作品タイトル不明
指導!
「……そっか、ミサが変わるには、俺が人に利用されない人間に変わらなくちゃいけなかったのか……」
それから、ミサさんに頭を下げた。
「ミサ、すまない」
それから顔を上げると、ぐっと親指を立てた。
「俺は、人に利用されないような人間に代わる。だから、お前も変わるんだぞ?せっかくギルド職員になれたんだから、職員になるためにした努力を俺のために無駄にするな」
ミサさんがちょっと目じりに涙を浮かべ、それから私に頭を下げた。
「すいませんでした。ありがとうございます。あの……あんなもの渡すなんて嫌がらせしちゃって」
あんなもの?
「もしかして、水切りゴムワイパーのこと?めちゃくや役に立ったわ。ありがとう」
ミサさんが変な顔をして志崎さんを見る。
「嘘じゃないぞ。いや、嘘みたいな話だ」
はっとそれから何か気が付いたように、私の顔を見た。
「まだ魔力は大丈夫か?」
「え?あ、はい。大丈夫ですよ」
確認してないけど、レベルが8になってるなら、魔力も上がってるだろうし、今日はそれほど魔法を使ってないし、全然問題ないはず。
「じゃあ、もう一度頼んでいいか?ミサお前も来い!ダンジョンの掃除も、職員の仕事だろう!」
水切りゴムワイパーを持ってこさせて志崎さんがダンジョンの中にミサさんを連れていく。
「ちょ、反省してるって。掃除って……ダンジョン管理事務所の掃除はしても、ダンジョンの中はリセットされるんだから掃除なんて必要ないでしょ」
と、文句を言いながらも、水切りゴムワイパーを手に素直にダンジョンについてくるミサさん。
お兄ちゃんのことが大好きなんだねぇ。と、思わず顔が緩む。
迷わずスライムの狩場へと志崎さんは進む。途中どつき兎が何度かでたけれど、志崎さんは指先を軽く動かして始末していく。
はー、やっぱりすごいなぁ。
「じゃあ有希、すまないが、見せてやってくれないか?クレイコーティングは必要ないから」
コーティングなしか、ちょっと不安。
穴は1mで大丈夫だったよね。1mの穴……を想像しながら。
「【穴】」
……いや、ぽこっは30センチの呪文に設定したのに、うっかりさっきは1mを想像して使っちゃったんだよ。どつき兎を見て思い出したの!
……っていうか、まだ呪文が定着してないよね。
というかこのまま呪文増やしていっても忘れそう。
そういえば、志崎さんは同じ呪文で動作で変化させていたよね?
あとで呪文の工夫しよう。動作を含めた呪文。
スライムたちがいる場所に穴を掘る。
それから、クレイコーティングしていない純粋な水切りゴムワイパーでスライムを穴に押し込んでいく。
次々に立ち上がる光。
……スライムの酸ですぐにじゅわーと溶けるイメージしてたけど、そこまですぐに溶けるようなことはないみたいだ。
「え?え?え?え?」
えが多いな、ミサさん。
目の前、じゃない足元に広がっていたスライムを一通り穴におとしてから振り返る。
「こんなに、簡単に……スライムを……?」
なるほど。それで驚いていたのかな?
「わかったか?有希はこの方法で大量のスライムを倒して経験値を手に入れた」
有希さんが私を見た。
「ごめんなさい……私……。疑って……」
素直に頭を下げるミサさん。
「いえ、いえ、自分でも驚くほどレベルが上がっていたので、そんなに簡単にレベルがあげられるなんておかしいと疑うのはもっともだと思います」
正直、5倍の経験値が入るというこのダンジョンすごすぎるよね。
ミサさんが穴を眺めた。
「こんな、方法が……あの、貸してください」
ミサさんが水切りゴムワイパーに手を伸ばす。
「あ、はい。貸してというか、私が借りているので、もちろんどうぞ」
ミサさんが受け取ると、きゅっと柄を握り締めて私を見た。