軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(35)その子たちは?

「でもね、あのね……降りれないんだ」

「は?」

「枝が、なんか折れそうになってて」

「……早く言えっ!」

フィルさんは顔色を変えました。

手早く剣を外し、装飾のついた上着も脱ぎました。

アルと呼ばれた子供がいる枝の下へ走り、手を広げました。

「飛び降りろ。受け止めてやる」

「……本当に大丈夫?」

「アル一人ならいける。現役の騎士を信じなさい」

フィルさんはいつもの笑顔を浮かべます。

でも、どこか緊張が漂っています。

少しの間が空いて、がさりと枝が揺れました。同時に、小さな体が落ちてきます。私は息を呑みましたが、フィルさんは無言で受け止めていました。

「よし。怪我はないな。……ルシアちゃん、悪いんだけど、この子を捕まえていてくれる?」

「捕まえ……って、え?」

「アル、そのお姉さんに手を握ってもらいなさい。……ちっ、羨ましい」

フィルさんが何かぶつぶつ言いますが、私は落ちてきたばかりの子供に気を取られてそれどころではありません。

幸い、アルちゃん……アルくんは大人しく私と手を繋いでくれました。

「次はリダだ! 自分で降りてこれるな?」

「わたしも受け止めてもらいたい!」

「……僕を殺したくないなら、もう少し降りてきなさい。そうしたら受け止めてやる」

「わかった!」

もう一人の子供は、するすると木を降りてきました。

そして、途中の枝に足をかけて止まり、ぴょんと飛び降りました。

フィルさんは難なく抱き止め、用心深く地面に下ろしてからやっとため息をつきました。

「……全く、君たちは何をやっているんだ」

「木登りしていただけだよ」

「君たちが木登りを好きなのはわかっている。だが、夜はやめなさい。見つけにくいだろう?」

「見つからないように木に登ったんだし?」

「…………この猿どもが!」

フィルさんは乱れかかっていた前髪をかき上げ、もう一人の子供も私の方へ押し出しました。

「ルシアちゃん、こいつも捕まえていてくれるかな。多分こいつらを探しているだろうから、人を呼んでくる。……ここならあまり目につかないから、ここにいてくれると助かるんだが」

「え、ええ、いいけど。でも」

私は、フィルさんがまだ捕まえている子、リダちゃんを見ました。

アルくんより気が強そうな、でもアルくんそっくりの可愛い子です。こんな元気な子を、それも二人も同時に、私だけで手に負えるのでしょうか。

……握力はそれなりにあるから、手を握っていれば大丈夫、かな?

でもリダちゃんは、素直に私の空いた手に小さな手を絡ませました。

「お姉さんと話をしたいから、フィルはもう行っていいよ。というか、フィルは邪魔」

「生意気な猿め。余計なことは話すなよ。……ルシアちゃん、すぐ戻るから!」

フィルさんは上着と剣を掴むと、あっという間に走っていってしまいました。

相変わらず、足が速いです。

でも走っていく先は舞踏会が開催されている中央棟ではないんですね。しかも中庭を突っ切って行っているような……。

「ねえ、お姉さん」

見送っていたら、くいと手を引かれました。

そうでした。

私、このお子様たちの見張りをしていたのでした。

「ルシアって呼んでいい?」

「いいわよ」

「じゃあ、ルシア。ルシアの手って、変わっているね」

率直な子供の声に、私はどきりとしました。

話しかけてきたのは、髪が少し長いからリダちゃんの方でしょうか。じいっと私の手を見ています。もう一人のアルくんも、反対側で私の手を見ていました。

「えっと……畑仕事なんかもしているから、かな?」

「ふーん、そうなんだ。確かに庭師の人たちに似ているかも」

「でも騎士たちにも似ていない?」

「似ているね! 太さは全然違うけど!」

子供たちは好き放題に言い始めました。

……これは、懐いてくれている、のでしょうか。

泣き出されるよりマシだし、逃げようと暴れられるより楽ではありますが。このじわじわと心が削られる感じは、地味にダメージが……。

「それに、ルシアって背が高いよね」

「高いよね! お父様と同じくらいに見える!」

「えー、お父様はもう少し高いよ!」

「やっぱり騎士みたい!」

……ごめんなさい。

私はただの小娘です。騎士なんていいものではありません。

何となく遠い目になった時、舞踏会会場の方から誰かが近付いてきました。

「……そこにいるのは、ルシアか?」

アルベス兄様です。

そういえば、お兄様を置いて行ったままでした。

「お前が外に出るのが見えたから、追いかけてきたんだ。いくら王宮でも、こんな人気のないところにいると危ない……ん?」

アルベス兄様は、ようやく私が一人ではないことに気付いたようです。

歩みを緩め、しげしげと子供たちを見ています。

私たちの前で足を止めた時には、困惑し切った顔になっていました。

「ルシア。その子たちは?」

「それが……」

私は子供たちの頭に目を向けました。

アルくんとリダちゃんは、顔立ちがよく似ていました。同じ年頃に見えますから、双子なのかもしれません。

珍しいなと考え、それから二人の髪の色が木の上にいた時より薄く見えることに気付きました。

銀髪のようです。

目の色は紫色ですが、顔立ちも、目元がフィルさんに似ている気がします。

顔見知りでしたし、これは多分……。