軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

424話 歓迎の中

晴れ渡る青空の元。

神王国の王都では、盛大な準備が行われていた。

大通りには騎士たちが出張って人だかりを整理していて、普段なら屋台も並ぶ通りが綺麗に開けられている。

わざわざ大通りを整理するのは、珍しいことだ。

王都では、お祭りのように賑やかになることが時々ある。

近年で言えば、大龍を討伐したことを祝った時などがそうだ。

王都に運び込まれたどでかい龍の頭を見ようと、あちらこちらから人が大勢集まってお祭り騒ぎになった。

或いは、戦勝式典。

戦いに勝ったことを知らせる為に、そして勝利を祝うために、王都の中も実に賑々しく人が蠢く。

ここ最近は戦争と呼べるものも少なくなっているため開催されたのはそう多くはないが、いざ祝うとなると町中が熱を帯びたように浮かされるのだ。

だが、今日は何かが違う。

何が違うかと言えば、まず屋台が無い。

お祝い事であるならば、事前に通達が下りてきて屋台も先を争って商売に励むところ。

今日は、常設されている屋台すら片付け、道沿いが綺麗に開けてしまっていた。

更に、騎士団の気合が凄まじい。

普通の祝い事であれば、騎士団は交通整理役。治安維持を任務とする為、どこかやらされている感じが漂うもの。

誰だって、祭りごとには参加したいし、楽しいことは騒ぐ側に居たいだろう。

しかし、騎士はそういう浮かれる連中を制御し、落ち着かせる側。祭りごとを運営する側だ。祭りを楽しむなど出来ない。

規律の整った騎士団であるから不満を表に出すような人間は居ないが、それでも楽しそうな雰囲気からは縁遠く、どこか義務感で動く雰囲気があるのだ。

しかし、今日は騎士団の面々がビシっとしている。

動きにキレと張りがあるのだ。

祭りの主役が自分たちだと言われたときのように、何か張り詰めた緊張感が有る。

「おい、何が起きてるんだ?」

一体何が起きているのか。

不審がる野次馬に、何故か物知り顔でドヤる野次馬。自分もついさっき聞いたばかりなのに、さも自分の手柄のように自慢げに語る。

「外国のお姫様が来たからって、顔見世の 行進(パレード) をやってるんだとよ」

「なるほど。騎士様たちが気合入ってるのは、外国のお客さんが来てるからか。そりゃあ、みっともない姿は見せられねえよな」

野次馬の喧騒と雑踏の中。

人だかりの中を掻き分けるようにして、着飾った兵士に囲まれた豪華な馬車がやってくる。

四頭立ての“らくだ車”が三台。

その後ろに、二頭立てのらくだ車が数台と、長い長い兵士の行列。

数にしておよそ三百人。三人ほどが横に並んだまま、ずらっと百を超える列が続くのだ。

歩く姿は、異国情緒満点。神王国人とは、歩く姿勢からして何か違うのだが、およそ鍛えられているであろう足並みは揃い、精強さを匂わせる。

神王国では見慣れない湾曲した剣を佩き、やや狭い歩幅で並ぶ兵士。

ヴォルトゥザラ王国風の民族衣装を着こんだカラフルな集団が、規律正しく行進する様は見ごたえがある。

諸外国の事情に通じた人間であれば、赤い色合いが強いことに意味を見出す。赤い色一色ということは無く、多様な色彩であるのは間違いないのだが、誰の服にも共通しているのが赤い色ということ。

薔薇を一族のモチーフとするロズモにとって、赤色は象徴色だ。

カラフルな中でも、やはり全体的に赤味の強い服装が多い。

町の中を綺麗に足並みを揃えて行進し、やがて一行は王城までたどり着く。

「ヴォルトゥザラ王国御一行、入城!!」

儀典官の声と共に、ヴォルトゥザラ王国の一団は威風堂々と城の中に入っていく。威儀を正し、一切乱れぬ足並み。外国の、それも長らく争ってきた仮想敵国中枢部に侵入するという状況に、兵士たちも緊張の一つもあるだろうが、それでも乱れないのだから素晴らしい。

流石は大国ヴォルトゥザラ王国の兵士たちだと、神王国人の誰もが感心する。

入城したところで、一行の目に飛び込んできたのは神王国の威信そのもの。

王城の、見事な装いだ。

城は美しく磨き上げられてチリ一つなく、更には随所が飾られており、高価な美術品は惜しげもなく並べられている。

普段は城を守っている神王国の騎士たちも新品の鎧姿で綺麗に整列をし、磨き上げられた甲冑がまるで水面の如く綺羅やかに風景を切り取っていた。鎧にも装飾を多用するヴォルトゥザラ王国では、こうはいかない。質実剛健を旨とする騎士の国であるからこそ、居並ぶ騎士の鎧もシンプル。だからこそ、生まれる機能美。これが神王国の精鋭だと、何も言われずとも理解できてしまう。

明らかに歓迎の準備を整え、手ぐすね引いて待ち構えていた様子。

ヴォルトゥザラ王国の人間たちは、流石に緊張を強める。今まで幾度となく殺し合った国の、最精鋭に囲まれるのだ。それも、完全に武装している状態で。いつでも自分たちを襲える状況で。

これで神王国の人間が邪なことを考えて襲ってきたらどうなるか。

精鋭だからこそ、もしもの最悪に備える意味で不安も大きい局面。

「ここからは、私がご案内いたします」

囲んでいる騎士たちの中から、一人の男性が進み出る。

第一大隊の大隊長にして、神王国の重鎮カドレチェク公爵家の嫡子スクヮーレ=ミル=カドレチェクその人だ。

外国の要人を城内に案内するに際して、神王国としてかなり厚遇していることをアピールする形。

国王その人や王妃が案内するのが最上級、王子や王子妃、或いは姫が案内するのを次点とするのならば、次いで三番目に高い立場の人間の案内になる。上二つが、神王国より上の立場の来客を案内するために行われる外交儀礼とするなら、“対等”の相手に対しては最も高い格式で歓迎をしていることになる。

神王国の国力の一端をこれ見よがしに見せつける歓迎の中、ヴォルトゥザラ王国の姫君は静々と進む。

神王国の騎士たちに先導され、自国の兵士に守られながらの移動である。

案内されたのは、王城の中でも最も格式の高い部屋。国王の御座す謁見の大広間だ。

ここが使われることも久しいのだが、扉の前に立つだけでも気圧されかねない威圧感を感じる。

「ヴォルトゥザラ王国王女シェラズド=ロズモ=マフムード殿下。ご入室!!」

儀典官が、謁見の間の前で大声を張り上げる。

部屋の中に届いたであろう声に合わせ、大きな扉がゆっくりと開く。

姫が目にしたのは、眩いばかりに輝く部屋と、数えきれないほどの人。

謁見の間。

そこでは貴族たちがずらりと並び、文武百官打ち揃って来訪者を迎えていた。

男爵以上の人間は全員が並び、遠方より来る領地貴族も並ぶ。他にも低位貴族の中でも役職を持つものや、王家の信頼の篤いものは参列している。

神王国の総力と言って良い人材たちが、たった一人を歓迎するために整列していたのだ。

国家の貴人が勢ぞろいし、たった一人の女性に対して両の眼を向ける。常人であれば気圧されかねない、圧倒されるような雰囲気の中。

マフムード家の公女は笑顔のまましずしずと歩く。こぶし一つ分ほどの僅かな歩幅。歩いているのかどうかが怪しいほどの動きのまま、部屋の中に歩みを進める。

護衛は二人だけ。どちらも腰に曲刀を佩いていて、いつでも抜く覚悟は出来ている。最悪のケースを想定したなら、この二人が姫を守る最後の盾にして唯一の守り。

選びに選び抜かれた最精鋭が、姫の後ろに控える。

やがて、姫の足が止まる。

背筋を伸ばしたままスッと膝を折ったところで、姫の“頭上”から声が掛かる。

「ようこそ来られた。神王国を統べるものとして、そなたの来訪を歓迎しよう」

謁見の間の最奥に座し、数段高い位置の玉座で威風堂々と異国人を迎えるのは国王カリソン。

興味深そうな笑顔を向けつつ、外国人を温かく迎える言葉を発した。

「偉大なる陛下に歓迎頂けましたこと、身に余る光栄と存じ上げます。ヴォルトゥザラ王国“公女“シェラズド=ロズモ=マフムードが御身にご挨拶申し上げます」

低く身をかがめ、両手を体の前で交差させた挨拶をするシェラ姫。

マフムード王家の王女であり、ロズモ一族の公女である以上、挨拶一つとっても洗練された動きを見せる。指の先の先まで意識して、何一つとして文句のつけようのない礼節での挨拶だ。

神王国の儀礼とは異質である。しかし、動き自体は確かな礼節を感じるもの。

シェラ姫は七色を使った幾何学模様の衣装に身を包み、頭にはヴェールを被りつつも花冠を付けるという、神王国人からすれば明らかに異文化と分かる恰好をしていた。

意匠全体が薔薇をモチーフにしてあるのか赤が目立ちながらも、それでいて黄色や青、緑や橙色といった色も散りばめられている為、かなり派手な衣装である。

しかし、下品さとは縁遠い。

秩序だったカラーリングなのか、一見すれば無秩序にも思える色の配置は計算された配色で、国王の位置から見れば丁度全てが調和して一色にも見えるように手の込んだ一品。

更に、姫自身の美貌が服の派手さに負けていない。

ヴォルトゥザラ王国人らしい褐色肌に、きつめのアイシャドウ。

エキゾチックと言えるメリハリのある顔立ちに、細身ですらりとした体躯。

動きの一つ一つにもしなやかさと気品があり、神王国の常識とは違いはするものの、高貴な身分であることがはっきりと感じられた。

「長旅はさぞ疲れたのではないかな?」

「お心遣いに感謝いたします。されど我が国と神王国は近しい隣国。疲れるといったことはございませんでした」

国王が、疲れただろうと問いかけ、姫がそうでもないと答える。

ただの雑談のようにも思えるが、そうではない。

ヴォルトゥザラ王国と神王国は隣国であり、緊張感を持っている関係。

王が気遣いを見せたところで、姫が国同士が近くなので疲れなかったと答えたということを貴族的に解釈するならば、お互いの国同士の友好関係を確認し合ったということになる。

罷り間違っても遠かった、疲れたなどと言ってはいけない。自分たちの立ち位置が、友好的なものであるとの認識が共有できれば、まずは上々。

「左様か。大事な友邦からの客人。其方の身の安全は、この国を統べるものとして保証しよう。改めて、心から歓迎する。よく我が国へ来られた」

「はい、陛下」

ぺこりと頭を下げる姫。

神王国国王の言質をもって、姫の安全は保証された。

国王の綸言は汗の如し。神王国の客人となった姫は、王の名のもとに守られるということだ。

「ひと月ほどの短期留学と聞いている。よく学び、そしてこの国を好きになってもらいたい」

国王の言葉に、姫は笑顔で応えた。