軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

女性には勝てない

「はあ!? 魔力の個別識別だと!?」

マークとユーリと共に、魔力に個別の波があることを発見し色々と検証を重ねた翌週の休日、俺はオーグに報告するために王城にやってきていた。

転生者と思われる王様のお陰で、現在アールスハイド全体で週休二日制が導入されている。

で公務員……つまり王城勤務の人も休みなので王城も休みだ。

オーグに連絡したところ今日はエリーと部屋でまったりと休んでるってことで、婆ちゃんとともにお邪魔したのだ。

「すまないねえ殿下。シンから話を聞いて、早急に殿下に知らせておかないといけない案件だと思ってね。休みのところ申し訳ないけど、ちょっと付き合ってくれないかね」

「メリダ殿の頼みとあらば否はないですが……そもそもシン、なんでそんなものを発見したんだ?」

「いやあ、実はさ……」

オーグに訊ねられたので先週のビーン工房でのやり取りを話した。

すると、オーグは額に手を当てながら深い溜息を吐いた。

「市民証の解析って、お前……」

「言っとくけど、改造はしてないからな」

「当たり前だ! 今まで適用されたことはないが、市民証の改造・改竄は犯罪だからな! 絶対するなよ!!」

「しねえよ! っていうか、正確にはできねえよ」

「できない?」

「ああ。あの市民証、なにか一つでも書き換えたら機能しなくなるかもしれない」

「書き換えたら機能しなくなるって……」

俺の言葉に、婆ちゃんが困惑した声をあげた。

婆ちゃんが困惑することなんて滅多にない、けどそんな婆ちゃんでも俺の言葉は予想外だったんだろう。

「市民証は、色んな付与が複雑に絡まり合って機能してるんだ。だから、どれか一つ書き換えてもちゃんと機能しないかもしれない。新規で名前と個人の魔力情報を書き加えられるのは間違いないけど」

「お前でも無理なのか?」

「無理だね。そういう専門の知識がない。俺は前世では凡人だったから」

「お前が凡人って……」

オーグは呆れた表情になっているが、それは本当のことだ。

「もし、俺がもっと専門的な知識を持っていたら、もっと凄いことになってただろうね」

「……例えば?」

「そうだなあ……それこそ自走する二輪車と四輪車はもう走ってるだろうし、誰もが空を飛べる魔道具を作ってたかもしれない。あと、無線通信機も、通話ができるだけじゃなくて文字を送信したり相手の顔を見ながら通話したり……」

「もういい、分かった。一応確認しておくが、お前はそれが出来たりはしないんだな?」

「無理。けど、それらは前世で当たり前にあった」

個人で空は飛べないけどね。

「そうか……こういう言い方はどうかと思うが、お前で良かったのだろうな」

「そうだな。俺程度の知識でこんだけ大騒ぎするんだから、俺くらいで良かったんだろうな。恐らくそういう専門知識を持ってたであろうマッシータは、今まで受け継がれている市民証なんてものを作ってしまっているし」

マッシータの他の魔道具は、旧帝国との戦争で全部壊されたって聞いてる。

もしかしたら、前文明から発掘されるような強力な武器があったかもしれないので、それはそれで良かったかもしれない。

「その市民証だけど、そんなに複雑なのかい?」

市民証の話が出たので、婆ちゃんが元の話題に引き戻してきた。

やっぱり、魔道具士としてはそっちの方が気になるみたい。

「複雑っていうか……全部で一個の付与みたいになってる。一つの付与が別の付与に干渉して、それがまた別の付与にって感じかな」

「複数の付与で一つの効果……」

婆ちゃんはそういうと「ふー」っと息を吐いた。

「そんな付与なんて考えたこともなかったよ。もしその方法をもっと早くに知っていたら……」

婆ちゃんとしては、現役の時に知りたかっただろうな。

けど、それを知っていたとしてもどうだろう?

「一つ一つの付与文字はかなり短縮してあるからね……こっちの言語だと、どのみち文字数オーバーじゃないかな?」

「こっちの文字ねえ……そういえば、あの記号みたいな文字を覚えればアタシにも付与はできるのかい?」

婆ちゃんの質問に、俺は思わず口ごもってしまった。

「文字を覚えるって……今から?」

俺がそう言うと、婆ちゃんはムッとした顔をした。

「なんだい? アタシには覚えられないってのかい?」

「いや……そんなことはないだろうけど数が……」

「そんなもん、丸暗記しちまえばいいだろうに」

「そうは言うけどね、千文字以上ある別言語を覚えるのは相当苦労するよ?」

「せっ……」

確か、常用漢字で二千ちょっとだっけ?

俺たちはそれを、小中高と十二年かけて千ちょっと覚えた。

ましてや別言語だ。

意味を理解するには、まず言語から覚えないと付与魔法としての効果を発揮しない。

「千以上って、シン、お前それ全部覚えてるのか?」

「全部は無理。読めるけど書けない文字も多いし」

大人になってからは特に文字を書く機会も少なくなるし、文章を作るときでもパソコンやスマホの変換機能が大活躍してたからなあ。

今だって大分忘れかけてる。

実際、バイブレーションソードの付与をするときだって『振動』の『振』という字が思い浮かばず、何度も書き直した。

転生して十年未満でそれだ。

十八年も過ぎてしまえばなあ。

「難しい文字はもう大分忘れてるから、婆ちゃんに教えるっていっても、教える側の俺がちゃんと教えられないよ」

「そうなのかい。そりゃあ残念だねえ」

そういう婆ちゃんは、残念そうにしながらも、どこかホッとした雰囲気もある。

それはあれか?

難しい文字を忘れたならこれ以上変な付与はできないと思ってるな?

難しい文字、イコール難しい付与じゃないけど、それを言うと面倒なので黙っておこう。

俺がひっそりとそう決意していると、オーグが不思議そうな顔をして俺に訊ねてきた。

「それで? 確かにこれは歴史的な発見だとは思うが、なぜ私なのだ? 魔法学術院に持ち込むべき案件だろうに」

それは確かにそうなんだけど、魔力紋を見つけたときの会話にあることが出てきていたので、興味本位で試してみたのだ。

そしたら……思いもよらない結果が出た。

「あのさ、まずはこれに魔力を通してくれない?」

俺はそう言って、スマホくらいの大きさの魔力紋測定装置をオーグに手渡した。

「こうか?」

オーグが素直に魔力を通すと、測定装置はその表面にオーグの魔力紋を映し出した。

「へえ、これがオーグの魔力紋なのですね」

オーグの隣にいたエリーが、測定装置を覗き込んでそう呟く。

「エリーのも測れるぞ」

「え!? で、でも、私に魔法の素質はありませんわよ?」

「魔法として外に干渉できなくても、魔力はあるだろ? 市民証を起動する要領でやってみ?」

俺はそう言うと、もう一枚測定装置を取り出しエリーに渡した。

「えっと、こう、ですの?」

そう言いながら魔力を通すと、測定装置にエリーの魔力紋が現れた。

それを見たエリーは、なぜか感動した面持ちだった。

「まあ……これが私の魔力紋……」

エリーはそう呟くと、測定装置をオーグに見せた。

「オーグ! 見てください! これが私の魔力紋ですのよ!」

「ああ、綺麗なものだ」

「うふふ」

自分の中にある魔力が目に見える形で現れたことが大層気に入ったらしい。

エリーは、俺たち友人の中で唯一魔法が使えない。

俺たちはそんなの気にしないけど、エリー本人は若干の疎外感を覚えている。

そんなエリーにとって、自分の魔力が可視化されたことは殊の外嬉しかったらしい。

エリーは自分の魔力紋が映っている測定装置をずっと嬉しそうに眺めている。

「で? これがどうした?」

嬉しそうなエリーはそのまま放置しておいて、オーグが続きを促した。

「ああ、そしたら簡単なものでいいから魔法を使ってくれないか?」

「? ああ、構わないが……」

オーグはそう言いながら、小さな炎を指先に作り出した。

「オッケー、もういいよ」

「一体なんなのだ?」

俺が魔法を消していいと言うと、オーグは訝し気な表情のまま炎を消した。

そんな怪訝そうな顔をしているオーグをよそに、俺はもう一枚測定装置を出す。

「見てろよ……」

俺はそう言いながら、さっきオーグが魔法を使った辺りに測定装置を翳す。

すると……。

「!! おいシン!! これはなんだ!?」

測定装置を見たオーグが大声を出した。

それもそのはず、測定装置にはある模様が映し出されていたからだ。

「これは……私の……」

オーグはそう言いながら自分の手にある測定装置を見て、再度俺が翳している測定装置を見る。

そこには、オーグの魔力紋とそっくり同じ模様が映し出されていた。

「ずっと疑問に思っていたんだ」

驚きに固まっているオーグを見ながら、俺はずっと考えていたことを話す。

「大気中にある魔素を集めて魔力にして魔法を発動する。けど、発動したあとの魔力はどうなるんだ? って」

話をしている俺を、オーグは相槌も打たずにジッと見つめている。

「多分、魔法として発現したあと魔力は魔素として大気中に還元されるんじゃないかなって思ってた」

俺は手元にある測定装置をみる。

「魔素として大気中に還元されるのにどれくらいの時間がかかるのか? そして、その間どれくらい魔力として留まっているのかなって」

そう言いながら、俺は測定装置をヒラヒラと振った。

「偶然こんなもんが出来たからさ、試してみようと思ってさ。そしたら予想通り、魔法を使ったあとしばらく魔力として残存してた」

そして、オーグの目をジッと見て言った。

「使った本人の魔力紋を残したままな」

俺がそう言ったあと、オーグは自分が魔法を使ったあとに現れた魔力紋を検知した測定装置をジッと見たまま何も言葉を発しなかった。

すると、単純に感心したのであろうエリーが声をあげた。

「はあ、これはまた凄い発見ですわね。シンさん、また魔法の歴史に名を遺すのではありません?」

「それだけではないな」

エリーの言葉を引き継いで、ようやくオーグが声を出した。

「それだけじゃないって、他にもなにかありますの?」

「ああ。この魔力紋測定装置を使えば、魔法の痕跡を見つけることができる。それも、使った本人を特定してだ」

オーグがそう言うと、エリーはハッとした顔をした。

「……つまりどういうことですの?」

エリーの発言に、オーグはガックリと肩を落とした。

「つまり、今までできなかった魔法による犯罪の証拠を得ることができるようになったということだ」

その言葉に、ようやくエリーは驚愕で目を見開いた。

「大発見ではありませんか!」

「そうだ。だからシンは魔法学術院ではなく私のところに持ってきたのだな?」

「そういうこと。これ、警備局の犯罪捜査の役に立つだろ?」

「役に立つどころではないな……犯罪捜査が劇的に変わるぞ」

オーグはそう言うと、真剣な顔をして俺に問いかけてきた。

「この魔力紋が映し出された測定装置だが、固定化はできるのか?」

「ああ。この箱に入れて魔力を通せば固定化されるよ」

俺はそう言って、測定装置がちょうど入るくらいの箱を取り出してオーグに手渡した。

「ありがたい。これで証拠の保全ができる。ちなみに、残存魔力はどれくらいのこっているのだ?」

「実験の結果は丸一日かな。それは、どんな大きな魔法でも小さな魔法でも変わらなかったよ」

「犯罪発生から丸一日が証拠保全の勝負ということか。遅れて発覚した場合はどうしようもないのか」

「それはしょうがないな。自然の摂理には敵わないよ」

「それもそうか」

オーグはそう言うと、無線通信機を取り出しどこかに連絡した。

「ウィラーか? 私だ。休みのところ申し訳ないが、すぐに王城に来てもらえないか? 非常に重要な用件なのだ。ああ、すまんな。いつもの会議室でいい。では」

オーグは通信を終えると、すまなさそうな顔をしてエリーに向き合った。

「エリーすまない。これからウィラーと打ち合わせをしなければならなくなった」

そう言われたエリーは、小さくため息を吐くとオーグの言葉に応えた。

「ええ、分かっておりますわ。警備局は年中無休、昼も夜もなく働いておられます。一刻も早くこの測定装置を配置したいのでしょう?」

「すまん」

「ですから分かっております」

休日を二人でまったりと過ごしていたのに、悪いことをしてしまったな。

けど、これは早急にオーグに伝えないといけない案件だったからなあ。

「では行ってくる。シン、あとのことは頼んだ」

「え?」

オーグはそう言うと部屋を出て行った。

頼むって、なに?

そう思いながら部屋を見渡すと、さっきとは違い非常にむくれた顔をしているエリーが目に入った。

「あ、あれ? エリー、納得してたんじゃ……」

俺がそう言うと、エリーはキッと俺を睨んだ。

「理解はしておりますけど納得はしてませんわよ!! 折角久し振りにオーグとまったりしておりましたのに!!」

うわ、全然納得してなかった。

王太子妃として王太子のオーグの行動は理解できるけど、エリー個人としては旦那との憩いの時間を邪魔されて御立腹だった。

「シンさん」

「はい!」

「責任を取って、私を家に連れて行きなさい」

「え? ウチ?」

「ええ。シシリーさんにお相手をしていただきますわ。よろしくて?」

「よろしいです……」

まあ、この案件を持ち込んだのは俺だからなあ。

オーグとエリーの時間を台無しにしておいて、俺だけシシリーとまったり過ごすわけにもいかないか。

家にゲートを開き、エリーを送り出したあと肩を震わせている婆ちゃんを見た。

「なに笑ってんの? 婆ちゃん」

「いや、どうしてウォルフォード家の男は女の尻に敷かれるのかと思ってねえ」

「……」

その方が円満なんだし、別にいいじゃねえか。