軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

63 セオドアの反抗期

「ん?どうした?」

「ううん、知り合いがいたような気がしたんだけど」

道化師を見ている人たちの中に、アスター商会のダニエル様がいたような気がしたのだ。

「知り合い?誰だ?」

「あ、ううん、セオドアの知らない人。多分違うと思うわ。見間違いだと思う」

(・・・ダニエル様が、下町になんかいるわけないわよね)

アスター商会は、王都の中でも一等地に店舗を構えている。

こんなところにダニエル様がいるはずがない。

明日取引があると思って緊張しているから、通りにいた人がダニエル様に見えてしまったのだろう。

(もういないかしら・・・?)

ダニエル様は、アルバート様と同じで、細身でかなり背が高い。

あんなに均整のとれた身体つきの人を見間違えることはない気がして、もう一度2階の窓から覗いたが、通りにその姿はなかった。

「どうした?気になるのか?俺、ちょっと行って見てきてやろうか?」

「あ、いいのよ。それよりセオドア。まだ帰るまでに時間ある?良かったら、これから買い物に付き合って」

「ああ。いいよ。どこに行くんだ?」

すぐに腰を浮かせたセオドアに、思わず顔を顰めてしまった。

(セオドアは食べ終わっても、私はまだ食後の紅茶を飲み終わってないのよ!)

朝から休みなしに動いていたのだから、もう少しゆっくりさせて欲しい。

それにどうせなら、しっかりと計画を立てて王都を散策したい。

紅茶に口をつけながら、手で椅子を示して、セオドアに座るようお願いする。

「セオドアの好きなところでいいわよ。セオドアの入団のお祝いに、記念になるものを買おうと思って。セオドアの好きなものを贈るわ」

「・・・・・・いや、いいわ」

うきうきと提案する私に、セオドアが不機嫌そうにドスンと椅子に座り直す。

一体どうしたというのだろう。

「えっ?何でよ。遠慮しなくていのよ。オリバーにセオドアの好きそうなお店を聞いてきたのよ。準備は万端だから任せて」

オリバーからの手紙をポケットから取り出して、セオドアにお店のお勧めリストを見せる。

だがセオドアは、不快そうに眉を顰めて腕組みをしているだけだ。

(折角オリバーにも聞いて準備してたんだから、もう少し喜んでくれてもいいんじゃない!?)

一生懸命、店の名前を書いた紙をセオドアの顔の前にちらつかせるが、セオドアは紙から目を逸らして風景を見る始末だ。

(セオドアったら、ちょっと酷くない・・・?)

セオドアのつれない態度にがっかりして俯く私に、セオドアが私の額を軽く指で弾いた。

痛くはないが、びっくりする。

「・・・お前さぁ、ちょっと金に余裕ができたと思ったら、散財するタイプだろ」

「そんなことないわよ。それに散財じゃないわよ。セオドアの入団のお祝いよ。成人のお祝いも兼ねてるのよ。それぐらいさせてよ」

セオドアは、私の大事な弟分なのだ。

お金に余裕がなくても、お祝いぐらいしたい。

そのためにへそくりも貯めてきた。

「いや、いいわ。その分の金は貯めとけ。もしくは自分の服でも買え」

「ええっ!何よそれ。私のことはいいじゃない。それよりセオドアの・・・」

「いいから。いらねーよ。俺、時間ないし。もう帰るわ」

セオドアはそう言いながら、さっさと席を立って1階に続く階段を降りてしまった。

(もうっ、どこ行くのよ!まだ紅茶も飲み終わってないのに!)

腹は立ったが、こんなところでセオドアを見失ってはたまらないので、慌ててお会計を済ませて走る。

足の速いセオドアに追いついたのは、店を出てかなりの距離を走ってからだった。

「ちょっと、さっきは時間あるって言ったじゃない!」

「ねーよ。俺の買い物するぐらいなら、帰って仕事するわ」

「そんなこと言わずに。みんな戻ってきたし、時間に余裕はあるでしょう?ちょっとだけでもいいから、お店に行きましょうよ。ね?」

折角王都まで来たからと、セオドアの腕を引っ張って止めようとするが、意外にもセオドアは力が強くて止まらない。

ずんずんと私を引きづったまま歩いて行く。

「ねぇ!一軒!一軒だけでいいから!!お願い!セオドアのために、へそくりも貯めてきたのよ!一緒に行きましょうよ!!」

だが私の懇願も空しく、セオドアは私を見ようともしない。

「あ、ほ、ほら、剣の鞘とかどう?」

「騎士団で支給される」

「あ、ああ、待って、待って。靴は!?靴はどう?この間、サイズが合わなくなってきたとか言ってたし。有名なアスター商会の靴なんていいんじゃない?」

「靴も騎士団で支給される」

「靴は何足あってもいいでしょう?みんなが憧れるアスター商会の靴よ?『一足で一生モノ』とまで言わる靴よ!?紳士靴の最高峰よ!?」

「そんな高級な靴履いて、どこに行くんだよ」

セオドアに何を言っても、一刀両断にばっさばっさと切られてしまう。

「待って、待って、待って!ねぇ、今通り過ぎたお店、素敵なお財布売ってたわよ!お財布なんてどう?見るだけでもいいから!ねぇ、見に行こうよ!!」

何とかセオドアの興味を惹こうとしたが、セオドアが私を無視して歩き続けたため、あっという間に馬車預り所まで来てしまった。

「じゃあ。俺帰るわ。王都はひったくりやスリも多いみたいだし、気をつけろよ」

「ちょっと!ねぇ、本当に帰るの?お願い、待ってよ!」

(嘘でしょう!?本当に帰るの!?)

セオドアは縋る私を振り切り、さっさと御者台に乗ったかと思うと、そのまま馬に鞭をあてて、石畳の埃を巻き上げて私の前から消え去ってしまった。

「待って!ねぇ、帰ってきてよ、セオドア~!!!」

必死で叫んだのに、セオドアが戻ってくる様子はない。

呆然とセオドアがいなくなった通りに立ち尽くす。

(・・・・・・反抗期なのかしら?)

アルバート様たちがいなくなってから、セオドアは妙によそよそしいような気がする。

前はもう少し仲が良かった。

セオドアが騎士団に入団すれば、頻繁に会えなくなるというのに、何とも寂しい限りだ。

(それとも、私と一緒に買い物をするのが嫌だったかしら・・・)

自分が着ているお母様の服を摘んでみる。

古い服を着た私と一緒に高級店に入るのが、嫌だったのかもしれない。

先ほど話をしていた可愛い花売り娘だったら、喜んで一緒に買い物をしたのだろうか。

小さい頃は何をしても喜んでくれたのに、セオドアも難しい年頃になったものだとため息が出てくる。

どうしようかと思っていたら、遠くからヒヨドリの鳴き声が聞こえてきた。

「ヒーヨ、ヒーヨ、・・・ヒーヨヨ」

ヒヨドリの姿は見えないが、何だか励ましてくれているような気がする。

(・・・落ち込んでいても、仕方がないわね)

折角王都に来たのだ。

とりあえず、オリバーに書いてもらった店を順番に回ってみるしかないだろう。

本人の好みに合うものが良かったが、こうなれば私が選ぶしかない。

正直自分のセンスには、あまり自信がなかったが、何とかなるだろうと地図を握りしめた。