作品タイトル不明
レベルのお勉強
「そうだな、妹の態度が悪かったのは俺のせいってことになるか、なら、俺もお詫びしないとだめってことだな。じゃ、行こう、行こう!」
志崎さんが私の手をとって引いた。
「え?ちょ、あのっ!」
「お兄ちゃん、ちゃんとシャワー浴びて身なりを整えてからレストランだからね!」
志崎さんが「あ、そっか」と小さくつぶやきを漏らした。
……なるほど。妹のミサさんはよくわかっているようだ。志崎さんがちょっと抜けていることを。
そりゃ、誰かに騙されて利用される心配もするよね……。人がいいというのとは別の意味で……。
遅めの豪華なディナーを頂き、自分ではとても宿泊できないような部屋に泊めてもらった。……さすがにスイートルームとかは固辞した。
朝になり、これまた豪華は朝食を頂く。
「んー、本当はもっとレベル上げを手伝いたいところだが……すまない。今日は予定があって」
「と、とんでもない!レベルが8になったんです!十分です!レベル8なら4階層に進めますよね?」
志崎さんが頷いた。
「まぁそうなんだが……。身を守る手段や戦う手段がない場合は厳しいな」
「そうなんですね……」
「普通はレベル8になるまで、魔物をたくさん倒して経験値を貯めるからな。それなりに戦えるようになるんだよ」
志崎さんがふっと笑った。
「有希の場合、魔物をたくさん倒してはいたが……」
水切りゴムワイパーで穴に落としただけですね。
戦ったというよりも、掃除をしたという感覚しかない。
「強くなった気はしませんね……」
志崎さんがハッとする。
「経験値が5倍入る場所だが、経験が5倍つめるわけじゃない……しまったな。レベルだけをさっさと上げても逆に危険だな……すまない」
パンを食べる手を止めて志崎さんが頭を下げた。
「謝らないでくださいっ。感謝してます。だって、ほら、会社の出向、4階層へ行けない人は終わっちゃうって言ってたでしょう?」
「ああ、確かに」
「毎週月曜に会社公認でダンジョンに行けるの、すごくありがたいんです。独身者動員法の義務を果たすために、会社とは別の日にダンジョンに行くと休めないので……」
志崎さんが頷く。
「そうか。役に立ったならいい。だが、本当に危険だ。4階層に進むときには言ってくれ。慣れるまで一緒に行ってやる」
「志崎さんに?……えーっと、さすがに申し訳ないです」
日本でも上位の実力の持ち主に、4階層の手伝いをしてもらうなんて……。
「なら、そうだな、ミサと一緒に行くのはどうだ?」
「志崎さん、妹は、志崎さんの所有物ではないですよ?勝手に名前を出すのは失礼です」
志崎さんが失敗したという顔をする。
「……すまない。その……ミサはあれでも結構戦えるんだ。レベル10の壁を越えたからな」
「レベル10の壁?」
首をかしげると、志崎さんが再び食事の手を進めながら話を続ける。
「一つ目の壁は、3階層から4階層に上れるかどうかなんだ」
そういえば、1階層はレベル1、2階層はレベル2、3階層はレベル4。
4階層になると、レベル8と急に必要なレベルが変わる。
「どうしてですか?」
「魔物を倒せないと……4階層にはいけない、いや、いったら危険なんだ」
「4階層の魔物を倒せないとということですか?それはどの階層でも危険は伴いますよね?」
志崎さんが首を横に振った。
「危険度が跳ね上がるんだ」
「えーっと、ものすごく強くなるってことですか?この5倍ダンジョンは強さが5倍になってるっていいますけど比較にならないくらい強くなっているっていうことですか?」
3階層と4階層でそんなに急に魔物が強くなるなんてことあるのかな?
「いや、そういうたぐいの話ではなくて……」
志崎さんが、コップに入った牛乳をぐっと飲み干すと、話を続けた。