軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

慟哭そのに

「え? アリスさん? お兄様? え? これは一体……」

「休日の公園……お弁当……へえ」

「あ、いや、これはっ!」

アリスと一緒にいるのが自分の兄という状況に、シシリーは混乱してしまっているようだ。

かくいう俺は、この状況を見てついニヤニヤしてしまった。

必死に弁解しようとしているアリスを見て、さらに確信を深めてしまう。

アリスはなんとか誤魔化そうとしているので、アリスじゃなくもう一方に事情聴取してみよう。

「こんにちはお義兄さん」

「やあ、シン君。こんにちは、今日はいい天気だね」

「そうですね。絶好のピクニック日和です」

「あはは、そうだねえ」

真っ赤になってアタフタしているアリスと違って、ロイスお義兄さんは随分と余裕そうだ。

「シン君たちもそちらに座りなよ。特にシシリーは妊婦なんだから、無茶しちゃだめだよ」

「あ、はい。ありがとうございますお兄様」

「うん。あ、シルバーにお弁当を食べさせてやってもいいかい?」

「え? ああ、少しなら構いませんよ」

「ありがとう。さあシルバー、ママのお許しが出たから、どれか一つだけ食べていいよ」

「ええー、ひとちゅ?」

「そう一つ。帰ってママのご飯、食べるだろ?」

ロイスお義兄さんがそう言うと、シルバーはシシリーの顔をジッと見つめたあと、ロイスお義兄さんに向かっていった。

「うん、たべゆ」

「じゃあ、お腹いっぱいにならないように一つだけね」

「あい! ひとちゅ、たべゆ!」

シルバーはそう言うと、真剣な顔をしてお弁当のおかずを吟味し始めた。

凄い、完全にシルバーをコントロールしてる。

「お義兄さん。前に遊びに来たときも思いましたけど、子守り上手いですねえ」

「あはは。僕は下に三人も妹がいるからねえ。小さい子の子守りは慣れてるんだよ」

そういえばそうか。

ロイスお義兄さんにはセシリアさん、シルビアさんとシシリーという三人の妹がいる。

特にシシリーとロイスお義兄さんとは少し歳が離れているので、よく面倒を見ていたのかもしれないな。

「それで、どうして二人揃ってここに? ひょっとして、俺の想像通りですか?」

俺がそう言うと、ロイスお義兄さんは「あはは」と言いながら頭を掻き、アリスは真っ赤になって俯いてしまった。

誰だ、これ?

アリスか。

え? アリス!?

「うふふ。可愛いですね、アリスさん」

「なっ!? シシリー!?」

シシリーに揶揄われるとは思ってもいなかったのか、アリスが真っ赤な顔のままシシリーに抗議した。

それが、なおさら俺の想像通りだと肯定していた。

「いやあ、まさかお二人がとは思いませんでした。どういう経緯なんです?」

今まで、アリスとロイスお義兄さんとに接点があったとは聞いていない。

なにがどうやって二人がくっついたのか、非常に興味がある。

すると、ロイスお義兄さんが微笑みながら説明してくれた。

「ああ、ほら。僕、ウォルフォード商会の専務やってるでしょ? で、社長はグレンさんで」

「あ、ああ。そういやそうだった」

アリスはアルティメット・マジシャンズのメンバー。グレンさんはウォルフォード商会の社長という目で見ていたから、二人が親子だってこと、すっかり忘れていた。

そうか、そこの繋がりか。

「役職柄、社長のお宅、つまりアリスちゃんのお宅に行くことも多くてね。そこで何度か会って話してるうちに意気投合して、一緒に遊びに行くようになって……って経緯かな。そんな珍しい話じゃないでしょ?」

「そうですね。珍しい話じゃないです。それが、アリスじゃなければ……」

「うう……な、なんだよう!」

つい数ヶ月前まで、あたしらに彼氏ができるのか? もしかして一生このままなんじゃと嘆いていたアリスが、まさかこんなことになってるとは夢にも思わないじゃん。

あまりにも意外過ぎて、未だに信じられ……。

ズシャッ!

とそこで、芝生が削れる音がした。

なんだ? と音のした方を見ると……。

「ミランダ……」

またミランダだった。

俺たちがいなくなって、慌てて俺たちを探したんだろう。

で、俺たちを見つけて走ってここに来てみたら、アリスがロイスお義兄さんと仲良くピクニックをしていたと。

そして、走ってきた勢いそのまま芝生に倒れ込んだってとこか。

なにやってんだか。

「アリスっ……お前までっ!」

「うわっ、ミランダ!?」

「お前っ! この状況は言い逃れできないぞ!? まさかお前までたまたま時間が合ったからとか言うんじゃないだろうな!?」

「え? い、言わないけどさ……ちょっ! なんでそんな凄い目で睨んでくるんだよミランダ! っていうか、お前まで?」

まるで自分以外にそういう言い訳をしたやつがいたかのような言いように、アリスが首を傾げた。

するとミランダは、物凄く苦い顔をして、顔を背けながらいった。

「……マリアも男と一緒にいた……」

「え!? うそっ!? え、誰!?」

アリスはそう訊ねるが、ミランダは答えない。

ああ、そういや、ミランダとカルタスさんって、面識はあるけどあんま喋ったことないんだっけ。

「カルタスさんだよ。なんか、休日に空いてる人間がいなかったから偶々誘ったっていってたけどな」

「ええ? 絶対嘘だよそれ。もっと問い詰めた方がいいって」

「そんなことしたら、逆に色々突っ込まれるぞ?」

俺がアリスにそう言ったところ、アリスは赤い顔をして顔を背けつつも拒絶反応を示さなかった。

おっと、これは……。

「べ……別にいいよ。もう現場抑えられちゃったし、いつまでも隠し通せるもんじゃないし……」

アリスは、チラチラと俺たちを見ながらそう言った。

え?

誰だ、これ?

アリスか。

え? アリス?

まさか、アリスがこんな可愛らしい反応をするとは夢にも思わなかった!

「ああっ! 認めた!! 認めやがったコンチクショウ!!」

ミランダは、四つん這いになって芝生をダンダンと叩きながら慟哭した。

……そんなに悔しかったのか……。

さっきナターシャさんと、一緒に頑張ろうって言い合ったばっかりなのになあ……。

やっぱり、現実として周りから置いて行かれると、焦るし悔しいんだろう。

そんなミランダの姿を見て同情を禁じえずにいたのだが、シシリーは別のことに着目していた。

「まあっ! ということは、近々発表があるんですか? お兄様!?」

シシリーは目を輝かせて、ロイスお義兄さんにそう詰め寄っていた。

っていうか、発表?

「シシリー、どういうこと?」

ロイスお義兄さんとアリスがお付き合いしてますって発表すんの?

俺がそう言うと、シシリーは「いいえ」と首を振って否定した。

「ロイスお兄様は、クロード子爵家の長男です。お父様も、お兄様なら問題ないとして、次の当主はお兄様であると、すでに決定してるんです」

「へえ、そりゃ初耳だ」

アールスハイドの貴族はちょっと特殊で、長男だからといって家督を継げない。

ちゃんと優秀で、問題なく領地経営ができると判断されなければ後継者にはなれない。

それは王族も同様である。

それが、ロイスお義兄さんはすでに次期子爵として認められているという。

これは結構凄いことだ。

ウォルフォード商会での実績が認められたのかな?

だが、どうも話の論点はそこではないらしい。

「つまり、お兄様は子爵家の後継者として義務があります。それは、結婚して子供を作ることです」

「結婚……ああ、そういうことか」

「はい。お付き合いをしていることを発表するのではなく『婚約』を発表するのです」

「こっ! 婚約ぅっ!?」

同類であったはずのアリスが、男女交際をしているだけじゃなく婚約までしようとしていることを知ったミランダは、芝生の上に座り込んで呆然と空を見上げていた。

……しばらくそっとしておいた方がいいかな。

その驚愕の元になったアリスは、なぜかしどろもどろになっている。

「アリスさん?」

「!」

「お兄様?」

「あはは。ゴメンねえ。実はまだ婚約まではしてないんだよ」

ロイスお義兄さんのその言葉に、シシリーは凍り付いた。

そして、キッと睨み付けた。

「まさか、お兄様! お兄様はアリスさんとは遊びのつもりなんですか!?」

ロイスお義兄さんはシシリーの実の兄だけど、アリスは学生時代から苦楽を共にしてきた仲間だ。

そんな仲間が身内の遊び相手にさせられる。

シシリーとしては、身内の方こそ許せないんだろう。

なので、ロイスお義兄さんに凄い剣幕で怒っている。

だが、ロイスお義兄さんの方は、必死に弁解をしている。

「違う違う! 僕は本気だよ!」

「じゃあ、なんでですか!?」

「プロポーズはしたけど、まだ返事を貰ってないんだよ!!」

そう叫ぶロイスお義兄さんと、もう頭から湯気が出そうなほど真っ赤になっているアリス。

そうかあ、もうそこまで進んでたかあ。

……全然知らなかった……。

でも、あ、だからか。

「アリスが、オーグに貴族と平民の結婚について聞いてたのって、これが原因か?」

あの時、アルティメット・マジシャンズの事務所で、アリスが珍しい態度でオーグに質問していたからよく覚えてる。

「シン君。アリスちゃんが、殿下にご相談してたって?」

「ええ。貴族の男性と平民の女性が結婚することに問題はないのかって、大分前ですけど聞いてました」

「それっていつ頃?」

「エリー襲撃事件の何日か前ですね」

俺がそう言うと、ロイスお義兄さんはなんか感動したように眼を潤ませた。

「僕がプロポーズしたのは最近なのに、そんなに前から考えてくれていたんだね? 嬉しいよ」

ロイスお義兄さんの素直な言葉に、アリスはまたしても照れて縮こまっている。

「それで……もう一度聞かせてくれないかい? アリスちゃん、僕と、結婚してくれませんか?」

ロイスお義兄さんは真剣な顔でアリスの手を取りながらそう言うと、アリスは……。

「……~っ! は、はいぃ……」

恥ずかしさのあまり俯きながらも、しっかりと了承したのだった。

「わあっ! おめでとうございます、お兄様! アリスさん!」

「あはは、ありがとうシシリー」

「あぅ、あぅ」

シシリーの素直な賛辞に、ロイスお義兄さんはにこやかに対応し、アリスは脳の許容量がオーバーしたのか「あぅ、あぅ」としか言わない。

「お義兄さん、おめでとうございます」

「うん。ありがとう」

「アリスも、おめでとう」

「ふぇ?」

未だ呆けているアリスを見て、俺はちょっとしたいたずらを思い付いた。

「そうかあ、これでアリスは子爵夫人になるんだなあ」

俺がそう言うと、今まで呆けていたアリスの意識が戻ったようで、幸せそうな顔から、今度は一転し、絶望に落とされた顔をしている。

まるで、今思い出したって顔してんな。

「思い出した……そうじゃん、これ受けちゃったらあたし貴族になるんじゃん!」

「そうですね。お兄様は子爵家を継ぐことが決まってますから、アリスさんは将来の子爵夫人ということになります」

「ええ!? どうしよう!? こんな平民の女がって言われたりしない!?」

アリスが気にしてるのはそこか。

でも、それは杞憂じゃないかな?

「なにも問題御座いませんよアリス様。アリス様はアルティメット・マジシャンズのメンバーで救国の英雄でございます。祝福する者は数多くいても、非難する者などいるはずもありません。もし、アリス様を非難なされるような方は、貴族として失格ですね」

「なんで?」

心配事が一蹴されたからか、アリスはさっきまでの動揺は見せず、素直にナターシャさんに聞き返している。

「すでに貴族である方はいいのですが、アルティメット・マジシャンズから新たに貴族に叙するには少々問題が御座います。アルティメット・マジシャンズという最高戦力を、一国が抱え込むのかと言われる可能性がありますので」

「あ、シン君が貴族になれない理由ってやつだ」

「シン様だけではございませんよ。それはアリス様や他の平民のメンバーの方も同様です。それが、婚姻によって貴族に迎え入れられるのです。これを非難するなど、国を憂う貴族の風上にもおけません。もし非難を耳にした方々は、その方とのお付き合いをお止めになるでしょうね」

「ほぇえ」

スラスラと説明するナターシャさんを、アリスはポカンとした顔で見ている。

俺もびっくりした。

ナターシャさんって、聖職者なだけじゃねえんだ。

俺が意外そうな顔で見ていたからか、ナターシャさんは今までの経験から、自ら語りだした。

「言っておきますけど、我が家はイースでは枢機卿の地位にあります。イースの枢機卿とは、この国における貴族のようなもの。このような心得くらい当然身に着けております」

『はあぁ』

普段はあんなにポンコツなのに、なんで実はこんな超ハイスペックなんだろう、ナターシャさん。

突っ伏しているミランダを除き、全員で感心したようにナターシャさんを見ていると、コホンと咳払いをして話を続けた。

「アリス様がご心配になされないといけないのは、そこでは御座いません」

「え? やっぱり心配しなきゃいけないことがあるの?」

「はい。心配、というより身に付けなければいけないことが御座います」

「なにそれ?」

「貴族のマナーです」

「!?」

サラッとナターシャさんが言った言葉に、アリスは目を真ん丸に見開いた。

「アリス様が出自で侮られることはありえないでしょう。ですが、マナーが出来ておりませんといらぬ誹りを受ける可能性は御座います」

「ええ? 貴族になるのは反対しないのに?」

「そうです。アリス様も、ルールを守らない人が近くにいたら好い気はしませんよね?」

「それはまあ、そうだね」

「それと同じでございます。皆が守っているルールを守らず好き勝手に振舞われますと『乱暴者』『野蛮人』『粗忽者』との誹りを受けるのです」

……やけに具体的な誹謗中傷を口にしたな。

そういえば……ナターシャさんって、イースでは……。

「やじゅうみ……」

「と、とにかく! そういうことですので! アリス様がご心配なされるのは、マナーを覚えることだけで十分でございます!」

「あ、はい!」

アリスは突然大声を出したナターシャさんの声に反射的に敬礼した。

急に言われたら、そら驚くよな。

っていうか、なんで……。

「シン様」

「あ、はい」

ナターシャさんは、笑顔ながら有無を言わせぬ圧力を纏いながら俺に話しかけた。

拒否する選択肢はない。

「先ほどの……アレは内緒にして下さいませ」

「アレ? ああ、やじゅ……」

「シン様!!」

「あ、ゴメン」

野獣神子なんて渾名、流石に気に入らないか。

無神経に言いそうになってしまった。

反省しないと。

俺がナターシャさんに怒られている横で、アリスは決意の籠った目でシシリーに話しかけていた。

「あのさ、シシリー」

「はい? なんですか?」

真面目な顔のアリスに、シシリーも真剣に応対する。

「あたしにさ、貴族のマナー、教えてくんない?」

真剣に、真面目にそうお願いするアリスに、シシリーはフッと笑みと溢すと、ゆっくりと頷いた。

「ええ、もちろんです。お兄様のお嫁さんになるということは、私にとって義姉になるということです。ビシバシいきますよ? お義姉様?」

「お、お義姉様ぁっ!?」

ああ、そうか。

ロイスお義兄さんの嫁になるんだから、アリスは義姉になるのか。

「これからもよろしくな、お義姉さん」

「そうですね。お義姉様」

「ありちゃ?」

「うわあんっ! シルバーだけが味方だよおっ!」

あ、ちょっと揶揄い過ぎたか。

反応が面白くてお義姉さんって連呼してたら、いつも通りの言い方をしたシルバーに泣きついた。

「あはは、ゴメンって。あ、そういやさ」

「うう、なにさ?」

「シシリーに貴族のマナーを教えてもらうってのは、一番いいとは思うけど、一応もっと身近に貴族の女子いるじゃん」

「ああ、マリア?」

「そう。そっちの方が時間の融通とかつきそうなのに、なんでシシリー?」

ひょっとしたらマリアにもお願いしに行くかもしれないけど、さっきの雰囲気だとどうもシシリーに専属で教えてもらおうとしているように思えてならない。

なので聞いてみると、アリスはなんてことないように言った。

「ああ、だってさ。マリアに教えてもらうと大雑把そうなんだもん」

……。

「っく!」

「ぷふっ」

「あはは! 確かにマリアは大雑把そうだ!」

あまりの言葉に、笑っちゃ駄目だとは思いつつも、俺もシシリーも笑いを溢してしまった。

ミランダに至っては、先まで芝生の上に四つん這いになっていたのに、起き上がって大爆笑している。

どうやら、精神的ダメージから立ち直ったようだ。

これで、アリスは目の前で婚約が成立して、マリアは進展がありそうだ。

あとは、ミランダとナターシャさんにも良い縁があればいいな。

そんなことを思った休日だった。