軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

薬草学と魔法学

分からない事を気にしていても仕方ない。

レオンとマナミリュ殿下はこれまで通り真面目に授業を受けて、男爵令嬢を避ける生活を送った。

限られたいつものメンバーだけではなく、他の生徒が参加する授業もあった。サールの希望の薬草学だ。

サールは中等部までの授業は受けていたが、ここの専門課程は自国の高等部に当たる。

サールは貰った教本を食い入るように読み込んでいたが、おおよそ理解できる内容だったので満足そうに笑った。

「これならついていけそうです」

薬草を使って回復薬を作る実習もあった。

サールはお手本通りの回復薬をささっと作ると、レオンやモルフ、アルデの実習の手助けをした。

サールが本気で作ると、同じ材料を使っても教師も驚くような効能の物を作り出してしまう。その能力を派手に披露してしまうと、よからぬ権力者に目をつけられかねない。

レオン達がいくらトマリーナ国の留学生でも関係なく、悪事を企む貴族は現れる。普段の暴飲暴食で不健康になっている貴族は、優秀な薬師を抱えておきたいのだ。

だからサールは手本通りのきっちりした物を作る。好成績を残す事を目標としてないのでそれでいい。

教本にはまだ作った事のない薬がたくさん載っていて、サールはわくわくした。すぐにでも材料を採りに行きたいが、外出するには許可が必要だ。

おそらくレオンも同行するので護衛も必要になる。どこまで行けるのか、いつ行けるのか、後で相談してみよう。

薬草学の授業でテンションが上がったサールと同様に、レオンも魔法学の授業に喜んだ。

「魔法は貴族だけのもの、自分には関係ないと思っているだろう? アルデ」

突然レオンに名指しされて、アルデは目を剥く。

レオンがアルデに話しかける事はあまりないから驚いたのだ。

「違うのですか?」

魔法というものがあるというのは、アルデも聞いた事がある。火種のないところから火を出したり、水源のないところから水を出したり。とても便利なものだそうだ。

でも貴族の家系に伝わると聞いていたので、平民には無関係だと思っている。

「そういえば伯爵家では魔法など見た事なかったです」

「うん。帝国時代の戦争で派手に使って、たくさん人が死んだからね。生活魔法程度なら大丈夫だが、それを軍事利用しようとすると問題になる」

「軍事利用……」

「といっても抑止力は必要だ。だから国の軍部には優秀な魔法使いがいるし、訓練もしている。それ用の魔法道具もある。重大国家機密だ」

アルデはぶるっと震えた。

「そのような事を私に……」

「なに、公然の秘密というやつだ。他国から攻められた時、守る力があるなら民も安心だろう?」

「……はい」

「実はあまり知られていないが、魔力というのは平民にもあるんだ」

「え? 私にもですか?」

「うん。でも魔力回路を鍛えないと使えない」

「魔力回路……?」

「血管のように全身に張り巡らされている管みたいなものだ。それは使わないと劣化してしまう。……魔法使いが貴族出身者ばかりなのは魔法の知識があるからで、子供の頃から訓練を重ねているから。平民でも幼い頃から鍛えれば、優秀な魔法使いになれるかもしれない。でもそういった教育はしない。何故か分かるか?」

「ええと、平民がそんな力を持ったら危ないです。貴族が襲われます」

「そうなんだ。だから貴族だけがその知識を受け継いでいる」

「……知りませんでした」

「もちろん優秀な魔法使いの血統を受け継いでいる家もあるが、その回路は大人になると劣化する。私達はギリギリ間に合う年齢だな」

レオンの言葉に、モルフが嫌そうに顔を顰めた。

「昔からレオン様はその訓練だけは、やたらやりたがって困りました。具合が悪い時はおとなしくしていて欲しかったです」

「すまんすまん。集中するだけならベッドの中でも出来たんでな。前世には魔法がなかったから、使ってみたかったんだ」

サールが不思議そうに問う。

「ではレオンとモルフは小さい頃から訓練をしていて、魔法が使えるのですか?」

「まだ一度も試した事はないが、理論的には使える筈だ。でも私の身体は魔力回路どころかあちこちガタがきていて、それどころではなかった。だからこれから訓練しても、使えて生活魔法程度だろうな」

モルフが続ける。

「私の場合、素質がなくてほとんど使えません。侯爵家でもその程度ですよ」

「そうなのですか」

「ちなみに魔法訓練の事は大体の貴族は知っていますが、ほとんどの家は子供にさせなくなってきていますね。剣術のような派手なものは好まれますが、地道に訓練しても成果があまり見られない魔法訓練は子供も楽しくない。すぐに飽きてしまいます。継ぐ家のない次男、三男は将来、官僚になれるならと頑張るようですが」

「なるほど」

「魔法の素質を見出された者は王宮に召し抱えられて、魔法使いの部署に配属されます。極秘扱い部署なので、どんな人がどんな魔法を使えるのかほとんどの知られていません。知っているのは王族くらいですかね」

「そういえば私もまだ見学させて貰った事がない。帰ったら見せて貰おう」

そういう説明を受けてから、魔法学の授業に参加した。

薬草学のクラスもそうだったが、他の二年生達から遠巻きにされる。

時間の空いたマナミリュ殿下も特別に同席を許されたので、皆の顔が緊張で強張っていた。教師もだ。

授業は半分が魔法知識の説明、半分は実技だった。魔法回路を鍛える訓練は、どんなに優秀な生徒でも卒業ギリギリまで続けるそうだ。

教師は生徒の間を回りながら、質問に答えている。

レオン達は遅れているので、マナミリュ殿下を囲むような形で円になっていた。

「この小さな魔石を握って、魔力を感じてみて。魔力回路は感じる感覚が全て。頭の先から足の爪先まで巡っているのを感じ取る。どうだろう。出来るかな?」

レオンは嬉々として両手で魔石を握り、祈るような姿勢で目を瞑っている。

サールとアルデは半信半疑、モルフに至っては最初から諦めているような表情で魔石に手を伸ばした。

それぞれレオンを真似て、目を閉じてみる。しばらく沈黙が流れた。

マナミリュ殿下は辛抱強く、皆が目を開けるのを待っている。

最初にやめたのはモルフだった。

「やはり私には素質がないようです。何も感じません」

「そうか」

しばらくして目を開けたのはサールとアルデ。

「どうだった?」

サールが「何となく、感じ取りました」と答えると、マナミリュ殿下は手を叩いて喜んだ。

「素晴らしい。初回でそれなら素質があるよ」

「アルデは?」

サールが目を覗き込むと、アルデは何度も瞬きをした。

「感じ取ったね?」

「ええと……この変な感じがそうなら……はい……」

「うん。アルデは向いている……ような『気がする』」

「えっ?」

アルデは息を呑む。サールの『気がする』は……。

モルフも目を見開いた。

「え、アルデは魔法使いになるのか?」

「えっ、そんなっ」

「うん、いいね。二人とも初めてなら素質がある。訓練しがいがあるよ」

マナミリュ殿下が満足そうに頷くと同時に、うわぁという声が上がった。

「レオン!」

「レオン様!」

見ればレオンの全身が光っていた。強烈な光が教室内に溢れ出し、他の生徒達はあまりの眩しさに目前に手を翳している。

慌ててマナミリュ殿下がレオンの肩を叩くと、レオンは目を開けた。

「うわ、驚いた」

「レオン……君は……」

「ふう、久しぶりにやったら何か勝手が違っていて……身体中を物凄い勢いで流れるから焦ったよ。制御するのが大変だった」

そこでようやく顔を上げたレオンは、教室中の注目を集めているのに気付く。

「え? 何かあった?」

マナミリュ殿下とモルフも絶句していて、サールとアルデは一気に緊迫した教室内の空気に驚いている。

生徒達も教師も言葉を失い、固唾を吞んでレオンを見詰めていた。

マナミリュ殿下はぐっと唇を噛むと、立ち上がって教師を振り返った。

「ここにいる全員に告ぐ。先ほどの事は他言無用。友人にも家族にも言ってはならない。もし話せば、その相手まで処罰対象になってしまう」

「……え?」

驚くレオン。

マナミリュ殿下の顔も強張っていた。

「いや、それでは足りないか。……ハウエル先生、魔法契約の用紙を用意して下さい」

「あ、ああ」

「ここにいる全員分です」

「畏まりました」

青い顔の教師が重々しく頷き、教室を出て行く。

すぐに戻って来た教師は同僚を一人連れて戻って来て、一緒に魔法契約の用紙を作成しだす。

本当に全員分の契約書を用意させたマナミリュ殿下は、一人も漏らさず署名させた。血の一滴も垂らす。

それをレオンとモルフ、サールとアルデは驚愕しながら見守っていた。

黙って見ている事しか出来なかった。