軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第346話 アルスの影響力

「アルス・ローベント殿は、今回の国王陛下のパラダイル攻略について、どう思われますか?」

アルカンテス城の廊下を歩いていると、数人の貴族たちに囲まれそう質問された。

「私は反対したいと思います」

「そうですよね。流石にまた戦をするのは、やりすぎたと思います」

「私も今回は反対したいと思います」

と貴族たちはそう言って、意見を固めたようだ。

私の意見がほかの貴族の意思を固めてしまうのは、あまりよくないような気もする。バレたらクランの目の敵にされるかも……

しかし、嘘を付くわけにもいかないしな……

その後、

「おお、アルス!! 久しぶりだな!!」

元カナレ郡長で、現ベルツド郡長のルメイルが話しかけてきた。

確かに結構久しぶりである。

「お久しぶりです」

「ちょっと見ない間に、随分と大きくなったではないか! もう大人だな」

孫を可愛がるような目線で、ルメイルは言ってきた。

まあ、年齢的には孫くらいは離れている。

「しかし、今回の敗戦は参ったな。エレノアは化け物だ。何をしても先読みされて潰されてしまう」

嬉しそうな表情を一変させ、ルメイルは苦々しい表情を浮かべた。

「ルメイル様も参戦されていたんですか?」

「ああ。ベルツドの兵を率いて戦を行ったが、手酷い目に遭った。幸い、我が部隊はうまく撤退できて、被害は最小限で済んだがな」

参戦するのは普通か。ベルツドは他州と接したりしていないしな。

「しかし、再び戦を行うとクラン様は言う。困ったものだな」

やれやれという表情でルメイルは言った。

「ルメイル様はどう思っているんですか?」

「それが悩んでおるのだ。心情としては戦はしたくないが、クラン様に反対は言いづらくてな。アルス、お主はどうする気だ?」

「私は……反対の意見を言うつもりです」

「そうか。まあ、そうであるな。やはり今はミーシアンを安定させることこそ肝要……クラン様は事を急いておられるだけだ」

ルメイルはうんうんと頷く。

「わしも反対することにする。助言感謝する」

「い、いえ、お役に立てたならよかったです」

ベルツド郡長のルメイルも反対するようだ。流石にクランもこうなったら、戦に踏み切りづらいのではないか?

それから、貴族たちが集まって軍議が始まった。

私の予想通り、反対意見が多くなった。

クランは苦しげな表情をしていたが、流石にこれほど大勢の家臣たちに反対されて、戦に踏み切ると判断はしなかった。

「今回はパラダイル攻略は見送ることにする」

と決断しそう言った。

とりあえず続けて戦が起きることはなんとか阻止できた。

アルカンテス城、国王の書斎。

クランは苛立った表情で、席に座っていた。

「なぜだ……ここで戦わねば、ミーシアンの立場は危うくなる……なぜ反対するものがここまで多い」

苛ついた表情でクランは呟いた。

彼は決定はしたものの、納得はしていなかった。

少々反対派が多くても、押し通してパラダイル攻略を推し進めるつもりであった。

しかし、思ったより反対意見が多かったので、止むなく見送るという決断を行ったのである。

ミーシアンの国王として、現状は絶対な権限をクランは持っている。

しかし、それは全てのことを好き勝手決めていいというわけではない。

反対意見が多いのに、それを無視して行動をすれば、部下からの忠誠を失うという結果になってしまう。

場合によっては、離反や反乱といったことも起こりえる。

アンセルへの侵略も、反対意見が少し多かったが、独断で行ったことであった。

今回も同じように行えば、家臣たちからの忠誠を失う恐れがある。

意見を無視して、パラダイル攻略は行えなかった。

「クラン様。入ってもいいですか?」

「ロビンソンか。入れ」

彼の右腕である、ロビンソンの声が聞こえてきたので、入れと指示を出した。

「失礼します」

ロビンソンがそう言いながら、扉を開けて部屋に入ってくる。

「パラダイル攻略ですが……行わないという方向で大丈夫でしょうか?」

「大丈夫も何も家臣たちがあれだけ反対するのに、やるわけにはいかぬ」

苛立ったような表情でクランが言った。

「ロビンソン。お前はどう思う?」

「私はクラン様の考えを支持いたします」

「そうか。お前ならそういうと思っていた」

ロビンソンの反応はクランの期待した通りのものだった。

「此度の件、反対意見が多く出たのはアルス殿の影響が多いようです」

「……どういうことだ?」

ロビンソンの言葉を聞き、クランは眉をひそめる。

「アルス殿はクラン様の考えに反対されていましたが、アルス殿が反対するから、自分も反対するという貴族が複数いました。それで反対意見が多くなったと思われます」

「なんだと? それは本当か?」

怒りの表情をクランは浮かべた。

「貴族たちに聞いたので間違いありません。それだけミーシアンで、アルス殿の影響力が大きくなっているということでもあります」

「……影響力が大きく。あれだけの活躍をしていれば、無理もないか」

ロビンソンの言葉にクランは納得する。

「このままではアルス殿を担ぎ出して、ミーシアンの長とするという動きが出ても、不思議ではありません」

「馬鹿を言うな。この国を治める正当性はサレマキア家の当主である、私が有している。アルスは人の才を見抜くという、優秀な力を持っているが、出は平民だ。ミーシアンの長になることなど不可能だ」

「そうでしょうか? 今は乱世。力を持つものが支配する時代です。血より実力が優先されます。クラン様よりアルス殿が、ミーシアンの長にふさわしいと思う者が多ければ、国王の座を追われても不思議ではありません」

「そんな馬鹿なことがあるか!!」

クランは机をたたきながら、叫んだ。

「本当に馬鹿なことでしょうか? そもそもクラン様がサレマキア家の当主になったのも、実力があったからです」

「……何が言いたい?」

「あくまで先代はバサマークを後継者に指名していました。正当性はバサマークにこそあったが、クラン様がサレマキア家の当主になれたのは、戦に勝ったからにほかなりません」

「ロビンソン。お前は私を侮辱しているのか?」

クランは立ちあがり、ロビンソンに詰め寄る。

「私は事実確認をしているだけです。私の主はクラン様ただ一人。正当性があろとなかろうと関係ありません。クラン様こそがミーシアンに王たる人物であると確信を持っているからこそ、お仕えしているのです」

「……」

クランは椅子に座る。

「つまりお前はこう言いたいわけか。アルスの出自だのは何も関係ない。実力さえあれば、貴族たちに支持をされ国王になるかもしれないと」

「そうですね。もちろんすべての貴族がいきなりアルス殿につくことなど、ありえません。しかし、複数の貴族を味方につけ、そしてクラン様と戦を行い、勝てば、ミーシアン国王になるかもしれません」

「そんなことが……あり得るか?」

「サイツ元総督のアシュドと関わりがあったという件は覚えていますか? 彼は最近サイツの元帥になり、再び軍事を担当するようになりました。もし彼とアルス殿がつながっていれば、サイツを味方につけます。それプラス、ミーシアンのいくつかの郡もアルス殿に味方するかもしれない。それこそ、元カナレ郡長のルメイル殿などはアルス様側につくかもしません」

ロビンソンは淡々とした口調で説明する。

「サイツと、ベルツド郡を味方につけたアルス殿は、クラン様を上回る戦力を有しています。優秀な人材も多い。負ける可能性は大いにあり得ます」

「お前の言葉は最悪の事態を想定してのものだ。だが、アルスは私に忠誠を誓っている。裏切ることはない」

「確証は持てますか」

ロビンソンに尋ねられて、クランは首を縦には振れなかった。

「アルス殿はクラン様と戦略的な考えは異なっているようです。このまま対立が増し、裏切ることは考えられるでしょう」

クランはアルスが自分の方針に真っ向から反対すると言ったことを思い出す。

アルスは穏便な領地運営をしたがっているのに対し、クランは戦争に対して肯定的で、戦で解決できることはしたいと思っているタイプである。

大きな違いはある。

「ロビンソン……結論から言え。お前はアルスをどうすべきだと思っているんだ」

クランからそう尋ねられ、ロビンソンは意を決して言った。

「今後の災いの芽を摘むため……郡長の座をはく奪し、ミーシアンから追放すべきだと思っています」