軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暗躍する者たち

アールスハイド王国からスイード王国を挟んだ先にあるダーム『共和国』

以前王制だったこの国は、上層部の度重なる失態により王家の信頼が失墜。

止めとばかりに、魔人王戦役の終結直後に新王がアールスハイド……というよりシンから貸与されていた武器の返却を拒否し、反抗の意を示した。

いよいよ世界から孤立するかと思われたダームだったが、暴走しダーム失墜の切っ掛けを作ったラルフ軍務長官の後釜についたヒイロが王家の暴走を阻止。

ダーム『王家』ではなく『国家』を守った人物として、民衆から英雄視された。

そのヒイロが、今の王家に政治を任せておくことはできないと王家を政治から切り離し、貴族制も廃止し、政治は民衆から選ばれた議員によって運営されることになった。

ヒイロは民衆からの人気が高かったため、ただの議員ではなく議員たちのトップである『首相』に選ばれた。

ここに、商人たちからのみ国の代表が選出されるエルスと違い、完全に一般市民から政治家を選出する初めての共和国が誕生した。

平民の出で、長く軍の一般兵だったヒイロは、一国の代表という正に上り詰めるところまで上り詰めたのであった。

だが……。

その誰もが羨む大出世を遂げたヒイロは、自分の執務室で頭を抱えていた。

「首相、また税が高いと市民からの陳情が来ております」

政務秘書官の言葉に、首相であるヒイロは思わず大きな声をあげた。

「はあ!? 王制のときより下げてるだろうが! 一体なにを言ってるんだ!!」

「そう仰られましても、実際に陳情書があがってきておりますので」

ヒイロは、秘書官の取り出した書類をひったくるように受け取ると、その内容を読み始めた。

「なぜ……なぜだ……まだ王制時代より税率は下じゃないか……それなのになぜ税が高いなんて声が出てくるんだ……」

ヒイロが首相に就任した際にまずしたことは税率の軽減。

貴族制度を廃止し、全員が平民となったことで過剰な税の徴収は不要になるからという理由だった。

だが、そこで思わぬ事態が発生した。

徴収した税が、予想より大幅に少なかったのである。

貴族が徴収する分が無くなるので、国家に入る金額は増えるはずだったのにである。

税金の集まりが悪いと予定していた予算が組めなくなるので、ヒイロは慌てて追加の徴収を実施。

どうにか予定していた金額を徴収することには成功したのだが、それ以降市民の間で不満の声が上がり始めた。

最初より多少上がったとはいえ、王制時代よりも税率は低いのにである。

「最初に大幅に下げてしまったのがいけなかったのかもしれませんな。人間、一度楽を覚えると、多少のことにも不満を持ってしまいますので」

秘書官の言葉に、ヒイロは頭を抱える。

実際、秘書官の言う通りだった。

最初は税率を下げる首相として市民からの人気は非常に高かった。

だが、最初の徴収が終わって一年も経たないうちに追加徴収があったのだ。

結局、今までの為政者と同じではないかと市民はあっという間にヒイロに不信感を持ってしまった。

ヒイロの支持率は、今や下降の一途である。

それでも、首相は就任後五年間はよほどの理由がないと退任させられないという法を作ってあったのでまだヒイロは首相の座に就いている。

しかし、五年後はどうなっているのか、ヒイロは今から五年後のことを考えるだけで頭が痛くなる。

「そ、そもそもだ! なぜこんなに税金の集まりが悪いのだ!? そこからおかしいじゃないか!」

ヒイロは思わず、こんなことになった最初の原因を叫んでしまった。

目論見では、最初の税率で問題なく国家運営するだけの資金は集まる予定だったのだ。

それがいきなり破綻した。

「そうですねえ。一昨年は魔人王戦役などがありましたから、国内総生産が少なかったのではないでしょうか?」

「……なら今年は?」

「はい?」

「昨年はそんな要因はなかった。だが、今年も予算の集まりが悪い……」

市民からの税金の徴収が終わり、新たな収支報告書が提出されたのだが、その報告書を見てヒイロは深い溜息を吐いた。

税率を上げた分、昨年より多くの金額が集まっているが……それでも予想していた金額よりも遥かに少ない。

「これならどうにか今年は税率を上げずに済むが……それでもギリギリだ。もし、大規模災害などが起こったらまた追加で徴収しないといけなくなる……」

ヒイロはそう言うと、頭を抱えてしまった。

「そうなれば、アールスハイドのアルティメット・マジシャンズに依頼をすればいいのでは? 自力でなんとかするより安上がりですよ?」

秘書官がそう言うと、ヒイロは項垂れていた頭をガバッとあげた。

「あいつ等には頼りたくない!!」

そう叫ぶヒイロを見て、秘書官は溜息を吐いた。

「なぜそこまで彼らを嫌うのです? 自らの力を誇示せず民衆のためにその力を使っている、非常に素晴らしい若者たちだと思うのですが?」

秘書官がそう言うと、ヒイロはさらに激高した。

「うるさい!! 私は奴らに力を借りる気などない!! さっさと出て行けっ!!」

ヒイロは、手に持っていた収支報告書を秘書官に投げつけながらそう叫んだ。

秘書官は、平常心を失った様子のヒイロを見て、何も言わずに踵を返した。

すると背後から、ヒイロのブツブツとつぶやく声が聞こえてきた。

「なぜ……なぜだ……なぜアイツばっかり……私だってここまで上り詰めたのに……」

誰のことを言っているのかは分からないが、今までの話の流れからアルティメット・マジシャンズの誰かのことを言っているのは推測できた。

相手は世界を救ったほどの英雄で、比べるのもおこがましいのに一体誰に対抗心を燃やしているのか?

「……そんな遠くばっかり見てるから、目が曇るんだよ……」

と、ヒイロには聞こえない声量で呟いた。

そう、秘書官はヒイロが頭を悩ませている原因に心当たりがあった。

そしてその結果、ダーム国内が徐々に荒んできていることも。

しかし、秘書官はそれを進言しなかった。

というのも、秘書官は学院を卒業したあと、官僚としてずっと政務に携わってきた。

ところが、この度の政変で首相という立場に就いたのは、今まで政治には一切関わってこなかったヒイロ。

ただ民衆からの人気があるというだけで国家元首の座に座ったヒイロのことを、秘書官はあまりよく思っていなかった。

なので、ヒイロの民衆からの支持が落ちていく様は秘書官からすれば当然の結果であり、助けようと思えなかったのだ。

(この国も、そう長くはないな……)

そう思いながらドアノブに手をかけると、背後から声をかけられた。

「おい。そういえば、アルティメット・マジシャンズにはちゃんとした人材を送り込んだんだろうな?」

なにかと思って秘書官が振り向くとそんなことを言われた。

「はい。ちゃんとした人材を派遣しました」

「そうか……なら、いい」

ヒイロのその言葉を受けて、秘書官は今度こそ執務室を出た。

そして扉を閉める際、再びヒイロの呟きが聞こえた。

「なにか……アルティメット・マジシャンズの秘密が……いや、アイツの秘密が知れれば……」

その呟きに対して、秘書官は何も言わずに扉を閉めた。

「ご命令通り『ちゃんとした者』を派遣しましたよ」

秘書官はヒイロに聞こえないようにそう言うと、自分の執務室へと向かっていった。

足音が遠ざかっていくのを聞いていたヒイロは、イライラが限界突破をしたのか「ああああっ!」と叫びながら頭を掻きむしった。

「くそっ! くそっ!! なんで!? なんでだ!? アイツは……アイツはチートを持ってんじゃねえかっ! 強力な魔法だけじゃなくて魔道具作りの天才だと!? 普通、そういうのは目立たないように伏せとくもんじゃねえのかよ!! なんで堂々と公表してんだよ!? おまけに……おまけに美人の聖女と結婚して子供まで……」

ヒイロはそう言ったあと、両手の拳を握りしめて執務机を思いきり叩いた。

「俺とアイツのなにが違うってんだよ!? どうせアイツも転生者なんだろ!? 現代知識チートを使って今の地位に上り詰めたんだろう!? なんで、それと同じことをした俺はこんなに苦しまなくちゃいけないんだ!!」

誰もいない執務室で、ヒイロは己の内心を吐き出した。

そして、荒い息を吐いたあと、なにかに思い至ったようにニヤリと笑った。

「そうだよ。アイツは英雄って言われていてもしがない平民だ。ところが俺はどうだ? 今や一国の首相だ……俺がアイツより劣ってるなんてことは絶対にない」

ヒイロはそう言って一人でクククと笑っていたのだが、突如その目を見開いた。

「っぐ! があああっ!!」

突然体中に走った耐え難い痛みに、ヒイロは床に転がり悶え苦しみ始めた。

「うっぐ……がっ……あああ!!」

しばらく痛みに悶え床を転がりまわっていたヒイロだったが、ようやく痛みが治まり床に大の字になって(既に寝転んでいるのはわかっているので重複になる)、息を整えた。

「はぁっ、はあ……なんなんだ、一体……医者も原因が分からんと言うし……くそっ! なんで……なんで俺ばっかりがこんな目に……」

そう言いながら、ヒイロは(状態を示す表現から間がないので不要では?)静かに泣いた。

そんなヒイロを、慰めてくれる人間は、一人もいなかった。

ダーム共和国旧王都とは違う別の街。

その街の中でも一際大きな建物の中にある、これまた立派な執務室。

その執務室の扉が乱暴にノックされたかと思うと、中にいる人物の許可が出る前に扉が開けられた。

「かしら! お呼びですかゴペッ!」

無遠慮に執務室に入ってきた男は、入った途端に投げつけられたガラス製の灰皿を顔面に受け、床面に倒れ伏した。

「この馬鹿野郎が! 俺の返事を待てって何回言ったら分かるんだ!? それから「かしら」って呼ぶなって言ったろうが!!」

灰皿を投げつけた男は、倒れている男に向かって心配する様子を見せず、罵声を浴びせかけた。

その男の容姿は、とても堅気の人間には見えず、この執務室にも似合っていない。

むしろ、倒れた男の言った「かしら」という言葉の方がしっくりくる容姿をしていた。

だが男はそれを許容しなかった。

「ちゃんと議員って呼べ。次間違えたら容赦しねえぞ?」

「ず、ずびまぜん……」

男が暗に「次は無い」と伝えると、立ち上がった男は鼻と口から血を流しながら謝罪した。

執務室にいた男は、自分を議員と呼べと言った。

つまり、彼こそダームが共和制の国になって選出された議員の一人だったのである。

しかし、その外見は堅気には見えない。

男は、元裏社会の人間であった。

「んで? 例の件はどうなってる?」

議員がそう訊ねると、入ってきた男は血を流しながら報告する。

「へえっ! 人選は終わりまして、すでに彼の国へ潜り込ませております!」

「ほお? で、首尾は?」

議員がそう聞くと、聞かれた男は視線を彷徨わせた。

「それが、その……」

「ああ? なんだ、上手くいってねえのか?」

「い、いえ! 潜入自体は滞りなくできております! ただ、あの国の貴族に中々取り入ることができないと報告が来ておりまして……」

その報告に議員は深い溜息を溢した。

「ったく、なにをグズグズしていやがる。今が一番の好機だってのによ」

「す、すいません! もっと積極的に行くように発破かけますんで!」

「当たり前だ! いいか? この好機、しくじったらただじゃ済まさねえぞ?」

議員の剣幕に恐れ戦く男だったが、それと同時に疑問が芽生えてきた。

「かし「ああ!?」ぎ、議員。ちょっといいっスか?」

「なんだ?」

「なんであんなデカい国狙うんですか? ちょっと無謀じゃないですかね?」

男がそう言うと、議員は深い溜息を吐いた。

「まったく、なんも分かってねえな、オメエ」

「は、はあ……」

「確かに、あの国に正面切って挑んだら、うちみたいな小国に勝ち目はねえ」

「ですよね」

「けどなあ」

議員はそう言うと、ニヤリと笑った。

「今は絶好のチャンスなんだよ」

「今が、ですか? 確か、あの国は今王太子妃が懐妊したとかで国中が浮かれてますけど……」

「だからだよ」

「は?」

議員の言っていることがサッパリ理解できない男。

その男に向けて、議員はさらに笑みを深めて言った。

「この策が上手くいきゃあ……」

そこで言葉を切った議員は、十分に勿体付けてから言った。

「アールスハイドを裏から牛耳れるぜ」

自信満々にそう言う議員を、男は息を呑みながら見つめていた。

先の魔人王戦役において一番の功労者ともいえる大国アールスハイド王国。

その支配権が握れる。

そんな夢みたいな話に、男は思わず生唾を飲み込んだ。