軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話「主役は譲って差し上げますわ」

ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

今日はいよいよ待ちに待った、武道大会の最終日。

準決勝まで勝ち残っているのは私とキーブ、ドランとクリスの4名ですわ。

王家の方で手を尽くしただろうに、準決勝に勝ち残っている者の実に4分の3が私側というこの事実!

国王は実の息子、第七王子ダクター様の敗北に少なからず悔しい思いをしているでしょうけれど、本当の悔しい思いはこれからして頂きますわ!

「……戻りませんでしたわね、あなた」

「まあ問題ないだろう。体は動くようになった」

……さて。リタルとの戦いで腹に穴が開いたドランですけれど、昨日の夜の月光浴が良かったようで、傷の方はすっかり良くなっていましてよ。

ただし。

「でも耳で尻尾ですのよ?」

耳ですわ。尻尾ですわ。

……そう。ドランは少しばかり狼の方に傾き過ぎたようで、朝になっても耳と尻尾が消えませんでしたのよ。

「元々顔を隠すつもりで甲冑を身に着けている。耳も尻尾も隠れるだろう」

まあ、フルフェイス兜にごっつい甲冑なら、耳も尻尾も見えないでしょうけれど……。

「それに、好都合だ。狼に多少傾いていた方が、能力は上がる」

「割と戦闘狂ですわねえ……」

……まあ、ドラン自身がいいのなら構いませんけれど。

会場へ向かうと、そこは既に熱気に満ちていましたわ。観衆だって、この日を待ちわびていましたものね。

何と言ってもこの武道大会、国の英雄を生み出すための大会ですもの。これからの希望を託して明るい未来を夢見るための英雄選び。娯楽としては最上のものでしょうね。

今日も会場のあちこちから、あの選手がいい、自分はあの選手を応援している、といった声が聞こえてきますわ。

……クリス・ベイ・クラリノの人気は言わずもがなですわね。

上流貴族、それも国一番の名家の跡継ぎで、見目も良く、剣の腕は確か。英雄像には一番しっくりくるでしょうね。

この分だと、民衆はとっくにピンクスライム騒動なんて忘れていそうですわねえ……。

一方、ドランはクリスとは逆、といったところかしら。

飾り気も無い粗野な戦い方は、その圧倒的な強さ故に誰よりも輝きますの。

聖騎士の身分しか持たず、高貴さなんて欠片も無い訳ですけれど、そこがまた、民衆にはウケがいいですわ。

後は……本当なら、顔が出せればもっと人気が上がったでしょうね。ドランはそれなりに整った容姿をしていますし。まあ残念ながら王城の地下牢にぶち込まれていた人間が顔を出すわけには参りませんわね!

それから、キーブについては……それはもう、熱烈なファンができていますわ。

現段階で残っている中での最年少。その実績はエルゼマリンギルドのお墨付き。

珍しく強い魔法使いである彼の天才的な戦いぶりは、大きな話題となっていますわ。

そして何より、綺麗な子ですからね、彼。そこも人気の秘訣でしてよ!

……となると、一番人気が無いのはもしかすると、私なのかしら?

仮面の女剣士の存在感は間違いなく大きいですし、戦いも一々『魅せる』戦いにしてきましたもの。純粋に戦闘の美しさだけで言ったら一等賞の自信がありますわ!

ただ……まあ、他に残っているのが美少年と美青年ですものね……。仮面はこういう時にちょっぴり不利ですわ!

今日の選手控室はほとんど貸し切り状態ですわ。私とキーブとドランしかいないのですもの。

クリスは恐らく貴賓席の方に行っているのでしょうね。思えば、彼が控室に居るところ、ずっと見ていませんわ。

「いよいよですわね。クリスの様子を見られないのが残念ですけれど」

「そうだな。できれば戦う前に確認しておきたかったが」

相手のコンディションというのも、戦いにおいては大切ですわ。特に、今ちょっと狼に寄りすぎて興奮状態のドランにとっては。

「とりあえずあなたは兜をとられないように気をつけなさいな」

「負けるつもりはない。首を獲らせるつもりはないからな、兜も取らせるつもりはない」

ま、まあ、そうですわね。兜が取れる時って、ほぼほぼ首を獲られた時ですものね……。

「……だが楽しみだ。クリス・ベイ・クラリノは戦士としても優秀だと聞く」

「そうですわねえ。まあ、間違いなく今の貴族界随一の腕ですわよ」

フォルテシア家が没落する前はフォルテシア家が圧倒的な差をつけての1位だったと思いますけれど、『今の』貴族界に限定してしまえばクラリノ家の連中が強いということになるでしょうね。ええ。

……まあ、逆に言えば、この準決勝に残った4人の中で一番弱い可能性が高いのはクリスですわね。ええ。

さて、のんびり待っていたら、やがてドランが呼ばれましたわ。いよいよ始まりますのね。

「くれぐれも気を付けてね、ドラン。昨日、リタルが言っていたことはちょっぴり気になりましてよ」

「ああ。分かっている」

……昨夜、リタルが言っていたこと。

『クリスが妙に焦っていて、様子が変だ』ということ。

それらが悪い予感となって、妙に頭の中から離れませんの。

私とキーブはいつもの場所でステージを眺めることにしましたわ。

ステージの上にはクリスとドランが向かい合って立って、観客達から惜しみなく注がれる歓声を浴びて、尚じっとしていますわね。

……少し、違和感がありますわね。

ドランが観客に反応しないのはいつものことですけれど、クリスに関してはそうではない、と思いますわ。

気位の高い貴族だって、人気商売をやろうと思ったら適当に愛想を振りまいておくくらいはするでしょう。実際、クリスはある程度、民衆の目を気にして動く奴だと思っていたのですけれど……。

……クリスの目は、じっとドランを見つめているだけですわ。

何か、緊張感をもって……いえ。

怯えと焦りを、存分に湛えて。

戦いの前に、司会の言葉がありましたわ。まあ、特に意味も無い司会ですけれど、観客の興奮を煽るのには役に立っているのではないかしら。

そうして司会が消えたあと、審判が入れ替わるようにしてやってきて、両者構え、の合図を出しましたわ。

……出した、のですけれど。

「……あら?クリスの様子がおかしいですわね」

クリスは、構えませんのよ。腰に佩いている剣に触れることすらせず……ただ、立っていますの。

……これに、観客もざわめき始めますわ。でも、クリスは結局武器を構えないまま、代わりに言いましたの。

「試合の前に告発させてもらおう!……目の前に居るものは、聖騎士などではない!否、聖騎士ではないどころか……人間ですらないのだ!」

「奴は人狼だ」

ざわめく会場。ドランを指し示したまま動かないクリス。そして、全ての注目を集めて尚、ステージから動かないドラン。

……いいえ、動けない、のですわ。ここで逃げたら人狼だと言っているようなものですもの。それに……戦いを棄権したことになりますわ。

「……ちょ、ちょっと、どういうことだよ、これ」

「分かりませんわ……どうしてクリスがそれを知っていますの?」

キーブと2人、私達も混乱しますわ。そもそも、クリスが『対戦相手は人狼だ』という情報を知っているなんておかしいんですもの。

ですから……真っ先に考えられるのは、リタルの裏切り。

昨日の夜、私とドランに行き会ったリタルなら、本日の準決勝でクリス・ベイ・クラリノと当たる人物が実は人狼ドラン・パルクだと知っていますわ。

でもリタルがそんなことをするかしら?私にあれほど傾倒しているように見えたあの子が、ドランを売るような真似、するのかしら?

そう考えるよりは……リタルが自らの意思に反して情報を漏らした、と考えるか、或いは、クリスがあの場で盗み聞きしていた、とでもした方が余程納得がいきますわね。

まあよくってよ。今は情報の漏れについて考えている場合じゃありませんもの。

……会場はクリスの告発によって、大いにざわめいていますわ。この王国では『人狼』が狩られるようになって久しいのですもの。人狼なんて、実際に見たことがある者の方が少ないのではないかしら。

それでも彼らは、王家によって刷り込まれた『人狼への恐怖』を持っていますの。

人狼に何をされたわけでもなく、けれど、王家が『人狼は悪だ』と言い張って人狼を狩っているという事実によって、民衆は人狼に忌避感を抱きますわ。

「さあ、兜を脱げ!貴様が人狼ではないというのなら、その証明を!」

クリスが声高に糾弾する中、会場は静まり返り、ただ、ドランへと注目が集まりますわ。

「……やばいじゃん。助けないと」

「待って」

出ていこうとしたキーブを引っ張って止めて、私はじっと、ドランを見守りますわ。

「ヴァイオリア、どうして止めるの?このままじゃドランが」

「駄目よ。彼はまだステージに居ますわ」

私が掴んだキーブの腕は微かに震えていましたし、キーブの腕を掴む私の指もまた、震えますわね。

……ええ。でも、それでも、助けに出ていくなんて、できませんわ。

「今、この会場の主役は、彼よ」

彼の晴れ舞台。私達が邪魔するわけには参りませんもの。

観客の、そしてクリスの視線を集めて、ドランはしばらくじっとしていましたわ。

……でも、やがて自ら兜に手をかけて、それを外しましたの。

野性的ながら整った、精悍な顔立ち。睨むように、それでいて激しさは無く、ただクリスを見つめる瞳。

……そして、その耳は狼のそれ。

そんなドランの頭が衆目に晒された途端、会場はまた、どよめきましたわ。

「……やはりな!よくも人狼がこのような場に出てこられたものだ!恥を知れ!」

クリスはそう言って、高慢な……それでいてどこか安堵めいた笑みを浮かべましたわ。

でも、ドランはそれを一睨みすると、言葉を返すでもなく、次は鎧に手をかけ始めましたの。

何事か、と会場がまたざわめき、クリスが困惑する中……ドランは次々に鎧を脱いでいきますわ。

聖騎士の白銀の鎧が全て脱ぎ捨てられると、いよいよ尻尾までもが見えるようになりますわね。明らかな人狼の姿は……でもきっと、観衆の『人狼』の想像から、大分離れていたのではないかしら。

だって彼、耳と尻尾以外、何も人間と変わらないのですもの。

「……見ての通り、俺は人狼だ!」

やがて、ドランがそう吠えると、会場がしんと静まり返りましたわ。

「認めたな!?ならば王家に仕えるクラリノ家の者として、貴様を許すわけにはいかない!」

「貴様に許しを乞おうとは思わない」

静まり返った会場の中、クリスとドランの会話は良く聞こえますわ。私達にも、会場の観客達にも。

「貴様は俺の何を許さない?俺が何かしたか?」

ドランは一歩も動きませんわ。それでも追い詰められているように感じたのか、クリスが半歩、足を引いたのが見えましたわ。

「……人狼が何を言う」

「そうか。俺が人狼であることが罪だと?」

ドランが嘲笑うでもなくそう問えば、クリスはいよいよ強い焦りを感じさせて、声を荒らげましたわ。

「ああそうだ!参加資格は問わない大会であっても、人狼がこうして人間の前に現れることなど許されてはならない!人狼は魔物だ!人間に仇為すものを、のさばらせておくわけにはいかない!」

クリスの掲げる正義は、長らくこの国に当たり前に存在していたものですわ。当たり前すぎて、疑問に思われなかったくらいに。

……でも、こうして陽の光の下に出てきた時、さあ、疑問に思われるのはどちらかしら?

人狼という存在に、人々は怯えるのかしら?それとも……人狼に怯え、何かに怯えているのが透けて見える、クリス・ベイ・クラリノに何か、疑問を抱くかしら?

「人ならざるものには死を!」

クリスが合図すると、ステージ脇に控えていた兵士達がステージ上に上がって、ドランを取り囲みましたわ。

「これより、悪しき人狼の公開処刑を執り行う!」

公開処刑、ね。ええ、正にそんな感じですわね。

ステージでドランを囲む兵士達。囲まれつつも悠々と立つドラン。

……そして、ドランの表情は、これから死ぬ罪人のそれではなくて……これから何かを大きく覆す、革命者のそれ。

「公開処刑?くだらんな。ここは武道大会のステージだ。処刑場じゃあない。まさか、試合を放棄する気か?」

「口を慎め!武道大会だ何だと言うのならばまず、人狼風情がここに居ること自体、許されざることだ!」

クリスの声を聞いて、でも内容はまるきり無視して、ドランはクリスへ、そして会場へと、声を張り上げましたわ。

「俺がこのステージに立っている理由はただ1つ!」

ドランは鎧を身に着けていない、それでいて服の下に包帯が見えるような様子で……それでも身構えましたのよ。

「俺はこの大会を優勝し!褒美として、人狼狩りを二度と行わないよう国王へ訴える!」

……そして、ドランへと兵士達の攻撃が殺到しましたわ。