軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45:飛行の翼

輝く翼をバサリと羽ばたかせれば、私の体が旋回した。

上昇、下降。方向転換も自由自在だ。

「ミャー!」

背中のコタローが爪を立ててしがみついてくる。

コタローが振り落とされない程度には、姿勢も安定していた。

「なるほど……。『飛行』と相性のいい『翼』を加えると、こんな効果があったなんて」

私は感心しながら、ふわりと地面に降り立った。

『悠』の漢字があるお陰で、持続時間も長い。まだ霊珠が砕ける気配はない。

「何でもありだな、お前」

シルヴァがドン引きしつつ、私の背後に回り込んで背中の魔道具を確かめている。

「うむ。魔力の流れは想定内だ。『飛』『行』『悠』『翼』で霊珠を四つ使っても、オーバーヒートはしていない」

今度はヴィオラが近づいてきた。

「今の様子を見るに、運搬は心配なさそうですね。あとは飛行の持続時間と、どのくらいの量の物を運べるか」

「時間は形容詞の『悠』が入っているから、最大で半日くらいだと思う。運ぶ量は、いっそ『軽』の文字を使えばそこの荷馬車ごといけるんじゃないかな」

荷馬車とロバを指さすと、ロバはビクッとした。失礼な。

ヴィオラは頷いた。

「では、目星をつけた場所まで案内します。私を連れて飛べますか?」

「ヴィオラ一人なら『軽』を使うまでもないかも。ちょっと背中に乗ってみて」

コタローに降りてもらって、今度はヴィオラが私の背中に掴まった。

背の高い人だが、細身の女性だ。そんなに重くない。(重いと言ったら殺されそうでもある。)

『翼』も実体があるわけではなく、恐らく魔力でできたものだ。背中に人が乗っても邪魔にならない。

「よし、何とかなりそう!」

バサリと大きく羽ばたくと、体が浮き上がった。

できるだけ水平姿勢を維持して、ヴィオラが乗りやすいようにする。

念のため私の体にベルトを巻いて、ヴィオラを固定した。

「じゃあシルヴァ、コタロー、ちょっと行ってくるね!」

「不安だが……気をつけて行ってこい」

さらに羽ばたけば、地上はみるみるうちに遠ざかった。

冬の雪をかぶった森が遠ざかる。

少し高度を上げれば、シルヴァたちの姿は小さくなった。

「方角はあちらです」

「了解。しっかりつかまっていてね」

そうして私たちは空の旅を始めた。

歩けば苦労する森の道なき道も、空を飛べばあっという間。

私はなるべく目立たないよう高度は上げず、木々の梢すれすれの場所を飛んでいった。

『悠』の漢字の効果が出ているお陰で速度はそこまででもない。

馬車と同じくらいの時速二十キロメートルとか、そんなところだろう。

速度はそう速くなくても、直線距離を突き進めるのがとても大きかった。

梢をかすめるように飛ぶと、枝が揺れる。

よく見れば小さなリスがいて、びっくりしたような顔で私たちを見上げていた。

冬の風は冷たかったけれど、それ以上に爽快感がある。

ゆったりとした速度で飛んでいくのは、まるで鳥になったような不思議な気持ちだった。

(前世で好きだった格闘漫画も、気功の力で自由に空を飛ぶんだよね。子供の頃、憧れていたなあ)

ふと、そんなことを思い出した。

「……すごい。まさか空を飛べるなんて」

背中からヴィオラの感嘆の声が聞こえる。

「プリムローズ、あちらを見てください」

西の方を見やると、冬の青空を背景に例の岩山が見える。

奥の険しい山々はすっかり雪をかぶって、真っ白になっている。

陽の光を反射してキラキラと輝く様子は、遠目にも美しかった。

コタロー親子とドラゴンは、本来深い山に住んでいたのだと思う。

突発的な出来事とはいえ、ドラゴンがあの場所までやって来るのは異常だとシルヴァが言っていた。

もう一度ドラゴンに遭遇したら、きっちり勝つ自信なんてない。

これ以上は勘弁である。

「森を回り込んで行けば、四、五日はかかる距離ですが。この調子なら、数時間で到着できそうですね」

背中のヴィオラが言った。

私の背中にまたがるように座って、魔道具のベルトをつかんでいる。

「目的地は森の外れで、二つの村から一日の距離にある場所です。小高い丘のようになっているので、丘の陰に倉庫を作れば目立ちません」

「いいね。倉庫はどうやって作ろうか」

「木材を運び込んで小屋を作ってもいいですが、お手軽なのは霊珠で斜面を掘る方法かと」

「オッケー。じゃあまた『爆』で即席洞窟を作っちゃおう」

ヴィオラの言う通り三時間ほども飛ぶと、森の木々がまばらになっていった。

その先はなだらかな丘が見える。

上空から見ると大したことのない起伏に見えたが、降り立ってみるとそこそこの高さだ。

頂上に立ってみれば、北と東の方角にかすかに村らしき建物の影が見えた。

「本当だ。村からほどほどに近いし、丘の陰なら目立たない。いい場所ね」

「そうでしょう。では頼みます」

「はいよ、『爆』っと」

村から見えない角度の斜面を狙って、『爆』の漢字で地面を爆破した。

どーんと爆破音が鳴り響き、後にはえぐれた斜面が出現していた。倉庫の洞窟、一丁上がりだ。

「あとはここに調理済みの冷凍肉を運び込んで、ヴィオラが売りさばく、と」

「ええ。あの二つの村以外も、数日の距離で集落がいくつか点在しています。もう少し北に進めば領都である大きな町もありますよ」

「当面は小さい農村で、飢え死にしそうな人に優先的に売る、でいい?」

「もちろんです。ただ、完全に無料とはいきません。多少の対価をもらわなければ。損得の問題でなく、彼らのためでもあります」

対価か。

確かに無料の施しをもらうのに慣れてしまうのは良くない。

私たちは飢える人を減らしたい。けれどできるのは支援であって、結局は自分の足で立ってもらうしか解決法はないからだ。

「でも、食べるものさえないような貧しい村が多いんでしょ? お金払えるかしら?」

「お金でなくていいのです。手持ちで少しでも余裕のあるものをもらっておきましょう」

ヴィオラが不敵に笑った。考えがあるようだ。

「何だか搾り取るようで気が引けるけど……その辺の交渉は任せていい?」

「ええ、任せてください」

話はまとまった。

飛行のための霊珠はまだ砕けていない。魔力が安定しているので、帰りの数時間は保つだろう。

「それじゃ、一度戻ろう」

私は翼を広げる。

帰りもまた、快適な空の旅になった。

無事に戻ってきた私たちを見て、シルヴァはやれやれと肩をすくめた。

何気にけっこう心配していたようだ。彼はどうも神経が細くて心配性に見える。

「あまり心配ばかりしていると胃を悪くしちゃうよ。リラックス、リラックス」

励ますつもりで言ったら、ジト目で睨まれた。

「僕の胃はお前が来て以来、痛んでばかりいるんだが」

「あはは、ごめん。シルヴァは薬草に詳しいよね。胃薬用意しておいて」

胃が痛いと口では言うが、今の彼は食欲旺盛な思春期男子そのものだ。

毎日ドラゴンのお肉を美味しくいただいている。それこそ心配いらないだろう。

「で、どうだった?」

「うん、予定通り。爆破で倉庫になる洞窟も作ってきたし、あとは料理をたくさん冷凍して運び込まなきゃ」

ドラゴンのお肉はまだまだ山のようにある。間違いなくキログラムではなくトン単位だ。

使い切るには相当時間がかかりそうだ。

もしも途中でなくなってしまったら、そうだな、熊やイノシシなんかの大物狙いで狩りをしてみようか。

霊珠を使いこなせるようになった今なら、きっと勝てる。

「調理の拠点はどうしますか?」

ヴィオラが言った。

「あの岩山からこの小屋まで、飛行すればあっという間ですが」

「うーんでも、いちいち霊珠を使うのももったいないよね。岩山に調理器具を持ち込んで、かまども作って、あっちで料理しようかな。小屋には時々帰る感じで」

「では僕は小屋に残る。魔道具制作は目処がついたが、まだ試したいことが残っているからな。僕の杖も作り直さねばいかん」

「了解」

みんなで頷いた。