軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

008 ファンセント家の執事、ゼビス・オールディン

私は、ファンセント家に仕える執事である。

南の王国騎士団に仕えていたが、ある日を境に退団。

紆余曲折を経てファンセント家の執事として働く事になり、忙しい日々を過ごしていたが、長男であられるヴァイス・ファンセントのことが好きになれなかった。

幼い頃から傲慢で、我儘で、他人の気持ちが分からない言動や態度。

奴隷を酷使しては、まるで使い捨てのおもちゃのように処分しろと命令してくる。

表向きは指示に従っていたフリをしていたが、裏では全員逃がしていた。

もはや更生は出来ないだろう。ならばいつか引導を渡すつもりで証拠を集めていた。

そんな時、ヴァイス様の様子が激変した。

「ゼビス、ファンセント家の奴隷を全て解放してくれ。それと過去に奴隷だった者や、給料を満足に支払っていなかったものには詫び状も併せて送ってほしい」

ある日突然、こんなことを言いはじめたのだ。

新手の嫌がらせを覚えたのだろうと思ったのだが、それからというもの、食事の作法、人への態度がまるっきり変わっていった。

なんと、入学式に備えて特訓までしたいという。

ならば旧友のミルクに頼んで本質を測ろうとしたが、中身が変わったとしか思えないほど訓練に勤しんでいた。

誰もが心を打ち解けていく中、私はまだ彼を信じ切れなかった。

だが時間が経つにつれ、彼は本当に変わったのだと気付いた。

ミルクから聞いたが、剣術の才能が桁違いだということ。

私も気になって訓練の様子を見てみたが、思わず笑みを零した。

たかが数年足らずでS級冒険者と対等に渡り合うレベルにまで達しているどころか、反応速度においてはミルクすらも上回っている。

更に練り上げたであろう膨大な魔力量と剣術のハイブリッドから生み出されるしなやかな動き。

本人は気付いていないだろうが、身体に染みわたるレベルで魔力が通っている。

だからこそあの動きが出来るのだ。

ヴァイス様が肉体的に成熟を迎える時には、この世界の行く末を決められるほどの強さを得るのは間違いない。

以前の彼のままなら、私はおそろしさのあまりすぐにでも首を刎ねていただろう。

だが違う。精神的にも大人になり、今では私が舌を巻くほどの知能も兼ね備えている。

ファンセント家の事業も、もはや彼がいるといないとでは収益は雲泥の差だ。

才能に溢れ、人徳に優れ、魔術、剣術に長け、貴族の称号を持つ。

これがどれほど凄まじく、そしておそろしいかは本人は気付いていない。

また、あの冷徹なリリスが気に入ったのも驚いた。

前に話した時、もう誰も傷つけたくないと本心から言っていた。

それもすべてヴァイス様のおかげなのだろう。

そして、「ええと、四大属性の心得は自然と一致すること」

魔法の訓練が始まると、すぐに四大属性の基礎を習得してしまった。

その成長速度は……尋常じゃない。

更に希少とされている闇属性、そして相対する光属性をも習得なさった事も知っている。

そんなことは―― ありえない(・・・・・) 。

光と闇は反発し合う。例えるなら一人の体の中に、二人いるようなもの。

おそらく史上初、聞いたことがない。

闇魔法は悪魔や魔族の力を借りるものだ。

歴史上の優れた使い手は、その性質故にとても残忍だった。

相手の心を直接変えてしまうものや、呪いの類もある。

以前のヴァイス様なら習得できたとしても私もそこまで驚きはしないだろう。

だが光魔法は違う。

天使や加護の元に人々を癒す回復魔法、おそらく高密度のバリアも使えるようになるだろう。

真の善人でしか使えないのだ。

そんな――ある日。

「ゼビス、二つの異なる魔法を融合させた魔法ってあるのかな?」

「融合ですか? というと?」

「例えば……光と闇のようなものだ」

「どうでしょうか、私は聞いたことがありません」

それを言ったヴァイス様の表情は今でも忘れられない。

おそらく彼は、全く新しい魔法を創造しようとしている。

そんなことはできるわけがない。だが私は、ヴァイス様の漂う魔力に気づいてしまった。

光と闇が重なり合って、独自の魔力を放っている。

少し意地悪だが、私は気づかれないように魔法を彼に撃ってみた。

だがそれは簡単に防がれてしまったのだ。

おそらく闇魔法の永続の力と、光魔法の加護を合わせて半永久的なシールドを作りあげたのだろう。

無意識なのかはわからないが、睡眠中でも身体中を覆っているのも確認した。

おそろしい才能、だが嬉しくもある。

私はファンセント家に反旗を翻すつもりだった。

だが今は違う。

私の好奇心が、彼の行く末を見たいと言っている。

そして何よりも私は、今の彼が人として好きだ。

「ゼビス、いつもありがとう。君のおかげで俺は変われた。君が怒ってくれるからこそ正しい道がわかった。これからも傍で支えてくれないか」

「もったいないお言葉でございます」

この身の続くかぎり、ヴァイス様を支えていこうと思う。

もし彼に仇をなす人がいたら、この命に代えても守ります。