軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

事務仕事革命

メイちゃんの襲撃のあった翌日、アルティメット・マジシャンズの事務所でその顛末を話した。

その話を聞いたアリスは、妙に納得した顔をしていた。

「あー、メイ姫様ならそう言うだろうなあ。あの子、いつも将来はアルティメット・マジシャンズに入りたいって言ってるから」

「そうなの? それじゃあ、コリン君とアグネスさんは?」

「コリン君は将来ハーグ商会を継ぐって言ってる。アグネスさんは、多分コリン君に嫁入りするんじゃない?」

「あ、やっぱりそうなんだ」

俺が面倒見てた初等学院のころから、アグネスさんのコリン君に対する好意はバレバレだったからなあ。

上手くいってるんなら良かった。

そして、自分にも相手ができたため、アリスも他人の恋愛事情について嫉妬することがなくなった。

「メイちゃんにそういう話はないのか?」

「さあ? そこまで聞いたことはないなあ。中等学院の付き合いも知らないし」

「リンも?」

「他人の恋愛事情に興味ない」

「あ、そう」

リンは、相変わらず魔法以外のことに興味がなさそうだ。

「そういえば、今年の高等魔法学院の志願者は史上最多を更新しそうらしいですけど、姫様は大丈夫なんですか?」

そう聞いてきたのはシャオリンさんだ。

「え? そうなんですか? っていうか、なんでシャオリンさんがそんなこと知ってるんですか?」

意外な人からの情報に、思わず訊ねてしまった。

するとシャオリンさんは、小さく溜め息を吐いた。

「いよいよ語学学校を開設するので、生徒を募集するために中等学院にも色々と広報活動をしているのですが、今中等学院生には魔法の私塾が一番人気なんです」

「へえ、そうなんだ」

「語学学校もいわゆる塾ですから、魔法使いの素質がなくて経法学院を目指している生徒には受け入れてもらえてます。ですが、少しでも魔法使いの素質がある子は、こぞって魔法使いの私塾に通いだしたそうです」

ああ、なるほど。それで知ってたのか。

「ということは、来年の高等魔法学院受験者って相当な数になりそうってことか」

メイちゃん、実技は大丈夫だろうけど学科が大丈夫か?

オーグに引きずられて帰って行ったので、その後どうなったのかとオーグを見た。

俺の視線に気付いたオーグはフーッと小さく息を吐いた。

「アイツは本当に感覚派だからな。シンのように理詰めで考えないから、相当フワッとした知識しかもっていなかった」

「……マジか」

「まあ、実技は実際に確認したから問題ない。合格はするだろうが、Sクラスに届くかどうか微妙なラインだな」

「へえ。でもまあ、アルティメット・マジシャンズの応募要項は高等魔法学院卒業者なんだからクラスは関係ないんじゃない?」

「それはそうなんだが、できればSクラスが望ましいな。少人数だからいざという時対処しやすい」

「王族だと、そんなことも気にしないといけないのか」

「まあな。それに、ハーグとドネリーは学科も優秀らしいから間違いなくSクラスになるだろう。そう言ってやったら必死になって勉強を始めたよ」

ハーグとはコリン君のこと、ドネリーとはアグネスさんのことだ。

「へえ。それじゃあ、なんとか間に合うかな?」

「色々と目標ができたからな。モチベーションも上がったんだろう、珍しく自室でも勉強しているな」

珍しくって……

メイちゃん……。

そんなやり取りがあり、来年以降も新規入団希望者は問題なくいそうだと確認してからしばらく経ったころ、各国から一次選抜が終わったと連絡があった。

その一次選考通過者をオーグと俺で確認していたのだが……。

「……ダームの一次選抜者の人数が多いな」

「そうだな……」

ダームは、先日のエリー襲撃事件の首謀者がいると目されている国だ。

結局、ダームが関与していた証拠も見つからず、犯人の目星もついていない。

だが、状況的に怪しいことには変わりなくオーグは今も警戒を緩めていない。

そりゃ、自分の嫁と子供が狙われたんだから当然だな。

そんなダームから送られてきた一次選抜合格者の人数が、他の国と比べて随分多い。

「どうしても穿った見方をしてしまうが、数を送り込めば一人くらい通過するとでも思われているのだろうか?」

「……こりゃ、選抜条件をかなり厳しくするしかないかな?」

「下部組織とはいえ、お前の直接指導を受けさせるんだ。元々そのつもりではあったがな。ダームからの候補者は特に注意して素性調査をすることにしよう」

実際には、エリーを襲撃した犯人とはなんの関係もない人もいると思うけどね。

どうしてもそういうフィルターを通して見てしまう。

それにしても、アルマさんは可哀想だな。

尋問の結果、アルマさんの身の潔白は証明されている。

事務所内に目を向けると、自分の机で真面目に仕事をしているアルマさんがいる。

他の事務員さんたちと打ち解けたことで働きにくいということはなさそうだ。

アルマさんの仕事は書類の清書や報告書の作成で、その仕事ぶりはアールスハイドの王城勤務の文官さんたちのお墨付きだ。

勤務態度も真面目だし、能力も高い。

それなのに、母国はオーグから疑惑の目を向けられている。

いたたまれないだろうな……。

俺はそう思いながらカリカリと書類にペンを走らせているアルマさんを見ていた。

そういえば……。

「タイプライターとかないんだな」

「タイプライター?」

ポソッと呟いた俺の言葉に、オーグが反応した。

「なんだそれは? また前世にあった道具か?」

「え? ああ、声に出してたか。そうそう、機械式に文字を紙に書く道具のこと。この世界の文字様式ならあった方が便利だと思うんだよ」

「ふむ……具体的にどんな道具なのだ?」

そう聞かれたので、俺はイラストも使いながらタイプライターの説明をした。

最初は興味本位といった感じだったオーグの顔がみるみるうちに輝きだした。

え、なに?

「シン! こいつをすぐに作ってくれ! 早急にだ!!」

「お、おお。お前がそう言うなら作ってみるけどよ……どうしたんだよ?」

オーグの食い付き方が半端じゃない。

鬼気迫っていると言ってもいい。

「これがあれば書類作成の時間が大幅に短縮できる! 読み辛い書類に頭を悩ませずに済む! 素晴らしいではないか!!」

オーグの絶賛が凄い。

あまりに大きな声を出していたので事務員さんたちも仕事の手を止め俺たちを見ている。

「どうかしたんですか?」

その事務員さんたちを代表してカタリナさんが聞いてきた。

「うむ。シンが素晴らしい発明のアイデアを思い付いてな。思わず興奮してしまった」

「素晴らしい発明……殿下がそう言うということは、作っても問題ないものなんですね。なんですか?」

俺の作る道具に敏感なトールも会話に参加してきた。

「それはだな……」

オーグが先ほど俺が説明した内容を話すと、事務員さんたちとトールの目が輝きだした。

「素晴らしいですシン殿! すぐ! すぐに作りましょう!!」

「ええ! ええ!! 今すぐ! 早急に作って下さい!! それはまさしく私たちの救世主になります!!」

オーグと同じく、トールとカタリナさんも食いつきが凄い。

カタリナさんだけじゃなく、他の事務員さんたちも同じく期待に目を輝かせている。

そんな中、アルマさんがおずおずと手をあげた。

「ん? どうしたのアルマさん?」

「あ、あの……」

アルマさんは、モジモジしながらも俺の目を見て言った。

「お、お金は払うので、個人用に一つ売ってもらえませんか?」

「個人用?」

「はい、あの……それがあれば、執筆が凄くはかどると思うので……」

自分が小説家であることをカタリナさん以外の事務員にもカミングアウトしているアルマさんがそう言った。

「それは素晴らしいです!! 執筆速度が上がるということは、アマーリエ先生の新作がすぐに読めるということですね!?」

アマーリエはアルマさんのペンネームである。

そのアマーリエの大ファンであるカタリナさんが、さっき以上の熱量で熱弁を振るっている。

仕事より趣味か。

「シン。これは王太子である私からの緊急依頼だ。早急にそのタイプライターの作成に取り掛かってくれ」

「い、いいけど。またビーン工房にお願いすることになるから……開発に時間がかかるかも」

ビーン工房は今、自動車の解析と製造も始めている。

その合間に作成するとなると、時間も人員も足りな……。

「車なぞ後回しでいい! それより、これを最優先してくれ! なんなら王命を出す!!」

「そんな大事にすんな!! 分かったから! 親父さんにはそう言っとくから!!」

「頼んだぞ!!」

……こんなオーグは初めて見るな。

隣には同じく必死な顔のトールや事務員さんたちの顔も見える。

よほど書類仕事に辟易しているらしい。

これは、早急にタイプライターを完成させないと事務所内暴動が起きるかもしれん……。

「スマン、マーク。また無理させるわ……」

「はは……殿下の御用命とあれば致し方ないッスよ。それに、確かに車よりそっちの方が優先度が高そうッスし」

ビーン工房に無理をさせるとなると、マークも無関係ではいられなくなる。

なのでマークに詫びると、苦笑しつつも容認してくれた。

「はあ、こんなことならもっと早くに作っときゃよかったな」

「しょうがないッスよ。俺らにはそういうの必要ないんスから」

「それもそうか」

そういうわけで、事務員さんたちが新規団員の入団試験の準備に奔走する間、俺とマークはタイプライターの作成に奔走することになった。

はあ、不用意な一言で急に忙しくなったな。