軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

085.5 ノブレスの平和な日常

「みんなに行き渡ったかな?」

ノブレス魔法学園、女子寮。

秘密の花園、男子生徒には一切わからない棟が、そこにはある。

たとえば男子棟にはない広々とした 化粧室(パウダールーム) には、ありとあらゆる香水や身だしなみを綺麗にする用品が並べられている。

全身の姿見はもちろんのこと、肌が荒れてしまった日には、それを綺麗にする魔法知識などが記載した紙まで置かれていた。

そう、これは、ヴァイスも知らない、アレンも、もちろん 筋肉(デューク) は間違いなく知らない、ノブレス女子棟にある自由室で行われている――女子会である。

そこはノブレスの中で最もピンク色を基調した部屋だ。

中にはもふもふのにぬいぐるみやもふもふのクッション、この時代にはありえない装飾で彩られており、それはもう綺麗でいい匂いがするお部屋である。

三学年共通で申請すればだれでも予約制で入れるのだが、広々としたテーブルには、ノブレス下級生の女子会が行われていた。

立ち上がっているのはシャリー、持ち前の明るさで、右手に持ったオレンジジュースを掲げる。

「それじゃあ、ノブレース!」

これは、ノブレス学園での乾杯である。

テーブルには、ノブレス食堂から特別に用意された甘いお菓子、甘いケーキ、果物、果物ジュースが並べられていた。

集うはシンティア、リリス、セシル、カルタ、そしてシャリーである。

オリンの姿は――当然ながらない。

「こうやって集まるのは久しぶりですわ」

シンティアは、茶会を思い出しながら言った。

ノブレス学園に入学してからは縁遠いが、人と集まるのが好きだった。

「んっ、シンティア様、このお菓子美味しいですよ!」

「あら、ありがとうリリス」

ここでは、いつもの野太い声や汗は一切流れていない。

聞こえるのは甘美な声のみ。

「んっゴクゴクっ、ぷはぁ……」

カルタは、両手でコップを持ち、甘いジュースを飲みながら少しドキドキしていた。

大人数での場はあまり慣れていないからだ。

だがそれに気づいたシャリーが、明るく声をかける。

「カルタさん、このケーキ美味しいよ! 私の好きなお店から取り寄せてもらったんだよね!」

「あ、ありがとうございます!」

「どうして敬語なの?」

「な、なんとなく……」

「同級生だもの、遠慮しなくていいんじゃないかしら」

優しく声を掛けたのはセシル。彼女はいつも通りの雰囲気だが、いつもはしない花柄のピアスをしていた。

女子会は、セシルにとっても楽しみだったのである。

それから話題は自然とノブレスでの日常になった。

もう少し優しくしてほしい、とか、お風呂の時間を途中で設けてほしい、とか。

盛り上がりが最高潮になったところで、リリスが手を挙げる。

「そういえば皆さんって、好きな人とかいるんですか?」

しかし、その言葉で空気がピタリと止まる。その場にいたほとんどが顔を見合わせた後、頬を赤く染めた。

口火を切ったのは、シンティアだ。

「もちろんヴァイスですわ。眉目秀麗でありながらも最強の男性なんて、最高じゃありませんか」

「――そ、それをいうならアレンだってかっこいいよ! いつも一生懸命に前だけ見てるし、ヴァイスに負けないくらい!」

「あら、ということは、シャリーさんはアレンさんがお好きなのですか?」

シンティアの静かな問いかけに、シャリーは口ごもり、途端に顔を赤くさせた。

「カ、カルタさんは?」

「わ、私ですか!? え、ええと!?」

カルタは、ちらりとシンティアの顔を見る。

流石に言いづらいような、そんな表情をしていた。

「カルタさん、もしヴァイスがお好きならば、ハッキリと口に出してもらっても構いませんわ。私は、ヴァイスが多くの女性から好かれるのは良い事だと思っています」

「え、ええ!? ええーと!? た、たしかにヴァイスくんはかっこいいよね!? え、ええと何言ってんだろ!? セ、セシルさんは!?」

いつも冷静なセシルならこの場を静かに収めてくれると思い助け船を出したカルタだったが、セシルは、静かに耳を赤くさせる。

「……な、何言ってるの? わ、私は、べ、別に、た、ただバトル・ユニバースをし、していただけで、そのファンセントくんとそんな邪な気持ちで!?」

全員が、その場で顔を見合わせる。

カルタは、セシルさんは? と聞いただけで、ヴァイスとは言っていないからだ。

「……あ」

それに後から気づいたセシルが、耳を赤くさせ俯く。

いつもとは違う慌てた様子と言葉遣いに、その場にいた誰もがふふふと笑う。

そして――。

「はいはいはい! 私もヴァイス様が恰好いいと思います! 好きです!」

リリスは、元気よく叫んだ。それに静かに頷いたのは、カルタ、セシル、そして――シンティア。

「でも、アレンさんも凄いと思いますわ。特別な訓練を受けていないにもかかわらず、ノブレスに入学、そして好成績で駆け抜けていますし」

「そうそう! アレンはいつも努力してて、凄くて!」

そんな健気なシャリーに気づいたシンティアたちは、ふふふと笑う。

誰もが、幸せな表情を浮かべていた。

「でも、デュークさんも恰好いいですよね。いつも男らしくて。後、オリンさんも使役凄いですし!」

「そうですわねリリス、私もそう思います」

「ふふふ、それ 本人(デューク) に伝えたら喜ぶわ。もちろん、オリンさんは私も素敵だともう」

「みんな……格好いいよね」

最後に静かにつぶやいたカルタの言葉で、全員が笑顔になった。

それからも、女子会は続いた――。

一方男子棟では、めずらしい四人が、食堂でテーブルを囲っていた。

その表情は、女子会とはほど遠い――。

「どうした? 何を恐れている?」

ヴァイスが、デュークを睨みながら煽る。

そしてデュークは、一枚だけ飛び出たカードを、抜きとった。

だがその瞬間、ヴァイスが笑みを浮かべる。

「はっ、単細胞め。――あがりだ」

「くうううううう、またかよおおおおおおおおおお」

娯楽の少ないノブレスでは、遊びといえばバトル・ユニバースかカード遊びである。

人数が二人以上の場合、当然、ゲームは限られる。

その横にいるのは、アレン、そしてオリンだ。

「デュークは表情に出すぎだよ。いつも叫んでるし」

「アレン君の言う通りかも。でも、ヴァイス君も結構……わかりやすい」

「はっ、オリン嘘をつくな。俺は感情を隠すのが得意だ」

「……そうかな? じゃあ、勝負してみる?」

それから数十分後――。

「やったー!」

「なぜだ、なぜオリンに勝てない……」

ヴァイスは、オリンに完敗していた。

だがデュークも、ついでにアレンに負けていた。

「クソーっ、よし、日替わりAランチ食べたら続きしようぜ!」

「また食べるの!? さっき食べてたよね!?」

「さっきのはおやつ。今から食うのが本飯だ」

「……いや、筋肉の言葉も一理ある。一度 栄養(フルーツ) 補給しよう。その後に再戦だ」

「二人ともよく食べるね……じゃあ、僕も食べようかな」

「ならボクはアイスにするーっ」

ノブレス・オブリージュは剣と魔法の世界。

死にゲーで泣きゲー、そして、最悪で最高のゲーム。

だが当然、争いのない平和な日も存在する。

その日、夜遅くまでどこも賑やかだったという。