軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

顔合わせ / 親友同士

お義母様とお義父様がグランツェールに来て、一週間。

数ヶ月は滞在する予定らしく、宿から借家に移ったそうだ。

「イヴとシルが来た時は、こちらに泊める」

と、お義母様は言っていた。

多分気を遣ってくれたのと、久しぶりに会う息子達と積もる話でもあるのかもしれない。

イヴお兄ちゃんとシルお兄ちゃんからの手紙では、二人がこちらに着くのは式の日ギリギリになるとのことだった。

それまで新郎新婦の家族がやるべきことは、お義母様とお義父様が行ってくれるらしい。

そうして、今日はお義母様とお義父様、ヴァランティーヌさんとディシーの顔合わせである。

ヴァランティーヌさんと二人は昔からの知り合いなので、実質、ディシーの紹介だ。

家に来たお義母様とお義父様を一階の居間に通していると、またチャイムが鳴った。

近くだったので扉を開ければ、思った通り、ヴァランティーヌさんとディシーだった。

「こんにちは、ユイ」

「呼んでくれてありがとう、ユイ!」

「ヴァランティーヌさんもディシーも来てくれて、ありがとうございます」

扉を開けて二人を中に入れれば、セレストさんが居間から顔を覗かせた。

「二人ともどうぞこちらに」

ヴァランティーヌさんとディシーと共に居間に入る。

お義母様とお義父様が立ち上がり、ヴァランティーヌさんもお義母様に歩み寄った。

「今日はよろしくね、二人とも」

お義母様とお義父様が頷き、そして、二人がディシーを見た。

「初めまして、ディシー=バルビエといいます。今回はヴァランティーヌと共にユイの家族として出席させていただきますので、よろしくお願いいたします」

少し緊張した様子で言うディシーの横にわたしも立つ。

「ディシーはわたしにとって、お姉ちゃんなんです」

「そうか。……初めまして、ディシー。セレストの母のアルレット=ユニヴェールです。こちらは夫のジスラン。竜人なので、こちらもご迷惑をおかけすることがあるかもしれませんがよろしくお願いします」

「ジスランだ。よろしく頼む」

わたしの言葉に頷き、お義母様とお義父様も挨拶をする。

お義父様が素っ気ないのはディシーのことが嫌いだからとかではなく、番以外の女性には興味がないという意思表示なのだと思う。

それについてはディシーも分かっているのか気にした様子はない。

「はいっ」

嬉しそうに返事をするディシーにヴァランティーヌさんが微笑む。

その様子は親子そのもので、いつも見ているけれど、何度も見てもとても嬉しい。

……ディシーにも家族ができて、大切な人がいる。

「さあ、皆さん座ってください」

セレストさんの言葉に四人がそれぞれ二人ずつ、ソファーに座る。

残った一人掛けのソファーにセレストさんが座り、わたしはその膝の上だ。

テーブルに手を伸ばし、置いていた書類を全員に配る。

「私とユイが支度をしている間、皆さんには招待客の応対をしていただきます」

わたしの持つ書類を見ながらセレストさんが言う。

新郎新婦の家族が行うのは、当日来る招待客のお出迎えである。

わたし達は支度で出られないので、家族が招待客を迎え、挨拶する。

受付をして席までの案内は式場の人がやってくれるそうだ。

式自体、元々簡素なものなので新郎新婦の家族がすることは少ないのだとか。

渡した書類は招待客のリストで、わたしとセレストさんのどちらに関係する人か、どういったところに所属しているのかといったことが簡単にまとめられている。

「ああ、ジェラールも招待したのかい」

ヴァランティーヌさんが言い、セレストさんが頷いた。

「第二警備隊の隊長ですから。それと第三救護室の私の班、ユイの働いている第四事務室、他数名といったところになります。これでも極力、身内で済ませているのですが……」

「全員合わせると五十人以上いますね……」

「竜人の結婚式にしては少ないほうですよ」

「そうなんですね……!」

うわあ、と驚くディシーにお義母様が返し、ディシーが目を丸くする。

「当日はウィル……ウィルジールが『酒樽の集い』を貸切で予約してくれましたので、式後は皆と共にそちらに移動していただけたらと思います。全員が乗れるよう、馬車も何台か手配してあります」

「なるほどね」

「じゃあ、私達が事前にやることは特にないんですか?」

セレストさんが説明し、ヴァランティーヌさんが頷き、ディシーが訊く。

「そうですね、今のところはありません。今日も顔合わせが目的でしたので。名簿も渡しましたが、無理に覚える必要はないでしょう。受付で本人が名乗るので、挨拶をしていただければ十分です」

「分かりました!」

ディシーが頷いたところで、わたしはふと思い出した。

「ディシー、結婚式では新郎新婦の友人がそれぞれ、新郎と新婦について話をするんだって。……その、わたしの紹介をディシーにしてもらいたいの。……いい?」

「私でいいのっ?」

ディシーの目が輝く。

「ディシーがいい。わたしの親友で、お姉ちゃんだから」

ヴァランティーヌさんがディシーの頭を撫でる。

「受けておやり」

「うん! ユイの良いところ沢山紹介するね!」

「ありがとう、ディシー」

拳を握るディシーの表情はすごく嬉しそうで、引き受けてもらえたことがわたしも嬉しい。

ちなみにセレストさんの紹介はウィルジールさんが行う予定だ。

……ウィルジールさん以外に任せたら、拗ねそう……。

わたしの紹介をディシーにしてもらえるなら、これで準備はほとんどできたようなものだ。

ドレスも何度もお店に行って大きさや丈を微調整しているし、セレストさんの婚礼衣装も作ってもらっている最中で、式場のほうも確定したから支払いも済ませてある。

出した招待状も全て『出席』で返ってきていて、それも式場に伝えた。

式の二、三日前に招待客から花が届き、前日に式場内に飾りつけてもらうことになっている。

「──……というように、全て整えてあります」

それらをセレストさんが説明して、他の全員が頷いた。

「問題なさそうだ」

「ああ」

「準備は万全だねぇ」

「良いお式になるといいですね!」

セレストさんが微笑む。

「ええ、ユイも私も、一度きりの結婚式ですから」

わたしの左手にセレストさんの左手が重ねられる。

その手には、同じ意匠の指輪が輝いていた。

* * * * *

「あー……ちょっと今、いいか?」

休憩時間に入り、受付から出たところでディシーは声をかけられた。

振り向けばウィルジールが立っていた。

「ウィルジールさん? はい、大丈夫ですけど……?」

ウィルジールはセレストの親友で、ユイに話しかけることはあっても、ディシーが話しかけられることはあまりなかった。

みんなで飲み会をする時や訓練場で一言、二言話したり挨拶をしたりはするがその程度だ。

首を傾げたディシーにウィルジールが言う。

「セスと番の結婚式で、君も紹介役になったって聞いた。二人の紹介の印象が被らないように、どういう内容にするか話したいんだ」

「あ」

……そういえば、セレストさんの紹介はウィルジールさんだっけ。

そんなことをこの間の顔合わせでチラッと聞いた気がする。

「はい、休憩時間なので大丈夫です」

「それなら、談話室で話そう」

ディシーは頷き、歩き出したウィルジールについていく。

近くの談話室に入り、向かい合ったソファーにそれぞれ座る。

談話室にはディシーとウィルジール以外は誰もいなかった。

「ウィルジールさんはどんなふうにセレストさんを紹介するんですか?」

「俺は……そうだなあ、多分『理性的で穏やか、昔から情に厚い竜人だった』って感じだな。子供の頃の話も交えてちょっと笑いを取りつつ『番を大事にする良い奴だ』でまとめとく」

「なるほど。……あんまり重くならないほうがいいですよね?」

「まあ、結婚式だから暗い話は控えたほうがいいと思うぞ」

……ってなると、戦闘用奴隷だった辺りの話は伏せたほうがいいかなあ。

恐らく招待客は全員知っているだろうし、わざわざ式で明言する必要もないだろう。

「じゃあ、私は『真面目で前向きで、いつも努力家な可愛い妹分』という紹介にします」

きっと招待客もユイとセレストのことはよく分かっているとは思うが。

気合いを入れているとウィルジールが小さく笑う。

「そんなに気負わなくても、新郎新婦の紹介なんて友人自慢の場みたいなもんさ」

「それならいっぱい話すことがあります!」

「だろ? 俺もある」

「ですよね!」

思わずウィルジールと顔を見合わせ、どちらからともなく噴き出した。

「とりあえず、式に影響が出ない程度にしておかないとな」

「紹介が長すぎたら二人が困っちゃいますよね」

それから、ディシーはウィルジールと紹介文について話し合った。

新郎新婦についての紹介では、できる限り表現が被らないほうがいいらしい。

「最後は『二人の結婚を祝福します』で締め括るのが礼儀だ」

「分かりました」

「紹介文は手紙に書いて、それを読む形になる。ヴァランティーヌに訊けば書き方も教えてくれると思うぞ。新人の教育係だから結婚式は何度も出席してるだろうしな」

確かに、ヴァランティーヌさんは時々「教え子の結婚式に呼ばれたから行ってくるよ」と出かけることがあった。

……そっか、その関係でよく招かれるんだ。

わたしは関係ないからいつも家で留守番をしていた。

「はい、そうします」

ふと顔を上げれば、もうすぐ休憩時間が終わる頃だった。

「すみません、そろそろ受付に戻らないと……」

「ああ、休憩時間に悪いな」

「いえ、結婚式に出るのも紹介役になるのも初めてなので、教えてもらえて良かったです!」

ソファーから立ち上がれば、ウィルジールと目が合った。

竜人は全員が金色の瞳をしているが、よく見ると人によって多少色合いが異なる。

ウィルジールは綺麗な金色だけど、セレストは緑がかった金色だ。

「君は親友が取られてつまらないって思わないのか?」

その言葉に目を瞬かせてしまった。

「少し……寂しいと思うことはあります。でも、それ以上に嬉しいです」

「嬉しい?」

「はい。私達は奴隷でした。ご主人様に殴られても蹴られても、目の前でユイや他の子が暴力を受けても、返事は絶対『はい、ご主人様』でなくちゃいけなかったんです」

目の前で大切な人が殴られても抵抗できなくて。

どんなに理不尽なことをされても従わなくてはいけなくて。

……あの頃のユイは賭博場以外を知らなかった。

酷い扱いをされてもユイは涙一つ流さなかった。それが当たり前だったから。

「でも、今、ユイは自分の意思でセレストさんとの結婚を決めました」

無表情で全然言葉も話せなかったユイが変わった。

戦うことしか知らなかったユイが、愛する人を得た。

「ユイが幸せそうで、私も幸せなんです」

きっと、ユイを引き取ったセレストが愛情深く接したからだ。

「だから、セレストさんには感謝の気持ちはありますけど、取られたとは思っていません。ユイに幸せを教えてくれてありがとう、という気持ちでいっぱいです。……もし私達が保護区に行ったとしても、こんなふうに幸せになれたとは思えませんから」

笑えば、ウィルジールが気まずそうな顔をする。

「君もセスの番も、意外と大人びた考え方をするよな」

「早く大人になりたいと思っていたので、そう言ってもらえると嬉しいです」

ヴァランティーヌもシャルルも、ディシーのことをいまだに子供扱いするから。

ウィルジールが苦笑した。

「少なくとも、俺よりは大人かもな。……っと、引き留めて悪い」

時計を見ると、そろそろ戻らないと怒られてしまいそうだった。

「いえ、それではまた」

「ああ、またな」

手を上げて応えてくれたウィルジールに見送られつつ、談話室を出る。

……ユイ、本当に結婚するんだね。

五年前を思えば、今のこの状況は奇跡だと思う。

戦闘用奴隷として賭博場で生きるか死ぬかの戦いしか許されなかった。

助け出されてからの五年はあっという間に過ぎていった。

ユイだけでなく、ディシー自身も変われた。

養母もいて、仕事について、弟に再会して、毎日が楽しくて。

……私も好きな人ができた。

ディシーはシャルルの番ではないけれど、でも、ディシーに百年をくれると約束してもらえた。

今回ユイの結婚式に家族として招待してもらえたように、ディシーが結婚する時はユイを家族として招待したい。その時は、ユイにディシーの紹介役になってもらいたい。

廊下を駆けて受付に戻る。

「遅れてすみません……!」

先輩が振り向いて「大丈夫!」と笑う。

「じゃあ、あたしは作業に入るねー」

「はい!」

先輩が午前中の来訪者名簿をまとめ始める。

残っている他の先輩と共にディシーは受付に立った。

……ユイが幸せで、私も幸せだけど。

沢山の人が助けてくれるから、私達を見てくれるから、どこにでも居場所がある。

もう、誰かを傷付けたり殺したりして、他者に自分達の価値を決められることはない。

「終業まであと少し、頑張ろうね」

先輩の優しい言葉に笑顔で頷いた。

* * * * *