軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あの人の処分の話と、暗躍する者たち3

「そういや、例のヤツ、評判はどうよ?」

魔力紋測定器と盗聴器、そして録音素材を警備局に納品した数日後の休日、エリーと共にうちに遊びに来たオーグに警備局での検証結果を聞いてみた。

それにしても、こいつら本当に休みのたびにウチに来てんな。

そんなに王城は気が休まらないんだろうか?

「ああ、警備局からの評判は最上だな。今、様々な状況での検証を行っているところだが、実戦配備も近いだろうな。アレを扱う専門の部署を立ち上げようという話も出ている。近々大量生産の依頼が入ると思うぞ」

「へえ、そうなのか。そりゃ良かった」

警備局からの大量受注か。

俺がするのは魔石を作ることだけだから、ビーン工房がまた忙しくなるな。

そんな会話を俺とオーグでしていると、エリーが会話に入ってきた。

「シンさんの作る道具って、本当に役に立ちますのね。私、見直しましたわ」

「どういう意味だ、おい」

藪から棒に、なんて失礼なことを言うんだ!

「だって、シンさんがなにか作るたびにオーグやトールが騒いでますもの。常識はずれな、世間を騒がすものばかり作ってるのかと思いましたわ」

「概ね間違ってはいないな」

あれ!?

オーグは、俺が前世の記憶を持ってるって知って、納得したんじゃなかったっけ!?

「シンには、ここではない世界の記憶があるからな。その世界の常識とこの世界の常識に齟齬があるのは仕方がない」

あ、そういう認識なのね。

俺が常識外れなのはある程度仕方がないと。

「逆に、この世界で魔道具というと戦闘用を真っ先に思い浮かべるのだが、シンにはその発想がない。争いのない国だったそうだからな」

「そうでしたか? ええっと、シンさんが今まで作ってきたものというと……」

「一番に思い浮かぶのは通信機ですね」

オーグの言葉を受けて、俺が今まで作ったものをエリーが思い出そうとすると、シシリーが先に応えた。

「そうだな。あまりにも便利過ぎて、最早これなしの生活はありえんな」

オーグの言葉に、エリーもシシリーも頷く。

「あとは、ブラシ付きドライヤーとヘアアイロンですわね。毎朝お世話になってますわ」

元々は、シシリーとマリアの誕生日プレゼントとして作ったその二つだけど、エリーの食いつき方は凄かった。

今では、改良版が出るたびにご購入頂いている。

毎度ありがとうございます。

「ああ、あとアレですわ!」

「アレ?」

「なんだ?」

エリーがなにかを思い出したらしいが、製品名を言わずにアレとしか言わない。

大声を出すようなアレってなんだ?

「えっと、その……」

「「「?」」」

「あの……お、お手洗いの……」

「「「ああ!」」」

洗浄機能付き便座か。

そういやアレって、俺が皆に広めた最初の魔道具だったんだよな。

今ではウォルフォード商会で売りに出してるもんだから、国中に定着してしまって真新しさがない。

だからすぐに出てこなかったのか。

「まあ、他にも色々あるが、シンが今まで作ってきたのは戦闘用以外のものばかりだ。唯一の例外がバイブレーションソードだな」

「……ああ、本当ですわ。確かに戦闘用以外の魔道具ばかりですわね」

オーグの説明でようやくエリーが納得したようだ。

「前世の国では、武器って小さいナイフですら所持するのは違法だったからなあ。なにかを攻撃する道具っていう発想があんまり出てこないんだよ」

「へえ。ということは、シンさんの前世の世界って争いのない世界だったのですか?」

「いや、俺のいた国がそうってだけ。他の国だと、簡単に人を殺傷できる武器を安価で売っている国とかあった」

「そういえば、お前の前世の世界では情報が手に入りやすいと言っていたな。魔法の殺傷力が高いのはそのせいか」

「うーん、それもあるだろうけど、一番大きいのは創作物かな」

「「「創作物?」」」

三人が揃って首を傾げた。

「ほら、前にエリーが読んでたような小説とかだよ。前世で魔法は想像上のものだったけど、創作物では割とポピュラーに出てくるんだよね」

現実には使えないからこそ創作物でくらい使いたいって願望なんだろうな。

まあ、小説や漫画だけじゃなくてゲームの影響も大きいんだろうけど。

「前世では魔法なんて想像の産物でしかなかったからさあ、この世界で生まれ変わって魔法が使えるのが楽しくてしょうがなかったんだよね」

「……なるほどねえ。だから興味本位で魔法を開発しまくったわけかい?」

「うん、そう……」

とても自然に会話に入ってきたので普通に対応したが、今のはここにいる三人じゃない。

恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはばあちゃんとじいちゃんがいた。

「なんてこったい。知らなかったとはいえ、そんな子の前で普通に魔法を使ってたなんてねえ……」

「ほっほ。そりゃあ、次々と魔法を覚えるわけじゃ。好きなことには夢中になるもんじゃからのお」

二人の言う通り、俺にはじいちゃんとばあちゃんという最高のお手本がいたからね。

まあ、これがこの世界の普通の魔法なんだと誤認する切っ掛けでもあったわけだけど。

「前世での創作物やその他の知識、それと最高のお手本ですか。シン君が出来上がるのも納得ですね」

シシリーがにこやかにそう言うが……え? それって褒めてる?

「ところでシンさん」

「なに?」

「その創作物って、魔法を使うものばかりですの?」

「え? ああ、売れてるのは確かにそういったものの方が売れてるけど、それ以外のものも当然あるよ」

「例えば、どんな?」

「そうだなあ……純文学小説とか、エリーがこの前読んでたような恋愛小説とか、推理小説とかかな。他にも歴史小説とか……あ、あとあれだ、ホラー小説」

「ホ、ホラー!?」

順番にあげていった中で、エリーがホラー小説に反応して大きな声を出した。

ただ、エリーの顔を見る限り興味のあるジャンルだったから反応したんじゃなくて、怖いから反応したのがよく分かる。

「な、なんでそんなジャンルがあるんですか!?」

「え? こっちにもあるだろ? ホラー小説」

「ありますけど! なんでわざわざ怖い思いをしようとするんですの!!」

それは、エリーの魂からの叫びに聞こえた。

あー、本当に苦手なんだな。

「え、えっと。そうだ! シン君、恋愛小説はどんなものが主流なんですか?」

涙目になっているエリーを気遣ったのか、シシリーが一生懸命話題を転換しようとしてくれている。

エリーは妊娠初期の妊婦だし、あまり情緒不安定にさせるのもよろしくない。

なので、俺はシシリーの話題転換に乗っかることにした。

とはいえ、恋愛小説の主流?

「えー……あー……あ! この前エリーが読んでたような話とかもある」

「身分違いの恋とかですの?」

「そうそう。あ、あとはその派生パターンとか」

「派生?」

「そう。エリーが読んでたのって、平民の女の子が主人公なんだろ?」

「そうですわ」

「派生パターンは、その婚約者の令嬢が主人公なの」

俺がそう言うと、エリーは首を傾げた。

「それ……物語として成立しますの?」

「エリーの読んでる小説だったらしないよ。じゃなくて、婚約者の令嬢に問題がなくて、男と身分の低い女の方に問題があるパターンな。最初はその男と浮気相手の女に貶められて婚約を破棄されるんだけど、それを拾い上げて救ってくれる、もっと身分の高い男と再婚約するって話」

「へえ」

「んで、定番なのが、最後に浮気男と女が断罪されるパターンだな」

「断罪、ですか。それはどんな?」

「それこそ色々だよ。そのパターンの数だけ物語があるって言ってもいい」

「そうなんですの」

と、そこで俺はあることを思い出した。

「そういえば、オーグに聞きたいことがあったんだけど」

「なんだ?」

「シシリーとエリーから聞いたんだけどさ、なんか中等学院のときに他の女の子と色々あったんだって?」

「誤解を生むような言い方をするな! 色々あったのはエリーの方で、私はそれを解決しただけだ!」

あ、確かに今の言い方だとオーグがエリー以外の女の子となんかあったっていう風に聞こえるな。

「まったく。それよりエリー、あのことを話したのか?」

「あ、いえ。詳しく話したのは私です」

「流れで例の件の話になりまして……私が話し辛そうにしていたのを見てシシリーさんが代わりに話してくれたのですわ」

「そうか。なら仕方がない。それより、それがどうしたのだ?」

「あ、いや。断罪で思い出してさ。例のその子、結局どうなったのかなって思ってさ」

俺がそう言うと、オーグは当時のことを思い出そうとしているのか、目を閉じて考え込み、そして思い出したのか喋りだした。

「学院の輪を乱したとして、当時の学院長がその令嬢に退学処分を言い渡した」

「え!? たったあれだけで!?」

その令嬢のしたことって、自分がオーグと付き合ってるって妄想に憑りつかれて暴走しただけだろ?

俺がそう言うと、オーグはなんでもないことのように言った。

「学院内のいざこざとしては他愛もない話なのだが、伯爵令嬢が公爵令嬢に牙を剥いたのだ。完全実力主義の高等魔法学院と違って、王立学院は身分差がハッキリしているのだからな」

そういえばそうだった。

アールスハイド高等魔法学院は完全実力主義。

たとえ王族であっても忖度はされない。

その証拠に、入試成績は平民の俺が首席で王族のオーグが次席だった。

そしてそれは学院生活においても適用され、貴族が権力を用いて平民を虐げることは禁じられていた。

それは、平民の優秀な魔法使いの芽を潰さないためだ。

「ひょっとして、騎士学院も?」

俺は、シシリーの背後で直立するミランダに向けてそう聞いてみた。

「ああ。その辺は高等魔法学院と同じだよ。優秀な者を身分を問わずに発掘するためって言ってた」

「経法学院もそうだぞ」

「へえ、専科の高等学院はそうなんだ」

「まあな。言ってしまえば『そこ』だけだ」

「だけ? ってことは他は違うのか?」

俺がそう言うと、オーグは呆れ顔を見せた。

「当たり前だろう? なんのための身分制度だと思っている?」

「え? だって、アールスハイドの身分制度って緩くね?」

現に、元子爵令嬢と元公爵令嬢の王太子妃と王太子が平民の家に集まってるけど。

するとオーグがなんだか脱力してしまった。

「この家……というかウォルフォード家周辺だけが異質なのだ。マーリン殿やメリダ殿は国王である父上の師で、お前はその気になれば世界を統治することもできる力を持っている。今更不敬だなんだなど、意味のないことだろ」

オーグはそう言ったあと「それに」と言って俺を見た。

「私はお前の従兄弟なのだろ?」

そう言ってニヤッと笑った。

「そ、そういや、そうだったな」

オーグのことは、親戚のおじさんだと思ってたディスおじさんに子供がいるって聞いたときから、勝手に従兄弟だと思ってたんだよな。

もう随分前のことだからすっかり忘れてた。

急に言われて気恥ずかしくなっていると、エリーがジト目で俺たちを睨んでいることに気が付いた。

「オーグ……妻の妊娠中に浮気ですの?」

「シン君、そうなんですか?」

「「誰が浮気だ!!」」

エリーはともかく、シシリーは冗談だよね!?

「冗談ですわ」

「ふふ、冗談ですよ」

エリーはすまし顔で、シシリーは微笑みながらそう言った。

はぁ……そういうのは冗談でもやめてくれよ。

それにしても、なんでこんな話になったんだっけ?

「あ、そういやさ、その令嬢って大丈夫なのか?」

「大丈夫? なにがだ?」

「いや、公爵令嬢であるエリーに突っかかるくらいオーグに惚れてたんだろ? エリーに対して逆恨みとかしてたりしないのか?」

俺がそう言うと、オーグはフッと笑った。

「その件があってから、実家の伯爵家は落ちぶれたからな。そんな家の令嬢が一人恨みを募らせていたとしても、どうということはないさ」

オーグは、自信満々にそう言った。

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とある貴族の屋敷の執務室に、一人の令嬢がいた。

その様子はとても苛立たしそうで、爪を噛みながら貴族家の令嬢とは思えないほど荒い歩調で室内を歩き回っていた。

「ナタリー、少しは落ち着きなさい」

同じく執務室内にいた父にそう窘められたナタリーと呼ばれた令嬢は、怒りの籠った目で父を睨んだ。

「落ち着け!? 落ち着けですってお父様!? どうしてこの状況で落ち着いていられますの!!」

ナタリーは、父の言葉に激しい口調で反論した。

「なんで!? なんであの忌々しい女狐はまだ王太子妃の座に居座っていますの!? すぐに王太子妃から退くはずではなかったのですか!!」

その言葉を聞いて、父も顔を顰めた。

「確かにな……もしかしたら騙されたのかもしれん……」

父のその言葉に、ナタリーはさらに激しく怒り出した。

「きっとその商人とやらも、あの女狐の差し金ですわ!! なんと卑劣な!!」

ナタリーはそう言ったあと、大仰に嘆いてみせた。

「ああ、なんとお可哀想なアウグスト様! きっとあの女狐に騙され、誑し込まれ、正気を失っているに違いありませんわ! 待っていてくださいませ、私が必ず救って差し上げますから!!」

そう叫ぶナタリーの顔には、エリザベートからアウグストを救い出し、自分と添い遂げる未来が見えているのか恍惚とした表情が浮かんでいた。

そんな娘を見る父の表情は憐みに満ちている。

「おお、可哀想なナタリー。やはり殿下は女を見る目がないな。こんなに可愛いナタリーを放っておいて、公爵家の娘なんぞを妃にするとは」

「お父様! お父様といえどアウグスト様を侮辱なさるのは許せませんわ! アウグスト様の目が曇っているのではなくて、あの女狐に騙されているのです!」

「そ、そうか。そうだったな」

「そんなことよりも、あの使えない商人の代わりを見つけなくては……」

「使えないとは、随分なお言葉ですね」

ナタリーが次の一手を考えようと思案し始めたとき、それを遮る声がして執務室に一人の男が入ってきた。

「き、貴様! よくもノコノコと顔を出せたものだな!!」

執務室に入ってきたのは、男……ドーヴィル伯爵に商談を持ち掛けてきた商人であった。

商人は、ドーヴィル伯爵の剣幕を意に介さず堂々と対面に立った。

「いやはや、どうやら妃殿下はなにやら特殊な体質なのかもしれませんな」

「あの女を妃殿下などと呼ばないでちょうだい!!」

「特殊な体質だと? どういうことだ?」

ナタリーの剣幕を無視して、商人はドーヴィル伯爵に答えた。

「妃殿下の食事に致死性のない毒物を混入させることには成功したのですよ。毒見にも引っかからず、しかし妊婦が摂取すればかなり高い確率で子が流れてしまうようなものをね」

そう、商人がドーヴィル伯爵に持ち掛けた提案とは、妊婦であるエリザベートの食事に致死性のない毒物を混入させ、子供を流産させること。

上手くいけばエリザベートは子供を流産するだけでなく、その際に命を落とす可能性も高い。

もし死ななくても、一度子供を流産すれば二度と子供が産めない身体になる可能性もある。

そうなれば次代に子供を残すことが使命である王太子妃の座にはいられなくなる。

その空いた席に、娘を座らせることができると、ドーヴィル伯爵に提案した。

普通に考えれば、もし思惑通りにいったとしてもエリザベートに噛み付きアウグストの不興を買ったナタリーが次の王太子妃に選ばれる可能性などない。

しかし、愚かな娘を溺愛する愚かな父親であれば、間違いなく乗ってくると商人は踏んで提案し、その通りにドーヴィル伯爵は提案を受け入れた。

商人がドーヴィル伯爵に頼んだのは、その毒物の入手。

外国の商人で、アールスハイドに地盤がない自分には特殊な毒物を入手する伝手はないので、この国の貴族であるドーヴィル伯爵に頼んだのだ。

ドーヴィル伯爵は、まだ切れていない己の伝手を全てを使ってその毒物を入手し、商人に手渡した。

そして、致死性の毒物ではなく無味無臭であるため毒見にも引っかからないその毒をエリザベートに摂取させることにも成功していた。

毒物を飲んだ症状としては、割と重い風邪のような症状が出る。

毒見役は、翌日風邪で仕事を休んだことから間違いなく毒物は混入されている。

なのに、エリザベートには症状が全くでなかった。

日を置いて何度か試してみたが、やはりエリザベートに症状は出ない。

その代わりに、何度も毒見役が風邪で休むのでそろそろ怪しまれそうなのでこれ以上同じ手段を取ることは難しい。

そう報告してきた。

それを聞いたドーヴィル伯爵は、腕組みをして険しい顔をしながら黙り込んでしまった。

だが、ナタリーは黙っていられなかった。

「毒が効かないなんて……体質まで傲慢なの!? あの女狐は!!」

ナタリーはそう言ったあと、自分の指の爪を噛みブツブツとなにかを呟きながら執務室をウロウロと歩き始めた。

「まあ、そういうわけでして、そろそろ次の手段を考えねばと思いましてね。こうして伺った次第です」

商人がそう言うが、ドーヴィル伯爵はなにも言葉を発しなかった。

いや、発せなかった。

エリザベートの周辺に気取られず害して排除するには、妊娠している今が絶好の機会だ。

しかし、肝心の毒が効かなければどうしようもない。

次の手と言われても、王族を害する方法などすぐに思い浮かぶはずもない。

諦めるか?

しかし、ナタリーを悲しませるわけには……。

そんなことを考えていたドーヴィル伯爵だが、次の瞬間その思考は中断させられた。

「そうだわ! そんなまどろっこしいことをしているから駄目なのよ!!」

ナタリーは突然大声でそう言ったかと思うと、父と商人に向け満面の笑みを見せた。

その数日後、アールスハイド王都を駆け巡った事件のニュースに、王都民は驚愕した。

王太子妃エリザベートが襲撃されたのである