軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話 そんなものは望んでいません

「ああ、それでファングラン団長が……」

私の背後で何かを納得した声が聞こえてきました。

「婚約者に暴力を振るって再起不能にさせたという」

何か恐ろしい言葉が聞こえてきましたよ。それは誰のことを言っているのですか? 私ではないですよね? 空中三回転をさせたことは認めますが、再起不能にはしていません。

「それは姉のことを言っていますか? 姉は確かに侯爵子息を殴ってしまいましたが、再起不能にはなっておりません」

私は振り返りながら言います。

だから、私はシエラメリーナではなくてアルバートですわよ!

「まぁ、そういうことにしておきましょう。マルトレディル伯爵もたまには良いことをしますね」

え? 何故に父が褒められることに繋がるのですか?

私が意味がわからないという顔をしていると、何故かディレニールは私の頭をポンポンと撫でていき去っていきました。

意味がわかりませんわ。

そのディレニールの後ろ姿を見送っていると、ラドベルトがこそこそと話しかけてきました。

「シエラメリーナの嬢ちゃん。気づいていないかもしれないが、骨格が違うからバレるのも時間の問題だぞ」

男性と女性の骨格が違うぐらい知っています。だから父にはバレると助言したのです。それでも押し切ったのは父であるマルトレディル伯爵の判断ですわよ。

「全部父に押し付けるので、大丈夫です」

私はニコリと笑みを浮かべて答えます。

「うわぁ。相変わらず隊長並みの鬼畜っぷり……ぐはっ!」

もう一発横腹に拳をねじ込んでおきました。

鍛錬が足りませんわ。私のパンチで魔装が瓦解していますわよ。

「鍛錬不足ですね。ラドベルト子爵」

私はそう言って、書類を配り歩くという仕事に戻っていったのでした。

書類を配り終えた私は、青空の下でサボっていました。

騎士団の敷地の一角に木々で隠れるようにベンチが置かれて、ひと目を避けられる場所があるのです。

前世の頃から入り浸っているサボりスペースですね。

そのベンチに座って、ポケットからタバコを一本取り出して咥えます。

火をつけて白煙が伸びる空を見上げました。

英雄ですか。

私はそんなものは望んでいません。

ただ、父親と母親に手を繋がれて歩いている子供が羨ましかった。

私のような子供をこれ以上増やしてはいけないと思った。

だから父と兄を死に追いやった騎士団に入ることに躊躇することはなかった。

英雄など、どれほど人の命を奪ったかというだけのこと。

でも、私は私の選択を間違っていなかったと実感できている。

今は父と母と弟と一緒に暮らせているのだ。それがとても幸せだと感じている。

だが、この平穏の日々に紛れて戦争の足音が近づいてきているのも事実。

父が頑として私にアルバートの身代わりになることを強いたこと。それは我が国ではこれだけの武力があるのだと誇示するためだ。

そうしなければならない理由があるということだ。

結局だ。結局あの戦いで、最後の最後で国は失敗したのだ。

「こちらにいらしたのですか」

私がうだうだと考え事をしていると、割り込んできた声があった。

そこに視線を向ければ、赤い目が私を見下ろしている。

「隣に座っても?」

タバコを手に取り白い煙を吐きながら答えた。

「お好きにどうぞ。従騎士がサボっているのをしかりに来たのですか?」

私を探しに来たのはレクスだった。

いや、本部のやつらと顔を合わせたくなくて、逃げている私をレクスはよく見つけていた。

まぁ、そういうのが得意な家柄なので、文句を言うことはない。

「将校ディレニールともめていたと聞きましたので……」

「いつもどおり意見が合わなかっただけだ」

別にもめるようなことではない。ただの意見の相違だ。互いに互いの意見を言っているだけで、そこから何も発展しない無駄な時間と言っていいもの。

ああ、レクスに聞きたいことがあったのだった。

「レクス」

「はい、なんでしょうか」

「団長をやっているのは、上から押し付けられたのか?」

ファングラン公爵家の嫡男だったレクスが、国が担ぎ上げようとしていたフェリラン中隊に所属していた。

だから、帝国に睨みを利かすためにレクスイヴェール・ファングランの名を騎士団団長に掲げた。

英雄フェリランの代わりにだ。

「いいえ。これは私の希望です」

そう、レクス自身が望んだことなのなら、別に私が口出しをすることはないか。

私は白い煙を吐き、私が考えていたことと違ったことに安堵する。

英雄の身代わりなど、ろくなことがないですからね。

「あのとき、隊長を追いかけて戦地に戻ったものの、ボロボロに傷ついた隊長を後方に下げようにも、私自身が怪我を負い、逆に後方に下げらされ生き延びてしまった無念からです」

どこに団長につく理由に繋がるのですか! そこは大人しく公爵家を継ぐことに繋げるところでしょう。

「もしあのとき、私が隊長の上官であれば、後方に下げ今も隊長は生きていたのではないのかと」

……それ、英雄に担がれている未来です。やめて欲しいですわ。

「もしもの話など意味はないです」

「そうですね。しかし、あのときの私には生きる意味が欲しかったのです」

生きる意味ですか? それは公爵家を継ぐということでは駄目だったのですか?

「でも、今は隊長が私の側にいてくださる。あ、マルトレディル伯爵から先程返事がありました」

ん? あの大量の手紙の返事ですか?

いったい何を書いたのかは知りませんが、転送便を使ったとは言え昨日の今日とは早いですわね。

「『煮るなり焼くなり好きにしていいよ』だそうです」

「お父様!!」