軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 罠

「ワナ……?」

翌日、勉強をしにやってきたロセルに、リーツが罠作りをするという提案をした。

「そうだ。君も狩人の息子なら、いくつか知っているんじゃないか?」

リーツの質問に、ロセルは首を横に振り、

「知らない。というかワナって何?」

と意外なことを口にした。

「あれ、罠知らないの? 君のお父さんは、弓矢とか直接戦う以外の方法で、狩りはしないのかな?」

「しないよ」

「そうなのかー。意外だね。まあ、僕も狩人の世界にはそこまで詳しいわけじゃないからね」

グレッグが罠を知らないなら、ロセルが作った罠がそこまで複雑じゃないものだとしても、認めてくれる可能性は高くなるな。

「で、ワナって何なの先生」

「罠っていうのは、仕掛けを施して獣を捕まえる方法だよ。有名なのは落とし穴かな。地面に深い穴を掘って、薄い木の板で穴に蓋をし、その上に土や葉などを乗せて、何の変哲もない地面に見せかける。そこを踏んでしまったら、穴に落ちてしまうんだ」

「へー、それ考えた人頭いいね」

頭がいいか。落とし穴など、いつの間にか知っていたので、あまり意識をしたことがなかったな。確かに人類で初めて落とし穴を考えついた人間は、頭が良かったのかもしれない。

「でもよく考えたら、その方法で狩りをするのは良くないと思う。だって、獲物が偶然穴を踏まないと意味がないんだから」

ロセルは呟きながら、自分の眉間の辺りに右の人差し指を当てる。何かを考えるときにする癖である。

「エサを落とし穴がある場所に置けば、罠にかかってくれるだろうね……。

うーん、でも落とし穴って、一回の罠で一匹の動物しか取れないよね……深い穴を掘るのは大変だから、それなら弓で狩ったほうが早いよね……もっと、簡単に作れるようにするか、もしくは一個の罠でいっぱい取れるようにするかしないといけないよね……」

ぶつぶつとロセルは呟き始めた。

次から次に、考えを口にしていく。

「ロセル、考え終わったらどんな罠にするのかを図にして描いてみて。紙と筆記用具は用意しておくから」

「俺絵なんてかけないよ?」

「一応、図にしてもらったほうが分かりやすいからね」

「それもそっか。分かった、考え終わったら描くよ」

ロセルは考える仕草をしたまま、再びブツブツと考えを呟き始めた。

かなり集中している。この状態になると、話しかけても気づいてくれないことが多い。

「ロセルに罠は作れるだろうか?」

「分かりませんが、とにかく集中して一生懸命作ろうとしているのは、確かみたいですね。これなら期待できるかもしれません」

「そうだな」

これ以上できることもないので、頑張るロセルを私は見守っていた。

私は何となく、この世界で実際に使用されている罠を調べてみた。

どうやらこのランベルクでは、罠を使って獲物を取るという習慣がないらしい。

ランベルク出身ではないリーツは、猟で罠が使われるものだと思っていたので、別の地域では罠は使われているのだろう。

リーツも、罠を使うことは知っていても、どんな罠かまでは知らないので、結局罠に関して分かったことは少ない。

私も自分なりにどんな罠がいいか考えてみるが、案外これが簡単には思いつかない。

そもそも、私はこの世界でよく狩られている動物の生態に詳しくないのだ。

それで罠を作るのは中々難しい。

ロセルは狩人の息子らしく結構動物の知識があるので、そこは大丈夫ではある。

途中で私は罠を考えることを断念。

でも、ランベルクで罠猟が行われていないということは、ロセルがいい罠を考えついたら、グレッグに認められるどころか、村の食料生産力向上に貢献するということになる。

そうなると一石二鳥だな。

私は少し期待をして、ロセルが罠を考えつくのを待った。

数十日経過。

「完成!」

紙に向かい合っていたロセルが、心底嬉しそうに言った。

どうやら罠の作成が終了したようだ。

「よし、じゃあ、図を見せてごらん」

「うん!」

ロセルは珍しく明るい様子で、罠の図をリーツに見せた。完成して、よほど嬉しいようだ。

リーツはその図をよく見る。

当然、初めて描いた図なので、見ただけでは分からないところも多い。リーツは所々ロセルに解説をさせる。私も一緒に図を見て、解説を聞いた。

ロセルの考えた罠は、こんな感じだ。

まず、狙う獲物は多種多様の動物を狙うのでは無く、一つに絞る。今回ロセルが考えた罠の場合は、村の近くの森に、多く生息している『スー』という動物をターゲットにしている。

スーの見た目は小さめの猪という感じだ。肉の味は牛に近い。和牛のような霜降りではなく、脂身の少ないオージービーフのような味だ。

スーには、黄色いものに突進してくるという特性があるが、それを利用した罠だ。

まず広い囲いを用意する。囲いの中に、スーの好物である、リンゴの匂いを染み込ませた布を置いておく。鼻の利くスーは、これで罠の周辺に集まってくる。

囲いには扉を取り付けるが、この扉に工夫を加える。

外側を黄色で塗り、ペットドアのような感じのくぐり戸にして、スーが扉に突進してきたら中に入れるような仕組みにする。

内側からは引かなければ開かない構造にする。そうすると、中に入ったスーは外に出ることが出来なくなるだろう。

罠の説明を聞いて、結構有効な罠だと私は思った。

しかしリーツは、

「少し気になる点があるね。扉の耐久性はどうしようか? 扉を脆くすると壊れてしまうし、硬くしすぎると、扉に頭をぶつけたスーが気絶して、入り口を塞いでしまう可能性があるよね」

と気になる点を指摘した。

「スーの頭は硬いから簡単には気絶しない。壊れないように硬いものを扉に使用するべきだよ」

ロセルは、リーツの質問にすぐに答えた。

「なるほど、あと捕らえたスーの処理はどうするんだい?」

「囲いに人間用の扉を作って、捕らえた数が少数なら、普通に入って倒せばいいと思う。スーは臆病だから、黄色い物を着てなければ、滅多に突進して来ないよ。逃げ場をなくしてるのなら、狩るのはそう難しくないと思う。数が多い場合は、外から弓で攻撃するしかないかな。簡単な櫓を一つ設置すればいいと思う」

「ふむ」

リーツは考える。

「一回作ってみますか。まずは囲いを狭くして、2、3匹だけ捕らえられる規模のを作ってみましょう。櫓も作らないので、そんなにコストはかからないと思うので、レイヴン様に報告する必要もないでしょう。それで結果が出れば、レイヴン様に頼んで、もっと広いのを作ってもらいましょう。いいですかアルス様」

「ああ、そうしよう」

しかし本当にちゃんとした罠を考えてくるとは。五歳の子にしては驚異的である。

確かロセルは、兵器適性がAだったはずだ。

罠は見方によれば、兵器と言えなくもないので、もしかしたらそれもあるのかもしれない。

とにかく、ロセルの考えた罠を実際に作成することが決まった。