軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.悪役姫は、賭けを持ちかける。

突然の解放にやはり思考がついていかずぐるぐると疑問符が渦を巻く表情のまま、アリアはゆっくり起き上がった。

「姫を見ていると自分の洞察力に自信を持てなくなっていたんだが、この手の事に免疫がないのはあっているようだな」

ぽかんとするアリアをよそに、面白そうにこちらを見返す琥珀色の瞳には、余裕が浮かんでおりそんな事を口にする。

「悪女だの悪役だのを目指すならもう少し演技力が欲しいところだな。誘惑もできない、駆け引きの"か"の字も知らないようでは論外だ」

一体、ロイは何を言っているのだろうか? とアリアは目を丸くしながらロイの話に耳を傾ける。

「せめて話術とはったりで余裕をかましながら笑顔で躱せるレベルになって欲しいな。それができないなら悪役姫は諦める事をオススメする」

そこまで話を聞いてアリアの思考がようやく追いつく。

私は今もしかしなくても悪役姫としてダメ出しをされているのか、と。

しかも、一番嫌な女と思われたいターゲットであるロイにダメ出しをされた上にアドバイスまでされているのか、と。

「嘘でしょ!? 何それ、どういう事よ」

アリアは思わず悔しそうに両手でベッドを叩き、そう嘆く。

つまり、アリアの拙い演技などとっくにロイに見破られており、アリアがやってきた今までの努力や態度の理由をロイに的確に把握されているということだろうとアリアは解釈する。

「ようやく、姫の本音が出たな」

そんなアリアの態度を見てもロイは動じることはなく、おかしそうに見返してくるだけだ。

何故ロイは自分の事を悪役姫などと呼ぶのかと訝しげな視線を寄越すアリアに対し、

「自分で言っていただろう。俺と離縁を望む。悪役姫など不要、だと」

ロイは離宮での会話を持ち出す。

「まだ、何も言ってませんけど!?」

「姫は顔にすぐ出るな」

言葉を交わす事なく内情を察していくロイに、この皇子様手強すぎないだろうかとアリアはため息を漏らした。

「肩と腕の調子は?」

「まあまあ、といったところでしょうか」

取り繕うことが面倒になったアリアは雑にそう答える。アリアの動きや肩の腫れ具合を見るに嘘はなさそうだとロイはとりあえず安心する。

「今日くらいは休ませてあげたいところだが、姫の昨日の立ち振る舞いから誰も姫の怪我には気づいてないだろうし、すまないが公務は予定通り出てくれ」

急にビジネスモードになったロイを見ながら、やはりアリアは混乱する。

キラキラとした笑顔を浮かべながら優しく妃を懐柔する1回目で出会ったロイとも先程狩られるかと思ったような支配者とも違う。

小説の中の完全無欠の皇子様とも結びつかない目の前にいるロイ・ハートネットという人物がアリアには掴みどころのない人の様な気がした。

(私、知っているつもりで、実はこの人のこと全然知らないんじゃないかしら?)

1回目の人生の経験と2回目の人生の小説知識からロイの為人は全て把握し切ったと思っていた。だが、自分に見えている面は氷山の一角でしかなく、その下には知らないロイの一面が埋もれているのかもしれない。

(そうだとしても、私のする事は変わらないわ)

だが、それが一体なんだというのかとアリアは首を横に振る。

ヒナが来て、恋に落ちる。ここが小説の世界である以上、そこは確定なのだからやはり早々に自分はこの物語から退場しなくては。

「俺は予定通り狩りに出るが、姫はまぁ貴婦人たちとゆっくりお茶でもするといい。皇太子妃として」

お茶会、という言葉にアリアは1回目の人生での出来事を思い出し、舌打ちしたい気持ちになる。

姉のフレデリカなら上手く場を回すのだろうが、あの時は初めてだったこともあり随分と身勝手なご婦人達に振り回された。できれば今回の出席はお断りしたい。そこでアリアの中ではたと名案が浮かぶ。

「殿下、提案があります。私と賭けをしませんか?」

「賭け、とは?」

聞き返したロイに頷くアリアは続ける。

「私、別に悪役になりたいわけではないんです」

むしろ回避したいから、物語からの退場を画策しているのだ。

「私も狩猟大会に参加します。そこであなたに勝てたら、私と離縁してください」

別にロイと離縁しキルリアに帰れるならば、悪役姫を演じる必要もない。

「それで、俺に一体何のメリットが?」

「私、昨日は殿下のお役に立ちましたでしょう? 私が負けたら私が持っているコネクション、殿下に全てお譲りします。外交上の繋がりが欲しくて私と結婚したのでしょう?」

どうです? と問いかけるアリアにロイは一考の余地があるのかふむと考える素振りを見せる。そこでアリアは畳み掛けるように力説を開始する。

「殿下の目的さえ達成してしまえば、愛してもいない妃のご機嫌伺いをする手間も省けますし、そもそも私との離縁は殿下にもメリットいっぱいだと思うんですよね。離縁していれば、愛する人とすぐ結婚できますし」

アリアとしては元々ロイが外交で上手く立ち回れるように支援してからヒナのために皇太子妃の座を明け渡すつもりだったのだ。

ロイにいい感じに嫌われてフェードアウトが叶わなくても、離縁さえできればこの際問題はない。

「姫はよほど俺と誰かの縁を組みたいようだ」

「言ったでしょ? 未来が分かるって。殿下にはすぐ、運命が落ちてきますよ。だから、私とは離縁した方がいいんです。お互いのためにも」

だから早く悪役姫と別れて幸せに向かって歩き出して欲しいとアリアは願う。

「じゃあ、賭けを受ける代わりに条件の変更を。姫のコネクション譲渡ではなく、姫に俺のお願いを1つ聞いていただきたい」

「殿下の願い事? それはなんです?」

「それは今から考える」

「……できない事を言われても困ります。離縁を望むな、とか」

願い事の内容を賭けを実行する前に開示しないのはフェアじゃないとアリアは難色を示す。

「まぁ、賭け事自体受けなくても俺は一向に構わないが、姫の頑張りに免じて今回は受けてやる。だが、せっかく姫に願い事をきいてもらうんだ。内容はじっくり考えたい。その代わり無茶で姫自身に叶えられない願いを強要しないと約束しよう」

上から目線な物言いと言い回しが非常に気になるところだが、これ以上の譲歩は望めそうにない。

離縁のチャンスが得られるなら良しとしようとアリアは自分を納得させ頷いた。