軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

■第18話 皇帝陛下の塩対応

「こないだリーニャちゃんのバイト先に挨拶に行ったじゃん? 楽しくおやつ食べたじゃん? シルヴィスには内緒だったのに帰ったらなぜか秒でバレて、とても怒らせてしまった」

「はあ……」

怒った皇帝陛下を想像できないのでいまいち現実味に欠けるのだけれど、首を傾げた私に「いやあいつ静かに怒るから死ぬほど怖いんだよ」とエオルスさんが真顔で付け加えた。弟に怒られる兄。

「一緒にシュークリームを食べたことまで洗いざらい口を割らされてしまってね……。招待状を届けろとは言ったが本人に直接渡せとは言っていない、あまつさえ歓談して来いなどとは言っていない、勝手にリーニャに餌付けをするなど許さない、よくも二人で楽しく期間限定の桃のシュークリームを食べたな……と言った感じで不機嫌の極み、なんか、もう、うん、愛が深いんだと身に染みた」

「陛下……」

エオルスさんと私だけ美味しいものを食べたという話を聞けば、皇帝陛下が不機嫌になるのも頷けよう。以前はパンケーキで震えるほど喜んでいたし、お茶会でお菓子が並べられるといつも「ほらおやつが来ましたよ」と、にこにこする皇帝陛下なのである。そのおやつ愛は、おそらく深い。よほどエオルスさんの話した桃のシュークリームが食べたかったのだろう。だって期間限定。

「分かりました。陛下の不機嫌の原因には私も加担しているので、協力は惜しみません。エオルスさんはいいお兄さんであること、今度は陛下の分のシュークリームを買ってきますということ、しっかり伝えます」

いつも手ぶらで帝城に馳せ参じているので次回はちゃんと手土産にシュークリームを持っていこう……と胸に決める私の手を取って、エオルスさんはぶんぶんと振った。

「ありがとうリーニャちゃん! どうかシルヴィスによろしくね! 僕、弟にこれ以上冷たくされたら凍死するから!」

「任せてください。陛下のおやつ愛に応えて見せます」

そのあとなんだかんだと雑談(帝都に新しく出来たクレープ屋さんの話など)しているうちに、馬車が止まった。「ご乗車ありがとうございました。目的陛下に到着でございます」とホウゼンさんの声。帝城に着いたようだ。

先に馬車から降りたエオルスさんは、続いて降りる私に手を貸しながら、「あ、そうそう」と、お茶目な笑顔で言った。

「僕が馬車に同乗したことはシルヴィスに内緒ね。リーニャちゃんが自分の与り知らぬところで自分以外の男と密室に二人きりなんて、あいつ絶対許さないからさ!」

「え。……いや、あの、エオルスさん……」

ホウゼンさんの降車アナウンスは正確だった。

私の方を向いているエオルスさんの背後に、いつもは城内で待っているはずの皇帝陛下が待ち構えていた。

それはもう、見たことないくらい、爽やかな笑顔で。

「こんにちはリーニャ。……と、兄さん」

親指を立ててウインクをかましていたエオルスさんがビクッと肩を跳ね上げて、恐る恐ると言った風に振り向く。

「えっシルヴィス!? いや、その、これはたまたま一緒の馬車に乗っただけでほんと偶然」

「いいです。分かっています」

お茶目な笑顔を引き攣らせたエオルスさんに、皇帝陛下は爽やかな笑顔のまま、爽やかな声でこう続けた。

「断頭台か毒杯か、選んでもらえればそれで」

「二択と見せかけて死の一択!」

「兄と慕った人間を葬るのは大変心苦しいですが……。じゃ、処刑は明日の午前ということで」

「心苦しさを感じさせない迅速な日取り!」

皇帝陛下がさっと手を挙げると、控えていた三メイドの皆さんが粛々とエオルスさんを取り囲んだ。

「いい人だった」

「惜しい人を失くした」

「その命の輝きを忘れない」

「すでに弔意! 待つんだ三メイドちゃんたち、えっ嘘どこ連れてくの待って、落ち着くんだシルヴィス、何もやましい気持ちはない、お前の未来の妻に挨拶をしておきたかっただけだから!」

「みらいのつま」

皇帝陛下は真顔になって呟くと、一拍おき、感慨深そうに「未来の妻……」と繰り返した。エオルスさんは機を逃さず、すかさず言葉を紡ぐ。

「そうだ未来の妻だ。リーニャちゃんはお前の未来の妻じゃん? そしたらお前の兄である僕はリーニャちゃんの未来の義理の兄になるわけじゃん? ちゃんと挨拶しておかないと失礼じゃん? ふつつかな弟をよろしく的な話をしていたわけですよ!」

いつに見ない爽やかな皇帝陛下なので別に怒っているわけではないのだろうけれど、なぜかエオルスさんを処刑したがるその様子。私には兄弟がいないから分からないけれど、これが兄と弟のじゃれあいなんだあ、と興味深く観察していたら、「ね、リーニャちゃん!」と、エオルスさんから急に話題を振られた。

確かに挨拶はしたし、弟をよろしく的な話もされたので、嘘ではないなと思って肯定する。

「あ、はい、まあ、概ねそのような内容でした。陛下のお兄さんですから、私としても仲良くしたいと思うのですが……。その、駄目でしたか?」

ふと思い返せば、皇帝陛下とエオルスさんの兄弟関係はかなり複雑なものである。皇妃が皇帝以外の男との間に身籠った子であるエオルスさんの扱いが、宮廷においてものすごく微妙そうということは、推して知るべしだ。

もしかしたら「皇帝の異父兄」と一般庶民である私が普通に仲良くするのはあんまりよくないのかもしれない。そう不安に思いつつ訊ねると、皇帝陛下は首を横に振った。

「駄目じゃないです。全く駄目じゃないです。だってリーニャは未来の妻ですから。すなわち俺の兄はリーニャの未来の兄ですから。リーニャが兄さんを義兄として遇するのは普通のことですから。だって未来の妻ですから」

やたら未来の妻を強調するのが気になるけれど、エオルスさんとは普通に話してもいいみたいなので安心した。

「では、行きましょうか」

皇帝陛下はにこやかに私の手を取って、城内に向かって歩き出す。それを合図に三メイドの皆さんが、粛々としたエオルスさんの連行を続行する。

「えっ嘘これ続くのシルヴィス待って僕どこに連れてかれるの?」

「仕事に不真面目な兄さんには死ぬほど仕事を振っておきましたので軽く死んできてください」

「兄に冷たいーーーーーーーーーーーーーー!」

こうして皇帝陛下と私はお茶会に、エオルスさんは仕事に向かった。