軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リーファンさんの初体験

「くっそ! このタイミングでか!」

部屋に飛び込んできた使用人さんの報告を聞いて、俺は思わずそう叫んでしまった。

なにせ今日は、クワンロンとの二回目の交渉予定日。

まさに今からその場に向かおうとしたところでこんな報告を受けるとは。

そんな俺の横では、オーグが渋い顔をしていた。

「しまったな。到着早々国として正気を疑う出来事ばかりだったものだから、竜の現状について確認することを忘れていた」

オーグは苦々しくそう言うが、俺としても同じだった。

クワンロンに着くなり使者の襲撃を受け、交渉を開始したらハオは強硬な姿勢を崩さないし、ハオの醜い話ばかりを聞かされた。

そして、ハオからの何回にも亘る襲撃とその未遂。

その結果俺たちは、元々の目的から外れハオの放つ刺客たちへの対処に意識を取られてしまっていたのだ。

時々竜の革のことは話題に出ていたのにも拘らず。

これは正直、俺たちの確認ミスだ。

アルティメット・マジシャンズが全員でクワンロンに来たのも、そもそもこのことを懸念してのことだったのに……。

シャオリンさんからクワンロンで発令された法令について聞いたとき、俺たちがまず懸念したのは放置された竜が大量に発生してしまうことだった。

シャオリンさんの話では、竜は時々間引かないと増えすぎてしまうことがあるって聞いたからな。

そして、その話を聞いた時点で法令の発令からすでに二年近くが経過。

こうなる可能性が十分に考えられるから、わざわざ全員でやってきた。

だというのに初っ端からクワンロンの国としての対応に呆れることばかりだったから、すっかり忘れてしまっていた。

しかし、そんな後悔ばかりしていてもしょうがない。

なんとかしないと。

「ナバルさん! 緊急事態ですから俺たちは竜の討伐に向かいます!」

「分かりました。そしたら交渉には私らだけで向かいますわ」

とりあえず、この使節団の長であるナバルさんに竜の討伐に向かう旨を伝えたところ、そういう返事をされた。

「交渉って……こんな緊急事態なのに、そんなことしてる暇が……」

「そら分かりませんで? あの性悪のこっちゃ、民衆が苦しんでようが自分の都合を優先させるかもしれん。その交渉の席に私らがおらへんかったら? 交渉を欠席したということは、竜の革についての取引を私らが辞退したと言うてくるでしょうな」

「そ、そんな……」

「馬鹿なことはないって? 甘いですな魔王はん。ああいう性悪はそういうことを平気でやってくる人種でっせ」

ナバルさんはキッパリとそう言った。

そういう人って、物語の中だけの話かと思っていたけど、百戦錬磨のナバルさんがそう言うってことは本当にいるんだろう。

その言葉を聞いたオーグは納得したような顔をしたあと、ある人物に視線を向けた。

「ナバル殿の言う通りだ。そこで、リーファン殿」

「なんだ?」

「我々はこの国の言葉が分からん。シャオリン殿はナバル殿の通訳に行ってもらうので、代わりにリーファン殿に付いてきてもらえないだろうか?」

思わず飛び出して行きそうになっちゃったけど、よくよく考えたら俺たちじゃこの国の言葉は分からない。

だれか通訳が必要なんだけど、シャオリンさんはナバルさんの交渉の方に行くだろうし、竜との戦闘になると思うから、強力な魔道具を持っているとはいえシャオリンさんを連れていく訳にはいかない。

その点リーファンさんなら、通訳もできるし戦闘もできる。

付いて来てもらうならリーファンさん一択だな。

ただ……。

「しかし、お嬢様の護衛が……」

そうだよな。

リーファンさんの本職は、シャオリンさんの護衛。

そのシャオリンさんと離れるのは不安だよな。

「それなら……ビーン、ビーン夫人」

「はい!」

「まだ夫人じゃありません!」

オーグに呼ばれ、マークは素直に返事をしたけど、オリビアは抗議した。

もうすぐ結婚予定とはいえ、まだ結婚前に夫人って呼ばれるのは照れるよな。

現にオリビアの顔は真っ赤だ。

「もう時間の問題だろ。今のうちから呼び名に慣れておきたい。すまんが二人はナバル殿とシャオリン殿の護衛に回ってくれ」

「了解しました」

「はあ……色々と分かりました」

マークは、オーグに頼られたことが嬉しいのか元気に返事をしたのだが、オリビアはビーン夫人と呼ぶことを訂正しないと言ったオーグに、諦めの籠った返事をした。

シシリーもすぐに慣れたし、すぐに慣れると思うけどね。

するとリーファンさんが、二人のもとへと歩み寄った。

「すまんが、お嬢様のことを頼んだぞ」

「任せてくださいッス!」

「ちゃんとお守りします」

「よろしく頼む」

リーファンさんはそれだけ言うと、俺たちのもとへとやってきた。

その姿を確認すると、オーグはシャオリンさんに話しかけた。

「それで、場所はどこなんだ?」

オーグの言葉をシャオリンさんが通訳すると、使用人さんはハッとした顔をしてシャオリンさんに言葉を発した。

「どうやら、この首都から北東に早馬で二日ほど行ったところにある村が襲われたそうです」

そのシャオリンさんの言葉を聞いたオーグは、難しい顔になった。

「二日か……その襲われた村というのはどうなっているのだろうか……」

この国には通信機は無いみたいだからな。

村が竜に襲撃されてから、必死に馬を飛ばしてきたんだろう。

それでも既に襲撃が起きてから二日。

実際に魔物化した竜と戦ったことのある俺たちは、最悪の状況を思い描いていた。

そしてそれは、竜と戦うことの多いクワンロンの人間であるシャオリンさんも同じだった。

「一応、村には兵士が詰めていますが……一体、二体ならともかく、大量発生となると……」

そう言って暗い顔をした。

それくらい、竜とは接し慣れているクワンロン人にとっても脅威なんだろう。

こうなることが簡単に予測できたのに、本当にハオの奴はなにを考えているんだ?

「それにしても、よくその情報を入手できたな」

オーグの言葉をシャオリンさんが使用人さんに向かって通訳すると、使用人さんはさらに何かを言った。

「どうも、その村に詰めていた兵士が、門に着くなり大声で叫んだそうです。それを聞いた人たちが触れ回ったので首都中が知ってるそうです」

必死で馬を走らせて来たんだろうな。

ようやく辿り着いた首都で思わず叫んでしまったのはしょうがないだろう。

「首都中に知られているのなら、本当に交渉はなくなるんじゃないか?」

「そうだな。こんな緊急事態に自分の利益のための交渉をしていたとなると、ハオが他の高官を敵に回すかもしれないからな。しかし、ナバル殿の意見ももっともだし、一応交渉の場には向かってもらおう。ビーン、ビーン夫人、もし交渉が中止ならすぐに連絡しろ。戦力は少しでも多い方がいいからな、すぐに迎えに行く」

「はい!」

「分かりました!」

二人も重要な戦力だからな。

もし交渉が中止になったのなら遊ばせておく必要はない。

「それではシャオリン殿、地図を貸してもらえるか?」

「あ、はい! 少々お待ちください!」

シャオリンさんはそう言うと、地図を取りに部屋を出ていき、すぐに戻って来た。

「すまんな。他国の人間に地図を見せるなど、本来ならあってはならん事かもしれんが……」

「これは緊急事態ですから気にしないで下さい。それに、殿下たちは世界を征服する野望はない。ということはクワンロンに侵攻する意思もない。そこは信用してよろしいんですよね?」

「ああ。アールスハイド王国王太子の名に誓って約束しよう」

「なら安心です。それで、その村の場所ですけど……」

シャオリンさんは、地図のある一点を指し示した。

「ここです。飛行艇なら一時間以内で着ける距離です」

クワンロンまで飛行艇に乗ってきたシャオリンさんが、おおよその時間を示してくれた。

しかしオーグは、不敵な笑みを浮かべた。

「飛行艇など使わないさ」

「え? し、しかし、確か皆さんの使われる『げーと』の魔法は一度行ったことのある場所にしか開けないのでは……」

困惑しながらそう言うシャオリンさんに、オーグは自信満々に言った。

「ゲートも飛行艇も使わない。我々が直接飛んで行くのだ」

「ちょ、直接!?」

「ああ。飛行艇など目ではない速度で飛んでいけるからな」

「そ、そうなんですか!?」

シャオリンさんは驚いて唖然とした顔をしてる。

目論見通りだったのか、オーグは満足げな表情だな。

一通り満足したのか、オーグは表情を整えて俺の方を見た。

俺、というかリーファンさんだな。

「リーファン殿、風魔法は使えるか?」

「いや……俺が使えるのは身体強化と魔力放出だけだ」

「そうか。ならシン、お前が引っ張って行ってやってくれるか?」

「ああ、分かった」

風魔法が使えないと移動できないからな。

リーファンさんは俺が引っ張っていくことに決まったのだが、そのリーファンさんは強面を引き攣らせていた。

「ひ、飛行艇を使わないのか……それは大丈夫なのか?」

飛行艇は密閉されてるからな。

意外と恐怖感というものは感じなかったんだろうけど、今回は身体剥き出しだ。

「リーファンさん」

「な、なんだ?」

「……すぐ慣れますよ」

「ひ、非常に不安なんだが……」

「まあまあ、一刻も早く向かいたいので魔法掛けますね」

「ちょ、ちょっと待てシンど……うおっ」

不安がってるとこ悪いけど、これ以上モタモタしてられないからな。

無理矢理リーファンさんや皆に浮遊魔法をかけた。

「シ、シン殿! こ、心の準備を……!」

「すみません、そんな時間は無いので。それじゃあ、マーク、オリビア、終わったらすぐ連絡しろよ!」

「分かったッス!」

「ウォルフォード君たちで終わらせておいてくれて全然いいですよ!」

二人のそんな言葉を聞きながら、俺たちは竜に襲われたという村に向かって飛び出して行った。

「ちょっと待てえっっ!!」

リーファンさんの絶叫を響き渡らせながら。