軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第221話 成長

カナレにある訓練所。

ザット・ブロズドは、上司であるブラッハム・ジョーと、五対五の模擬戦を行なっていた。

魔法はなしで、それぞれが違う武器を持って戦闘を行なっていた。

ザットとブラッハムは、それぞれリーダーとして、兵たちに指示を送っていた。

敵リーダーを戦闘不能にした方の勝ちである。

「……っく!」

ザットは苦戦を強いられていた。

一対一の模擬戦だと、ブラッハムは非常に強いので、たまにしか勝つことは出来ない。

だが、五対五となると話は別であるはずだった。

ブラッハムは単純な指示を出すことしかせず、さらに、リーダーを戦闘不能にすれば勝ちという条件なのに、自分で率先して攻撃を仕掛けてきていたので、ブラッハム対複数人で戦えば、戦闘を有利に進めることができた。

それでもブラッハム個人の力量が高いので、二回に一回くらいは負けるのだが、一対一の模擬戦に比べれば勝機はあった。

しかし、ここ最近のブラッハムは、以前に比べ冷静で、考えなしに自分で突っ込むことはしなくなっていた。

さらに、まだ間違えることも多いが、兵への指示も正確性が増してきている。

ザットは中々勝つことが出来なくなっていた。

「よし! 周りこめ!」

「!!」

ザットは不覚にも自分の背後に隙を作ってしまい、ブラッハムの命令で兵たちが素早く回り込んできた。

対処しようとしたが時すでに遅し。挟み撃ちにされ、武器を落とされ、勝敗は決した。

「敵に背後を取られたら非常に不利になるから、取られないようにしないとな!」

「分かってますよそんなことは……」

勝った瞬間、ブラッハムは喜ばず、ザットにそう指摘した。

今までは勝つと子供のようにはしゃいでいたが、最近は勝った後も冷静である。

眉間に皴を寄せ、考え込むような表情を浮かべている。

どうやら、自分なりに模擬戦を振り返り分析をしているようだった。

(しかし本当に変わってきたな。最初は何でこんなアホなガキの下に付かなければならないんだと思ったが……)

ザットはサマフォース各地を転々としながら、色々な経験をしてきた苦労人である。

10代前半の時、すでに一兵卒として戦に出ていた。

戦うと決めた理由は、単純に平民として一生を終えるのは、つまらないと思ったからだ。

その後、自分が所属していた隊の隊長が、率いた隊ごと軍から離脱し、気付いたら野盗みたいなことをするようになり、これはまずいと命からがらその部隊から一人で脱走。

その後、賞金稼ぎをやってみたり、傭兵になったりと様々なことを経験した上で、ローベント家に仕官している。

精鋭部隊の副隊長というのは、今までの境遇からすると、かなり良いのは間違いないが、それを加味してもブラッハムの下で働くというのは、納得は出来ていなかった。

逆に納得出来ないことがモチベーションにもなっていた。

いずれ、ブラッハムの無能がバレ、自分が隊長になれるだろう、そう思っていた。

(……郡長様は人の才能を見極める力があるという話だったが、本当なのかもしれないな)

最初は半信半疑だったアルスの力を、ザットは信じ始めていた。

(しかしそれならば、最初ブラッハムの下に置かれた私は、奴より才能がないということに……となると隊長になることは出来ない……まあ、もし仮にブラッハムに凄い才能があるのなら、奴の下に付くのも悪い話ではない。部隊が多くの手柄を挙げれば、副隊長とは言えローベント家での地位は上がるであろうからな)

野心は高いザットであったが、頂点に立ちたいなど大きな欲はなく、ある程度高い地位を得られれば、それで満足であった。

(だが、ブラッハムの才能はそこまで高いのだろうか?)

ザットは、まだブラッハムの才能を完全に認めたわけではなかった。

「ザット……俺は成長できているか?」

不意にブラッハムがそう質問してきた。

「それは出来ていると思いますよ」

正直に質問に答えた。

「本当か? リーツ先生やトーマス先生と比べて、今の俺はどうだ?」

「え? いや、流石にそこまですぐには成長できないですよ」

「やはりまだ及んでいないか……」

悔しそうな表情を浮かべるブラッハム。

「俺は戦う事しかできない男だから、せめてそれだけは1番にならないといけないんだが……もっと頑張るしかないな」

ブラッハムは決意を秘めたような表情で、そう言った。

(一番か……)

躊躇なく一番になると言い切ったブラッハムを見て、ザットは羨望の様な感情を抱いた。

自分の限界というものを、生きてきてある程度知っていたザットには出ない言葉であった。

「よし、もう一回模擬戦だ!」

「またですか……」

すでに今日だけで5回は模擬戦を行っている。

休みもあまりないので、ザットは体力を消耗していた。

ブラッハムも同じくらい疲れているはずだが、かなり元気そうにしている。ブラッハムは疲れ知らずの男であった。

「分かりました。やりましょうか」

それから、ザットとブラッハムは何度も模擬戦を行った。