軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

030 メインヒロイン

ノブレス学園は、歴史に名を残すほど優秀な卒業生が多い。

大きな理由は二つ、戦闘訓練や課外授業が 実践(・・) を想定されたものばかりで、手加減が一切ないからだ。

貴族といえども学園側は遠慮することなく、怪我人が出ることはめずらしくもない。

もう一つは、上記と相対することになるが、特殊な訓練戦闘服にある。

タッグトーナメントでも全員着用していたが、予め準備を施した魔法陣内でダメージを受けると面白い事が起きる。

想定される損壊率が瞬時に計算され、魔力を大幅に消費し行動不能、つまり気絶するのだ。

とはいえ痛みを軽減できるわけではない。あくまでも安全かつ本気の戦いをできるように作られた特殊な素材ということだ。

このおかげで他校を圧倒する人材を多く選出していることは、紛れもない事実だろう。

しかしこの世界は異世界である。

戦うのは何も人間だけに想定されているわけではない。

当然、 魔物(・・) もいる。

「事前に説明はあったと思うが、明日の演習は訓練であって訓練ではない。よって、いつもの戦闘服は役に立たない。辞退することは可能だが、今後もこういった訓練は多くなる。今回だけ遠慮しておく、といったこともできるが、成績に影響が出ることは残念ながら伝えておこう」

放課後の教室、生徒たちの前で、ダリウスが申し訳なさそうに言った。

風貌は歴戦の剣士、恵まれた体躯で威圧感も凄いが、誰よりも優しい性格だ。

少なくとも俺は、原作でも彼のことが好きだった。

弱き者を助け、強き者に媚びない。

だが当然、誰も辞退する奴なんていない。

貴族は誇りを大切にしている。臆病者は既に淘汰されているからだ。

とはいえ、ダリウスもそれはわかっている。

だからこそ、心苦しいのだろう。

「わかった……署名をもらわないといけない。ヴァイス・ファンセント、来てくれ」

俺は無言で立ち上がると、ダリウスの所まで歩いた。

書類に目を通すと、そこにはゲームで何度も見た項目が書いてある。

あの時はただの演出、だが今は現実だ。

要は死んでも文句を言うなよ――と。

生徒のほとんどが貴族の息子や娘だ。親馬鹿も少なくはない。ノブレス学園では、面倒を避ける為に細かく誓約書が存在する。

リスクヘッジってやつだ。面倒なことこの上はないが、ダリウスはそれでも「ありがとう」と言ってきた。

原作ではこういった台詞は省かれている。だが、俺の心には残った。

自席に戻る前、アレンとシャリーに声をかける。

「お前たちは辞退したらどうだ?」

ノブレス学園に入った時点で、いずれはこういった命を懸ける訓練があることは知らされている。

だが実際に聞くとでは大違いだろう。

二人ともまだ状況を完全に飲み込んでいるわけではない。

葛藤と、そして覚悟を決めようとしている。

「僕は辞退なんてしない」

「私もよ。いきなり、何?」

ああ、そうだろうな。

知ってるよ。

「……言ってみただけだ」

俺がヴァイスになってから色々なことがあったが、今回のイベントについては何とも言えない感情が入り乱れる。

過去の記憶が――蘇る。

ああ、俺は……何がしたいんだろうなァ。

翌日、ガリアル山から更に北へ数時間、このあたりは普段誰も近寄らない場所だ。

断崖絶壁の険しい側面を進み、少し開けた崖上に出る。

自然が多い森、川、崖、だがキャンプや遠足にきたわけじゃない。

そもそも銀一面とまではいわないが、雪がかなり積もっている。

このあたりの天候は不安定だ。

真夏の翌日が真冬なんてこともある。その理由は、季節に左右されない魔力雲がうようよしているから。

おかげで魔物の生態系もめちゃくちゃだ。

弱肉強食を繰り返し、亜種だらけの森、ゲームのイベントマップとしては最適なことこの上ない。

おそらく昨晩大雪が降ったのだろう。それにはダリウスも想定外だったらしい。

今まで見たこともないほど不安そうな表情を浮かべている。

だが天候はランダム値だ、原作でも難易度がプレイごとに変わる。

これは最悪なパターンだが、文句を言っても仕方がない。

「駆逐した魔物を自らカウントする必要はない。手の甲の魔法印が自動で集計を取る。それよりも三日間、この森で生き延びることが一番大事だ。……頑張ってくれ」

今回は、この森で三日間生き延びることが訓練だ。

何度も言うが、この世界はゲーム、甘っちょろい課外授業なんて用意されていない。

それ故に、難易度は高く設定されている。

死にゲー、それが【ノブレス・オブリージュ】の別名だ。

ペアは既に発表されていた。

そしてみんなで仲良くスタート、とはいかない。

広大な森にランダムに飛ばされた後、そこからが本番だ。

ポイントは魔物によって違う。ラストアタック、つまり魔物を倒したペアだけにポイントが入る仕組みになっている。

だがそれでも別チームと徒党を組むメリットはある。安全に狩りができるし、作戦としても悪くはないだろう。

しかし今残っている連中でそんなことをするやつはいない。

一番を狙う、それも個々の力で圧倒的に。

それが、ノブレス学園の教えだからだ。

誰もが不安な表情を浮かべている中、俺はある女子生徒に視線を向けていた。

このイベントは、俺の記憶に深く刻み込まれている。

生まれて初めて、 悲しみ(・・・) を深く味わった思い出だからだ。

実際、このイベントが終わった後、ゲームを辞めた奴が続出した。

どうしても――立ち直れないと。

「シャリー・エリアス15番、リリス・スカーレット17番、三日間、頑張るんだぞ」

「はい! ダリウス先生!」

「わかりました」

シャリーは、笑顔で勢いよく返事をした。

その後、アレンにウィンク、底抜けない明るさが彼女の長所だ。

リリスがペアだったのは想定外だが、それでもシナリオが変わることはないだろう。

「ほんと、シャリーとアレンって仲がいいよなあ」

「もう付き合ってるみたいなもんだろ。誰も二人の仲は邪魔しないし」

生徒たちが話している通り、二人は周知の仲だ。

アレンが村を出ることになり、初めて辿り着いた国で出会った同学年、それがシャリーだ。

それから色々な思い出を共有している。

喜び、悲しみ、苦しみ、恐れ。

その絆は家族よりも強い。

しかし原作のメインヒロインはシンティアだ。

これだけ聞けば、なぜ? と思うだろう。

学園で知り合っただけのシンティア、常にアレンを支え続けたシャリー。

どちらがヒロインに相応しいか、火を見るより明らかだ。

だがそれでもシンティアがメインヒロインなのは覆らない。

それには、大きな理由がある。

「シンティア・ビオレッタ、アレン、前に出なさい」

ちなみにクロエも同行していた。

時間短縮の為、二組同時に飛ばされるらしい。

彼女はいつもと変わらない。まあ、それが良さでもあるが。

「――ヴァイス、私はあなた一筋ですので」

「ああ、信じてるよ」

微笑むシンティアを見送る。二人がペアになったのは原作通りだ。

そしてシャリーのほうは、アレンに話しかけている。

俺は、あいつらの会話を一言一句思い出せる。

『私が絶対勝つからね』

『僕も負けないよ、シャリー』

……微笑ましい会話だ。

二人はこの学園に入ってからも、多くの出来事を共有している。

励まし合い、支え合い、未来を語り合った。

学園を卒業して、二人で世界を回って人々を助けたいと――。

「それでは、訓練開始です」

二組が転移魔法で飛ばされる瞬間、俺はまだシャリーを見ていた。

このイベントが終わると、アレンの辛い人生に更に追い打ちをかける出来事が降りかかる。

それを乗り越える為、シンティアとの仲が急接近するのだ。

二人が絆を深める最大のきっかけ、それは――。

シャリー・エリアスが、この訓練中に死ぬからだ。