軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編1:小さな公爵令嬢の初めてのクリスマス(後)

「さぁシャルロッテ、サンタクロースが来てくれるから良い子で眠りましょね」

「はい……。ロッティ、いいこで……、ねむります。おやすみな……、さい……」

うとうとと微睡むシャルロッテは、フレデリカが寝かしつけなくてもすぐに眠ってしまいそうだ。

今日はクリスマスだからと朝早くに起きて、サンタクロースに贈るクッキーを焼いて、その後は飾られた公園を見に行った。夕飯は普段よりも豪華でケーキも食べて……、と、シャルロッテは朝から興奮しっぱなしだった。

おかげで夜はぐっすりだ。

フレデリカが絵本を読み始めるとすぐにすぅすぅと寝息をたててしまい、頬をそっと撫でても身じろぎもしない。

その速さと熟睡ぶりにフレデリカは小さく笑みを零した。

「おやすみなさい私達のロッティ。世界一の良い子のもとに素敵なサンタクロースがきてくれるから、安心してぐっすりと眠っていいのよ」

囁くように告げると眠るシャルロッテの額にキスをして、フレデリカはそっと音をたてないように部屋を出ていった。

シャルロッテが就寝したことをフレデリカから聞き、ジョシュアとライアン、そして精霊を連れたハンクが代わるように部屋へと入っていった。

眠るシャルロッテのなんと可愛らしいことか。

閉じられた目を長い睫毛が縁取り、子供特有のちょんと尖ったピンクの唇からは薄く寝息が漏れている。気持ちよさそうに熟睡する寝顔はまるで母猫の胸元で眠る子猫のように愛らしい。

その愛らしさに拍車を掛けるのが、枕元のテーブルに置かれたクッキーとサンタクロースへの手紙。

まだシャルロッテは文字を勉強中でうまく書けない。それでも頑張って書いたのだろう、拙い文字ながら、自分は今は幸せだと、だから大丈夫だと書いてある。その文面も、サンタクロースへの感謝の言葉も、余白を埋めるように描かれた絵も、すべてが愛おしい。

「可愛い手紙だ。父上も後ほど来るそうだから、この手紙は父上に残しておこう」

「クッキーは四枚あるから、僕達も貰おうか。シャルロッテが可愛すぎて、クッキーも可愛いく見えてくるね」

「……クッキーが可愛いなんて……、って言おうとしたけど、ぼ、僕もクッキーが可愛いく見えるよ……。こ、これが妹効果……」

シャルロッテを起こさないようヒソヒソと話しつつ、枕元にそれぞれ用意したプレゼントを置いていく。

それでもシャルロッテは起きることなく眠り続けており、その可愛らしさに覗き込んでいた三人が揃えたように表情を和らげた。

そうして愛おしい妹の寝顔をじっと見つめ……。

「母上から、シャルロッテの寝顔を見るのは三分までにしておけと言われていたな」

「最初は何の話かと思ったけど、確かにこれは時間を忘れるね。ずっと見ていられる可愛さ」

「そ、そろそろ行こうか……。起こしちゃうかもしれないし、つ、次に行かないと」

あまり長居をしていられない。そうハンクが急かせば、ジョシュアとライアンが同意してそっと部屋を出ていった。

◆◆◆

次に向かうのは、もう一人の『サンタクロースを信じて眠る子供の部屋』だ。

言わずもがなグレイヴである。

「可愛い妹の寝顔の後は、可愛い弟の寝顔を見よう。……と思ったのに、起きてるんだもんなぁ、グレイヴってば」

ガッカリ、とライアンが大袈裟に肩を竦めた。

場所はシャルロッテの部屋から移動して、グレイヴの自室。

暖かく愛らしい色合いで揃えられたシャルロッテの部屋と違い、こちらは比較的シンプルな色合いで統一されている。部屋の隅に立て掛けられた模造刀や壁に掛けられた武器のレプリカは、まるで部屋の主の勇ましさを映しているかのようだ。

そんな部屋の一角に置かれたベッド。そこにはじっとりとした目でライアンを睨みつけるグレイヴがいた。

もちろん起きている。布団にこそ入りはしているが、上半身を起こし、手元には本。読書をして待っていたのだ。

「家族が部屋に入ってきて寝顔を見てくると分かっていて、寝れるわけないだろう」

「それはそうだな。私でも起きて待っていると思う」

「僕も……、むしろ寝ろって言われても、た、たぶん眠れないかな……」

グレイヴの訴えに、ジョシュアとハンクが気持ちは分かると同意した。

ライアンもガッカリと嘆きこそはしたものの同意なのだろう、残念そうな声ながら「だよね」と頷いている。

「でもグレイヴってばちゃんとクッキーを焼いておいてくれたんだ。それも袋に入れてくれてる」

「シャルロッテと一緒に焼いたんだ。シャルロッテが、自分と俺の部屋にクッキーがあったらサンタクロースが食べ過ぎになるかもと心配してたから、二人で相談して俺の分は持ち帰れるようにしておいた」

「え、シャルロッテとクッキー焼いたの!? いいなぁ!」

「サンタクロースを信じる子供の特権だ」

フレデリカに命じられた時こそ不満気だったグレイヴだが、シャルロッテと過ごせて気分が晴れたようだ。

そんな末弟の分かりやすさに兄達が顔を見合わせて苦笑する。

次いでそれぞれ手にしていたものをグレイヴに差し出した。綺麗にラッピングされた箱や包みは一目で贈り物と分かる。

これに対して、グレイヴがきょとんと目を丸くさせた。

「……俺に?」

「さすがに手ぶらで弟の寝顔を見にきたりはしないさ。そもそも、それだとサンタクロースじゃなくなるしな」

「でも、貰えると思ってなかったから、俺はなにも……」

「これがある」

クッキーの入った袋を軽く掲げてジョシュアが笑う。

兄らしい穏やかな笑みにグレイヴも笑って返し、それぞれに感謝を告げた。

そうして三人が部屋を出ようとするも、扉を通る直前、「あ」と小さく呟いてハンクが振り返った。

「ち、父上は、遅くなるらしいから……、先に寝た方が、い、いいかも」

「そうか、このあと父上も来るんだった。遅くなるならさすがに寝ようかな」

「父上、『娘と息子の寝顔を見る』って張り切ってたよ。……おやすみ」

穏やかに微笑んでハンクが就寝の言葉を告げ、パタンと静かに部屋の扉を閉めた。

◆◆◆

「ねぇねえ、二人はシャルロッテとグレイヴに何買ったの?」

とは、プレゼントを配り終え、一室で待ってる司令塔ことフレデリカのもとへと戻る最中。

楽し気にライアンが尋ね、まずは自分からだと「僕はねぇ」と話を続けた。

「シャルロッテには凄く可愛い手袋と帽子を買ったんだ。猫の耳がついた帽子で、被ると耳が生えたみたいに見えるんだよ。展示してるだけでも可愛くて、絶対にシャルロッテに被って欲しくってさ。グレイヴにはブローチとスカーフにしたよ。グレイヴってシンプルな服装が多いから、一個柄物をつけた方が締まるのにって前から思ってたんだ」

嬉しそうに話すライアンに、ジョシュアとハンクが彼らしいと返す。

次いで口を開いたのはジョシュアだ。

「最近レスカに絵の描き方を習ってると聞いて、シャルロッテには画材一式を買ってみた。グレイヴには名入のペンだ。騎士として書類にサインすることも増えるだろうし、そういう時に高価な品を持っていると箔が付く」

「ぼ、僕は、シャルロッテがいつも使ってるポシェットに着けられる飾りにしたんだ。それと、に、人形とぬいぐるみサイズのポシェット……。グレイヴにはチェス盤と駒。チェスをするのも好きだけど、集めるのも好きだって言ってたから……」

ライアンもだが、ジョシュアもハンクも二人らしいプレゼントではないか。

本人達も自覚はあるようで三人で顔を見合わせて笑う。

次いで三人揃えたように「それで」と話を改め……、

「これを二人に」

「じゃーん、実は二人にも用意したんだ!」

「こ、これ……、もしよければ」

と、それぞれが二つの箱を取り出した。

三人が再び顔を見合わせる。自分は用意しておきながら、まさか二人が用意してくれるとは思っていなかったのだ。

そんなまったく同じ反応を揃えたようにして、次いでふっと力が抜けたように笑った。

「以前にも同じようなことがあったな。さすが兄弟と言うべきか、考えることは同じか」

「いいじゃん、プレゼント交換だね!」

「な、なんだか気恥ずかしいけど、……まぁ、ク、クリスマスだもんね」

三人でプレゼントを交換し合い、ライアンは嬉しそうに、ジョシュアとハンクは少し気恥ずかしそうに笑った。

◆◆◆

「そろそろ良いか」

とテオドールが壁掛け時計を見上げたのは、夜も更け、日付が変わってだいぶ経ってから。

既に屋敷の殆どは明かりを落としており、普段ならばテオドールもフレデリカも眠っている時間だ。

だが今夜だけは二人とも起きており、それどころかテオドールは今からが本番だと言いたげにベッドから降りた。

「間違えて置かないように気を付けてね」

「あぁ、分かってる。しかし、子供の欲しいものを探るのはなかなか大変だったな」

ベッド横に用意しておいた袋を取り、中を覗きながらテオドールが笑みを零した。

思い出されるのは、シャルロッテの欲しいものを探った時。

サンタクロースに何をお願いするのか、と尋ねたところ、シャルロッテは嬉しそうに笑って、

『ロッティね、タンタさんがきてくれるだけでうれしいです!』

と答えたのだ。

その口調や表情を見るに遠慮しているわけではなく、本当に『サンタクロースが来てくれる』という事だけを望んでいる。

だがプレゼントを贈る側としてはやはり物をあげたい。そう考え、テオドールはフレデリカや息子達とどうにか聞き出そうと奮闘していた。

結果、機転を利かせたレスカが、

「シャルロッテはサンタさんにクッキーを食べてほしいよね? それと同じで、サンタさんもシャルロッテにプレゼントを貰って欲しいんだよ」

と説明し、ようやくシャルロッテは欲しいものを決めたのだ。

ネックレスをしまう素敵な宝石箱が欲しい。

家族に買ってもらった特別なネックレス。胸元で輝く薄紫色の石を大事そうに手に取り、ほぅと吐息を漏らしながら話すシャルロッテは愛らしいの一言に尽きる。

それを聞き、テオドールとフレデリカはすぐに馴染みの仕立て屋と宝石商を呼び、シャルロッテのための特別な宝石箱を用意したのだ。

愛する娘の初めてのクリスマス。サンタクロースからもらう最初のプレゼント。

良い子だという証。

今までプレゼントを貰っていなかったのだ、どれだけ豪華にしても、国一番の宝石箱であってもお釣りがくる。

そう意気込んで話したところ、仕立て屋と宝石商、そしてデザイナーとして呼んでいたライアンから宥められたのは記憶に新しい。

当時を思い出し、テオドールが「あれは興奮しすぎたな」と苦笑した。

「それじゃあ行ってくる」

「えぇ、お願いね。素敵なサンタさん」

フレデリカが楽しそうに見送りの言葉を告げてくる。

それを受け、テオドールは柔らかな笑みを零し、さっそくと部屋を出ていった。

サンタクロースとして眠る子供達の枕元にプレゼントを置くために。

もちろん、五人の子供達にだ。

…end…