軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27:おかえり、ロミー

その日、シャルロッテは普段通りぐっすりと眠り、温かく柔らかな布団の中で目を覚ました。

うとうととする意識でゆっくりと体を起こせば、既に部屋の中は外からの光で明るくなっている。ピンク色のレースのついたカーテン越しでさえ晴天だと分かる良い天気だ。耳を澄ませば鳥の鳴き声が聞こえてくる。

それを眺めつつもうとうとと目を擦っていると、部屋の扉がノックされた。

入ってきたのはメイドのリシェル。

「もう起きていらっしゃったんですね。おはようござます、シャルロッテ様」

「……おぁよ……、おはよ、ございます」

「まだ眠そうですね。もう少し眠りますか?」

リシェルに問われ、シャルロッテは目を擦りながらもふるふると首を横に振った。

眠いけどもう起きる。それを理解し、リシェルが愛でるように苦笑を浮かべつつ朝の準備に取り掛かった。

そうして着替えと身支度を済ませると、リシェルがハンクから言伝があると言ってきた。

「ハンクお兄様から?」

「はい。ハンク様より『ロミーが治ったから部屋においで』と」

「ロミー!」

リシェルの口から出た名前にシャルロッテの胸が一瞬にして期待で跳ね上がった。まだ少し残っていた眠気もあっという間に消し飛んでしまう。

ずっと一緒にいた人形のロミー。

あの暗い馬車の荷台での生活を共に過ごし、共にブルーローゼス家に来て、共に名前を得た大事な人形。いまは治療中だからと離れていたが、ついに会えるのだ。

期待が湧き上がり、居ても立ってもいられなくなる。

今すぐに会いたい。いや、今すぐに会いにいかなければ!

逸る気持ちを抑えきれるわけがなく、シャルロッテはぴゃっと跳ねるような勢いで部屋の扉へと向かっていった。

「身支度を終えてからお伝えしてよかった」

シャルロッテが去っていった部屋の中、残されたリシェルが愛でるように微笑んだ。

◆◆◆

ハンクの部屋の前まで到着し、シャルロッテは焦る気持ちを押さえきれず急くようにノックをした。

待つ間もそわそわとしてしまう。早くロミーに会いたい、早く扉が開いてほしい、そんな気持ちが体から溢れ出しそうだ。今か今かと体が小さく跳ねる。

そうして実際には数十秒、シャルロッテにとっては十分以上に感じられる時間の後、扉がゆっくりと開かれた。

迎えてくれたのは部屋の主でありシャルロッテを呼んだハンク。

相変わらず長い前髪で目元を覆っているものの、口元は柔らかく弧を描いている。

「おはよう、シャルロッテ」

「おはようござます、ハンクお兄様。あのね、リシェルが、ハンクお兄様からロミーが治ったって、ここづ……ことづ……ことづて? があったって。それで、お部屋においでって。だからロッティ、すぐにロミーに会いたくて、ハンクお兄様のお部屋にきました」

ここに来た理由を説明しようとするも、逸る気持ちでうまく言葉にできない。

そんな興奮もまた可愛いと言いたげにハンクが笑みを強め、「落ち着いて」と宥めると同時に室内へと案内してくれた。

そうして最初の部屋で待っていると、ハンクが作業部屋に一度入り、すぐに戻ってきた。

彼の手にあるのは……、ロミーだ。シャルロッテの瞳が一瞬にして輝き出し、堪らず彼のもとへと駆け寄る。

「ロミー!」

「時間が掛かってごめんね。ロミーは治ったから、もう大丈夫だよ」

優しい声色で告げ、ハンクがロミーを差し出してきた。

それを覗き込むように見て、シャルロッテは思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

自分の視界が、あの晩から日に日に輝きを増していた世界が、また一つ輝きを増した気がする。

「ロミー……」

ハンクの手の上で横たわるロミーのなんと美しいことか。

傷だらけだった顔には跡一つ残っておらず、それどころか頬は以前よりほんのり色づいて見える。目の傷もなくなり瞳はまるで輝いているかのよう。梳いても引っ掛かりボロボロになっていた髪も美しく整えられ、そっと指先で触れるとサラリと揺れた。

試しにと恐る恐る手に取り腕や足を動かしてみるも、以前のような痛々しい軋みは無い。どの関節も無理なく自然に動く。

ハンク曰く「体の傷ももう無いよ」とのこと。体も顔や髪と同様、すっかりと綺麗になっているという。

美しい人形。刺繍の入ったワンピースを纏っており、その姿はまるで新品のようではないか。

だが確かにロミーだ。

美しくなっているが、顔も、目も、髪も、シャルロッテの記憶にあるロミーのもの。

ボロボロだった面影はすっかりと無くなり、それでもしっかりとロミーの面影が残っている。

「ロミー、もう痛くないね。良かったね……」

もう大丈夫。

自分も、ロミーも。

綺麗になったロミーを手にしているとその実感が湧き上がり、シャルロッテがロミーに話しかけ……、ぽたと綺麗になった体に涙を落とした。

ぽた、ぽた、と涙の粒が続く。名前を呼ぶ声も次第にしゃっくり交じりになり、ついには声も出せないとロミーの体を抱きしめた。

「シャルロッテ……」

「お、お兄様、ロミーの、こと、な、なおして、くれて、あ、ありがとうございます」

「僕のほうこそ、頼ってくれてありがとう」

ハンクの声は穏やかで、シャルロッテを宥めようとする優しさが込められている。

その声に引き寄せられるように身を寄せれば、ハンクの腕がそっと優しく抱きしめ返してくれた。

そうしてしばらくハンクに抱きしめられながら泣き、落ち着いた頃にリシェルが迎えに来てくれた。

そっと窺うように室内に入ってくる。どうやら扉の外で落ち着くのを待っていてくれたらしい。

泣き止んだもののシャルロッテはいまだしゃっくりをあげており、そのままリシェルに近付くと今度はぽすんと彼女の体に身を預けた。ハンクとはまた違ったリシェルの腕が、ハンクの時と同じように優しく抱きしめてくれる。

「あ、あのね、ハンクお兄様がね、ロミーをね、治してくれてね。見て、ロミーね、きれいになってるの」

「まぁ、こんなに綺麗に……。良かったですね、シャルロッテ様」

優しい声で告げられ、シャルロッテがコクリと深く頷いた。

良かった。ロミーが治ってくれて良かった。嬉しさと安堵が胸を占め、リシェルから離れると再びハンクのもとへと近付いていった。

「ハンクお兄様、ありがとうございます」

ロミーを抱きしめながら改めて感謝の言葉を告げれば、ハンクが微笑んで頷いてくれた。

その動きで彼の前髪がほんの少し揺れて、愛おしそうに細められた目が隙間から覗いた。