軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 帽子

約束の時間にはまだ早いが、先に行って待っておこうと部屋を出ると、もうアルバート様は玄関で待っていた。

扉に背を預け、腕組みしながら気持ちよさそうに目を閉じている。

(本当に綺麗ね)

遠くからみても、その美貌の凄さがわかる。

高い身長は勿論のこと、筋肉質で鍛え抜かれた身体。

白い透明感のある肌。

滑らかな弧を描く眉の下には、美しい切れ長の瞳。

(神様が作った芸術品って感じだわ)

それなのに着ている洋服は、明らかにサイズが合っていない。

袖は捲られているからまだいいが、ズボンの丈は誰がどう見てもおかしい短さだ。

屋敷内ならそうは思わなかったが、この格好で大勢の目に触れる視察に行かせると思うと、本当に申し訳なくなってくる。

(アルバート様が文句を言わないのをいいことに、本当にすみません!)

私の視線に気付いたのか、アルバート様がゆっくりと目を開けた。

「どうしたのだ?」

「あ、いえ、お待たせしました」

慌てて玄関にいるアルバート様の側まで駆け寄る。

「いや。まだ約束の時間には早い。私が早く来すぎただけだ」

そう言いながら、さりげなく私の鞄を持ってくれようとする。

だが怪我人には持たせられないので、慌てて自分で持ち直す。

「あ、いいですよ。軽いから自分で持てます。それからこれ、良かったら帽子です」

アルバート様に古びた帽子を手渡す。

頑張って探したが、アルバート様に合うような帽子はなかった。

仕方がないので、馬丁のジョージが置いていたハンチング帽だ。

何もないよりかはマシだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・多分。

「帽子?」

「昨日、随分と日焼けしてたでしょう?今日も長時間外にいることになると思いますので」

(せめてその美しい白い肌を守ります!)

「ああ、ありがとう。アンナ嬢は本当に気が利くな」

片手で帽子を被りながら、お礼を言ってくれる。

だが残念ながらサイズが合わなかった。

顔の小さいアルバート様には、ジョージの帽子は大きくて、顔の半分が隠れそうになっている。

寸足らずの服にぶかぶかの帽子。

余計にみっともないことになってしまった。

何も満足に用意できない自分が本当に嫌になる。

(本当に情けないわ。アルバート様ごめんなさい!)

慌ててアルバート様から帽子を取り返そうと、踵を上げて手を伸ばす。

「すみません、その帽子、アルバート様にはサイズが合っていませんでした」

(まさかこんなに顔が小さいとは!アルバート様は全て特注でないと無理じゃないのかしら?)

だがサッと避けられてしまった。

「いや、この方が深く被れるから日除けになって丁度いい」

そう言いながら、アルバート様は帽子を改めて深く被り直している。

おかげでアルバート様の顔のほとんどが見えない。

「いや、でも、それは・・・」

アルバート様の帽子を取ろうと周囲をぴょんぴょんと跳ぶが、アルバート様は帽子の鍔をしっかりと押さえたまま離さない。体の向きを変えて、私の手から逃れようとする。

「帽子はこれでいいから。それよりアンナ嬢、鞄を私に渡しなさい」

そう言いながらも、まだ手は鍔にかかっている。

「ほら、早く」

「・・・早くと言われても、アルバート様が帽子を押さえているから、渡せません」

「・・・・・・帽子を取らないか?」

「ええ、取りません」

「絶対にだな」

「ええ、絶対に」

(意外に疑り深い性格なのね)

仕方がないから、右手を上げて宣誓までしてやる。

そんなにこの帽子が気に入ったのなら、ジョージにどこで買ったのか聞いといてあげよう。

怪我人に鞄を持たせるのは気が引けたが、根負けして鞄を手渡すことにした。

「はい、じゃあ鞄です。持っていただいてすみません」

「いや、こちらこそ。いつもアンナ嬢にはよくしてもらっているからね。感謝しているよ」

(・・・満足できる品でもないだろうに、それでもお礼を言ってくれるのよね)

別に感謝されたくてやっているのではないが、アルバート様は必ずお礼を言ってくれるので、つい何でもしてあげたくなってしまう。

自然、顔がほころぶ。

「どういたしまして。ところでベスはどこに?」

周りを確認するが、いつも側にいるベスがいない。

「ああ。クララと屋敷に飾る花を摘みに行くそうだ。二人で随分前に出かけたよ」

ベスは今日の視察にはお留守番だ。

行きたそうにはしていたが、長時間馬に乗らねばならないので仕方がない。

行きたいとせがまれるかと思ったが、クララと遊びに行ったのなら問題はないだろう。

「そうですか。では私たちも行きましょうか。セオドアが馬小屋で準備を終えて待っているはずです」

玄関から外に出ると、秋の始まりを告げるような気持ちいい風が吹いてきていた。

天気もいいし、これならベスも、外で楽しく遊べることだろう。

・・・・・・だけど馬小屋には、セオドアの足に必死にしがみついているベスがいた。