軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シャオリンの焦燥

「凄い……あっという間に見えなくなった……」

シンたちが飛び立った後、その場に残されたシャオリンがそうポツリと言葉を漏らした。

「まあ、かれこれ三年くらい空を飛び回ってるッスからね。それなりの速度も出せるッスよ」

「速く飛び過ぎると息が苦しくなるんですけど、それを防止する風の魔法も上手くなりましたしね」

呆然とシンたちが飛び去って行った方を見ているシャオリンに、マークとオリビアがそう声をかける。

「なら……飛行艇もあれくらいの速度で飛べば……」

もっと早く着いたのではないかと、そう言いかけたシャオリンだったが、その言葉はマークによって否定された。

「俺たちと同じ速度で飛んだら、飛行艇がバラバラになっちゃうッスよ」

「そ、そうなんですか?」

「はいッス。俺たちと同じ速度で飛ばすなら船体は金属で作んないといけないッスね」

「金属……ということは……」

「とんでもない重量になるッスから、そもそも浮遊させるのに必要な魔力もでかくなるッス。そしたら、操縦士が何人いても足りないッスよ」

「……何事も、そう上手くはいかないものですね……」

マークから説明されて、シャオリンはすぐに自分の考えを改めた。

「まあ、そこをなんとかするのが職人の腕の見せ所なんスけどね。ただ……ウォルフォード君の作る魔道具は、常識を逸脱し過ぎてて、なにをどう改良していいのか分かんないのが現状ッス」

「そ、それほどですか……」

「砂漠の野営地でも言ってたじゃないッスか。正直俺は、ウォルフォード君に前文明の記憶があると信じてるッスよ」

「前文明の……」

シャオリンはそう言うと黙り込んでしまった。

マークは、シャオリンのその態度からまだ信じられていないんだろうなと解釈し、特に気にすることはなかった。

なので黙り込むシャオリンを置いてナバルさんに話しかけた。

「そろそろ行くッスか?」

「そうやな。ボチボチええ時間やし。ほんならシャオリンさん、行きましょか?」

「え? あ、はい!」

ナバルに話しかけられたシャオリンは、バッと顔をあげた。

そしてミン家で用意した馬車に使節団と共に乗り込んだ。

マークとオリビアは護衛なので歩きである。

こうして使節団一行は悠皇殿に向かって歩き出したのだが、その道中の首都の様子はパニック寸前といった様相だった。

人々が話している内容も、マークたちが聞いた村が襲われたという話から、もうすでにクワンロン全土に広がっている話になっていたり、話自体が錯綜している様子も見て取れた。

「なんか、大混乱って感じだな」

「だね。こんな状況で、本当に会議なんてするのかな?」

「さあな。そういう難しい話は殿下やナバルさんたちの領域だから。俺たちは俺たちの仕事をしよう」

「そうだね」

マークとオリビアは改めて索敵魔法を展開し辺りを確認。

結果、ここ数日と同じように不審な魔力はなかった。

「本当に、初日のアレは何だったのかってくらい静かだな」

「まあ使節団だし、これが普通なんだけどね」

そんな話をしつつも悠皇殿に向かって歩き続け、やがて辿り着いた。

「まったく何もなかったな」

「道中はね。でも……」

オリビアはそう言いながら建物の中を見る。

そこも、まさに大混乱といった様子で、大勢の人が走り回っている姿が見られた。

馬車から降りてきたシャオリンは、その走り回っている官僚の一人を捕まえ何やら話しかけた。

するとその官僚は、なにかを怒鳴りそのまま走り去って行ってしまった。

「なにを言われたんだろ?」

マークのその疑問は、戻ってきたシャオリンによってすぐに解消された。

「今日の会議はどこで行われるのかと聞いたのですが、この非常時にそんなことする余裕などないし、ハオもこの混乱の責任を追及されているから会議どころじゃないと言われました」

シャオリンのその言葉に、マークだけでなくナバルも含めて皆が納得した。

「そらそうやわな。自国が一大事やのに、他国との話し合いどころやあらへんやろうからな」

「でも、そうなると自分たちは無駄足だったッスね」

マークのその言葉に、ナバルは小さく笑いながら首を振る。

「そうでもありませんで。少なくとも、この国が腐りきってる訳やないっちゅうのが分かりましたからな」

「どういうことですか?」

ナバルの言葉に、オリビアも首を傾げる。

「正直、この国でのハオの権力は絶大やと思とったけど、どうもそうやないらしい。ハオの推し進めた法案が元で今回の事態が起きた。それを追及できる勢力があるっちゅうのが分かっただけでも収穫ですわ」

そのナバルの言葉に、マークとオリビアは納得した。

確かにさっき、シャオリンはハオがこの混乱の責任を追及されていると言った。

ということは、この国にはハオ以外の権力者もちゃんといるということになる。

これまでのクワンロンの対応から、正直国自体が腐っているのではないかと思っていたが、どうやらまともな人間もいるらしい。

「これ以上ここにおってもしょうがありませんな。我々がちゃんと来たことを記録してもろたら帰りましょか」

ナバルはシャオリンを見ながらそう言った。

「分かりました。ではその旨伝えてきます」

シャオリンはそう言うと、悠皇殿の出入りを管理している人間に訪問した時間をちゃんと記録してもらって証拠を残し、一行は悠皇殿を出た。

馬車に乗りこんだナバルは、遠ざかっていく悠皇殿を見ながら独り言を呟いた。

「これでハオが失脚してくれたら儲けもんなんやけどな……」

その呟きは、向かいに座っているシャオリンにも聞こえたようで返事が返ってきた。

「この非常時に不謹慎ですが、そうなってくれたら嬉しいんですけどね……」

ナバルは返事をしたシャオリンを見ながら苦笑しながら言う。

「ああいう奴ほどしぶとく生き残ってきよるからなあ」

ナバルのその言葉にシャオリンも苦笑しながら首肯するが、その表情は暗い。

なぜなら、シャオリンの胸中にはある懸念があるからだ。

その懸念とは、ハオに纏わる噂にある。

それが本当だったなら、もしかしたらハオの立場が守られてしまうかもしれないほどの噂だ。

そのハオのある噂とは……ハオは、独自の遺跡発掘により強力な古代兵器を発掘したというものだった。

ハオがもし噂どおり強力な武器を手に入れていたとしたら、この事態を収めてしまうかもしれない。

それほど古代の兵器とは強力なのだ。

やはりこのことはシンたちに話しておくべきだったと、シャオリンは後悔した。

この短い期間ではシンたちの 為人(ひととなり) が把握しきれなかったので、危険な話題は避けていたのだ。

だが、シンが信頼できる人物だと分かった時点で話しておくべきだった。

シャオリンは、このことが何か悪い方向に転がってしまうのではないかと、帰りの馬車のなかでずっと不安に苛まれていた。