軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7 家風と私

きっと、おそらく、市井さんのきれいめモードは家風なのではないだろうか。

運ばれてきたお膳は精進料理というものだと思う。品数も多いし彩りもきれいでイメージと違ったのだけど、から揚げかと思いきや車麩の揚げ物だった。美味くても肉は欲しいよなって、市井さんがメニューを説明してくれた。

それを聞いたご当主たちも「なー」って、同意している。

ふわふわねっとりした里芋団子が美味しい。かかっている出汁は飲んでもいいのかなって周りの様子を伺ったら、みんなごくごくいってた。美味しい。

あくまでも食事がメインで、私のことはさらっと紹介されただけだ。どの人も、ふーんって感じだった。興味が全部ごはんにいってたから、私のお行儀なんて気にする人などいないっぽい。よかった。本当によかった。

ちょいちょい漏れ聞くところによると、ご当主は市井さんの異母兄らしい。そして今この席についている面々はみなさんご兄弟で、異母兄弟なのは市井さんだけでもない。なんなら兄弟がこれで全員ってわけでもない。きっと色々とあって子だくさんなのだと思う。

それでもこの場は和やかで、年の離れた末弟である市井さんが三席についていることに蟠りはないようだった。

名家はそれぞれ何かしら事情があるもんだって前に教わったけど、少なくとも今はそういった空気感はない。全員程度の差こそあれ、素の市井さんにどこかしら似ている。やはり市井一族の家風……?

「ところでさつきちゃんよ」

「は、はい!」

とろりと舌触りがいい胡麻豆腐の最後のひとくちを堪能してたら、ご当主に話しかけられた。

「実はずっと背後におっそろしい気配を感じているわけだが、さつきちゃんの使い魔で合ってるかい」

床の間の壺からまだ足を飛び出させているケムのことですね! 誰も何も言わないから気づかれてないのかと思ってた!

話は通ってるのだから答えていいんだよねと念のため市井さんを横目で確認したら、代わりに答えてもらえた。

「そいつケムって言うんだけどよ! 壺に頭から突っ込んで足だけこうして出してるぞ!」

両手を高く上げた万歳でケムの足を示す市井さんは、めちゃくちゃいい笑顔をしている。なんで市井さんがよくぞ聞いてくれたって雰囲気出してるんだろう。

「こうか」

「おう!」

そして何故ご当主は真似して両手をあげてるんだろう。これも家風なのか。

食事が終わった人からどんどん部屋を出ていってしまった。儀式前のお清めがあるそうだ。ご当主は立ち去り間際に、私の頭の上にごつごつとした大きな手を置いた。

「さつきちゃん、彬仁はこれで面倒見がいい。死なない程度に精進しな」

「は、はい! がんばります!」

「こいつが物足りなくなったら、別の奴あてがってやるからいつでも言えよ」

「ねぇわ」

市井さんに払われた手を振りながら、ご当主は笑い声を高らかに響かせつつ行ってしまった。

「ったく。俺も行く……お前は部屋に戻れそうか」

「無理です」

道順は覚えてると思うけど、ふすまの区別がつきそうにない。部屋まで無事連れてきてもらって、鴨居の上にある欄間の彫り物で見分けられることを教えられた。よかった。でも先に教えてほしかった。これでトイレにも気兼ねなく行ける。私の部屋は桐の花の透かし彫り。隣の市井さんの部屋は波千鳥だ。

「晩飯の後なら屋敷ん中案内してもいいが、別に自分でうろついてもかまわんぞ。ただ年越しから朝まで眠れねぇし、今のうちに寝といたほうがいいかもな」

「えっと、休んでおきます」

「おう。あと市井の縁者でもひょいひょいついていくんじゃねぇぞ。油断ならない奴がそれなりにいるからよ」

「ついてくってことはないと思いますけど……さっきいた人たちとは仲良しですよね?」

おおざっぱに縁者と言われても区別がつかないし、念のために聞いてみたらめちゃめちゃ嫌そうな顔をされた。あんなにみんな市井さんっぽかったのに。

「今は跡目争いがないから落ち着いてるだけだ。別に仲が悪いわけじゃないが良くもねぇ。ガキの頃なんぞ俺ぁ何本骨折られたかわからん」

「ほ、ほねぇ?」

え、怖っ。これが名家によくある何かしらの事情!? そんなバイオレンス!?

そんな話を聞いてうろうろするわけもなく。

というか、骨を折られて仲が悪くもない状態に落ち着くもんだろうか。喧嘩した後は仲直りっていうアレだろうか。よくわからない。けど、多分私の骨が折られるわけじゃないだろうから、まあ、多分。きっと。おそらく。

着物は衣紋掛けで吊るして、押し入れからお布団も出して、長襦袢だけで寝転がった。休んどけって言われたし。

このお部屋もきっとよいお部屋なんだと思う。縁側は中庭に面していて、背の低いイチイの木が丸く剪定されていてかわいい。前庭にも大きくて立派なイチイの木があったから、やはり市井のシンボルツリー扱いなのだと思う。平木はヒイラギだったし。

名家のほとんどは木の名前を由来とした家名なんだそうだ。この国の名前である 梓(あずさ) の別名が百木の長を意味する木王だというのは最近知ったのだけど、なんとなくそれっぽいなって思った。

この大きなお屋敷に、今日はたくさんの人が集まっているはず。けれどひどく静かだ。

ケムは床の間の掛け軸にぶらさがっている。その両側でぶらぶらしてるのはウニモドキ。

部屋に据えられた暖房の魔道具が時折発する、かすかな作動音がやけに響いて聞こえる。

横たわって庭を眺めながら、掛布団を抱き込んで丸くなった。

縁側と部屋は障子窓で区切られている。下半分がガラスの雪見障子で、横になるとちょうど庭の灯篭やイチイがよく見えた。

そしてとっとっととリズミカルに縁側を走っていく――おかっぱ頭の市松人形……?