軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話「詰めが甘いんですのよこの悪魔!」

ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

私は今、悪魔とお話ししていますの。

どうやらこの悪魔、誰かと契約して、『この町を襲っておいてから契約者に花を持たせてやって、契約者を英雄にしてやる』というよく分からない目標のために今、貴族街を燃やしているらしいですわ。

中々、発想が面白いと思いますの。要は、裏で自分が働いた悪事を自分が解決することで自分の名声を上げよう、ということですわね?そこに悪魔を用いた事といい、中々珍しいものですわねえ。

「そう。でもその契約者、あなたを倒せるくらいに強いんですの?」

「何を言う。人間如きが私に勝てる訳は無い。ただ、契約者が攻撃してきたら避けずに受け、それ以上の襲撃はせずに逃げ去る、という手筈になっているな」

成程。それならホーンボーンの野郎や王家の野郎が雑魚でも何とかなりますわね。

「大変ですのねえ、そんな茶番に付き合わされて……」

しかし、こんな契約をさせられて、悪魔というものも案外大変そうですわね……。

でも悪魔にとっては不運なこの状況。

私にとっては悪くないですわね!

「でもその茶番の主役はあなたの契約者じゃなくてもいいんじゃあないかしら?」

「……どういうことだ」

「いえ。ですから、あなたを倒してこの町を救うのは、別に契約者であるホーンボーンの野郎じゃなくてもいいんじゃないかしらと思ったんですのよ」

契約者がホーンボーンの誰かだと決まった訳ではないですけれどカマを掛けるつもりでそう言ってみたら、悪魔がちょっと反応しましてよ。大体当たりのようですわね!

「その言葉を聞いていると、まるで私を貴様が倒そうとしている、というように聞こえるが」

「あら。私、それなりに身の程を弁えていますわ。あなたと真正面から殴り合って勝てるなんて思わなくってよ」

まあ、殴り合ったら勝てませんわよね。下手に戦い始めたら私もこんがりロースト間違いなしですわ。

だって相手は悪魔ですもの。そうそう簡単に勝てる相手じゃなくってよ。強さだけでいったらドラゴンの数倍かしら?

……ですから、こいつをホーンボーンの野郎の代わりに殺して英雄になろう、なんて思うなら、このまま戦闘開始、なんて馬鹿な真似はできませんのよ。

「ということで、ごきげんよう、悪魔さん。あなたもくだらない人間の契約に付き合わされて大変でしょうけれど、是非貴族街を焼くことにお励みになってくださいな」

ということで一時撤退ですわ!優雅に一礼して、さっさと悪魔の前から去りますわ!

そこで私、考えますのよ。

どうやったらあの悪魔、ホーンボーンの野郎の代わりにぶっ殺せますかしら……?

悪魔がまた私から興味を失って貴族街を燃やし始めたのを眺めつつ、私、考えますわ。

まず、悪魔の契約者ですけれど、これはほぼ間違いなくフォーン・タート・ホーンボーンですわね。

『あなたの契約者であるホーンボーンの野郎』と言ってみたら悪魔が反応しましたし、訂正もしませんでしたし。概ね、ホーンボーンの誰かが悪魔の契約者であることは間違いなさそうですわ。

そして、その中で一番『名誉』が欲しい状況なのはフォーンですわね。

奴隷落ちしたことを知らない貴族は多いでしょうけれど、このままいけば王家との婚約は打ち切られること間違いなし。そして借金と醜聞にまみれていることは既に周知の事実となっているでしょうし、貴族街での不名誉な噂の種から脱却するためにも、ここは1つ、大きな手柄を立てたいはずですわね。

……ということで、私、フォーン・タート・ホーンボーンを探すことにしますわ。

だって彼なら『一撃は』悪魔に入れられるんですもの。

そこで『一撃』入れさせた後、悪魔はなんと、『それ以上の襲撃はせずに逃げ帰る』そうですのよ?

それって、足止めさえ上手くやれば、私が一方的にボコボコにできるってことじゃあなくって?

勿論、それでいてフォーンには手柄をやらないようにしなければなりませんけれど……。

うーん、どうしようかしら?

「ヴァイオリア、何があった」

考えていたら声を掛けられましたわ!

「あら、ドラン!来てくださったのね!」

ああ、丁度いいところに丁度いい人材が!

「何か嫌な気配がしたからな」

流石ですわね。人狼の嗅覚というものは馬鹿にできなくてよ!

「……それで、これはどういう状況だ?」

「ええ。私、これからあの悪魔を狩るところですのよ。お手伝いしていただけますこと?」

私が悪魔を示してそう言えば、ドランはにやりと笑って答えてくれましたわ。

「勿論」

要は、フォーンが攻撃すればその一撃は確実に入りますわ。

そして、フォーンが一撃入れさえすれば、悪魔はそれ以上の襲撃は止めて逃げていく、ということでしたわね。

……つまり、フォーンに『傍から見て明らかに弱っちい一撃』を入れさせた後、悪魔を逃がさないようにすればボコボコにできる、というわけでしてよ。

ということで早速、私達はフォーンを見つけましたわ。大通りから一本入った所の裏路に居ましたわね。分かりやすい位置で結構でしてよ。

フォーンは悪魔の周りに野次馬が多くなる時を見計らっているようですわね。物陰に隠れて様子を見ているところを更に物陰に隠れた私達が見ていてよ!

フォーンが様子見している間、私達もフォーンと一緒に様子見ですわ。

次第に大通りには野次馬や焼け出された人が増えてきましたわね。観客の入りは上々、といったところかしら。

……これなら準備は良さそうですわね。

私は早速、フルフェイス甲冑姿で弓を構えて悪魔を狙撃しますわ!

私が悪魔に攻撃すると、悪魔も驚いたようでしたけれど、それ以上にフォーンが驚いたようでしたわね。

『まさか自分以外に悪魔に立ち向かう者が居るなんて』とでも言いたげな顔ですけれど、知ったこっちゃーなくってよ!

「王都に仇為す悪魔よ!その蛮行、許せませんわ!」

颯爽と大通りへ躍り出た私は、見事、人々の注目を総浚いしましてよ!

「……私の邪魔をする気か」

「ええ!その通りでしてよ!」

私は甲冑の背に深紅のマントを翻すと、聖水の瓶を悪魔に向かって投げますわ!

「無駄な事だ」

悪魔は当然、その瓶を払いますわね。ガシャン、と割れた瓶の中身が石畳の上に広がっていきますわ。

「ならばこの、聖なる銀の矢であなたを打ち払ってみせましょう!」

それでも私、めげませんの。べっつに聖なる銀でもなんでもない只の鉄の鏃の矢ですけれど、それを悪魔に射掛けますわ。

……けれどその矢を悪魔は避けて、更に私に向けて指を鳴らそうと腕を伸ばしますわ。つまりこのままいくと私はこんがりローストなのですけれど……!

通りの反対側の路地に潜んでいたドランがここでサッと飛び出してきて、悪魔にタックルかましましてよ!

明らかに人外の速さ!そして明らかに人外の強さ!これには悪魔もビックリですわねえ!

人外には人外!悪魔には人狼をぶち当ててやればいいのですわ!

ドランのタックルで悪魔は見事にバランスを崩しましたので、そこへ私は立て続けに2発、矢を射掛けましたわ。

矢は見事、悪魔の肩口と腹に命中。悪魔の血が流れると、観衆は私達へ存分に歓声を送ってくれますの。中々気分がよくってよ!

……でも、当然、この中に悪魔の他にもう1人、気分が良くない人が居ますわね?

「悪魔よ!この国から去れ!」

私達の活躍に慌てて飛び出してきたのはフォーンですわ。そうですわね。このままですと手柄を全部私達に持っていかれますものね。

丁度良かったですわ。流石にドランのタックルも次の悪魔の一手は防げなかったと思いますもの。私達がこんがりローストになる前に来てくれて本当に良かったですわ!

フォーンは飛び出してきながらその手に剣を構えて、ドランが組み付いている悪魔に向かってその剣を振るい……。

そこで、『聖水』を踏んで滑って体勢を崩しましたわ。

ええ。これ聖水というか、スライムの粘液なんですけれども!おほほほほ!聖水の瓶に入っていたのですからこれも聖水ってことでよろしいですわねえ!?

ホーンボーン家は女たらしの一族ですわ。女遊びはしても、武術に力を入れてはいませんの。ですから、教養程度の武術しか嗜んでいないわけですわね。

当然、常日頃から鍛錬を重ねている訳でもないフォーンは崩した体勢もそのままに、悪魔へ突っ込んでいくことになりますわ。

そこで動くのはドランですわね。

ドランは悪魔に組み付いていますから、うまく体を動かせば悪魔を盾にするようにして、悪魔にフォーンの剣の切っ先を掠らせることくらいはできる、というわけでしてよ。

……かくして、フォーンが飛び出してきた割には切ないくらいショボい一撃をかまして下さった後、悪魔は数秒、茫然としていましたのよ。

でも、契約は契約ですわ。悪魔はこの後、襲撃を止めて逃げなければなりませんのよ。

……そして悪魔がそれを思い出した時には、もう遅いのですわ!

「さあ、これでおしまいですわ!」

私は見栄え重視で剣を抜き放つと、その剣に指先を滑らせて血を纏わせて……その剣で、ドランに取り押さえられたままの悪魔の心臓を一突きにしてやりましてよ!

「……ば、馬鹿な……」

悪魔だって生き物ですわ。殺せば死にますわ。私の血を心臓に叩きこまれて生きていられる訳がありませんわね。

ということで悪魔は息絶え、この場に残ったのは、勇ましくも剣を高々と掲げる私と、一仕事終えた顔のドラン。

そしてみっともなくずっこけたフォーンと、悪魔の死体!

それらが観衆に囲まれて、今!歓声を浴びていますわ!

「この悪魔は私がこの手で討ち取りましたわ!皆様、どうぞご安心なさって!」

私は民衆へ高らかに宣言すると、その場で悪魔の首を切断してやりましたわ。こういう血生臭いパフォーマンスも、盛大な焚火と悪魔殺しの興奮との中では中々ウケるものなのですわ。

……こうして観衆の興奮を存分に高めておいてから……私、もう1つ、血生臭いパフォーマンスをご披露しようと思いますのよ。

「……そしてこの町に紛れ込んだ、もう1つの悪についても、今ここで退治してみせましょう」

私はそう宣言してから、未だへたり込んだままのフォーンを剣の先で指し示しましたわ。

「彼こそが、今回の悪魔を召喚した極悪人ですわ」