作品タイトル不明
忠告
「志崎さんはミサさんの誤解を解くべきです。私の名誉のために。このままでは私は志崎さんを利用してレベル上げをしたと思われたままです」
私の言葉に、志崎さんがハッとした。
「あー、確かに。すまない。……ミサ、有希は自分で魔物を倒してレベルを上げた。それは本当だ。元婚約者にズルをしたと言われたくないと、俺の提案を断ったんだ」
しーざーきーっ!元婚約者の下りはいらないよねぇ?
ミサさんが私を見た。なんとも微妙な表情をしている。元婚約者のことを聞かれたくなくてこちらから先に口を開いた。
「ミサさんと志崎さんは兄妹?」
ミサさんが頷いた。
「志崎さん……お兄さんのことを心配して私に釘をさそうと思ったのね」
ミサさんが再び頷いた。
「でも、ギルド職員として私情をはさむのは間違っていると思うわ。きっちり仕事をこなさなければ、何かあったときにどうせいつも適当なあいつじゃないのか?と疑われるわよ」
ミサさんが下を向いてしまった。
「志崎さん……あなたの大事なお兄さんも、ギルド職員である妹に優遇されて不正をしているんじゃないかって、疑われるわよ?」
ミサさんが顔を上げた。それはもう、すごい勢いで。
「お兄ちゃんは不正なんてしないっ!8年間ダンジョンに潜り続けて、時には仲間をかばって怪我することもあって、ダンジョンの外でも体を鍛えて、情報を集めて、ノートにまとめて……、それで、上位探索者になったんだからっ!だれよりも努力家ですごい探索者なんだからっ!」
早口でまくし立てる。
「うん、志崎さんはすごいね。私みたいな初心者にも親切にしてくれる。面倒見がいいのね?」
「そう、お兄ちゃんは面倒見がいいの!だから、利用されちゃっても気にしないの!だから、だから、私が守らないと……!」
なるほど。
「もしかして、志崎さんに近づく探索者にはいつもこんな感じ?」
苦笑しながら志崎さんに尋ねる。
「……ああ、そうだ。だから、ここに配属された。完全に左遷だ。だが懲りてないみたいだ」
飽きれたような顔をする志崎さんの胸に、こぶしをぽんっと当てる。
「何を言ってるんですか?ミサさんはお兄ちゃんが利用されるんじゃないかって心配してるんですよ?懲りてないのは志崎さんの方じゃないですか?何度も利用されてるのに、また利用されてってことがあったんじゃないですか?」
うっと、言葉に詰まる。
「べ、別にレベル上げの手伝いくらい、利用されているうちに入らな……」
もう一度軽く志崎さんの胸をポンっとたたく。
「志崎さんには初心者の私にいろいろ教えてくれて、こうしてダンジョンにも連れてきてくれたりして、すごく嬉しいし感謝しています」
「ん、ああ、別に大したことはしてないさ」
「雷電さんに志崎さんはお願いすればなんでもしてくれるから利用してやればいいって聞いたけれど本当だったんですねぇ。特に婚約破棄された私には同情してくれるだろうから頼むといいって」
と言うと、志崎さんが固まった。ショックを受けている。
「なっ、ひどいっ!あんたも、雷電もっ!」
ミサさんの般若のような顔に、慌てて手を振る。
「ごめん、嘘。違う違う、そんなこと雷電さんも言ってないですし、私も思ってもないです。と、とにかく、もし、そうやって後で利用されたって聞いたら嫌な気持ちになるでしょ?」
ぽんぽんと志崎さんの肩を叩く。
「あ、ああ……。あー……いや、嘘か……。よかった……。人間不信になるところだった……」
そこまで?
雷電さんのことをめちゃくちゃ信用してるってことかな?
「ほら、ショックを受けるでしょ?私だって、淳史に嘘をつかれていたとしってひどくショックでしたし……。利用されることより、利用されたってショックを受けることも含めてミサさんは志崎さんのこと心配してるんだと思う。ミサさんの態度を怒るよりも、心配させ続けてることを反省しないと」
志崎さんは、私の言葉をかみしめているのか、瞬きもせずに驚いた表情のまま微動だにしない。
それから、やっと脳内で私の言葉を理解したのか、叱られた犬みたいな顔になった。