軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(36)遭遇

「ルシア?」

「あの、たぶん、この子たちはフィルさんの甥と姪じゃないかな」

「…………フィルの、だと?」

聞いた途端、アルベス兄様は顔を強張らせました。

のろのろと子供たちを見やり、ごくりと息を呑みます。それから私たちの前に片膝を突き、まじまじと二人の顔を見ていました。

「……ルシア。この子たちの名前は聞いたか?」

「え? アルくんと、リダちゃんよ」

「アル……リダ……やはりそうなのか……!」

お兄様はしゃがみ込んだまま、頭を抱えてしまいました。

……一体、どうしたのでしょうか。

何と声をかけるべきかと迷っていたら、くい、とまた手が引っ張られました。

アルくんが私を見上げていました。

「ねえ、ルシア。この人は?」

「私の兄のアルベスよ。フィルさんのお友達なの」

「ふーん」

アルくんは私とお兄様を交互に見ています。

あまり似ていないとか思っているのかな、と思ったら。リダちゃんが興味津々でお兄様に近寄りました。

「ねえ、アルベスは騎士なの?」

「……元騎士です」

「あ、その顔は私たちのこと知ってるのね。でも、ルシアにはまだ内緒だよ!」

「そうそう。フィルも、余計なことは言うなって言ってたよ!」

子供たちは、お兄様にも懐いたようです。

お兄様は背が高いし体格もがっしりしているし、このくらいの年齢の子は初めて見た時はおびえることが多いのですが。

……いや、懐いていると言うより、騎士という人種に慣れている?

それにお兄様の反応が、何だか……フィルさんの家族の話になった時と同じですね。

「……それで、フィルはどこに行ったんだ?」

「えっと、この子たちが木に登っているのを見つけて、落ちそうになったのを抱き止めて、この子たちを探している人たちを探しに行くって……」

とりあえず説明した方がいいかな、と思って簡単に経緯を並べた途端、お兄様がまた硬直してしまいました。

「今、変な言葉を聞いたぞ。木に登っていた? 落ちそうになった?」

「うん、舞踏会を覗いていたら、アルが乗ってた枝が折れそうになったんだよ」

「……なっ……?」

「僕は仕方がなかったのに、リダは自分から飛び降りてフィルに抱き止めてもらってたよ」

「…………うわぁ! 聞きたくなかったっ!」

アルベス兄様は低く唸りました。

でもすぐに顔をあげ、立ち上がりました。

「ルシア。お前はもう行きなさい。この子たちは俺が見張っているから」

「え、でも……」

この子たちを託したときの、フィルさんの真剣な顔を思い出してためらっていると、中庭の向こうから、複数の人がやってくる音が聞こえました。

フィルさんと、女の人が三人、それに騎士も数人いるようです。女の人の中で年嵩の人は、私と一緒にいる子供たちを見て、ほっとした顔をしました。

「アル様、リダ様。心配しましたよ!」

駆け寄ってきたその人は、子供たちをギュッと抱きしめました。

母親という年齢には見えないので、養育係というところでしょうか。

「ルシア、もう大丈夫なようだし、我々はもう戻ろう」

「そ、そうね」

アルベス兄様に急かされ、私はうなずきました。

それに反応したのは子供たちで、まだつないでいた手を両方からギュッと握られてしまいました。

「もう行っちゃうの?」

「まだ一緒にいたいのに!」

「……おい、猿ども。ルシアちゃんは君たちの相手をしにきたんじゃない。舞踏会に来たんだ。だから、あきらめろ」

フィルさんが乱暴に二人を抱え上げました。

驚いて手を離すと、フィルさんは私に笑顔を向けました。

「ごめん、アルベスと会場に戻ってくれる? 僕もこいつらを送ったらすぐに……」

フィルさんの言葉が、途切れました。

視線が私を通り越しています。少し遅れて、背後から誰かがやってきたような足音がしました。

「フィル! 君が捕まえてくれたのか! でかしたぞ!」

男性の声です。

舞踏会会場から、誰かが来たようです。

振り返ろうとした時、アルベス兄様が私の肩をガシッと押さえてしまいました。

「お、お兄様?」

「……アルベス、ルシアちゃんを連れて逃げろ」

「もう無理だ。今走ると、不審行動として逆に捕まる。くそっ、どうして気付けなかったんだ!」

振り返れないまま戸惑っていると、フィルさんとアルベス兄様がコソコソと何か話していました。

その間に、背後の足音は近づいてきて、子供たちを抱き上げたまま動きを止めているフィルさんの前で止まりました。

「……なぜ兄上が、この時間にまだ舞踏会の会場にいるのですか?」

「その子たちがいなくなったからだよ。探し回るにも、目立つと問題が大きくなってしまう。だから私が会場に残って、その警備のふりをして人を増やして探していたのだよ!」

フィルさんに話しかけている男性は、とても朗らかです。

それから、子供たちの視線に気付いたのか、視線を辿るように振り返りました。子供たちが見ていたのは私ですから、振り返った男性は、自動的に私を見ることになりました。