軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25:みんなでお茶会

祖父母と手を繋いで向かったのは、屋敷の中で一番広い部屋。

中央には十人以上が座っても快適に過ごせる大きなテーブル。壁には美しい絵画や花が飾られており、窓からは美しい庭を眺めることができる。開かれた窓から入り込む風が質の良いカーテンをふわりと揺らす、美しさと快適さを兼ね揃えた一室だ。

フレイドとアリアが座り、対面にはテオドールとフレデリカ。

シャルロッテが自分はどこに座ろうかと考えていると、室内にノックの音が聞こえてきた。

入ってきたのはジョシュアを始めとする兄達。祖父母の到着には気付いていたが大人数で出迎えてもと考え、部屋に揃うまで待っていたという。

「おじい様おばあ様、お久しぶりです。お会いできるのを楽しみにしておりました」

「お二人ともお久しぶりです。ねぇねぇ、玄関にある大きいぬいぐるみはシャルロッテへのお土産? あれ凄いね」

「おじい様、おばあ様! お元気そうでなによりです!」

これぞ三者三様。ジョシュアはまさに名家子息と言える品の良さで、ライアンは相変わらずの人懐っこさで、そしてグレイヴも彼らしい溌剌とした態度で、祖父母に挨拶をする。

ちなみにハンクは扉の隙間からぬぅと顔を覗かせ、聞こえるか聞こえないか程度の声で挨拶をしていた。これもまた彼らしい挨拶である。

「相変わらず温度差のある孫達ね。でもみんな元気そうで良かったわ。さぁこっちに来て座って、話を聞かせてちょうだい」

アリアが嬉しそうにジョシュア達を招き入れ、フレイドも久方ぶりに見る孫の姿に満足そうにしている。

そんな中、ハンクだけは扉の隙間から顔を覗かせたまま動かずに居た。「……いや、僕は」と躊躇いの声が微かに聞こえる。

シャルロッテは彼が困っているのに気付き、彼の元へとちょこちょこと近付いた。

「ハンクお兄様、お茶しましょ」

「ぼ、僕は部屋に……」

「おちゃ……」

彼の上着の裾を掴んで見上げ、もう一度「お茶」と告げた。

前髪で隠れてしまっている彼の目を、それでも見えていると信じて見つめて。

これにはハンクも根負けしたのか、ふっと息を吐き、口角で柔らかな笑みを作った。目元は隠れてしまっているが、それでも柔らかく優しい笑みだと分かる。

「そ、そうだね。せっかく来てくれたんだし、お茶ぐらい付き合わないと失礼だね……」

苦笑交じりにハンクが了承し、シャルロッテの手を握って室内へと入ってくる。

これに意外そうな表情を浮かべたのはフレイドとアリア。

「あのハンクがお茶に応じるとは。随分と馴染んでいるんだな」

「さすがのハンクも可愛い妹は無下にできないのね。見てフレイド、ハンクどころか皆でシャルロッテを気に掛けているわ」

微笑ましい、と二人が微笑み合う。

彼等の視線の先で、シャルロッテは「自分の隣に」と誘ってくる兄達に囲まれてあわあわしていた。

◆◆◆

祖父母を交えてのお茶会は穏やかに楽しく進んだ。

主な話題は……、というより全ての話題がシャルロッテについてだ。

普段はどんな風に生活をしているのか、どんなものが好きか、何をするのが楽しいのか。

フレイドとアリアから尋ねられることもあれば、フレデリカが促すように話を進める時もある。話し好きなライアンが「この間はね」と共に過ごしたことを語ったりもした。

なんて楽しい時間だろう。

事情を知っているフレイドとアリアは敢えてシャルロッテの過去には触れず、今のシャルロッテを知ろうとしてくれている。

シャルロッテも彼等のことをすっかりと好きになり、自分のことを知ってもらおうと、そして二人のことを知ろうと話をしていた。

そうしてお茶を楽しんでいると、ふと会話が途切れたタイミングでフレイドが小さく咳払いをした。どこかわざとらしく物言いたげな咳払い。

次いで話し出したのはフレデリカ。

「シャルロッテ、おばあ様にお庭を案内しましょう」

「あら良いわね。シャルロッテちゃん、案内してくれるかしら?」

「はい!」

母と祖母に促され、シャルロッテはもちろんだと元気よく答えた。

今日は朝から晴れており、庭の花は美しく咲き誇っている。そこを大好きな母と、大好きになった祖母と散歩できるなんて、考えただけで期待が胸に湧く。

ぴょんと椅子から降りてさっそくと祖母のもとへと向かう。手を握れば嬉しそうに微笑んでくれた。

「ぼ、僕も……、作業の続きがあるから、そ、そろそろ部屋に戻ろうかな……」

ほぼ同じタイミングでハンクが立ち上がった。

相変わらず口の中で喋るため彼の声はボソボソと小さく聞き取りにくいが、それでも「ゆっくりしていってください」と祖父母に伝えると一礼して去っていった。極度の消極性ではあるが根の礼儀正しさが窺える。

そんなハンクの退室に続いたのはライアン。

「それなら僕は夕食のデザート用にタルトを買ってこようかな。ほら、前におばあ様が美味しいって仰っていたタルト。シャルロッテもまだ食べたことがないはずだし、せっかくだから夕食の後に皆で食べよう。というわけでグレイヴ、ついてきてくれないかな」

「俺が? どうして。タルトならライアン兄さん一人でも買いに行けるだろ」

「いいかいグレイヴ、僕は公爵家の子息だ。少しの外出でも護衛をつけねばならないんだ」

「普段一人でふらふらと出掛けてるくせに。そもそも、俺だって公爵家の子息だ」

ライアンの言い分に不服だとグレイヴが眉根を寄せる。父親似の男らしい顔付きの彼が顔を顰めるとなかなかの迫力だ。

もっともグレイヴがどれだけ渋ろうと不満を露わにしようと、ライアンが臆するわけがない。彼にとっては可愛い弟の可愛い不満顔でしかないのだ。

現にグレイヴの不満も右から左へと聞き流し「まぁまぁ、それじゃ行こうか」とあっさりと話を進めてしまった。これに抗うのは無駄だと考えたのか、グレイヴが溜息交じりに応えて立ち上がり部屋を出て行った。ライアンがそれを上機嫌で追う。

シャルロッテが彼等が去っていた扉を見つめる。

次いではっと息を飲んだのは、このままだと、部屋に残るのはテオドールとジョシュア、そしてフレイドの三人だけになってしまうからだ。

テオドールはフレイドを苦手だと話していた。部屋に残しては彼が辛いのではないか。

そう考えてシャルロッテがテオドールも庭にと誘おうとするが、それより先に他でもないテオドールから「行ってきなさい」と言われてしまった。

「でもお父様……」

「シャルロッテはたまに庭師の手伝いをしているもんな。このまえ水をやっていた薔薇が咲いたんだろう? おばあさまに見てもらうと良い」

テオドールの口調や声色は優しい。だがそこに確かな覚悟を感じるのはシャルロッテの気のせいではないはず。

ならばここは彼の言う通りにしよう。そうシャルロッテは幼いながらに考え、「はい」と頷いて返してアリアとフレデリカを連れて部屋を出て行った。

これが、ムコヨウシのサダメ……。

と、心の中で呟きつつ。

『ムコヨウシ』も『サダメ』もよく分からないが、きっとそうなのだろう。