軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第54話 冬の名残花

私は目の前にあるものに愕然として、地面に膝をついて、うなだれてしまっています。

これは何ですか?

「お嬢さんも挨拶に? 若いのに熱心ね」

隣で立ち止まって、花を置いていく老婦人。

そして、子供を連れた若い夫婦や、職人らしいおじさんまで、いろんな方々が私の横で立ち止まり去っていきます。

「何ですか! コレ!」

やっと現実に戻ってこれた私は指をさして後ろを振り返りました。

「英雄フェリラン様の墓標です」

それに対して真面目に答えてくれるエスト。

そう、カフェのマスターがカラエの花が見頃と言っていましたので、前世の母の墓参りをしようと墓地にやってきたのです。

そして、記憶にあるフェリラン子爵家の墓があるところに近づいていきますと、見慣れないものがあるではないですか。

何があるのかとそこに行きますと、普通の墓石の五倍は高さがある墓標が立っており、英雄フェリランと刻まれているではないですか。

その大きな墓石の前には、花や供物がたくさん置かれているのです。

枯れた花がないことから、定期的に人の手が入っているのが見て取れました。

「こんな大きな墓標……恥ずかしすぎる」

横を見ると、長年風雨にさらされて文字が読めなくなった墓石が三つ並んでいます。

そして、白い絨毯のように小さな白い花が咲き乱れていました。

私の記憶では前世の兄の墓の前だけ咲いていましたのに、今では父の墓も母の墓にも広がっており、これ見よがしに高々とある墓標の下にも広がっていました。

繁殖しすぎです。

「はぁ、手入れされていないから、こんなに広がってしまっていますし、これは流石に周りに迷惑をかけてしまいます」

次の休みのときは、ここのカラエの花を引っこ抜いてしまいましょう。二十年放置は流石に駄目ですわ。

「それは英雄フェリラン様の墓標が建てられたときに植えたと聞いております。それに定期的に人の手は入っております」

「え? わざわざ植えたのですか?この迷惑な花を?」

「そう伺っております。『冬の名残花』と言われるカラエの花はハイラディ侯爵家の管理下にありますから」

もしかして、この墓標の件にハイラディ侯爵家が関わっているのですか?

は? という感じなのですけど?

今更感が半端ないです。

まぁ、過去のことですが。

「隊長。おまたせして済みません」

私が苛立ちを感じていますと、背後からレクスの声が聞こえてきました。

「隊長! そこにいますと風邪を引いてしまいます」

背後霊化せずに声をかけられて偉いぞと思っていますと、身体が宙に浮き上がりました。

何故にレクスに抱えられている状況になっているのですか?

「レクス。声をかけたことは偉いですが、隊長呼びに戻っています」

「それよりも、いつからこの場にいらっしゃったのですか? 身体が冷え切っているではないですか」

「さぁ? 十人ほど入れ替わったぐらいですね」

「そ……それでは、氷のように冷えていて当たり前ではないですか! エスト。馬車をこっちに回せ」

「かしこまりました」

このようなことで、大げさですわ。

レクスの命を受けてエストさんはどこかに行ってしまわれました。

私はレクスの腕から飛び降りま……何故に私が降りようとしたら、力を入れて捕獲するのです。

「レクス。これぐらいでは、私はどうにもなりません」

そう言って、私はレクスに向かって白い息を吹き付けます。

タバコの煙ではありません。

冷気が混じった息です。

「ハイラディの魔法を得ている私にとって、何も問題にはなりません」

カラエ草。北部の山々に生息する草で、春から夏にかけて小さな白い花を咲かせるのです。

別に希少種でもなく、山に行けばその辺りに生えているという植物なのです。

それがどうしてここでハイラディ侯爵家の管理下に置かれているのか。

それはこの草が常に冷気を発しているからなのです。

実はこの場だけ、氷点下の気温になっています。これだけ範囲が広ければ、この場の気温にも影響してきます。

なので、皆さん墓標に参拝するも、足早に帰って行かれるのです。

エストさんはよく、私に付き合っていたものだと思いますね。

このカラエの冷気に耐えれた者がハイラディの氷を扱えると言われています。

なので、前世の家の庭の一角に植えられていました。おそらく父が植えたのでしょう。

結局、父も兄もハイラディの力をモノにはできず、どうでもいいと思っていた私が、扱えるのです。

考えれば、嘘だとわかるようなもの。

「そうですか。大丈夫なのでしたら、良かったです」

ホッと安心したようなレクス。

理解できたのでしたら、降ろしていただけません?

「隊長の墓標に挨拶してから、戻ります」

「しなくていい!」

右膝を思いっきりレクスのみぞおちに、めり込ませたのでした。