軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

登校

「うわっびっくりした」

女の子の声がした。

走馬灯というには鮮明で、しかも知らない声だった。

「お兄ちゃん、朝だよ! というか朝から変な寝言叫ばないでもらえる? ご近所さんの目もあるんだから……」

何を言っているのだろう、この走馬灯。

そんな事を思いながら目をあけると、そこには見知らぬ少女がいた。

「えと……ん?」

「なに? まだ寝ぼけてるの?」

「凛……?」

「はぁ……妹の顔も忘れたわけ? もう高校生になるんだからしゃきっとしてよね!」

ペシッと頭を叩かれて、その衝撃から夢じゃないと確信した。

……俺はVRMMOにログインして、デスゲームになったあの世界で5年生活していた。

その時、本当に死ぬと言われても俺は「そっかー」くらいの感覚でしかなかった。

家族がいなくなっていた……正確に言うなら事故で母と妹を亡くし、父は単身朝から晩までどころか朝から朝まで休むことなく働き続けていたからだ。

だからこそ、俺はいつ死んでもいいと思っていたし、絶望して半ば引きこもりゲームばかりやっていたからこそデスゲームに巻き込まれた。

割とかっこいい最期を……こう、通信切ってたからこそ演出できたんじゃないかなとすら思っているが、ここは極楽かなにかだろうか。

「何ぼーっとしてんの? 早くしないと始業式遅刻するよ?」

「始業式……? 今日?」

「だーめだ、本格的に寝ぼけてる……ほら! 制服とパイロットスーツ!」

「ぱ、は? パイロットスーツ?」

投げ渡されたのは確かに俺の……俺がゲームの中で使っていたそれなりに高性能な物だ。

しかし……。

「パイロット科に入ったんだから当然必要でしょ? それで帰り際に福引でそれなりの奴当てるんだからついてるねーって話してたのに……まさかお酒とか飲んでないよね? お父さんの事だからやりかねないんだけど」

そうだな、確かに母や妹が生きてた頃の親父は気さくな人だった。

入学前祝いとか言って酒くらい飲ませてくるかもしれん位には緩いというか、破天荒というか……。

けど死んだはずの妹、凛が生きていて……という事は母も無事で、親父も仕事一筋じゃなくない昔の状態。

なんだこれ、俺にとって都合が良すぎる。

頬をつねってもやはり痛い。

「……すまん、なんか変な夢見てたみたいだ」

「そう? 確かにお酒の匂いはしないし……」

「それより、おはよう凛」

「ん? うん、おはよう……じゃなくて早く朝ごはん食べて登校しなさい! 今日のクラス分け試験次第じゃ叔父さんがいい機体くれるかもしれないんだからね!」

「お、おう」

叔父さん……親父の兄さんだったかな。

俺の記憶だと車のディーラーしてたと思ったけど、このわけわからん状況だとそっちを……?

まぁ考えていても始まらん。

いつも行き当たりばったりだったけれど、俺の信条は犬も歩けば棒に当たるなら人が歩けば困難に当たるだ。

できる限りの事をやってやろうじゃねえか!

……とか思ってたけど、久しぶりに生身で食べた朝飯の味に感動してそれどころではなかった。

おかわりして、食べ過ぎて、トイレに籠って遅刻寸前という状態で制服を着て外に出た俺が目にしたのはロボットだった。

「……こいつは」

第一世代機、ゲームじゃ一般人が車の代わりに使うような低スペック機であり、プレイヤーが最初に支給される機体でもある。

カスタマイズ性こそ高いが、とにかく初期ステータスが低い。

そこら辺の雑魚ですら倒すのに苦労するような量産機だが、それでも相応の戦闘能力はある。

その証拠に戦車の主砲にも匹敵するような巨大なライフルを持っているが……これマシンガンだな。

実弾火薬式でケースレス弾……つまり薬莢を使わない、市街地でぶっ放しても安全な代物だ。

いや安全ではないけどさ。

「どうしたの?」

「いや、やっぱり銃でかいよなと思って」

「しょうがないよ。最近はこの辺も物騒だし、インベイダーも出るって話だから」

「そうかぁ」

インベイダー、ゲーム内では敵として配置されるモンスターだった。

地上、コロニー、宇宙と場所を問わずに出現する正体不明の存在。

基本は敵対組織とかのロボット相手に戦うのだが、ラスボスはインベイダーの親玉と融合した超巨大人型兵器だったな。

コア付近で自爆したからそこそこのダメージは与えたと思うけど……じゃなくて。

「インベイダー警報はどんな感じだ?」

「ん? 今日は……グリーンだから隕石が直撃するくらいの確率じゃない?」

「なら安心だな」

ゲーム内用語も普通に通じるか。

なんだろう、リアルとバーチャルが混ざったような気分だ。

しかし……。

「で、俺の学校どこだっけ」

じろりと睨まれてしまった。

「ねぇ、本当に大丈夫? 寝てる間に頭ぶつけた? 学校じゃなくて病院行く?」

「いや、マジで長い夢だったからか記憶がな……いい感じにスタイルのいい姉ちゃんたちのパイスーがエロくてさ」

「さいってー」

「いやいや、モデル級の美人とかがぴっちりスーツだぜ? そりゃ学校の場所や名前なんてどうでもいいもん吹っ飛ぶよ」

「どうでもいいって……あのねぇ、パイロット科ってだけでエリートなのに有力校なのまで忘れちゃってるの? ほら! 聖ジョーンズ学園西高! 急がないと本格的に遅刻しちゃうよ! ほら早く乗って! 私も遅刻したくないんだから!」

「お、おう」

俺が動かしていいんだ……というか自転車感覚か?

まぁいいけどさ。

「えーとマップとナビ機能をリンクさせて……はい、じゃあこのルートでよろしく」

コックピットシートの後ろに立つ凛がスマホらしきものをいじりながら何かを設定すると視界の片隅にマップが表示された。

俺が生活していた……あぁ、リアルの方での生活圏だけど飛行制限とか色々書かれてるわ。

システム立ち上げとかはゲームのまんまだから妙な気分だが……ん?

これオートジャイロやバランサーがそのまんまになってるな。

カスタムどころか機体の設定すら初期のままだ。

慣れてくるとこれ邪魔なんだよな。

「ちょっ、お兄ちゃん何やってんの!?」

「いや、オートジャイロとか邪魔だから切っただけ。それより舌噛むからしっかり掴まってろよ」

「え? いやいやまってまってきゃああああああああああああああ!」

さすが第一世代、加速力とかの加減無視したいい感じのGで寝起きばっちりだ。