軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58 王都へ行こう

「どう?セオドア?」

くるりとその場で回ってセオドアにドレスを見せる。

オリバーから披露宴で着るよう、美しい紺色のドレスが送られてきたのだ。

ドレスの胸元には、銀糸で繊細な刺繍が施してあるため、光を柔らかく反射して輝いている。

スカート部分には、光を透かす薄布が幾重にも重なり合わせてある。

まるで物語に出てくるお姫様みたいなドレスだ。

「・・・・・・・お前、朝早くに俺の部屋まで来て、言うことはそれだけか?」

ドレスを見せるためにセオドアを起こしたのだが、どうやらかなり怒らせてしまったようだ。

私に無理やり起こされて機嫌の悪いセオドアは、ベッドから出ようともしなければ、こちらを見ようともしない。

「だって昨夜遅くに届いたんだもの。私、もうすぐ王都へ出発するのよ?セオドアに見せるとしたら、今しかないじゃない?」

少しでもセオドアの機嫌が直るよう、今度は可愛くスカートを摘んで微笑んで見せる。

新しいドレスなんて初めてだから、嬉しくて仕方がない。

「ねぇ、どう?可愛い?」

「ああ、ああ、可愛いよ。『馬子にも衣裳』って言うしな」

「ねぇ、ちょっと、その言い方は酷くない?他に何か言うことないの?」

「わかったよ、じゃあ、『鬼も十八、番茶も出花』だ」

「・・・・・・もうっ!」

わざわざセオドアのために見せにきたのに、セオドアは私を見ようともせずに、失礼なことわざで返してくるだけだ。

(そろそろセオドアが起きる時間だから、起こしてもいいと思ったんだけど・・・)

よっぽど起こされたのが嫌だったのか、セオドアは怒りを抑えようとするように毛布を握りしめている。

でも私だって、わざわざ見せにきたのだ。

もう少し、何か言ってくれてもいいのではないのだろうか。

「もうっ、折角セオドアに見せに来たのに。少しは私を見てよ!」

「見るかよ!この馬鹿!!大体何で今なんだよ。今日は王都までお前を護衛するんだから、その時どうせ見るだろ」

セオドアがふてくされながらそっぽを向く。

そんなに眠かったのだろうか。

「あら、着ないわよ。そんな勿体ないことなんてするものですか」

「はぁぁ?」

「だって、このドレスはヘンリー様の披露宴用だもの。王都に行く時に着るのは、いつものお母様の服よ」

「・・・・・・じゃあ、何だって今着たんだよ?」

セオドアが、わけがわからないと言わんばかりに、頭をがりがりと掻く。

「だってセオドアに見せたかったから」

「はぁ?」

「視察の時にアルバート様に言ったじゃない。『一度でもアンナが綺麗に着飾ってるとこなんか見たか?』って。だから、私が綺麗にしている姿を見てもらおうと思っただけよ」

「・・・・・・あ、ああ、そうかよ」

「じゃあ、そういうわけで、私も準備するわ。朝早くに起こしてごめんね」

ドレスの裾を翻して自室に戻る。

朝早く出発しないといけないから、これから急いで準備しないと間に合わないだろう。

(反応は良くなかったけど、ドレス姿をセオドアに見せれて良かったわ・・・)

セオドアに綺麗に着飾った姿を見せることができて、ちょっとホッとする。

いつも古い服ばかり着ているから、私が節約のために新しい服を買うのを我慢していると思っていたに違いない。

口は悪いが、いつも私のことを気にかけてくれるセオドアだ。

そんなに心配をかけていたのかと思うと、申し訳なかった。

これでセオドアも安心してくれるだろう。

(ただ、このドレスの値段が気になるんだけどね)

王都にいるオリバーに、そんなに余裕があるほど生活費を送っているわけではない。

だからオリバーに会ったら、どこからドレス代を捻出したのか、問い質さなければならない。

(頼むから借金だけはやめてね!)

学生のオリバーが借りることのできる金融業者なんて、高金利のとこに決まっている。

借金で買ったドレスでないことを祈りながら部屋に戻り、慌てて着替える。

このドレスを畳み直して、急いで馬車に入れないといけない。

ヘンリー様の披露宴に出席するのに、着ていくドレスを忘れたら大変だ。

王都に行くのに忘れ物がないか、再度確認してから鞄の鍵を閉める。

(いよいよ王都に行って、アスター商会と契約するわよ)

自分に気合いを入れるために、両頬をちょっと叩いた。

アルバート様たちが去ってから、あっという間だった。

補助金申請の作成、領民たちの見舞金申込みの受付。

そして、慰謝料を返さずに済むよう助言をもらうために、チャーリーのいる北のはずれまで往復して相談。

王都に行くまでにやることが目白押しで、アルバート様たちのことを思って寂しいと感じる暇もなかった。

(王都でも、予定はぎっしりと組み込んであるしね)

今日は役所に行って補助金と見舞金申請の書類を提出した後に、ノアに会って補強工事の依頼をする予定だ。

明日はアスター商会との契約もあるし、折角なら王都でうちの蜂蜜の評判も聞いてみたい。

王都で買いたい物だって沢山あるから、時間も随分かかるだろう。

オリバーのテストが終わったら、久々に姉弟水いらずで食事だ。

(こんなことができるようになるなんて、全てアルバート様のおかげだわ!)

心の中で、アルバート様に感謝する。

今までだったら、王都に数日も泊まるなんて手が回らなくて無理だったが、うちを辞めた皆が戻ってきてくれたおかげで、家のことが回るようになった。

私が王都に数日間滞在しても、問題はない。

王都に泊まるなんて、初めてのことでドキドキする。

(・・・まあ、楽しいことばっかりではないけどね)

ヘンリー様の披露宴に出席しないといけないことだけが、私の気持ちを重くする。

(・・・でも、きっと大丈夫よね)

婚約破棄などの民事事件に詳しいチャールズに、ヘンリー様との婚約破棄の契約書を見せたところ、金額は高いものの法律的には問題はないとお墨付きを貰っている。

チャーリーに聞いて、できる限りの法律の知識も身につけた。

ホランド伯爵からは多少嫌味を言われるだろうが、聞き流せばいいだけの話だ。

(さあ!行くわよ!王都に!!!)

何だか全てが上手くいきそうで、わくわくしながら玄関に向かった。