軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

009 最大の敵

日中の訓練を終えて食事をした後、『光』と『闇』魔術の訓練をする。

ゼビスから取り寄せてもらった魔術の本には、ありとあらゆる術式が書かれていた。

といっても、上級魔法は複雑な構造だ。

理解するのは難しく、俺にはまだ早い。

だが初期魔法であれば、感覚で理解が出来た。

「 癒しの加護(ヒールライト) (小)」

右手で回復魔法を唱える。本来これは無属性のものだが、光の性質と合わせることで更に効果が高くなることがわかった。

そして――ここからは俺のオリジナル魔法だ。

「 破壊の衝動(ダークライト) (小)」

左手で闇魔法を唱える。黒くぼやっと光っている、これは毒のようなもので、対象に呪いを与えてダメージを与える。

解除が難しく、効果は著しく高い。

そして両手を合わせると――。

「 聖なる呪い(ダークヒール) (中)」

これは光と闇両方の性質を持ち合わせた俺の 創造(オリジナル) 魔法だ。

手の平を地面に翳すと一定の範囲内全員が自動回復を受けられる。

しかし俺が敵と認識した相手には、呪いのダメージを与え続けるのだ。

今の範囲は学校の教室ほどだが、ミルク先生の言う魔力総量を向上させれば更に拡大できるだろう。

「ええと、次は……」

ゆっくりとページをめくりながら、光と闇、両方の性質を併せ持つ魔法を自分で創造していく。

日中の訓練で身体は痛いし、魔力もほとんどないが――楽しい。

前世の俺は本当に怠惰だった。ただ、来やしないきっかけだけを求めていた。

それが今、叶った。破滅を回避することは当たり前だ。それ以上に、今のこの日々を守りたくなってきている。

リリスやミルク先生、そしてゼビスに認められたい。

更にこの世界が大変になることも知っている。

それまでに、俺は強くなりたい。

「よし、これとこれを合わせたら……シャドウライトができるんじゃないか?」

試しては消えて、試しては消えて。何度も、何度も、何度も、何度も。

最後に相手を攻撃すると同時に、味方を回復することができる魔法を覚えた後、俺は力尽きた。

「ふああああ」

「夜更かしですか? ヴァイス様」

「すまない、こういう場で欠伸は相応しくないな」

数日後、貴族たちが集まるパーティに俺は来ていた。マナーについては未だ不安だが、隣のリリスが色々と教えてくれているので助かっている。とはいえ連日の訓練で非常に眠たい。

俺は偉いぞ! みたいな貴族と大勢話したが自己顕示欲にまみれた話ばかりされた。

まあ、元の俺はあのヴァイス・ファンセントだ。類は友を呼ぶので仕方ないだろう。

「じゃあ、眠気覚ましにガツンと強いお酒とってきます!」

「え、いやそんな――」

ゆっくりと、それでいて機敏な動きで人の間をぬっていくリリス。

凄いな、まるで暗殺者のようだ……。

「ヴァイス」

そのとき、後ろから声を掛けられた。

次はどんな悪人かと思い振り返ると、身体が固まってしまう。

いつ帰ってきていたのだろうか。

そこにいたのは、アゲート・ファンセント。

俺の父上だった。

「ち、父上!?」

「久方ぶりだな。元気にしていたか?」

「は、はい! もうピンピンのポンポンで」

「ふむ」

びっくりしすぎて、訳の分からないテンションで答えてしまう。

中身が違うとすぐバレるのではという不安もあったが、それよりも……ただ怖かった。

原作では最後で少ししか出てこないが、厳格で恐ろしいと書いているのだ。

息子であるヴァイスがこれだけ極悪非道なのだ。

どれだけ極悪人なのか……想像もつかない。

「変わったな」

その言葉に、思わず心臓が止まりかけた。

気づいた!? ほんの数秒で!?

足元がふらつき、思わずグラスを落としそうなる。

落ち着け、ヴァイス。お前ならやれる。

「俺は変わって――」

「私に似て凄く……可愛くなった……それにさらに格好よくなったな! 何という成長速度だ!」

「……え?」

「この頬、この髪、素晴らしい。お前と会うたびにいつも驚かされる。あー、もう、うちゅくしい!」

あ、あれ? なんか厳格そうに見えたが思いのほか陽気だぞ?

え、どういうこと? もしかして息子大好きお父さんなの?

「ゼビスからも聞いていたが、剣術や魔術の才に溢れているらしいな。それもまた私に似ているな。うむ、素晴らしいぞ!」

よく見ると周りがヒソヒソと話している。いや、気配察知の能力が無ければ気づかなかったが、耳に魔力を漲らせる。

「またアゲート殿が息子を溺愛しておられる」

「本当に大好きだねえ、まあそのおかげで性格が……ちょっとな」

「一人息子とはいえもう少し厳しくはできないものか」

な、なるほど……。そういうことだったのか。

父上の風貌は彫が深く、目が鋭く、一見厳格そうだ。

だがよく見ると鼻の下が伸びっぱなしだ。うんこの人――間違いなく親バカっぽい。

ああそうか、だから俺は偉そうで悪人なんだ。

甘やかされてたタイプなのね。

めちゃくちゃホッとしたが、これは最大のチャンスでもある。

「父上、俺は変わりました。今後はファンセント家を支えられる長男になります。それに伴って、もっと事業を任せてもらえませんか? 色々と変革したいのです」

「何? 事業をか?」

だが父上の表情が変わった。

しまったやりすぎたか――。

「な、なんて素晴らしいのだ! 流石我が息子! 偉い、偉いぞお! よし、ゼビスに言っておこう!期待しているぞ!」

いや、そんなことはなかった。二つ返事だった。結構な事なのだが、まあいいか。

しかしどうにもいい人そうだ。

なのによくヴァイスは酷い奴に育ったな……。

「それで――決まったのか?」

「え? すみません、聞こえませんでした」

「恥ずかしいのか、まあいいだろう。その年頃なら仕方ない」

しかし父上は、意味深長な笑みを浮かべて父上は去っていった。

いや、本当に聞こえなかっただけなんだけどな……。

そういえばリリスが遅い。お酒を取りにいくと言っていたが、そんなにかかるだろうか?

「ヴァイス様」

後ろから肩を叩かれる。女性の声だ。

ようやく戻ってきたのかと振り返ると、そこにいたのはリリスではなかった。

黄金のように輝く綺麗な金色の長い髪、この世の全てを見透かしたかのような綺麗な青い瞳。

鼻筋は透き通っていてまるで芸術のよう、唇は目を奪われるほど芳醇な色合いだ。

「シンティア……子爵令嬢」

「どうしましたか? ゴブリンを潰してスープでドロドロにしたみたいな顔をしていますが」

下劣な事を平気な顔で言っているが、その声色はハーブを奏でているほど美しい。

誰がどうみても美人、誰からも好かれている完璧な令嬢。

例えるなら天使、他に例えるなら大天使。

彼女は作中でも屈指の美貌を持ち、その美しさ故に女性人気でもナンバーワンだった。

だが俺の手足は震えている。

なぜなら彼女は、俺――ヴァイス・ファンセントを心から憎んでおり、最終的に身体を穴だらけにする最大のきっかけを作る令嬢だからだ。

そしてこのゲームの正ヒロイン、シンティア・ビオレッタなのである。

「屑貴族が、よくもまあパーティーに参加できたものですね」

でも、さすがに言いすぎじゃない……?