軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しい制服

「なっ!? お、お前! 突然なに言ってんだ!?」

『冗談でこんなことを言っているわけではない。今、ウォルフォード夫人に子供を作られるとちょっとマズい事態が起きたのだ』

オーグは、俺とシシリーが結婚したあと、シシリーのことを「ウォルフォード夫人」と呼ぶようになった。

今までファミリーネームの「クロード」って言っていたけど、シシリーは俺と結婚して「シシリー=ウォルフォード」になった。

もうクロードと呼ぶわけにもいかないし、かといって人の奥さんを王族であるオーグがファーストネームを呼び捨てにすると、その意味を曲解して捉える者も出てくる。

そこでオーグは、シシリーをウォルフォード夫人と呼ぶようになった。

ウォルフォードだけでもちょっと長いのに、さらに夫人をつけないといけないなんて……。

王族は面倒くさいね。

それはともかく、オーグの言葉の意味はなんだ?

「シシリーに子供が出来たらマズい事態って……」

シシリーの治癒魔法は、俺との特訓と治療院での実践を経て、すでにこの国だけでなく世界でもトップクラスの実力を持っている。

瀕死の重傷を負った患者を治癒して助けた事例なんて数え切れない。

そのせいで、結婚し人妻になったというのにシシリーの聖女としての名声は高まる一方である。

ということは、誰かシシリーに治癒してほしい人でもいるということなんだろうか?

だけど、オーグの言い分には違和感がある。

なぜなら、確かにシシリーの治癒魔法は世界トップクラスの実力だが、それと同じことは俺でもできる。

なら、仮にシシリーが妊娠して身動きが取れなくなったとしても、俺が出向けば済む話なのだ。

なのでそう聞いたのだが、オーグはしばらく黙り込んだ。

『ちょっと説明するのに時間がかかる内容なのだ。すまんが明日王城に来てもらえないか?』

「王城に?」

『ああ、私の部屋で構わん』

「なにがなんだか分からんけど、明日行けば教えてくれるんだな?」

『そうだ。……すまんな、明日すべて話す』

「ああ、それじゃあ、明日な」

そう言って通話を終了し、横で聞いていたシシリーに視線を移した。

「ってことなんだけど……」

「あ、あはは……」

急なオーグからの話に、シシリーも苦笑している。

そりゃあそうだろう。

今までお互いの夫婦の営みについては、意図して話題を避けてきた。

さすがにそこは完全なプライベートだし、簡単に踏み込んでいい話題じゃない。

今日は、学院を卒業するということもあって子供に関する話題が出たけど、普段はそこには踏み込まない。

……まあ、奥さん同士の方は分からんけど。

女性って、そういうとこ結構あけすけに話したりするらしいからなあ……。

そんなオーグが、俺たち夫婦間について口を出してきた。

これは、よほどの緊急事態なんだろう。

「あの殿下が随分と慌てていたみたいですけど……なんでしょうか?」

シシリーもそのことが気になったようだ。

いつも沈着冷静なオーグが慌てるとき、大抵ロクなことがない。

魔人領攻略作戦のときに魔人を取り逃がしたりな……。

「はあ……面倒なことが起きないといいんだけど」

「そう願いたいですね」

「それじゃあ、このあとどうしようか?」

「あ、じゃあ、今日もネックレスを付けておきますね」

「え?」

「え?」

「あ、いや……まだ夕食が終わったばっかりだし、オーグの介入でなんとなくそういう雰囲気じゃなくなってしまったから、このあとなにしようかって意味だったんだけど……」

まさか、夜の営みについて返事をされるとは……。

「あ、あ……」

言葉の意味を取り違えてしまったシシリーが真っ赤になってうつむいてしまった。

あー、もう。

人妻で母になったというのに、どうしてシシリーはこうも可愛いんだろうか?

「え? きゃっ! シ、シン君?」

そんな可愛い顔をされては辛抱たまらん。

俺はシシリーを横抱きにして階段を寝室に向かった。

「シシリー。やっぱり、今日はもう寝よう」

「あ……は、はい……」

そう言って俺の胸に顔を埋めるシシリーを連れて寝室に入った。

俺たちが寝たのは、それからしばらく経ってから。

俺の横で眠るシシリーの胸にはペンダントが輝いていた。

翌朝、俺とシシリーはゲートでオーグの部屋に行った。

「来たか。すまんなわざわざ呼び立てたりして」

「いや、なんかあったんだろ? 構わねえよ」

部屋で待っていたオーグが俺たちを出迎えるなり謝ってきたので、それに対して気にしていない旨を伝える。

オーグが慌てるような事態が起きてるのに、こっちの心情で文句を言うのはちょっと違うかなと思ったしな。

「おはよッス、ウォルフォード君」

「おうマーク。おはよう」

オーグと挨拶をしたあと、声をかけてきたのはマークだ。

というか、マーク以外にもアルティメット・マジシャンズの全員がこの部屋にいる。

「ウォルフォード君も、昨日の夜通信がかかってきたんスか?」

「ああ、晩飯食ってすぐにな」

「なんなんスかね? 急に王城に来いだなんて」

「まあ、それを今から説明されるんだろうけど……なあ、マークは他にオーグからなにか言われたか?」

マークとオリビアも、卒業後すぐに結婚する予定だ。

今は結婚式の準備で忙しくしていると聞く。

マークのところは、ウチと違って子供が生まれるかどうかはかなり切実な問題になってくる。

ビーン工房の跡取りだからな。

ってことは、早速子作りに励もうとしていたに違いない。

ってことは、俺と同じように子作り中止を言い渡されたと思っていたんだけど……。

「他ッスか? いや、別になんも言われてないッスけど?」

「え? マジで?」

「はい」

どういうことだ?

「トニー」

トニーのところも、卒業後すぐに結婚の予定だ。

なので、トニーにも聞いてみることにした。

「ん? なんだい?」

「トニーも、今日王城に来てくれって以外、特になにも言われてない?」

「いや? 特になにも」

トニーもか。

まあ、トニーの彼女のリリアさんはアルティメット・マジシャンズじゃないし、総務局への入局が決まっているらしいので、結婚後すぐに子供を作る予定はないんだろう。

だとしても、なんでウチ……っていうかシシリーだけ?

そんな疑問に頭を悩ませていると、オーグが皆に声をかけた。

「これで全員集まったな。それでは……おい」

オーグがそう言うと、部屋の扉が開き、メイドさんたちが服を持ってきた。

「まずはこれに着替えてくれ」

オーグに言われるまま、男性陣と女性陣に別れて着替えに行く。

「なあ、これなに?」

「アルティメット・マジシャンズの新しい制服だ。今までは戦闘服ですべて済ませてきたが、これからはそうはいかん。依頼主との話し合いの場に戦闘服で出向くわけにはいかんからな」

「ああ、なるほどね」

騎士だって四六時中鎧を着ているわけじゃない。

事務作業をするときや、待機しているときなんかは制服を着ている。

それと同じことだろう。

オーグが用意した制服は、今までの戦闘服と色合いは似ているがちょっと窮屈になった感じ。

ネクタイも用意されてる。

制服をすべて着用すると、儀礼用の軍服みたいな感じになった。

これはこれで格好良いな。

「これにはまだ魔法付与がされていないから、すまんがあとでやってくれるか?」

「ああ、分かった」

オーグが用意したものだから、相当にいい素材を使っているんだろう。

今までの付与は全部できそうだ。

着替えが終わって部屋に戻ると、女性陣も丁度着替え終わったようで別の部屋から出てきた。

「お、いいじゃん。なんか大人の女性って感じ」

「そう? なんか気恥ずかしいんだけど」

女性陣の制服姿を見て俺がそう感想を漏らすと、この中で一番制服の似合っているマリアがちょっと恥ずかしそうにそう言った。

女性用の制服は、上半身は男性と同じだけど下半身は膝丈のタイトスカートで靴は足首の上くらいまでのブーツだった。

ちなみに男性はスラックスに革靴な。

気の強いマリアがこの制服を着ると、まさに軍の女性士官って感じがする。

ちなみに、シシリーは心優しい後方支援のお姉さんって感じだ。

これも……いい!

オリビアも事務方って感じがするな。

これでも、魔人を一人で討伐できる実力は持ってるんだけどね。

ユーリは……。

十五~六の頃から、色っぽかったけど、十八になった今は大人の色気に溢れている。

そんなユーリが制服を着ると……。

うん。

なんか、そういうお店に来たみたいな錯覚をおこすな。

本人の性格ははおっとりしていて、エロさとは無縁なんだけどなあ……。

そうして女性陣を見ていると、アリスとリンが得意げに話しかけてきた。。

「にしし! 仕事出来そうでしょ?」

「見直すなら今のうち」

オーグの用意した制服だから、サイズは俺たちにピッタリだ。

それは、もちろんアリスとリンも同様である。

そのはずなんだけど……。

どう見ても……。

「ああ、うん……似合って……ブフッ!」

「なんで笑うんだよ!?」

「心外」

「ご、ごめ……いや、どう見ても中等学院生の職業体験にしか見えなくて……」

「十八歳の乙女を捕まえて中等学院生だとおっ!?」

「もうすぐ十九になる」

「俺にはそれが信じらんねえよ!」

アリスとリンは、この中の誰よりも誕生日が早い。

今は三月なので、来月には二人とも十九歳になる。

……嘘みたいだろ? これでもうすぐ十九なんだぜ?

「お前たち、じゃれ合うのはそこまでにしろ。準備が済んだなら行くぞ」

俺がアリスとリンとギャアギャアと騒いでいると、オーグが話に割って入ってきた。

「お前たちはまだ行ったことがないだろう場所だから、私のゲートで行くぞ」

オーグはそう言うと、自分でゲートを開いた。

俺たちが行ったことがない場所?

「それって、どこ?」

「そういえば、まだ言っていなかったな」

オーグはそう言いながら、ゲートを潜った。

俺たちも慌ててその後を追う。

そして、ゲートから出た先はどこかの建物の一室。

だけどそこが、アールスハイドではないことはすぐに分かった。

なぜなら……

『ええっ!? これがそんなすんの!? そら高いわ、負けてえな!』

『いやいや、そら殺生やで兄さん。ウチもギリギリでやらしてもらってんねんで?』

『そこをなんとかすんのが商売人やろが!』

『なんやと!? 無理難題吹っかけとるだけやろが!!』

『ああ!? なんやコラッ! やんのか!?』

『おお! ヤッたろやないかい!!』

窓の外からこう言った喧噪が聞こえてきたからだ。

しかも、こう言ったやり取りがそこかしこから聞こえてくる。

これは、もしかしなくても……。

「オーグ、ここって……」

まあ、改めて聞くまでもないとは思ったけど、一応確認してみた。

「ああ。お察しの通り、ここはエルス自由商業連合国だ」

ですよね。

知ってた。