軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20話「燃やす前に燃えましたわね……」

ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアですわ。

ありのまま起こっていることをお話ししますわ。

『屋敷が燃やす前に燃えましたわ』。

何を言っているのかサッパリでしょうけれど、私だってサッパリですわ……。

頭がどうにかなりそうですわ……。

……でもきっと、ボヤだとか火の不始末だとかそんなチャチなもんじゃあなくってよ。

もっと大きな何かがきっと動いているのですわ!

どうせ燃やすつもりだったんですから燃えたところで困りはしないのですけれど、でも何となく釈然としない上にスッキリしませんわね……。

特に……ジョヴァンは、どう思っているのでしょう?

かつて自分を冷遇して、更に自分の家を燃やした相手の家が、燃やすまでも無く燃えている、って……きっと複雑な気持ちだと、思いますのよ。

「……見学に行きますこと?」

なのでそう、提案してみたのですけれど。

「いやぁ……ここからでいいかな」

ジョヴァンはそう言うと、その場にどっかり腰を下ろして、遠くで燃え上がるホーンボーンの屋敷を眺めましたわ。

「ま……俺が燃やしてもよかったし、お嬢さんが燃やしても面白かっただろうけどね。でも……そんな価値がある屋敷でもないでしょ」

『そんな価値がある屋敷でもない』。その言葉に彼の反抗が、ほんの少し、見えましたわ。

「いい気分だ。ん。スッキリしたぜ」

「……そう?なら、良かったのですけれど」

私はこれじゃあスッキリしきれませんけれど……でも、ジョヴァンがそういうのなら、これについてはまあ、良しとしますわ。

燃やす前に屋敷が燃えた。まあ、こういう事だってありますわよね。ええ。

「では燃やし損ねましたからその分何か考えないといけませんわね」

「えっ」

でも!『燃やす前に屋敷が燃えた』ことについてはまあ良しとしますけれど!

私は!これじゃあ!満足しませんのよーッ!

「……いや、まあ、いいけど」

「あらそう。よかったですわ。あなたが駄目って言っても私、やりましたけれどね」

やっぱり初志貫徹、ですのよ。燃やすと決めたのですから燃やしたかったのですわ。燃やせなかったなら別の形で初志貫徹、ですわ!

「そもそもあの家、どうして燃えたのかしら」

……ということでまずはそこからですわね。

「ホーンボーン家が火の不始末で大炎上、というのはまずありえなくってよ」

それだと相当面白いですけれど、まあ、あり得ないでしょうね。常に複数人が起きているでしょうし、夜間の警邏をしている兵士も居るはずですし。

……そう。兵士も居るだろうし使用人もいるだろうという中で、あんなに屋敷が燃えているのが不思議なのですわ。

「放火にしても、よくもまああれだけ燃やせたと思いますわ。火薬でも使ったのかしら?お兄様、どう思われますこと?」

「ふむ。火の勢いが大きいな。火薬の燃え方ではないが……油をふんだんに用いた放火のように見える」

「ということは間違いなく放火だと?」

「そうだな。あれだけの大きさの屋敷だがあれだけ燃えているのだ。『燃やそうとして燃やした』以外にあり得ん」

成程。やはりそうですのね。

……では犯人は誰か、という話になりますわね。

ホーンボーン家の事ですから、方々から恨みは買っているでしょうけれど……それでも、あれだけ盛大に屋敷を焼ける人物、となると限られるように思いますわ。

「まず考えられるのは王家の手の者、ですわねえ」

王家なら金は持ってますし人も持ってますもの。何でもやりたい放題ですわ。

「王家がホーンボーン家の屋敷に放火したとしたならば、その目的は何だ?手を切るつもりだとしても、放火よりよい方法がいくらでもあるように思うが」

そうなんですのよねえ……。

王家が犯人だとすると、ホーンボーン家を燃やす動機が分かりませんのよね。

手を切りたいのだったらその宣言だけで済みますし、殺したいなら処刑すればよくってよ。わざわざ『放火』したという事はそれ相応の理由が無くてはなりませんわね。

「他に考えられるとしたら、他の貴族かしら?クラリノ家なんかは、もしホーンボーン家が潰れたらいよいよオーケスタ王国随一にして唯一の名家となりますわね」

「もう少し格下の貴族が成り上がるきっかけになるかもしれないしね。貴族のどこかって線も十分あるわな」

家を燃やすという事は、その家の財産を消し飛ばすという事になりますわ。ですから、ホーンボーン家を潰したい奴が放火する、というのは十分納得のいくことですわね。

「……まあ、ここで悩んでいても仕方なくってよ」

それでもここで考えているだけでは決め手に欠けましてよ。

「私、野次馬して参りますわ!」

まだ屋敷は十分燃えていますわ!多分まだ、それなりに見ごたえがあってよ!

案外、火事の野次馬は多かったですわ。

夜だというのに火で明るい貴族街の通りに、貴族も平民も出てきていて、そこでホーンボーン家が燃えるのを見ていますわね。

……いいえ。家が燃えているのを見ている、というのは、少し間違いかもしれませんわね。

「な、なんであんな奴が……!」

「あれは一体……」

人々のざわめきと不安からは、野次馬特有の無責任な感情があまりにも感じられませんわ。

だって、そりゃあそうでしょうね。

「どうして悪魔なんかがここに居るんだ!」

燃えている屋敷の前には、明らかに人外のそれの姿。

『悪魔』が居ましたのよ。

悪魔というのは、魔物でありながら高い知性を持つ生き物ですわ。

大抵は魔法を使えますし、人間の言葉を扱うことも珍しくないとか。

神話の生き物ということで、悪魔を信仰する邪教徒も居るとか居ないとか。

……それでもってハタ迷惑なことに、人間と取引をして、それ相応の対価と引き換えに望みを叶えてくれやがるんですのよ、この悪魔って奴は!

対価は魂だったり財産だったり色々ですけれど……1つ確かな事は、悪魔は結構な割合で人間をおちょくりやがるということ。それでも契約を違えることはないということ。でも契約の穴をつこうとはすること。そして、強大な力を持っている事と……ついでに、この国では悪魔と契約することは違法、ということですわね!

……今、燃える屋敷の前に悪魔が居るということは、誰かが悪魔と契約してホーンボーン家を燃やしたか……ホーンボーン家の誰かが悪魔を召喚して、悪魔と財産を対価に何かの契約をした、ということだと思いますわ。

どちらにせよ、中々面白い展開なんじゃありませんこと?

「全く、人間というものの欲望は様々な形をとるものだ」

悪魔はそう言って、ホーンボーン家の屋敷に向けて指を鳴らしましたわ。するとそこで火柱が上がって、より一層、空が明るくなりましてよ。

「さて、それでは契約通り、次の屋敷を燃やすことにしよう」

更に悪魔はそう言うと、悠々と歩き出しましてよ。向かう先は……少し離れた、別の貴族の屋敷ですわ!

野次馬達には見向きもせず、悪魔はその屋敷の前まで行くと、また指を鳴らしましたわ。

そして突如、大炎上する貴族の屋敷。使用人達は結構野次馬していましたけれど、優雅に寝こけていた奴は助かりませんわね。要は、悠々と寝ていたであろう貴族その人はこんがりロースト待ったなしだと思いますのよ。

「では次だ!」

悪魔の歩みは止まりませんわ。町のあちこちへ向かってはそこの屋敷を燃やしていく、というつもりらしいですわね。

「わ、私の屋敷に何をするつもりだ!やめろ!金ならくれてやる!」

そこへ食って掛かった貴族が1人。これから燃やされるであろう屋敷の者らしいですけれど……。

「私の邪魔をするな、矮小な人間風情が」

悪魔が指を鳴らすと、また火の魔法ですわ。火柱が上がって、その貴族はこんがりローストですわね。

これを見ていた野次馬達は、蜘蛛の子を散らすように逃げていきましたわ。尤も、悪魔はそんなの気にしていないようですけれど。

……悪魔が3軒目を燃やしたところですけれど、私、この悪魔の目的が読めませんのよね。

只管貴族の屋敷を燃やしているようにも見えますし、となると、ホーンボーンだけが狙いだったわけではない、というようにも見えますわ。

いえ、でも、ホーンボーン家の実情を知っている私からすれば、ホーンボーンが何らかの形でかかわっていることはまず間違いないと思えますの。

でも……これ、ほっとくのもアリかしら、とも思いますの。

だってこのままほっとくと、まあ、王都の貴族街が全部焼けますわよねえ……?

それはそれで面白くってよ?

……でもまあ、一応、念には念を入れて確認だけはしておきましょう。

早速、私は空間鞄からフルフェイス甲冑を取り出して身に着けますわ。

そして私!

悪魔へ接近しますわ!

「ごきげんよう、悪魔の方」

話しかけましたわ!

すると悪魔は少し驚いたような顔をしましたけれど、特に何ともない風に振り返って、私をまじまじと見つめますわねえ……。

「……何の用だ?」

「いえ。少しお話をお伺いしたくて。あなたを邪魔する為に話しかけている訳ではなくってよ」

普通に話しかければ、悪魔は普通に応答してくれるようですわね。よかったですわぁー。

「あなた、どうしてここらのお屋敷を燃やしてらっしゃるの?」

「……何故、それを話す必要がある?」

「あら。話してはならない理由が何かありますの?あなたが契約した誰かさんが『誰かに聞かれても目的は話すな』とでも言いましたの?」

私がそう言えば、悪魔は……にたり、と笑いましたわ。

「面白い。確かにあの人間はそんなことは契約に含めなかった」

でしょうね。悪魔に話しかける奴が居るなんて想定して契約しないと思いますわ。ええ。

「では教えて下さいますこと?」

「いいだろう。その方が面白そうだ」

そして人間をおちょくるのが大好きな悪魔は、こう言ったのですわ。

「私が町を襲い、私の手から町を救うことで英雄になりたい、などとふざけた契約をした愚かな人間が居たのだ」

……それ、素敵ですわねえ。