軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

067話 全滅の海賊

その時、男たちは困惑していた。

「おい、ここはどこなんだ?」

リハジック子爵家の家人。ガーブンド=タカヤハィは、今自分達が何処に居るのかが分からなかった。

辺りには、自分の部下が転がっているものの、さっきまで居たはずの場所から全く違う場所に居ること以外には分からない。

止む無く、周りで寝こけている連中を無理矢理起こす羽目になる。

その中の一人が、寝惚けたような声で周りの風景に意見した。

「どうやら、モンィエの辺りのようです。俺、ここの生まれですんで、風景に見覚えがあります」

「ほう、なるほど。ならば、とりあえずの腹ごしらえぐらいは出来そうだな」

一昨日の晩から、特殊事情により何も食べずに過ごしてきた。都合一日半何も食べていない。喉もカラカラに乾いているし、腹も空きすぎで倒れそうなほど。

この村出身の連中が、自分の生家や見知った親戚の家から集めてきた飲食物を、全員が貪るように腹に入れる。人心地がつけば、落ち着きも出てきた。

「結局、あの後どうなったんだ?」

「分かりません。あそこで寝ていた筈ですが、気づけばここに……」

「皆、同じです」

「ふむ。一体奴らは何を考えているのか」

ガーブンドはしばし黙考する。

敵の思惑が、とんと見当もつかない。

とりあえず、相手の言い分通り自由になったというのならば、取り急ぎ自分たちの主に事情の説明ぐらいは必要だろう。幸い、今居る場所は分かるのだから、主の下に帰ることも容易なはず。

そう思って立ち上がった男。

ガーブンドは、その瞬間に血の気を無くした。

周りを、見慣れない一軍に包囲されていることに気付いたためである。

「構え!!」

周りの軍のどこからか声がした。幼い声だった。

それに合わせて弓が構えられる。

不味い。死ぬ。

その直感が、ガーブンドを動かした。

咄嗟に物陰と人影に隠れた瞬間。

「放てっ!!」

号令の声が聞こえた 須臾(しゅゆ) 。

辺りは真っ赤な血で染められるのだった。

◇◇◇◇◇

ボンビーノ子爵領の港街ナイリエ。

そこからしばらく船で進めば、急激な海流に挟まれた海域が存在した。

海流の上に乗ってしまえば、風が相当に吹かない限り流されてしまうので、それを避ける為に自然と通ることになる限られた空間。

待ち伏せという目的には、最も適する場所に、彼らは居た。

リハジック子爵家の家人。海賊を装った一団だ。いや、実際に海賊行為をしているわけだから、まごう事なき海賊ともいえる。

「 親分(おやびん) 、見張りから報告です」

「親分と呼ぶな、船長と呼べ。心まで海賊になるぞ。それで、報告の内容は?」

「例のボンビーノの残党が、見えたらしいです」

「そうか、よし。モルテールンの船は見えたか? あいつらが居たなら逃げるしかないが」

「いえ。船の外装もボロボロですし、操船しているのはボンビーノ家の人間だったそうです。元ボンビーノ家の奴に確認させたので、間違いないっす」

「ならば予定通りだ。これで晴れて俺たちも従士になれる。皆、気合を入れろ!!」

「「おおう!!」」

部下達が一斉に呼応する。

彼らは一つの未来を信じてやまないからだ。

ボンビーノ子爵家が没落を決定づければ、お家は取り潰しとなる公算が大。新たに如何な家が御役目を任じられるにしても、手続きだけで半年以上。下手すれば数年は手続きにかかる。

領地を分割される可能性もあるし、相続などとは違って全く新たに家臣団の整備等々を行わなければならないのだから。時間が掛かって当然。

そうなればその空白期間を使い、既にリハジック子爵が既成事実を積み上げている街道沿いの村々を、一気に手中に出来る。軍を入れる大義名分さえ出来れば、後はリハジック領編入まで一直線。

南部の主要街道をどちらも掌中にしたならば、お家の躍進は間違いなし。そこで、自分達にもある程度の役職や地位が与えられる。従士として雇われる人間も間違いなく増える。

ボンビーノ子爵家の没落を決定づけた功労者ともなれば、与えられる権益もでかいに違いない。

そんな、未来。

「よ~し、そのままこいこい。てめえら、あの船、残らず奪うぞ!!」

「もし、ボンビーノ子爵が乗っていたらどうします?」

「知らんな。あの船には、最初から人なんぞ乗っていなかったんだよ。良いか、今の俺たちは海賊だ。船に誰が乗っていようと、やることは一つ。ぬかるなよ」

「アイアイ親分」

「だから、親分と呼ぶな」

いよいよ、自分達が海賊に扮してまで行っていた作戦の最終局面。否が応にも気持ちが盛り上がるというもの。

気合を入れろとの言葉通りに気持ちを奮い立たせていた彼らであった。

だが、海賊たちの思惑は木端微塵に砕かれる羽目になる。

たった一人の少年によって。

「あん、なんだか様子がおかしい……不味いぞ、謀られた。急いで逃げろ!!」

近づいてきた船の様子が、明らかにおかしかった。

ボロボロに思えた船は、表面にボロボロの様子を描いているだけだ。船同士くっつくほどに近づけば、空いた穴らしきものも表面に描かれただけと分かる。光の当たり具合で不自然に過ぎた様子がはっきりと見えた。

ボロボロどころか、随分としっかりした防備が隠してあったのだ。

それに気づけたのは、気合が入って集中していたからだろうが、全ては遅すぎる。

偽装船の甲板に出て来ていた少年の声が、自分たちの船まで届いた。

「遠慮は無用です。徹底的にやりなさい!!」

「「おお!!」」

一斉に上がった鬨の声。鯨波に怯むのは、海賊側だ。

「畜生が!! なんでモルテールンの連中が居やがるんだ。聞いてねえぞ!!」

敗戦後のボロ船。に、偽装した船を使い、やすやすと海賊に接近したモルテールン家を筆頭とする面々。

船足の偽装も兼ね、定員オーバーにも思えるほど戦闘員を詰め込んでいた船から、わらわらと武装集団が湧きだす。

これには、海賊に扮したリハジック家の面々も、対処しきれない。

一つの船の中の人数など、増やせと言って増やせるものではない。

限定空間での、限られた戦力同士の戦い。

こうなれば、兵の数以上に兵の質が物を言う。

元々は騎士に憧れ森の傍で育ってきたリハジックの面々と、船を揺りかご、波音を子守唄として育った水龍の牙の面々。質の差は明らかだった。ましてや数でも劣勢となれば、反撃のしようも無い。

しかも、魔法で的確に援護しつつ指揮する少年が、より一層厄介だ。周りをがっちりと囲まれて護衛されながら、少年の視野は広い。

右往左往する海賊もどきとは、統制の取れ方がまるで違う。

「降伏すれば命は取らない。賊共聞こえるか。降伏しろ。そうすれば命までは取らない!!」

体格もよく、人一倍声のでかいトバイアムやセルジャンが、声を張り上げる。

モルテールン家の面々は、圧倒的優位な状況を背景に、海賊と思しき者達を降伏させていく。手際よく縛り上げては、一角に集めていくのだから、優位さの天秤は傾く一方。

しばらくすれば、海賊船三隻はモルテールン家の面々に鎮圧されていた。

戦いと呼ぶのも 烏滸(おこ) がましいほどの一方的な戦い。偽装船による奇襲で、一気に得意な戦場に持ち込んだモルテールン側の作戦勝ちである。

拿捕した船の一艘が戦場から離れて、総指揮官ボンビーノ子爵ウランタを呼びにいく。救助された者達を載せて、船足が極端に低下した船でやってくることになる。

仮に夜襲を撃退できていたとしても、海賊に待ち伏せされ奇襲に遭っていれば、逃げることも出来ずに全滅していたに違いない。

そう思えば、ペイストリー達が援軍として来ていた意味は恐ろしく大きい。

モルテールン家に求められていた、海賊の討滅と海上交易路の確保はここに成る。

奇襲部隊を奇襲する、圧倒的大勝利という形で。

「さて、ここからが本番ですね」

「ふつう、これで終わりって考えませんかね? 頼まれたことは 終(しめ) えでしょう」

「何を言っているのです。良いことを思いついたと言ったでしょう。これからが面白いのですよ」

「俺を巻き込まねえでいるなら、喜んでも良いんですがね」

「なら残念。シイツを巻きこむのは確定です」

「うげっ」

シイツは呻く。

彼の少年が企てをし、まともに終った試しがないのだから。

砂糖を作ろうとして酒を造ってしまう程度は序の口で、何かにつけて人を振り回す。それに毎度頭を痛めるのは、シイツを始めとする大人たちだ。

「さて、僕はちょっと準備したいことがあるので、もうすぐこっちに来るウランタ殿とのやり取りは任せます。打ち合わせの通りに頼みますよ」

「坊が居ないことはどう言い訳するんで?」

「僕は、海賊との戦いで行方不明になりました」

「無理があるでしょうよ」

「構いません。それを理由に、後の指揮は全面的にウランタ殿が行うようにしてください。むしろ、彼らはそれを望むでしょう」

「ほう?」

ペイスには、一つの予想があった。ボンビーノ子爵家の思惑について。

「ボンビーノ子爵にとって、このまま海賊討伐だけで終わりにはしないでしょう。彼らは、海賊が溜めこんだ金銭やお宝を相当程度あてにしていたはずです。多分、大金を奪われた商船でもあったのでしょう。或いは、子爵家の運搬船か。どれにしろ、金回りが悪くなっているボンビーノ子爵としては、それこそが今回の作戦の真の目的です。多分、うちへの払いはそれでする気ですよ」

「それは、何か根拠があるんで?」

「行動の幾つかに矛盾があるからです。真剣に、討伐のみを考えているのならば不自然な行動があったでしょう」

「そんなの有りましたかね?」

シイツは首を傾げる。

ボンビーノ家の不自然な行動と言われても、どれがそうなのか思い当たらなかったからだ。

「ありましたよ。例えば、船内のスペースが相当に余裕を持っていた事などです。彼の子爵の立場なら、例え碌に役に立たない有象無象でも、兵の頭数を出来る限り揃えたかったはずです。船内に、載せられるだけ男手を詰めようとしていたはず。或いは、食料や水を可能な限り積み込みたがったはずです。危険や不確定要素が幾らでも考えられる初陣。わざわざ船室に空きを作る余裕など無いはず。ならば、彼らには船内に空きを作っておきたい理由が別にあったと考えるべき」

「なるほど」

「一番しっくりくるのは、何かを後で積み込みたかったという理由。海賊討伐後に載せたがる荷物なんて、海賊のお宝と相場は決まっています。しかも、船内のスペースを調整できているというのなら、予め賊が溜めこんだ財宝の見当が付いているということ。という推測で、ニルダさんにも確認を取ったところ、ここしばらく海賊の動きが活発だったらしく、レーテシュ伯領に向かう大きめの商船が襲われていたらしいです。中には、相当量の財貨があったはずだとか。金額にして五千クラウン以上」

「ひゅうぅ、そりゃスゲエ。そんな情報を得ていたなら、確かに海賊討伐をやりたがっていた理由も納得できまさぁ」

今まで散々荒らされていたのだとすれば、溜めこんでいる財宝もまたそれに比例しているはず。その程度の予想は、誰にも分かるものだ。

そして、被害の見積もり。ひいては賊の懐事情の推測が、一番正確に出来るのがボンビーノ家であるのも事実である。

海賊の収奪品は、討伐した者に所有権が移る。今までの被害が大きければ大きいほど、海賊の溜めこんだお宝に対する期待値も増すというもの。

「ウランタ殿には、海賊の根城を捜索する方で指揮してもらいましょう。空っぽの巣を漁る様なものですから、ローリスクハイリターンのお手本のような作戦です」

「そりゃボンビーノの連中は喜ぶでしょうよ。それで、うちらはそんな美味しい作戦に参加しないってわけで?」

「僕らは僕らで、一番美味しいところを食べに行くとしましょう。それでは、手筈を整えてきます」

そう言って、ペイスは何処かに転移した。前もって話を聞いているシイツ以外は、何処に転移したかを知らない。シイツはペイスが瞬間移動の魔法が使えることを知っているため、尻拭いは大抵従士長の役目になる。

損な役回りだ。

件の苦労人がウランタを迎えた時、当然ペイスの不在を聞かれた。

「シイツさん、モルテールン卿は何処に?」

「さあ、どこにいったのやら。とりあえず、行方不明ってことにしておいてくれとのことです」

「はい? よく分かりませんが……モルテールン卿の事ですから、何か意味があるのでしょう。承知しました」

「ああ、それと。うちの坊から、海賊のアジト捜索と残党追撃の指揮を執って貰いたいと伝言があります」

「え? よろしいのですか?」

ウランタが驚いたのにはわけがある。

賊討伐の経済効果三要素。短期的な財宝入手、中期的な懸賞金獲得、長期的な治安効果波及。これらを得る手柄を、全てウランタに進呈します、というような話だからだ。

一時は、自分の死すらも覚悟した後の、美味しすぎる話。棚から牡丹餅どころではない。

「坊が良いって言っているわけですし、良いんでしょうよ。とりあえず、海賊を締め上げて吐かせたアジトの位置がここですぜ」

「近いですね」

「早速向かいますかい?」

「それが良いと思いますが……」

チラリと確認した補佐役が頷いたのを見て、ウランタは号令を下す。

旗艦を燃やされるという不手際に対する、名誉挽回のチャンスが到来したと奮い立った。

「海賊の根城を捜索し、残党を討滅します。進路は北に向けてください」

「進路を北に。その間に食事もとっておけ!!」

さほど広くない船の中。

海賊のアジトに向かうという話は即座に皆へ伝わる。

財宝を集める仕事となれば、余禄が幾らでも考えられる、よだれの出そうな話。

どっちが海賊なのか分からないような面々が、一路海賊アジトに向けて進軍する。

しばらくすれば、海賊の根城が見えてくる。

海賊のアジトは、岩礁の多い海域にある、小島に隠れていた。

そこに足を踏み入れた瞬間、ウランタは顔を酷く顰めながら呟いた。

「酷いものですね」

粗雑な、洞窟のような場所に、海賊の残党が数名と、保護対象と思われる人間が若干名。

大所帯の武装集団を見て、残党は戦うことも無く降伏する。

この、若干名が顔を顰めた理由だ。

「うっ」

「おい、誰か布持って来い。毛布でもいい」

アジトの中には、確かに財宝が積まれていた。

眩いばかりの金銀宝玉。ざっと見て数千クラウンはある。モルテールン家と山分けにしても、子爵領の年収の倍は稼げただろう。

だが、喜ぶ人間は居ない。

見るからに暴行の痕がある女性たちも居たからだ。彼女たちがどういう目に遭っていたのかは、ウランタですら容易に想像がついた。目を背けたくなる衝動を、ボンビーノ子爵は必死にこらえる。

彼女たちの保護は、自分の役目だと気持ちを鼓舞し、責任感で背筋を伸ばす。

財宝や女性たちを船に積みこんだ後。問題が一つ残った。

捕えていた海賊たちをどうするか、である。

海賊と言ってはいるものの、同時にリハジック子爵家の家人ということも自白済み。捕まえたのはモルテールン家の指揮下で行われていたため、ウランタには処罰の権限が無い。

奴隷に落とすにしろ、殺すにしろ、その裁量権はペイスにあるのだ。

ペイスが皆の下に戻った時、当然議論になる。

開口一番、憤りを隠さないボンビーノ子爵が息巻いた。

「奴らは死刑にするべきです。そうでなければ、禍根を残します。海を不法に荒らし回り、財貨を不当に収奪していたのみならず、女性に対して非道を働く連中に、情けなど無用です」

「ウランタ殿、その意見も正論ではありますが、彼らの扱いについて、権利は僕らにあります」

「それは分かっています。しかし、解放して自由にするなど……」

ウランタが問題視しているのは、ペイスが言った言葉。

曰く、海賊とされた連中を、自由にして解き放つというのだ。

「無論、単にこのままというわけではありませんし、無罪放免というわけでも無い。彼らには、我々の役に立った上で、罪を贖ってもらいます」

「それは、どういうことです?」

「すぐにわかります。まずは、賊と話をしましょうか」

そう言って、ペイスは盗賊たちの傍に来る。

「さて、あなたたちには、これを飲んでもらいます。ちょっとばかり眠たくなる水ですから、飲めば一日から二日、気持ちよく夢の中です。目が覚めた時から、あなたたちは自由の身とします」

ペイスの言葉に、言われた方は驚いた。

死刑や奴隷落ちを覚悟していた身として、無罪放免と言われたような言葉に驚かない方がおかしい。

だが、ここで下手に逆らって、折角自由にしてくれるというのを翻されてもかなわない。

言われた通りの行動を取り、海賊たちが皆眠りについたのを見計らい、ペイスは魔法を発動して残らず【転移】させる。無論、ウランタ達の見ていない所で。

「これで下ごしらえも終わりましたね。それではリハジック子爵に、舐めた真似をしたツケを清算してもらいに行くとしましょう」

自信あふれる少年の姿に、モルテールン家一同は頼もしさを感じるのだった。