軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

メリダの懸念

アールスハイド上空まで行ったところでUターンし、そこでアーロンさんに操縦を代わった。

そこで分かったのが、操縦桿に魔力を流して浮力を得ながら推進レバーにも魔力を流すという操作が、同時に行えないということだった。

アーロンさん曰く、どっちかに魔力を流すとどっちかが切れてしまう。

これは、相当熟練の魔法使いでないと操作できないと、悔しそうに言われた。

俺たち、こう見えてもアールスハイドトップの魔法学院を卒業しているので、皆魔道具の複数起動はできる。

一緒に乗っていた操縦士の人にも操縦をしてもらったが、浮遊と前進を交互に繰り返し、波を打つように進んだので乗っていた皆が酔った。

結局、操縦士は二人必要との結論になり、操縦士選抜で次点だった人たちに声をかけるとのこと。

エルスに戻り、元の場所に着陸してからアーロンさんと操縦士の人が話しているのを聞いた俺は、ある提案をしようと声をかけた。

「それなら、まゴフッ!」

「まごふ? シン君、なに言うとんねや?」

「い、いや……」

俺が提案をしようとしたら、脇腹を思いっきり殴られたのだ。

おかげでおかしな奴になっちゃったじゃないか。

俺は衝撃がきた方を睨むと、俺以上の迫力でばあちゃんが睨んでいた。

すぐに目を逸らした。

そしたら、ばあちゃんに耳を引っ張られて人込みから連れ出されてしまった。

「いたたたた! ちょ、ばあちゃん痛い!」

俺の抗議を無視してズンズン進んでいくばあちゃん。

やがて会話が聞こえないくらい離れたところで、ようやくばあちゃんは耳を離してくれた。

「なにすんだよ、ばあ……」

「お黙り! アンタ、今魔石を使えばって言おうとしたんじゃないのかい?」

「そうだけど……」

「やっぱり。いいかい、アンタが魔石の生成方法を発見したことで確かに魔石の流通は増えた。けど、まだ希少なものには違いないんだよ」

「それは分かってるけど……」

「いーや、分かってないね。確かにアンタの言う通り、魔石を使えば一人でもあの飛行艇は操縦できるだろう。だけど、魔石の効果が切れたらどうするんだい?」

「なら、予備の魔石を使えば」

「それだけの魔石が確保できなかったらどうするんだい」

「……え、まだそんな程度なの?」

俺がそう言ったところで、ばあちゃんは深々と溜め息を吐いた。

「アンタは、自分で魔石が作れちまうから知らないだろうけどね。以前より魔石が流通する頻度が増えただけで、市場に出たらすぐに売れちまうんだよ」

「そうなの?」

「それだけ魔道具師が魔石を待ち望んでるってことさ。それに、アレは空を飛ぶものだろう。予備の魔石が手に入らなかった、でも交易のために飛ばさざるを得ない。そこで魔石の効果が切れてしまったら?」

「……墜落」

「あんな高度から落ちたら、ひとたまりもない。乗員全員死亡さ」

その言葉を聞いて、俺は背筋が凍った。

確かに、あれは交易用の乗り物だ。

動力を魔石によって賄った場合、魔石の準備が整う前に出航してしまうことも十分考えられる。

利益のために。

そうなると、ばあちゃんの言う最悪の事態が起きることも十分考えられる。

……はあ、いつまでたっても、俺は思慮が足りないな。

とりあえず目先の問題をクリアすることしか思い付かなかった。

「とりあえず、あの飛行艇は人数がかかっても人力で飛ばした方がいい。とりあえずの急ごしらえだし、これからもっと改良していけばいいさ」

「……うん。分かった。ばあちゃん、ありがと」

「別に、孫の間違いを正してやるのが祖母の役目ってもんだからね」

ばあちゃんに礼を言ったら、なんか照れてる。

そういえば、前に爺さんが言ってたけど、褒められても素直に受け取らないんだよな、ばあちゃんって。

ツンデレなのか?

おばあちゃんのツンデレ……。

どこに需要が?

まあ、それはさておき、ばあちゃんの説教も終わったので皆のところに戻ることにした。

その際、ばあちゃんに気になっていたことを聞いた。

「ねえばあちゃん、ばあちゃんは飛行艇を作ることに反対じゃないんだよね?」

「そうさねえ。クワンロンとやらとの交易以外には使わないって公式文書にもなってるからね、そのことについては反対なんざしやしないさ」

「だったら、なんで付いてきたの? 飛行艇見たかったから?」

「それもあるけど……」

ばあちゃんはそう言うと、アーロンさんを見た。

「一言、釘を刺しておこうかと思ってね」

「釘?」

「こっちの話さ。ほら、シルバーが不思議そうな顔でこっち見てるよ。さっさと行ってやんな」

「あ、うん」

こうして、俺はばあちゃんから解放され、シシリーとシルバーのもとへと戻った。

そしたら、シルバーが俺に向かって手を伸ばしている。

俺がシシリーからシルバーを受け取ると、手の空いたシシリーが話しかけてきた。

「お婆様のお話しって、なんだったんですか?」

「え? ああ、飛行艇の動力に魔石を使ったらどうかって提案しようとしたら止められてさ、その理由を聞かされてた」

「そうだったんですか」

「やっぱりばあちゃんは凄いよ。俺なんかより全然先のことを見通して、って! いたたたた!」

シシリーと話していると、突然耳に痛みが走った。

抱っこしたシルバーが、俺の耳を引っ張っているのだ。

「あ! 駄目ですよシルバー! パパのお耳を引っ張っちゃいけません!」

「う?」

シシリーが慌てて俺からシルバーを引きはがすが、シルバーは不思議そうな顔である人物を指差した。

「ばあば」

そこには、アーロンさんと二人で話をしているばあちゃんがいた。

ばあちゃんの真似か!

ったく、どんだけおばあちゃんっ子になってるんだ。

「もう。シルバーだって、お耳を引っ張られたら嫌でしょ?」

シシリーがそう言いながら、軽くシルバーの耳を引っ張る。

ところが、軽くなもんだからスキンシップだと思ったシルバーは予想外に喜んでしまった。

「きゃっ! もう、いたずらっ子ね!」

喜んだシルバーが、今度はシシリーの耳にも手を伸ばした。

それがくすぐったかったらしいシシリーは、短い悲鳴をあげたあと、シルバーの目をみて怒ってる。

和むわ。

そんな中、ある人が声をかけてきた。

「あ、あの、シン殿」

「ん? なんですか? シャオリンさん」

「家族団欒のところすみません。実は……ちょっと伺いたいことがあったのですが……」

「なんでしょう?」

「先ほどの魔法付与なのですが……」

「ああ……申し訳ありませんが、一応秘密ということにしてありますので詳しくは……」

「あ、そ、そうなんですか。それなら仕方がありませんね……」

「すみません」

「いえ」

シャオリンさんはそう言うと素直に引き下がっていった。

「なんだ? てっきり魔道具を作ってくれって言うのかと思ったけど……」

「意外とあっさり引き下がりましたね」

「うん、なんだったんだろ?」

「さあ……」

シシリーと首を傾げていると、シルバーが抗議の声をあげた。

「まま、まんま」

あ、もうお昼か。

お腹を空かせたシルバーがご飯をご所望している。

俺もお腹が空いたし、ひとまず初フライトはこの辺でお開きにするか。

操縦自体は簡単なので、あとは操縦士さんの人数を増やして試験飛行を繰り返してもらおう。

そう思って、皆に声をかけにいった。

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「アーロン、ちょっといいかい?」

「はい? なんでっかお師匠さん」

シンと分かれたメリダは、国の重鎮たちと操縦士の再選抜と試験運転についての協議をしていたアーロンに声をかけた。

「そっちの話し合いは?」

「もう終わったとこですから大丈夫です。そんで、どないしました?」

「ちょっと、こっち来な」

「は、はあ……」

アーロンは、メリダに呼び出されその後ろをビクビクしながら付いていく。

以前はよくこうして説教のために呼び出されていたので、嫌でもその記憶が蘇ってくる。

そして少し歩いたところで足を止め、アーロンに向かい合うメリダ。

その姿を見たアーロンは、ビシッと姿勢を正した。

メリダは、アーロンの緊張した様子に苦笑を浮かべる。

「そんな緊張しなくてもいいよ。今回の件について文句を言いに来たわけじゃない」

「そ、そうでっか……」

安堵のあまり、アーロンの口からは安堵の息が漏れた。

「飛行艇を作ったのは、まあアンタたちの利益のためだろうけどね。それが結果的にあのシャオリンって娘を助けることに繋がってる。文句なんざ言えないさ」

「あ、ありがとうございます」

今まであまりメリダから褒められたことがないので、アーロンは感動で若干涙目になった。

「それに、あの娘の姉の病気を治療するためにってシシリーにまで声をかけたんだろ? 今後の関係を良好にするためだろうとは思うけど、そういう人を救う決断もできるようになったんだねえ」

「そりゃ……もう長いこと大統領なんてやってますから、それくらいできんと……」

「昔のボンクラなアンタを知ってる身としては、それだけでも感慨深いんだよ」

「ボ、ボンクラって……」

「けどまあ、今日はそんなことを言いに来たんじゃない」

「え?」

褒められて感動していたアーロンは、一気に込み上げていた涙が引っ込んだ。

「釘を刺しにきたのさ」

「釘……でっか」

「今回の話、もしエルスの利益のみの話だったらアタシは反対したよ。でも、人助けが絡んでるんじゃ反対なんてできるはずがない」

「それはまあ……お師匠さんやったら、そう言うと思いました」

「アンタは、アタシと一緒にいた時間がそれなりに長いからねえ。その辺りのことはよく知ってるだろう」

「はい」

「だけど、他の連中は?」

「……」

メリダの質問に、アーロンは答えられなかった。

「今回、シンは空飛ぶ乗り物なんて空想の話の中でしか出てこないようなものをアッサリと作っちまった」

「そう、ですな」

「そんな空想上の乗り物が再現できるなら、他にも……と考える輩が出てくると思わないかい? 特に、利益を求めるアンタたちエルス商人に」

「それは……ないとは言い切れませんな……」

「だろうね。だから釘を刺しにきたのさ。シンが、自分の意思で開発したものに関してはしょうがない。アタシも半分諦めてる」

「……お師匠さんが、ですか?」

「あの子にはなにを言ったって無駄なんだってことがようやく分かったのさ。あの子は自分が欲しいものを自分で作ってるだけ。それがどんなに世間の常識から外れているか考える前にね」

「ホンマに常識知らずなんですなあ……」

「まったくね……学院生活がなんだったのかって、学院に問い合わせたいくらいだよ。作ったけど世に出せないものなんてザラにあるしねえ」

「え!?」

メリダの言葉に、アーロンが食いつくがギロリと睨まれて大人しくなる。

「世に出せないっていったろ。言えないのさ。言えば色んなところで混乱が起きる」

「そら……お師匠さんもご苦労さんですなあ……」

「まったくだよ……」

アーロンの労いにメリダは深い溜息と共にそう答えた。

「そんな子だ。こういうものを作ってくれと言われれば簡単に作っちまうだろう。そして、それが終わればまた次だ」

「その未来は容易に想像つきますな」

「だからこうして出張ってきたのさ。今回はアンタとシャオリンと、ウチの殿下たちとで散々協議した結果シンに依頼することにしたんだろ?」

「そうです」

「今後、シンに依頼をするときはそういう段階を必ず踏むこと。商人個人がシンに取引を持ち掛けることはアタシが許さない」

「……」

「まあ、とは言ってもアタシはただのシンの祖母だ。本来ならそんなことを強制できる立場じゃないのは分かってる。それでも、シンはアタシの孫だ。口は出させてもらうよ」

「は、はあ……」

「もし不服があるなら、刺客なりなんなり放てばいいさ。ただ、覚悟を持ってかかってくるんだね」

メリダはそう言うと、アーロンに向かって笑みを浮かべた。

「返り討ちにしてあげるさね」

そういうメリダの顔に浮かんでいるのは、凄惨な笑み。

その顔を見たアーロンは、心底震え上がった。

今や、世間で英雄といえばシンたちアルティメット・マジシャンズのことだ。

だが、旧い英雄とはいえ、メリダはまだ現役なのだ。

そのことを、アーロンは心の底から思い知った。

「か、必ず徹底させます……」

そう答えるだけで精一杯だった。

そんなアーロンの返事に満足したのか、メリダは普通の笑みを浮かべた。

「頼んだよ」

その顔を見て、アーロンはようやくホッと息を吐いた。

そして、安堵からつい軽口が出てしまった。

「それにしても、相変わらずの孫バカでんな」

「ああ!?」

「ひっ!」

言ってすぐにアーロンは後悔した。

あ、まだ言っていいタイミングじゃなかったと。

どんな罵声を浴びせられるのかと身構えたアーロンだったが、意外にもメリダからそんな言葉は出てこなかった。

「ふん。今のアタシは、どっちかといえば『ひ孫バカ』だね。あの子……シルバーは素直で可愛くて……アタシの宝物だからねえ」

それどころか、シン、シシリー夫婦と戯れているシルバーを見ながらなんとも優しい顔になっていた。

その表情を見たアーロンは、意外な思いを禁じえなかった。

「お師匠さんのそういう顔、初めて見ましたわ。シン君にも、アイツ……スレインにも厳しい顔しか見せてませんでしたから」

そのアーロンの言葉で、一瞬寂し気な表情を見せたメリダだが、すぐに表情を引き締めた。

「シンにだって、あの子にだって赤ん坊の頃は優しい顔はしてたさね。アンタが知らないだけさ」

「まあ、そう言われればそうですな」

「だからシルバーは、シンみたいな常識知らずな子じゃなくて、普通に育てたい。でも、あの子みたいにならないように自衛の手段は持たせてやりたい。それがアタシの今の一番の目標なのさ」

「……そうですな」

複雑な気持ちを抱えながら、シンの耳を引っ張りシシリーに窘められているシルバーを、アーロンとメリダは二人並んで見ていた。

マーリンは、ずっと側にいたのだが、ずっと空気だった。

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『リーファン、気付いた?』

『はい。お嬢様』

シャオリンは、皆から離れたところでクワンロンの言葉でリーファンに話しかけた。

リーファンも、周りに聞かれたくない話であるとすぐに気づき、同じ言葉で返す。

そのリーファンの予想通り、シャオリンが話し出したのは周りに聞かれては少しマズイ内容だった。

『シン殿の使った付与文字。あれは……』

先ほど、シンが飛行艇に魔法を付与した際に用いた文字。

それを見たシャオリンとリーファンは、目を見開いた。

なぜその文字を知っているのか。

どうしても聞きたかったが、付与魔法自体を秘密と言われてしまえばそれ以上聞きようがない。

それでも、どうにかして聞き出したかった。

なぜなら……。

『あれは……我が国ではもう誰も使う者がいない古代文字に似ていた。それをなぜこの西側の国のシン殿が使えるのだ……』

『それは分かりませんが、今でも古代文字が付与されている魔道具は、今のものより格段に性能がいいですからね』

『ええ。なんとしても、その秘密を聞き出したいけど……』

シャオリンはそう言うと、シルバーと戯れているシンを見た。

『素直に秘密を教えてくれるかしら……』

『……どうでしょうか?』

その呟きは、リーファン以外には誰にも届かなかった。