 今度は……」

叫びながら書類を受け取った議員は、内容を読んですぐに蒼褪めた。

そこには、絶対にバレないと思っていた犯罪の数々が羅列されていた。

中でもマズイのは、アールスハイド王太子妃殺害未遂が罪状として記載されていることだった。

目の前にいるのは、その夫である王太子。

しかも、世界に名だたるアルティメット・マジシャンズの副長だ。

マズイ、これを認めたら自分は確実に死ぬ。

そう感じた議員は、どうにかして罪を逃れようと足掻いた。

「こ、これはなんですか? こんなもの、身に覚えは……」

「残念ながら全て証拠は揃っている。言い逃れなどできるとは思わないことだな」

「しょ、証拠とはなんですか!? あるのなら提示して頂きたい!!」

議員は、裏社会で生き延びてきた人間だ。

そういう人間ほど慎重で、足が付く証拠などを残さないように行動する。

なので、証拠などないと自信を持って言い切った。

だがアウグストは「ふう」と息を吐くと、まるで汚い物を見るような目で議員を見た。

「この期に及んでまだ白を切るとはな。いいだろう、見せてやる」

そう言ってアウグストが取り出したのは、録音機。

それを再生すると……そこから、部下に命令する議員の声と、了承する部下の声。そして、その部下がとある商家を脅している言葉が流れてきた。

「な、こ……」

「これは録音機と言ってな。これには声を記録することができる。アールスハイドでは十分に証拠能力があるものとして認定されている」

こんなものは証拠にならないと叫ぼうとしたが、アウグストに先んじて言葉を封じられた。

これはもう仕方がない、しかし、一番マズイ王太子妃殺害未遂については証拠はないはずだ。

それさえ言い逃れられれば、多少の服役で出所できるかもしれない。

そう考えてそこを追求することにした。

それが、悪手だと知らずに。

「な、なら! この王太子妃殺害未遂というのはなんなのですか!? こんな大それたことの犯人に仕立てようとするのだから、相当な証拠があるのでしょうな!?」

そう言い切った議員は、今度こそ自信があった。

だが、すぐにそれを口にしたことを後悔した。

アウグストから強烈な威圧が発せられたからである。

魔法が使えない人間でも見えるほど可視化された魔力で、議員は威圧された。

言うんじゃなかった! 逆鱗に触れてしまった! そう思ったがもう手遅れである。

殺される! そう思ったが、意外にもアウグストから手を出されることはなかった。

その代わり、懐から二つの小さな品を取り出した。

「こ、これは……?」

「見て分からんか? 市民証だ」

「わ、わかりますが……これが一体?」

なんで市民証を提示したのか分からない議員が恐る恐る訊ねると、オーグは目を細めたまま説明し始めた。

「この市民証にはな、いつ、どこで発行されたのかが記載されているのだよ」

「……え?」

アウグストの放った言葉に、議員はすぐに反応できなかった。

「知らなかったか? 実は私も知らなかった。だが、シンがそれを発見したのだが……まあ、当時はそれがどうしたと思っていたのだが」

アウグストはそう言うと、市民証を議員の前でヒラヒラと振ってみせた。

「この市民証は、先日王城で騒ぎを起こした賊が持っていたものだ。そして……」

そこまで言って、ようやく議員はことのマズさに気付いた。

「あ! いや……」

「この市民証には、三年前、この街で発行されたと記載されていた」

「あ……あ……」

「市民証の管理は国が行っている。街では領主だな。勝手に発行することは許されていない。なのに、これは三年前ここで発行されたことになっている。おかしいな? これを持っていた者は二十三歳だそうだ。シンじゃあるまいし、その歳まで市民証を持ってなかったなんてあり得ると思うか?」

「……」

「つまり、この市民証は領主の権限でしか発行されない。それを賊は持っていた。お前が発行したということに他ならん。これ以上の証拠がいるか?」

アウグストに追い詰められた議員は、最早反論することができなかった。

「う、うわああっ!!」

思い余ってアウグストに切りかかるも、そんなものがアウグストに届くはずがない。

少し強めに電撃を浴びせると、議員はあっけなく地面に倒れ伏した。

「……ふう」

倒れた議員を見てアウグストは一つ息を吐くと、ずっと背景になっていた精鋭たちに声をかけた。

「すまないが捕縛してくれ」

アウグストはそう言うと、領主館の外に出て、大きく深呼吸した。

「これで……ようやく終わりだ」

四年前から続いた、王太子妃エリザベート襲撃事件が、本当の意味で終息した瞬間だった。