軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都への道(3)

火がよく通っているからか、やや肉は硬めだが、噛めば噛むほど肉汁が滴るようにあふれてくる。

美味しくて、このお肉だけでも満足出来そうだ。

「ユイ、考えたのですが……」

セレストさんが口を開く。

「王都へ着くまでは、ウィルの馬車に乗せてもらおうと思います」

思わず、ごくんと肉を飲み込んでしまった。

セレストさんを見れば、こちらを見返して来る。

「王都では竜王陛下に謁見することになるでしょうし、ユイも私も、疲れた状態で行くよりかは良いのではと思うのです。それに、もしユイが体調を崩したとしても、使節団の旅程を遅らせることは出来ません。無理をして迷惑をかけるよりかは、馬車に乗せてもらって、万全の体調で王都へ向かうべきではないでしょうか?」

セレストさんの言葉にわたしは頷いた。

あくまでわたし達は使節団に混ぜてもらっているだけで、もしわたしが動けない状況になっても、使節団の旅程はそのままなので、きっと残される形になるだろう。

そうなれば、セレストさんと二人の旅になる。

多分、安全面を考えたら使節団と一緒にいたほうがずっと安全で快適な旅が出来るのだと思う。

それに馬に乗っていて、わたしがもう無理だと音を上げたとしても、隊列を組んでいる騎士達の歩みを止めることは出来ない。

それならば、最初から馬車に乗せてもらって、迷惑をかけないように、体調を崩さないように気を付けたほうがいいのかもしれない。

「わかった」

わたしの様子を見て、セレストさんはホッとしたような顔をした。

「ウィルと騎士団長には後で話をしておきます」

「うん」

肉の最後の一切れを食べ終える。

そうして、次にスープ皿を引き寄せた。

スープに浸ったからかパンは見た目にも柔らかくなっているのが分かった。

上にかけられたチーズは温かいスープのおかげか、まだとろけている。

スプーンで掬うとスープを吸ったパンがふんわりと崩れる。黒いパンはミルク色のスープで白っぽくなり、とけたチーズの匂いも漂ってくる。

一口、食べてみる。

ミルクが主のスープは野菜の旨味がたっぷり染み出していて、塩気が少し強いが、パンとチーズで丁度良い味になっていた。

「……ユイは馬に乗りたかったですか?」

そっと問いかけられる。

「セレストさん」

名前を呼べば「はい」と応えてくれる。

「わたし、ばしゃもすきです。うまもすきだけど、たびのほうがだいじ」

「そう言っていただけると助かります」

そう、目的は王都に行くことなのだ。

馬に乗って旅をすることが目的ではない。

……少し残念ではあるけれど。

馬車に乗っていればお尻は痛くならないし、体力的にもつらくないし、危険もないだろう。

フラフラで国の王様に会うわけにもいかない。

馬に乗るよりかは旅を感じ取ることは出来ないけれど、それでも、馬車での旅もきっと悪くないはずだ。

そう思いながらスープを食べ進める。

香ばしい黒いパンにチーズとスープがよく合っていて、美味しくて全て食べ切れた。

量的にわたしのほうが少ないので、食べ終えた後、水を飲みつつ周りを眺めた。

王都の騎士達は色々な種族の人がいるけれど、なんとなく、竜人が多いような気がした。

やっぱり竜王国と言うだけあって国の騎士は竜人が多くいるのかもしれない。

でも獣人やドワーフ、エルフ、そして恐らく魔族だろう人もいる。

ただ種族の多さで言うならグランツェールの警備隊のほうが多種多様な種族がいた。

国境に近い街だからだろうか。

人間を見かけないのは他の種族に比べるとどうしても身体的能力や数が劣るからか。

眺めていると食事をしていた騎士と目が合った。

大柄で、鋭い顔つきは犬というより狼で、濃い灰色の毛並みが全身を覆っている。

……魔族のウェアウルフだっけ?

意外とつぶらな青い瞳が戸惑ったように瞬いた。

……毛並み、触ってみたいなあ。

第二警備隊にいたウェアウルフの人よりかは細身で、若干背が低いかもしれない。首の下は白いもふもふした毛が見える。

なかなか視線が外れないので小さく手を振ると、驚いたように耳がピンと立ち、でも同じように小さく手を振り返してくれた。

わたしの動きにセレストさんが振り返る。

「ああ」

と、納得した様子で顔を戻した。

「ウェアウルフさん」

「ええ、そうですね、あの方は女性ですよ」

「おんなのひと?」

もう一度見る。

どこで性別を判断しているのか分からない。

首を傾げているとセレストさんが微笑んだ。

「女性のウェアウルフは細身でしなやかで、毛艶も良いので慣れると分かりますよ」

……うん、全然分からない。

* * * * *

翌朝、村から使節団が出発した。

わたしとセレストさんは、ウィルジールさんの馬車に乗せてもらうことになった。

ウィルジールさんもニコルさんもわたしが馬に乗って移動することについて、ずっとは厳しいのではないかと気にしていたようで、馬車での旅に賛成してくれた。

特にウィルジールさんは「話し相手が出来ていいな」とのことだった。

わたしが乗ればセレストさんも乗るから。

ウィルジールさんとセレストさんが話している間、わたしは車窓を眺めて過ごした。

また森に入ったけれど、今は山を登っている。

ここから山をいくつか越えて行くそうで、その間はどうしても野宿になるのだそうだ。

三日かけて山を越えるため、その三日は山の中で過ごすことになる。

野営というのは初めてだ。

雨が降ればテントを張るらしいけれど、そうでなければ、騎士達と同じく星空の下で寝ることになる。

それはそれで楽しそうである。

馬車に揺られ、時々休憩したり、昼食を摂ったりしながら山越え一日目が過ぎた。

夕方というにはまだ少し早い時間だが隊列は止まった。

山の中で日が早く落ちるため、隊列もそれに合わせて早めに野営の準備をするとのことだった。

セレストさんは準備を手伝いに行った。

わたしはウィルジールさんと、護衛の騎士さんと焚き火に当たって待つ。

わたしもお手伝いしようと思ったのだけれど、周りの人達はそれぞれ役割を持ってキビキビと動いており、わたしが混じると逆に手間をかけさせてしまうそうだ。

ウィルジールさんにもセレストさんにも止められた。

「俺の話し相手でもしてくれよ」

「そうですね、ユイはウィルと一緒にいてください」

とのことだった。

護衛の騎士は二人いて、一人は昨日、宿で見かけたウェアウルフの女性──……だと思う。

ウェアウルフはみんな濃い灰色の毛並みで瞳の色は部族によって違うらしいが、やっぱり見ても、男性と女性の違いというのは分かりそうもない。

目の前で並んでくれたら分かるのかもしれないが。

わたしがまじまじと見ているとウィルジールさんもそれに気付いて、ウェアウルフの女性に振り向いた。

「なんだ、気になるのか?」

その問いに頷いた。

「ウェアウルフさん」

「そうだな、ウェアウルフは第二警備隊でも見ただろ?」

「はい。でも、じょせいははじめてです」

第二警備隊にいたウェアウルフは男性だと思う。

ここにいるウェアウルフの人よりも長身で、がっしりした体格だったので、多分そうだ。

「そうなのか。……なあ、この子にちょっと構ってやってくれ」

ウィルジールさんの言葉にウェアウルフの騎士さんが「はっ」と返事をして、わたしのそばに来て膝をついた。

「初めまして、ブリジット=ロワイエと申します」

「はじめまして、ユイです」

ウェアウルフの声は確かに女性のものだった。

「お話は伺っております。竜王陛下へ謁見するために王都へ行かれるそうですね」

「はい、はじめてたびをします」

「そうなのですね」

鋭い顔つきだけれど、声は柔らかい。

尻尾がぱたりと揺れて思わず目がいった。

……モフモフしてそう。

ウェアウルフのブリジットさんが恐らく笑った。

「ウェアウルフを見るのは初めてですか?」

それに首を振る。

「グランツェールの、だいにけいびたいにも、ウェアウルフさん、いました。たぶん、おとこのひと。おんなのひとと、ちがいがわからないです」

「ああ、だから昨日私を見ていたのですね」

グルル、と唸り混じりに言う。

それが笑い声なのだろう。怖くはない。

「ウェアウルフは毛で覆われているため、他の種族の方が雄と雌を見分けるのは少し難しいでしょう。雄のほうが大きく、雌のほうが細身です。同族同士では一目で分かりますが、慣れていないと見分けられないと思います」

……やっぱり見分けがつかないらしい。

「おんなのひとのウェアウルフさん、かっこいい」

鋭い顔つきはキリリとしていて、そこにいるだけでなかなかに威圧感がある。

「ありがとうございます。私も人間の子供をこんなに間近で見たのは初めてです。あなたは可愛いですね。……触ってもいいですか?」

ブリジットさんに訊かれて頷いた。

ウィルジールさんが「優しくな」と言うと、ブリジットさんの耳がピンと立った。

そうして、手を伸ばそうとして一瞬躊躇うようにそれが止まったので、その手に触れた。

毛並みはサラサラつやつやで、温かく、触れた手の爪は黒く、丁寧に整えてあった。掌は爪と同じく黒い肉球があり、ちょっと硬い。

わたしがブリジットさんの手を確かめると、ブリジットさんもわたしの手を興味深そうに触る。

爪で傷付けないように気を付けてくれているのが分かる手つきだった。

「……柔らかくて小さな手ですね」

ブリジットさんが呟く。

「ブリジットさんのては、おおきくて、ちょっとかたいです。たたかうひとのて」

「そうかもしれません。ウェアウルフは雄も雌も関係なく戦士となって戦います。……まだ私は百五十なので新人ですが」

そんな話をしていると騎士が近付いて来た。

「ユイ」

「ユイちゃん」

その声に振り向けばイヴォンさんとシルヴァンさんがいて、二人が揃って右手を上げ、それからその手を胸に当てて一礼する。

ウィルジールさんが笑って手を振れば、イヴォンさんとシルヴァンさんは手を下ろした。

「セス兄は?」

「野営の手伝いに行ったんじゃない?」

「ああ、そっか、それでユイはここにいるのか」

イヴォンさんとシルヴァンさんも近付いて来て、わたしの左右に腰を落とした。

ブリジットさんの耳が動く。

「イヴォン、シルヴァン、この子と知り合いなの?」

ブリジットさんの問いにイヴォンさんが答えた。

「兄貴の番なんだよ」

「じゃあ先ほどこの子と一緒にいた竜人の方は……」

「僕達の兄さんだね」

それから二人が護衛の交代を伝えると、ブリジットさんは頷いて立ち上がった。

手を振ると、一つ頷いてくれてから、ウィルジールさんに礼を執って離れていった。

すぐにイヴォンさんとシルヴァンさんが立ち上がり、ウィルジールさんの後ろに立って護衛を務める。

「ユイ、戻りました」

聞き慣れた声がして顔を戻せば、セレストさんがやって来て、ふとわたしの横で立ち止まった。

それからわたしの手を取った。

「おかえりなさい」

セレストさんが首を傾げた。

「この匂いは……ウェアウルフですか?」

「うん、ブリジットさん。きのうやどでみたひと」

「ああ、あの方ですね」

セレストさんが小さく頷いた。

どうやら野営の手伝いを終えて戻ってきたら、知らない匂いがわたしからしたので気になったらしい。本当に鼻がいい。

横にセレストさんが座った。

その手には毛布がある。

「もうすぐ食事が出来るそうです」

セレストさんはわたしとウィルジールさんを見る。

ウィルジールさんが「そっか」と返事をした。

「ユイ、寒くはないですか? 日も落ちたので、そろそろ気温が一気に下がります」

持ってきた毛布でわたしを包んでくれる。

「だいじょうぶ、スノースパイダーのうわぎ、あったかいから」

そう答えるとウィルジールさんが呆れた様子で自分の肘に頬杖をついて、こちらを見た。

「やっぱその上着スノースパイダーの糸で織ったやつか。なんか見たことあると思った。まだ十三歳だろ? 渡すには早くないか?」

「ユイには一着くらい必要だと思いまして」

「ほんっとセスは番には過保護だよな」

どういうことかと首を傾げたらウィルジールさんが教えてくれたのだが、スノースパイダーのケープやローブは暑さや寒さに強く、その分高価で、基本的に子供が成人した時に親が贈るのが習わしらしい。

子供がこれからの人生、暑さや寒さで困らないようにという願いを込めて渡されるものなのだとか。

特別な時に贈る服。

だから、それを普段着に購入してわたしに与えたセレストさんのことを過保護だと言うようだ。

ウィルジールさんの後ろでイヴォンさんとシルヴァンさんがうんうんと頷いている。

それにセレストさんが否定も肯定もしなかった。

その後、夕食が出来るとウィルジールさんは移動した。

「王子には色々仕事があるんだよ」

だそうで、前任の使者と食事を共にするのもその一つらしい。少し面倒臭そうにしていた。

離れて行くウィルジールさんにイヴォンさんとシルヴァンさんが護衛として付き従って行ったが、二人とも、振り向いて手を振ってくれた。

それに手を振り返し、わたし達も夕食を食べた。

夕食は使節団に分けてもらったが、干し肉と野菜を煮た鍋で美味しかった。

セレストさんはその後に干し肉を食べていた。

わたしも少し食べたけれど、かなり硬くて、でもよく噛めばなかなかに美味しい干し肉だった。

食後は焚き火に当たりながらのんびりと過ごす。

「ありがたいことに私達は見張りをしなくて良いそうです」

野営では色々と警戒しなければならない。

獣に、魔獣に、場所によっては盗賊なんてものもいる時もあるそうだ。

騎士達が見張りを行ってくれるおかげで、わたし達はゆっくり休ませてもらえるということだ。