軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

姫、襲来

『アルティメット・マジシャンズ、新規団員募集』

その発表は、ディスおじさんを通じて各国に伝えられ、発表された。

正直、どれくらいの応募が来るのか心配だったんだけど……。

「え? こんなに?」

アルティメット・マジシャンズの事務所に来ると、そこには箱詰めされた応募用紙が山のように積みあがっていた。

「まさかの、アルティメット・マジシャンズ新規団員募集ですからねえ。該当者のほぼ全てが応募してきたんじゃないですか?」

箱に入っている応募用紙を手に取りながら、イアンさんがそう呟いた。

「ある程度予想はしていたが、この量はちょっと想定外だな。少し絞り込まないといけないか……」

オーグとしても、この量は意外だったようで試験方法について再度考え直すことになった。

その結果、一次試験として各国で絞り込みを行ってもらうことにした。

そこで選抜された人の素性調査をして、問題ない人に最終試験と面接を受けてもらうことにした。

そうしないと、試験だけで業務が埋まってしまう。

「では、そのように通達しておきます。審査基準は各国にお任せでいいですか?」

「ああ、それで構わない。人格云々は伝えなくていいからな。まずは実力者を選抜したい」

「分かりました」

カタリナさんはそう言うと、テキパキと書類を作成し始めた。

草案をカタリナさんが作り、アルマさんが清書。

それをアンリさんが王城に持って行った。

その様子を見ていたオーグが、なにやら考え事をしている。

「どうした?」

「いや、うちの事務員たちは優秀だなと思ってな」

「なにを今更。元々、各国でもエリートを選抜してもらってるじゃないか」

「まあな。それより、団員が増えるとなると事務員も増員した方がいいか……」

「また各国にお願いすんの?」

「いや、今回は公募にするか。あまり優秀な人間を引き抜いていても恨みを買うかもしれんからな」

そういうわけで、事務員さんたちの増員も検討することになった。

そういう話があった週の週末、俺の家に訪問者が訪れた。

「シンお兄ちゃん! お話があります!」

リビングに開いたゲートから出てきて、開口一番にそう言ったのはメイちゃんだ。

「お、メイちゃん久しぶり」

「めいちゃん!」

中等学院生になってから色々と忙しいらしくあまりウチに来ることがなかったメイちゃんがオーグと共にやってきたのだ。

メイちゃんに久しぶりに会ったシルバーはテンションが上がり、飛びついていた。

「わあ、シルバーちゃん! また大きくなったです!」

「えへへ」

飛びついてきたシルバーを抱き留めたメイちゃんは、そのままシルバーを抱っこして頬ずりした。

シルバーも、滅多に会えないお姉ちゃんに受け入れられて嬉しそうだ。

「いらっしゃいませメイ姫様」

シシリーはシャルを抱っこしてるのでソファーに座ったまま挨拶をした。

メイちゃんは、そのシシリーの腕に抱きかかえられているシャルを見つけ目を輝かせた。

「シャルちゃん! こんにちわ! メイお姉ちゃんですよ!」

「あぅ?」

突然現れた見知らぬお姉ちゃんに、シャルはビックリして固まっている。

まあ、生まれたばかりの頃に見に来ているのだが、当然シャルはそんなこと覚えていない。

っていうか、今会ったことも覚えてないだろう。

赤ちゃんだし。

ともかく、シャルにとっては初めて見る人。

あまり人見知りはしない子だけれど、初めて見る人なので驚いているんだろう。

「あはは、可愛いです」

メイちゃんはそう言いながらシャルの頬をぷにぷにと突っつく。

「あぅ、きゃあ!」

構ってもらえて嬉しいのか、シャルは笑いながらはしゃいでいる。

もう戸惑っている様子はない。

「うふふ、可愛い……」

シルバーを抱えシャルを構う。

その状況に、メイちゃんの顔がだらしなく蕩けている。

今のメイちゃんは中等学院の三年生で、もうすぐ十五歳。

第二次性徴を迎え、背も伸び、体形も女性らしくなった。

けど、中身はあんまり変わってないなあ。

見た目は美少女なのに、だらしない表情のせいで色々台無しだ。

そんな、残念な子を見る目で見ていると、メイちゃんの頭にチョップが振り下ろされた。

「んぎゃっ!」

「お前は、一体なにをしに来たんだ?」

頭を押さえて涙目になっているメイちゃんに、オーグが呆れたようにそう言った。

メイちゃんにはまだゲートの魔法を教えていないから、ゲートが開いたということはオーグが一緒に来ているということだ。

そういえば、ゲートから出てきたときに話があるとか言っていたな。

「はっ! そうでした! シンお兄ちゃん!!」

メイちゃんは、シルバーを下ろし俺を真っすぐに見てきた。

「なに?」

「私も、アルティメット・マジシャンズに入りたいです!!」

……。

「ん?」

「ん? じゃないです! 非道いです! アルティメット・マジシャンズは新規団員を募集すると聞いたです! それなのに、私に声をかけてくれないなんて!!」

「いや、メイちゃん、募集要項見た?」

「ぼしゅうようこう?」

「こんな人を募集しますってってやつ」

「見てないです」

やっぱりか。

メイちゃんは、俺らが新規団員を募集するって言葉だけ聞いて飛んで来ちゃったんだな。

「あのね、今回募集したのは昨年と今年、それと来年卒業予定の各国高等魔法学院卒業者に限ってるんだよ」

「ええ!? なんでですか! 別に若くてもいいじゃないですか!!」

「ダメだ」

メイちゃんの主張を、オーグが一刀両断にぶった切った。

「なんでダメなんですか!?」

「確かに、実力だけで入団させるのなら、お前でも別に構わない」

「じゃあ、私も試験受けさせてくれてもいいじゃないですか!」

「アルティメット・マジシャンズは軍隊じゃない」

オーグのその言葉に、メイちゃんはハッとした顔をした。

「戦場に駆り出すのならいくら若くても構いやしない。けれど、アルティメット・マジシャンズは軍隊じゃない。民や国の要望を受け、その国の魔法使いでは解決するのが難しい案件や、遠くてすぐには行けない地方の問題を解決するための組織だ。故に、実力だけでなく信頼も必要になる」

「……子供だと信用してもらえないってことですか?」

「そういうことだ。本当に依頼をこなせてもらえるのか? 派遣された人員を見てそんな不安にさせるようなことは、私たちにはあってはならない」

まあ、俺らもようやく二十歳になる年齢だけど、シュトロームや魔人たちを討伐したことは広く知られているから信頼してもらえている。

逆に言えば、その実績がなければこんなに各国なら依頼が来るなんてこともなかっただろう。

若造の集団だし。

その若造の集団の、さらに下部組織なんだからせめて俺らと年齢が近くないと新規団員たちに信頼なんて寄せてもらえないかもしれない。

そういう意図も今回の募集要項にはある。

それを聞いたメイちゃんは、しばらく難しい顔をしていたけど、やがて小さく息を吐きだした。

「……分かったです。シンお兄ちゃん、我がままを言ってごめんなさい」

「いや、いいよ。それに、メイちゃんも来年高等魔法学院に入って卒業すれば応募資格が得られるんだから、それからでも遅くないって」

「うー……でも、私、アルティメット・マジシャンズの新団員の第一号になりたかったです」

ああ、そういう目的もあったのか。

だけど、残念ながらそれを待つことはちょっと難しいかな。

人員不足については、訓練の時間もあるから早めに集めないといけないんだよな。

ただまあ、メイちゃんを新規団員第一号にするのはオーグが前に言っていたように、余計な邪推を生むからできないんだよな。

それを説明すると、納得できないのかメイちゃんは唇を尖らせて「むー」っと拗ねてしまった。

「他の人の言うことなんて無視すればいいです。私はなんて言われたっていいのに」

「そんなわけにいくか」

他人の意見なんて気にしないというメイちゃんに、オーグは深い溜め息を吐いた。

「周囲の意見や噂というのは無視できないものなのだぞ? もし悪意を持って噂を流されたらそれが我々の評判になる。実情を知らんからな。事実を知らない民たちからすれば、実しやかに流れている噂の方が事実になるというわけだ」

「むぅ」

まあ、これはよくあることだよな。

ある人に関する良くない噂があったとして、実際にその人と接してみると滅茶苦茶いい人だったとか。

「シンを見てみろ。実際はこんな無茶苦茶な奴なのに、あの本のお陰で世間でのイメージはまるで聖人のようだ」

「俺のことかよ!?」

っていうか、あの本は王家編纂だろ!

そもそもの原因は王家にあるんじゃねえか!

「え? シンお兄ちゃんは立派な人ですよ? 本の内容とあんまり変わらないです」

「ちょっと、メイちゃん?」

え? メイちゃんの中の俺って、あの本に書かれてる俺と解離ないの?

「ほう……これだけ親しいメイにもそう思われているのか。印象操作は完璧にできているな」

「はあっ!?」

印象操作って! やっぱり、あれは意図的に書かせたのか!!

「てめっ! オーグッ! やっぱりそういうことだったのかよ!! あれのお陰で俺がどれだけ恥ずかしい思いをしたか!!」

「しかし、そのお陰でお前を恐れる者はいなかっただろう?」

「それは、そう、だけど……」

「私としても、お前が必要以上に恐れられることは避けたかったからな」

「オーグ……」

俺の評判を気にして……。

「……その割には、大爆笑したって聞いたけど?」

オーグは誰より先に原稿を見ているので、本になる前に目を通している。

その際に、呼吸が苦しくなるくらい爆笑していたと聞いたことがある。

「……」

「……」

「……っんふ」

「てめえ! やっぱり面白がってんじゃねえか!」

おのれ。

今も思い出して笑いを堪えてんじゃねえか。

堪えられてねえけどな!

「まあ、冗談はともかく、噂は侮れんということだ。メイが入る前に何人か新規団員を入れて、そのあとお前が高等魔法学院をちゃんと卒業し、試験を突破すればおかしなことを言う輩も少なくなるだろう」

「……分かったです」

くそ、結局冗談で誤魔化されてしまった。

それはともかく、メイちゃんはオーグの説得で、ようやく諦めてくれたようだ。

「あ、ところでメイちゃんの進路って高等魔法学院でいいの? その前提で話してたけど」

「もちろんそのつもりです!」

「まあ、実技は問題ないだろうが、学科は? ちゃんと勉強もしているのか?」

オーグがそう言うと、メイちゃんの動きが止まった。

「めいちゃん?」

今まで俺たちの話を大人しく聞いていたシルバーも、突然固まったメイちゃんを見て不思議そうに声をかけた。

その声で我に返ったのか、メイちゃんはゆっくりと俺たちを見た。

「えへ」

そう言って片目を瞑り、小さく舌を出して頭に手を当てる。

あー……こんなわざとらしいテヘペロが出るってことは……。

「お前……まさか実技ばかりで学科はおざなりにしているんじゃ……」

「そ、そんなことないですよ!?」

そういうメイちゃんの目は泳ぎまくってる。

これは、メイちゃん、ピンチか?

「分かった。これから学科の成績が悪ければ実技は禁止にしよう」

「そんな!? お兄様は鬼です!!」

そ、そこまで言うほどか?

鬼と言われたオーグは、その言葉とは裏腹ににこやかに微笑んでいた。

……逆に、その笑顔が怖……。

「ひっ!」

「そうか。妹を思う兄心が分からないとは悲しいな。それでは、私がお前を本当に心配しているのだと分からせることにしよう」

「いえ! 分かります! 十分理解しました!!」

「いやいや、そんなはずがない。ここはキチンと態度で示さなければ」

「示さなくていいです!!」

「さて、シン。私たちはやることができた。今日はこれで失礼する」

「助けてください! シンお兄ちゃん!!」

オーグからは暇の挨拶を、メイちゃんからは帰りたくないという懇願を受けたが……。

「お、おう。じゃあ、またなオーグ」

「シンお兄ちゃん!?」

すまんメイちゃん。

あのオーグに逆らうのは、俺も怖い。

「ああ、またな。ほら、行くぞメイ」

「いぃやあぁああ!!!!」

オーグは、涙目のメイちゃんの襟首を掴んで引き摺って帰って行った。

「……大丈夫かな? メイちゃん」

「え、あー、どうでしょう?」

オーグが自分にも他人にも厳しいのはシシリーも知っているから、これからメイちゃんが遭遇するであろう困難を簡単に予想できるんだろう。