軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オーグが止めた理由

エルスで完成した飛行艇の試運転をした数日後、俺たちはまたエルスにやってきていた。

とうとうクワンロンへと向かうためである。

飛行艇に乗るのは、エルスの商人さんたちと、あとは交易をするために必要な通貨の為替を決めるための役人と、国交を結ぶための役人さんなのだが、知り合いがいた。

「いやあ、魔王さん、お久しぶりですなあ」

「はい。お久しぶりですねナバルさん」

そう、以前三国会談の際に会ったナバルさんだ。

俺の印象としては、会談後のお調子者な印象しかないのだが、以前もエルスの代表として三国会談に出るくらいのエリートだ。

今回、エルスとクワンロンの国交を結ぶための使者として当然のように選ばれていた。

「それにしても、またえらいもん作りましたな」

「まあ、依頼受けましたしね」

「ホンマに……直接交渉でけへんのが残念ですわ」

「え?」

「あ、いや! それにしても、アルティメット・マジシャンズの皆さん全員が同行されるのは、ちょっと意外でしたな」

「まあ、そうなんですけど……」

今回、クワンロンへ行くのは国交の樹立と交易。それと、シャオリンさんのお姉さんの治療のためだ。

であれば、本来ならシシリーと、万が一のために俺と、あとはエルスの用意する護衛だけでも十分なのだが、アルティメット・マジシャンズのメンバー全員もこの飛行艇に搭乗していた。

「ちょっと、気になることがありまして……」

「気になること……でっか?」

「ええ、まあ懸念で済めば問題ないことなんですけどね」

「はあ」

ナバルさんの質問に、俺はちょっと曖昧に答えた。

それはあくまで推測だし、問題なければそれでいいんだけど、どうしてもそうは思えない。

例の法令の発令から、もうすぐ二年経つ。

どうしても、その懸念が頭から離れないのだ。

「まあ、俺たちのことは護衛の一部だとでも思っておいてください」

「こらまた、凄い護衛もあったもんで……」

ナバルさんを始めとした使節団の皆さんは「これは心強いですな」などと言っているが、リラックスしている様子が伺える。

まあ、別に敵国に乗り込もうって訳じゃない。

今まで国交がなかった国との話し合いをしに行くのだ、そうそう危険などあるはずもない。

……と思う。

その辺りどうなんだろ?

まあ、エルスの商人たちが情報収集を怠るとは思えない。

シャオリンさんやリーファンさん辺りから十分聞いているだろう。

それがあるからこんなにリラックスしてるんだろうな。

それにしても、これから空を飛ぶのに、そちらの恐怖はないんだろうか?

前世では飛行機嫌いっていう人も結構いたのに。

「いやあ、それにしても楽しみですな。試運転に乗せてもろてからまたこの飛行艇に乗るのが楽しみで」

「私は呼んでもらえませんでしたからな。皆さんの自慢話が羨ましいて」

「そらもう、凄いでっせ。人生観変わりますわ」

なんか、そんな会話してた。

高所からの墜落の恐怖より、空を飛ぶことへの好奇心の方が勝ってる感じだ。

そんなもんなんだろうか?

ところで、操縦士の件だけど、結局二人がかりで飛ばすことにしたようだ。

交代要員も含めて、四人の操縦士が搭乗している。

これならまあ万が一操縦士になにかあっても墜落したりはしないだろう。

そうこうしているうちに、出発の時間となった。

今回も、誰も席には座らず、俺たち以外の使節団の皆さんは窓に張り付いている。

俺たちはまあ、空を飛ぶことには慣れてるしね。

「それでは、出発します」

操縦士さんのその言葉のあと、飛行艇はゆっくりと上昇していく。

前回乗った人も、今回が初めての人も、皆揃って感嘆の声をあげている。

やがてエルスの首都がジオラマくらいの大きさになったところで水平移動を開始。

そこでも歓声があがった。

「やれやれ、まるで子供だな」

「それはしょうがないでしょう。我々はともかく、皆さんは空を飛ぶことに慣れていないんですから」

「まあ、拙者たちもシン殿の力が無ければ空は飛べないで御座るがな」

はしゃぐエルス使節団を見て、オーグが溜め息を吐いている。

まあ、トールの言う通りだとは思うけどね、それでもはしゃぎ過ぎだと思う。

やっぱり、エルスの人はお調子者が多い気がするな。

「ところで、どれくらいでクワンロンに着くの?」

はしゃぐ使節団の人たちを見ていると、マリアがそんな質問をしてきた。

そう言われてもな。

初めていく国なんだし、なんとも言えない。

そう思ってシャオリンさんを見るが、やはり首を横に振っていた。

「すみません。徒歩で一年かかったのは間違いないのですが、砂漠でしたしそうでないならもっと早く着くことができたかもしれません。それに、この飛行艇がどれくらいの速度で飛んでいるかも分かりませんので……」

そらそうだよな。

砂漠なんて、普通の平原と比べて歩きにくいだろうし、時間がかかるのも当然だ。

距離も分からないし、この飛行艇には速度計がついていない。

まあ、飛行艇の速度計なんてどうやって作ればいいのか分からなかっただけなんだけどね。

それにしても、歩いて一年かかる砂漠とか……。

普通の人には絶対踏破なんてできないよな。

異空間収納に食料が大量に収められるのと、魔法で水が作れるからできることだ。

それができない人には、この砂漠は本当に世界の果てなんだろうな。

でも、こんな広い砂漠、いつできたんだろうか?

歴史の授業でも、昔からとしか教えてもらってないしな。

やがて飛行艇は、エルスの東側にある山脈の上空に差し掛かった。

そして、その上を呆気なく素通りする。

「おお……あの山脈をこんな簡単に……」

「……私たちは、この山脈を超えるのに一か月近くかかったんですけどね……」

感嘆の声をあげる使節団の人に対して、シャオリンさんの言葉には若干の自嘲が感じられる。

自分が命がけで超えてきたところを、こんな簡単に超えられたらそう言いたくなる気持ちも分かるけどね。

やがて山脈を超えると、見えてきたのは地平線まで続く大砂漠だ。

「ふーん、砂漠地帯って言っても砂丘じゃないんだな」

砂漠地帯を見た俺は、思わずそんなことを口走った。

「さきゅう? ってなんですか?」

それを聞いたシシリーが俺に質問してきた。

「えーっと、なんていうか、海辺の砂浜みたいに細かい砂が丘みたいになってる感じかと思ってさ」

「ああ、だから砂丘なんですね」

「そう」

「そういう砂漠もあるにはあるがな、ここまで規模の大きいものではないぞ」

シシリーとそんな話をしているとオーグが会話に入っていた。

「そうなの?」

「ああ、この砂漠は有史以来ずっとあるものでな。いつ、なんの理由でこんな大地になったのか、誰も知らんのだ」

「へえ」

「まあ、眉唾な噂ならあるけどねえ」

そこにトニーも入ってきた。

「どんな?」

「なんでも、前文明っていうのがあって、その戦争の跡地だとか」

「前文明?」

「なんでも、高度な魔道具を作成することができてたらしいよ。その魔道具の行きついた先が前文明の崩壊とこの砂漠地帯なんだってさ」

「え、でも、そんなの授業でやらなかったよな?」

そんな話は初耳だぞ?

俺が疑問の声をあげると、マークも呆れながら会話に入ってきた。

「当たり前ッスよ。高度な魔道具を使う前文明とかゴシップの類の話ッスよ? っていうか、トニーさんそういう本読むんスね」

「いやあ、割と好きなんだよね、そういう話」

「でも、行き過ぎた魔道具で世界が滅ぶって……」

マークに引っ付いてきたのか、オリビアが不安そうな顔をしている。

どうした?

「ウォルフォード君、お願いですから、そういうの作らないでくださいね?」

「だから……作らないって……」

「ホントですか!? 私、今でも時々夢に見るんですけど! あの……ウォルフォード君がシュトロームに最後に放った魔法!」

「あー……そりゃ申し訳ない」

「ホントっすよ。オリビア、時々夜中に叫んで起きることあるんスよ?」

「……マークの安眠を妨害してスマン」

「ちょっ! マーク! そんなこと言ったら……」

「あ……」

普段の二人を想像させるような会話にオリビアが真っ赤になってる。

マークは無意識だな、コレ。

ここももうすぐ結婚するらしいし、相変わらず仲がよさそうで結構だ。

「あ、あの……ち、違うんです!」

だというのに、オリビアは赤くなって必死に弁解しようとしてる。

なんで?

「いやいや、別に今更だろ? もうすぐ結婚するんだし。っていうか、もう一緒に住んでるの?」

「違いますよ! 時々マークのウチに泊まったときに……あ……」

また自爆したな。

頭から煙出そうなくらい真っ赤になって俯いてるよ。

「だから、別に今更だろ? マークとオリビアがそういう関係なんだってことは皆知ってるよ」

「そ、そうですけど!」

「それに、ウチも一緒に寝てるぞ?」

「シ、シン君!」

「……あ」

しまった、あまりにもオリビアが自分の発言を恥ずかしがっているから、気にするなという思いでつい自分たちのことを話してしまった。

「えーっと、その……ゴメン」

「もう……」

うっかり自分たちのことをバラされてしまったシシリーも顔を真っ赤にしている。

うあ……こういうのバレるとメッチャ恥ずかしいな。

俺自身、顔が赤くなっていることを自覚しながら皆を見ると、ジト目をした女性陣に睨まれた。

「くっそ……このリア充どもが……」

「こういう話は、既婚者だけのときにしてほしいよねえ」

「羨ましいわぁ」

「私はいい。魔法が使えなくなると困る」

マリアは憤怒の表情を浮かべているし、アリスは不貞腐れた表情だし、ユーリは溜め息を吐いている。

そんな中、リンの言葉が気になった。

「魔法が使えないって?」

「ウォルフォード君知らないの? 女性は妊娠初期、魔法が使えなくなる」

「え? そうなの?」

「子供にも魔力が伝わるから魔力が安定しなくなる。妊娠後期の安定期になればまた使える」

「そうなのか」

知らなかった。

あ。

「だからオーグは子作りを待てって言ったのか」

「そうだが……お前、そういうことを皆の前で言うな」

「え? あ……」

やば。

皆の前で子作りしようとしてたことと、それをオーグに止められたことを喋っちゃった。

しまったと思いつつ、シシリーの顔を見てみると……。

「あうう……」

さっきのオリビアにも負けないくらい、真っ赤な顔で俯いていた。

あちゃ……。

「っだからっ! そういう話はよそでやれって言ってんでしょうがあっ!!」

ついでに、マリアの怒りの炎にも再点火してしまった。

……ゴメン。