軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61 蜂蜜の使い道

役所でイーライと名乗ったおじさんは親切だった。

セオドアと二人で大きい箱5箱分もある申請書類を運んだが、嫌な顔一つせずに受付をしてくれる。

「あの、お手数をおかけしてすみません」

「いいえ、いいですよ。こんなに沢山大変でしたね」

そう言いながら、職員を数人呼び寄せて、見舞金申請書類が何枚あるかを数えさせている。

私が用意した名簿の人数と合っているかをチェックしているのだろう。

「あの、補助金を申請して、お金をいただけるのはいつ頃になりますか?」

一年だろうか。それとも二年だろうか。

図々しいと思ったが、聞いてみた。

返答によっては、これからの返済計画が変わってくる。

「ああ、この申請書類を精査してみないとわかりませんが、通常でしたら二か月ですね。見舞金の方は数が多いですからね。でもまあ、三か月もあれば大丈夫でしょう」

「そんなに早く!」

嬉しくて、セオドアと思わずハイタッチしてしまった。

そんな私たちの様子を見て、事情を察したのかイーライは優しく付け加えてくれる。

「申請が下りれば郵便で連絡しますよ。それから直接持ってこなくても、まだ書類がある場合は、郵送で大丈夫ですからね」

「そうなんですね!ありがとうございます!!」

もう言うことなしだ。これで極貧生活からおさらばだ。

一安心だとホッとしてイーライに笑いかければ、「よかったらどうぞ」と椅子を勧めてきてくれた。

「君たち、サウスビー領から来たんだろう?」

イーライが、私に親し気に砕けた口調で話しかけてくる。

一応領主だが、イーライの目には使用人とでも映ったのだろうか。

確かに使用人に間違われても仕方がない格好の私だ。

セオドアはちょっとだけ微妙な顔をしたが、私は気にしない。

「ええ、そうです」

「あそこ、いいとこだよね。昔、新婚旅行で行ったことがあるよ」

「そうなんですね!?どうでした?」

うちの領を褒められるのは、とても嬉しい。

セオドアも心なしか笑顔だ。

「景色が綺麗なところだよね。あちこち行ったけど、記憶に残ってるのは養蜂場かな。奥さんがレストランで食べた蜂蜜を使った料理を気に入ってね。隣の土産屋で沢山買わされたよ」

イーライは新婚旅行を思い出したのか、楽しそうに笑っている。

養蜂場は、少額だが入場料をとって観光客にも開放している。

そして少しでも蜂蜜を売るために、レストランと土産店を併設しているのだ。

「蜂蜜を使ったお料理って、何を食べたんですか?」

「あ~、なんか鶏肉だったかな。コクがあって美味しかったよ。あとはデザートとドリンクを頼んだ」

鶏肉の照り焼きでも食べたのだろうか。

料理に蜂蜜を使えば砂糖より味がまろやかになるし、コクも出る。

「それで奥さんが気に入って、うちでも作るって言って沢山買わされたんだ。だけど奥さん、料理が下手でさぁ。蜂蜜を使って料理したら焦がすことが多くて。結局パンやヨーグルトにつけるだけになったんだけどね」

「あー・・、そうなんですね」

砂糖より糖分の多い蜂蜜は焦げやすい。

弱火でゆっくり加熱することがコツなのだが、恐らく知らなかったのだろう。

「やっぱりプロじゃないと難しいのかなぁ」

「いや、母さんは別に問題なく作ってるよな?」

料理をしないセオドアには、イマイチ料理の難しさがわからないようだ。

料理を作ったことのない人ほど、料理なんて誰でも簡単にできると思いがちだ。

家に戻ったら、セオドアにも料理をさせようと心に決める。

「料理に蜂蜜を使うには、ちょっとしたコツがいるんですよ。良かったら、作り方を書いておきますね」

紙に作り方を書いてイーライに渡してあげると、思いの外喜んだ。

もしかしたら、奥さんは料理が全般的に下手なのかもしれない。

「ありがとう、助かるよ。じゃあ折角だし、今日は蜂蜜を買って帰ろうかな」

(顧客を一人捕まえたわ!)

心の中でガッツポーズを取る。

商売の基本は、小さいことからコツコツとだ。

「是非そうしてください。蜂蜜は栄養もあるし、身体にいいですから」

ちゃっかり宣伝もしておく。

気に入ったら、継続して買ってもらいたい。

「あと養蜂場で何か良かったこととか、逆にこうしたほうがいいなと思ったことってありましたか?」

ついでに市場調査だ。

一般人であるイーライの意見を聞いて、少しでも養蜂場の利益を上げるための参考にしたい。

「ああ、そうだな。蜂蜜沢山買わされたせいで、帰りの荷物が重かったんだよ。その場で家まで配送してくれると助かるなぁ」

「なるほど」

思いがけない意見に、ついメモしてしまう。

「それから、試食ができればしたかったかな。色々売ってたけど、味がわからなくてね。全部買うわけにもいかないし」

「・・・・・・そうですよね」

売っている私たちからしたら、味なんてわかりきってるし、蜂蜜を使った料理だって、目分量で適当に作れる。

でも、食べ慣れていない王都の人たちには、蜂蜜の使い方はわからないのかもしれない。

「貴重なご意見、ありがとうございました。参考にさせてもらいますね」

「いやいや、いいよ。ああ、ほら、見舞金の集計が終わったようだよ。数の確認をしてくれるかい?」

持ってきていた名簿と照らし合わせて、数の確認をする。

「大丈夫です。では、お願いします。・・・と、良かったらどうぞ」

ポケットの中から、あるだけの蜂蜜飴をだす。

セオドアが、よくそんなに沢山持ってたなと呆れたように見てくるが、そんなの気にしない。

これだけ沢山あれば、きっと集計してくれた職員の分も足りるだろう。

「おや、ありがとう」

「サウスビー領で採れた蜂蜜で作った飴です。喉にもいいし、是非」

「じゃあ、後でみんなで食べてみるよ。子どもがもう少し大きくなったら、またサウスビー領に遊びに行くね」

「ええ!ぜひ!!お待ちしています!!!」

笑顔でイーライに別れを告げ、御者台に乗り込むと同時に、先ほどイーライから聞いたことを紙に書いておく。

「おい、何書いてんだよ。酔うぞ」

「ああ、さっき言われたことを書いてるの。忘れたら嫌だし。えっと、とりあえず蜂蜜を使った料理の作り方って言ったわよね。あと、その場で配送できるようにすること、と。それに試食って言ってたわよね」

「ああ、それ、養蜂場で試すのか」

「そうそう。蜂蜜を買う人に、料理の作り方を書いた紙も一緒に渡してあげれば、家でも作るかもしれないでしょう?その場だけじゃなく、継続的に買ってくれるようになるかもしれないわ」

「なるほどな。じゃあ、料理だけじゃくて、飲み物に使えることも書いておけよ」

「え?」

「ベス、レモネードを知らなかっただろ」

「ああ、そうね。料理、飲み物、あとデザートの作り方、と」

蜂蜜の使い道は、パンやヨーグルトに入れるだけじゃないのだ。

「あと蜂蜜を小分けにしろってことだろ。そうすりゃ色々な種類を試せる。大瓶だと、その分値段も上がるしな」

「でも小分けにすると、手間もかかるし容器代も必要になってくるから、単価を上げないとやっていけないわよ。商品に費用を上乗せするから、結局お客様側が高く払うことになるわよ?」

小瓶に詰めるとなると、手間がかかる。

その分人を雇わなくてはならないし、在庫管理も大変になってくる。

「でも、客側からしたら色々試せるし、お土産に配る分には小さい方がいいだろ?」

「ああ、確かにそうね」

少しでも売り上げを伸ばすために、色々考えねばならない。

アルバート様のおかげで借金だらけの貧乏領から脱出はできたが、お金はあって困ることはない。

できれば優良経営者として表彰されるぐらい稼ぎたい。

「まあ、そこらへんはまた要相談ってとこだな。現場の意見も聞かないとわからないし」

「そうね。あ、ほら、ここよ、ノアの事務所」

下町の裏通りに、小さな看板が掲げてあった。

気をつけていなければ見落とすところだった。

「じゃあアンナはここで降りろ。俺、馬車預り所にいるから。終わったら預り所に集合な」

セオドアに手を振り、ノアの事務所の扉をドキドキしながら開いた。