軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43:冷凍、解凍

岩山で一日を過ごした後、私たちはドラゴンのお肉をいくらか持って、シルヴァの小屋に帰ることにした。

ここでは料理のための火は焚き火しかない。やりにくいし、鍋も遠出用の小ぶりのもの。

何よりもシルヴァがこう言った。

「魔族の杖、いや、魔道具はもう少しで完成できる。飛行にしろ他の漢字にしろ、その魔道具を使って試すといい」

「手で握り合わせるだけじゃ限界がある。是非お願い!」

「ミャオ!」

というわけで、帰ってきた。

もう冬だが、多少の食べられる草や山菜をゲットしつつの道のりだ。

特に私は、前にイノシシの肉を包んだ大ぶりの葉っぱを見つけて持ち帰った。

冷凍食品として作る以上、パッキングが必要になる。

この葉っぱは大きいし程よく肉厚で丈夫なので、包装紙代わりに使えそうだと考えた。

「ねえ、シルヴァ。この葉っぱは森でよくある?」

「あるぞ。別に珍しくもない木だ。冬になっても完全に葉が落ちないのが特徴だな」

「へぇ~」

広葉樹に見えるがそんなこともあるのか。まあ、細かいことは気にしないでおく。

たくさんあるなら包装紙にちょうどいい。

そんなわけで懐かしの小屋に帰ってくると、シルヴァは早速研究に取り掛かった。

私はヴィオラに手伝ってもらいながら、お肉料理の工夫だ。

「まずは単純な焼肉と煮物からやってみよう」

「ええ。味付けはどうしますか?」

「せっかくだから、ニンニクと玉ねぎのもみダレで」

ニンニクと玉ねぎは小屋の畑でも採れるし、森で似た山菜があるので確保済みだ。

ボリュームと解凍時の肉汁防止を考えて、肉は一センチ以上の厚めに切る。

「あー、お醤油と料理酒がほしいなあ」

「それはプリムローズの前世の食べ物ですか?」

帰り道でヴィオラにも前世の話をした。

ドラゴンと霊珠で驚きがパンク状態だったようで、あっさり信じてくれた。

ヴィオラが小屋の外を指さす。

「ワインなら荷物にありますが、使ってみます?」

「ありがたいけど、高級品じゃないの? 料理にワインを使うのって、ここらじゃあり?」

「今あるのはそんなに高級品じゃないですよ。料理にワインはどうでしょうね。貴族ならありかもしれませんが……」

ということは、平民相手ならちょっと贅沢過ぎるか。

ドラゴンのお肉だけでも相当なインパクトなのだ。

最初のうちは気取らない味付けがいいかもしれない。

「じゃあ、今回はやめておく。商売相手の皆さんが肉に慣れてきたら、ちょっと特別な味として出そう」

「ええ、承知しました」

結果、出来上がったのは玉ねぎとニンニクの塩タレに漬け込んだ、ドラゴン焼肉である。

ドラゴンの肉は多少の噛み応えがある。

それをタレに漬け込むことで、柔らかくしてみた。

前世で安いモモ肉を買ってきて、なるべく美味しく食べるために工夫したレシピだ。

フライパンで焼くと、ジュウッ! という良い音とともに、香ばしい香りが小屋いっぱいに広がった。

「ミャア、ミャー!」

コタローがヨダレを垂らしそうな顔で、そわそわしている。

「こら、駄目よ。お前は味付けしていないお肉ね」

魔獣がどこまで動物と同じか分からないが、犬や猫と一緒なら濃すぎる味は良くない。

玉ねぎも良くないかもしれない。この子には軽く塩を振った肉をあげよう。

「さて、肉の煮物も作っちゃおう」

焼肉をタレに漬け込む時間を利用して、煮物も作っておいた。

これは豚の角煮をイメージしてみた。

ドラゴンの部位の中でも脂身がある部分を選んで持ってきた。

モモ肉の辺りが脂身が多めだったため、そこを切り取ったものである。

ドラゴンはどちらかというと豚より鶏肉に近い感じで、肋骨周りのバラ肉は思っていたほど脂がなかったのだ。何とも不思議。

肉を三センチ程度に切り分け、鍋で両面を焼く。

焼き色がついたら煮込む。本当はここで出汁を入れるのだけど、ないから仕方ない。

「焼いてから煮るのですね」

ヴィオラが不思議そうに鍋を覗き込んだ。

「うん。焼くと肉の旨味が閉じ込められて、煮込んでも味が逃げなくなるから」

料理文化が発達していないと、こんな小技も知られていないのか。

これは思ったより商機がありそうだ。

さて、そうして塩とショウガ、砂糖を加え、アクを取りながらのんびりと二時間ほど煮込んで、完成!

ゴロゴロとしたお肉は、砂糖のお陰で照りが出ていていかにも美味しそうだ。

ヴィオラがごくりと喉を鳴らした。

「さて、ここからが本番よ」

私は改めて腕まくりをした。

出来立ての角煮と粗熱が取れた焼肉を例の葉っぱで一人前ずつ包んだ。

今は試作なので、それぞれ数人前程度の量。それをテーブルの上に積んだ。

そして霊珠を取り出す。

「再度、『冷』『凍』!」

カキンッ!

一気にテーブルの上の温度が下がって、料理は一瞬でカチコチに冷凍された。

ドラゴンの巨体ですらあっという間だったのだ。この程度の量の料理はまさに一瞬だった。

「次にこれを『解』で……」

試行錯誤の結果、冷凍状態を解除するのは『解』一文字でできると判明している。

一文字分とはいえ、霊珠は節約できた方がいい。

『解』の霊珠は白い光を冷凍肉に降らせて、砕けた。

これで概念上の冷凍は解除された。

あとは冷凍肉をお鍋で焼くなりお湯で茹でるなりで戻して、味を確かめるだけだ。

「うん、美味しい! さすがに再冷凍前よりは少し味が落ちているけれど、それでも美味しい」

「むしろ味がしっかり染み込んで、肉が柔らかくなっています」

「美味い、美味い、このちょっと甘い味付けがたまらん」

「ミャオ、ミャオ、はぐはぐ」

で、実食ターンである。

結果は味に問題なし。

肉の味自体はやや落ちているが、下味をつけておいたおかげでカバーできている。

「何日食っても飽きないな、この肉は」

満足そうにお腹を撫でながら、シルヴァが言った。

「プリムローズの料理の腕があってこそですよ。塩と砂糖だけでこんなに美味しくできるのですから」

ヴィオラも微笑みながらハンカチで口元を拭った。

コタローも「げふぅ」と息を吐いている。

みんなが私の料理を美味しいと言ってくれて、とても嬉しい。頑張って作った甲斐があったものだ。

(娘と息子にも食べさせてあげたかったな)

ふと、そんなことを思う。

あの子たちに会うのはもう二度とできない。

それでも時折、思い出してしまうのだ。

特にヴィオラとシルヴァは娘と息子の年齢に(見た目上は)近い。

コタローの無邪気な様子は、子供たちが小さかった頃を思い出させてくれる。

彼らは私の子供ではないけれど……それでも、幸せそうにしてくれていると心が温まった。

私は言う。

「これで冷凍肉を商品化するのは目処が立ったね。あとは運送の問題」

「魔族の魔道具だが、今は最終調整中だ。これを見ろ」

食卓を立ったシルヴァが、何やら手に持って戻ってきた。

見れば革のベルトと金属を組み合わせたものである。

金属部分には例の回路が細かく刻まれていた。

「お前の希望通り、背中へ装着するタイプにした。このベルトを腕に通して、背中に金属が来るようにする」

「なるほど」

サスペンダーみたいでちょっとかっこいい。

金属部分には五つの空白がある。霊珠を嵌める場所だ。

ヴィオラが覗き込んで首を傾げた。

「五つも霊珠を使うのですか?」

「今は分からんが、将来的な拡張性を見越してな。空白の霊珠を嵌め込んでおけば、いざという時の予備にもなる」

「いいね! これ、いつから使えるの?」

「明日もう一日調整して、明後日には何とかなるだろう」

「よっしゃ!」

私は思わずガッツポーズをした。

霊珠は試したいことが色々ある。明日、魔道具の完成を待つ間にあれをやろう。

そう!

念願の『焼』『肉』『定』『食』だ!!